司波達也が、その報告と命令を受けたのはリーナの脱走劇からわずか1時間後のことである。
最初に受けた報告が、
「シリウス少佐が、エドワード。・クラーク博士を殺害して脱走した」
であった。そのため、さすがの達也も何があったのかさっぱりわからなかった。
そして第二報がその10分後に届けられた。それは、ヴァージニア・バランス大佐からの指令だった。
「シリウス少佐が軍を裏切った。よって大黒大佐。貴殿に連邦軍刑法特別条項に基づくスターズ総隊長の権限により、シリウス……いや、アンジェリーナ・クドウ・シールズを処断する権限を与える。直ちに帰国して任務に当たるように」
達也はすっかり混乱していた。この前後に、自分とリーナの情報がネットで全世界に発信されてもいたからだ。
(どうなっている……いったい……)
達也の混乱は、頂点に達しようとしていた。
達也にとっては油断していたとしか言いようがない。
妹・四葉深雪の留守をついて母の深夜を奪回した。だが、深夜は達也の予想以上に重態で、直ちに九島家お抱えの病院に入院させる必要があった。
それからというもの、彼は飢えた愛を埋めるように母につきっきりになってしまった。
四葉にすでに真夜が亡く、葉山も死んで自分に敵対できる者などいないという油断もあった。
達也にとってはまさに油断だった。
深雪があんなウルトラCの秘策を使うとは思っていなかった。まさか敵である周公瑾、そしてグ・ジーと手を組んで、そのグ・ジーを通じて達也の情報をエドワードに流した。同じ七賢人の一人という立場を利用してのことだ。
これでエドワードの愚行により、リーナがエドワードを殺害して脱走してしまった。
もし、達也がリーナと密に連絡を取り合っていれば、まだリーナも行動を思いとどめたかもしれない。
あるいは達也が一気に四葉を潰すべく動いていれば、深雪がこんなウルトラCを使う前に倒せていたかもしれない。
だが、全ては最早後の祭りなのだ。
達也にとっては、こうなっては新たな対応策を練るしかない。
そして、
「これしかないか……」
と、ひとつの結論に至ったのである。
その1時間後。
達也の前に、次のメンバーが集められていた。
顔ぶれをあげる。
九島光宣、黒羽亜夜子、黒羽文弥である。
「亜夜子」
「はい」
「お前は日本に残って、母の警護と看病を勤めろ」
「わかりました」
亜夜子が頭を下げる。
「文弥」
「はい」
「USNAに俺は帰る。お前もついてこい」
「はい」
文弥が頭を下げる。
そして、達也が肝心の光宣に顔を向けた。
「光宣」
「はい」
「お前に、頼みたいことがある」
「なんでしょうか?」
「閣下に、お願いしたいことがある……」
「お祖父さまに……!?」
お祖父さま、すなわち光宣の祖父・九島烈である。
「…………」
「「「えッ!?」」」
達也のその言葉を聞いて、光宣だけでなく、その場にいた双子の姉弟も驚愕する。
だが、達也はお構いなしに続ける。
「ある条件を出せば、必ずこれは成し遂げられる。むしろ問題は……時間との勝負だ。これをしくじったら、もう俺には後がない……何としても閣下にお頼みしてくれ……」
達也が光宣に頭を下げる。
それに対して、光宣も決心する。
「わかりました……やってみます……」
そして、それぞれが、それぞれの行動に移ったのである。
次回は「戦略級魔法師とは」です。