司波達也(大黒竜也)は、アメリカに帰国していた。
すぐに、先に帰国させてリーナの事件についての情況を探るように命じていたシルヴィア・マーキュリー・ファーストがやって来る。
「状況は?」
「……それが……」
シルヴィアが詰まる。それを見た達也は、
「もういい。報告は歩きながら聞く」
と言いながら歩きだす。慌ててシルヴィアは付いていきながら、報告書を片手に報告を始めたのであった。
達也は、スターズの基地に帰還していた。
すぐに基地の中に入る。
総隊長の帰還を知り、慌てて隊員が駆けつけて来て達也に対して挨拶したり、あるいは屹立したりするが、達也はそれらを無視してすごい勢いで基地内を歩く。
その勢いを見て、達也の前にいた隊員は慌ててその場を離れ、そして達也についてゆく。
そして、達也が総隊長室に着く頃には、シルヴィアの他に各隊の隊長なども集まっていた。
すぐに達也が命じる。
「全隊員をミーティングルームに集めろ。訓示することがある」
それだけ言うと、達也は総隊長室を離れて、またすごい勢いで歩き出したのである。向かったのは、副隊長室。リーナの部屋であった。
それからしばらくして。
全隊員を集めてのミーティングが始められた。
「お前たちに尋ねる」
達也が発言する。
「リーナが……いや、シリウス少佐が、脱走したことは既に承知のことだと思う」
「…………」
隊員は無言である。
「俺は、政府から連邦軍刑法特別条項に基づくスターズ総隊長の権限により、シリウス…少佐を処断する権限を与えられた」
それを聞いて、隊員の間からざわめきが発生した。
達也が言う。
「お前らは、俺と国家、どちらを選ぶ?」
「…………」
その言葉に、隊員が一斉に自分たちの総隊長を見つめる。
「俺はシリウスを処断するつもりなどない……そもそも、あのシリウスが、何の理由も無く殺人を犯したり脱走したりすると思うか?」
「…………」
「シリウスはそんな女ではない。それは一緒に過ごしてきた俺が一番よく知っているつもりだ」
「…………」
「そこで言う。俺は政府の命令に従うつもりはない……つまり、国家に反逆する覚悟でシリウスを助けにいくつもりだ……お前たちはお前たちの都合もあるだろう……ここで決めろ。俺にあくまで従って国に背くか、それとも国にあくまで尽くすか……道は二つに一つだ」
それを聞いて、隊員の間にまたもざわめきが発生した。
達也についていくということは国に背くことになる。つまり、彼らの家族も同時に国家に背く反逆者となる。
しかし達也の凄さや恐ろしさは隊員である彼らが一番よく知っている。もし背けば、達也に消される可能性もある。
ひとりの隊員が、達也の顔を見つめた。
……虚空をにらみ続けている……。
どこを見ているのかはわからない。だが、その鋭さに思わず射すくめられそうになった。
それに、隊員にはあのリーナが何の理由も無くエドワード・クラークを手にかけるわけがないと思っている。きっとこれには、何かあったのだと思っている。
そんな中で、一人の女性が立ち上がった。
シルヴィアである。
「私は、隊長に付いていきます」
彼女はどうしてもリーナを助けたい。その一心からだった。
これを受けて、他の隊長や隊員の多くが達也についていくと宣言した。
逆らっても勝ち目はない。そして今まで共に戦ってきた戦友を見捨てられない。
恐怖と仲間意識が織り交ぜとなった感情が彼らにもあった。
結局、達也に従おうとしないのはごくわずかだった。
彼らは、達也の命令で監禁されることになる。
達也はすぐに、隊長全員とシルヴィアを連れてバランスの下に乗り込んだ。
バランスは、大勢でやって来た達也に驚く。
「なんだ。大勢で……」
バランスは執務のために手にしていたペンを机に置く。
達也が言う。
「俺たちは協議して決めた。シリウスの処断の任務だが、それに従うことはできない」
「な、なんだと……ッ」
バランスが立ち上がろうとした。だがその前に、バランスの目の前にある机が跡形もなく消されてしまった。
言うまでもなく、分解である。
「あんたには、俺たちの顔役になってもらう」
そして、達也が目で合図を送ると同時に、バランスは駆けつけたスターズ隊員に両腕をとられて拘束されたのである。
同じ頃。
USNA政府にも、ある一本の電話が届いていた。
それは日本からの電話だった。
この一本の電話が、運命を決めることになるのである。
次回は「戦略級魔法師とは その2」です。