復讐の劣等生   作:ミスト2世

68 / 101
大逆転に向けて

 司波達也が、その報告と命令を受けたのはリーナの脱走劇からわずか1時間後のことである。

 最初に受けた報告が、

「シリウス少佐が、エドワード。・クラーク博士を殺害して脱走した」

 であった。そのため、さすがの達也も何があったのかさっぱりわからなかった。

 そして第二報がその10分後に届けられた。それは、ヴァージニア・バランス大佐からの指令だった。

「シリウス少佐が軍を裏切った。よって大黒大佐。貴殿に連邦軍刑法特別条項に基づくスターズ総隊長の権限により、シリウス……いや、アンジェリーナ・クドウ・シールズを処断する権限を与える。直ちに帰国して任務に当たるように」

 達也はすっかり混乱していた。この前後に、自分とリーナの情報がネットで全世界に発信されてもいたからだ。

(どうなっている……いったい……)

 達也の混乱は、頂点に達しようとしていた。

 

 達也にとっては油断していたとしか言いようがない。

 妹・四葉深雪の留守をついて母の深夜を奪回した。だが、深夜は達也の予想以上に重態で、直ちに九島家お抱えの病院に入院させる必要があった。

 それからというもの、彼は飢えた愛を埋めるように母につきっきりになってしまった。

 四葉にすでに真夜が亡く、葉山も死んで自分に敵対できる者などいないという油断もあった。

 達也にとってはまさに油断だった。

 深雪があんなウルトラCの秘策を使うとは思っていなかった。まさか敵である周公瑾、そしてグ・ジーと手を組んで、そのグ・ジーを通じて達也の情報をエドワードに流した。同じ七賢人の一人という立場を利用してのことだ。

 これでエドワードの愚行により、リーナがエドワードを殺害して脱走してしまった。

 もし、達也がリーナと密に連絡を取り合っていれば、まだリーナも行動を思いとどめたかもしれない。

 あるいは達也が一気に四葉を潰すべく動いていれば、深雪がこんなウルトラCを使う前に倒せていたかもしれない。

 だが、全ては最早後の祭りなのだ。

 達也にとっては、こうなっては新たな対応策を練るしかない。

 そして、

「これしかないか……」

 と、ひとつの結論に至ったのである。

 

 その1時間後。

 達也の前に、次のメンバーが集められていた。

 顔ぶれをあげる。

 九島光宣、黒羽亜夜子、黒羽文弥である。

「亜夜子」

「はい」

「お前は日本に残って、母の警護と看病を勤めろ」

「わかりました」

 亜夜子が頭を下げる。

「文弥」

「はい」

「USNAに俺は帰る。お前もついてこい」

「はい」

 文弥が頭を下げる。

 そして、達也が肝心の光宣に顔を向けた。

「光宣」

「はい」

「お前に、頼みたいことがある」

「なんでしょうか?」

「閣下に、お願いしたいことがある……」

「お祖父さまに……!?」

 お祖父さま、すなわち光宣の祖父・九島烈である。

「…………」

「「「えッ!?」」」

 達也のその言葉を聞いて、光宣だけでなく、その場にいた双子の姉弟も驚愕する。

 だが、達也はお構いなしに続ける。

「ある条件を出せば、必ずこれは成し遂げられる。むしろ問題は……時間との勝負だ。これをしくじったら、もう俺には後がない……何としても閣下にお頼みしてくれ……」

 達也が光宣に頭を下げる。

 それに対して、光宣も決心する。

「わかりました……やってみます……」

 そして、それぞれが、それぞれの行動に移ったのである。




次回は「戦略級魔法師とは」です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。