四葉深雪が、それを知ったのは屋敷が襲われてから1時間後のことである。
報告したのは襲撃から逃げ延びた花菱親子であった。
(やってくれましたね……)
深雪には、この襲撃が誰の手によるものかがわかっていた。
ならばなぜ、屋敷を厳重にしなかったのか。
それは深雪が失念していたからである。
当主になってから激務に次ぐ激務で、すっかり達也のことを失念していた。それより国防軍との関係の保持や四葉家の体制再建に注意が向けられていたからである。
(これから、どうするかだわ……取り乱したらますます事態を悪くするだけ……)
深雪は今、京都にいるという周公瑾を追って滋賀県にいた。
「どうするつもりなの? 深雪さん」
尋ねるのは津久葉夕歌である。
この場には他に新発田勝成と桜井水波がいる。
深雪は目を閉じたまま、しばらく黙っている。そして、それが5分ほど続いたそのとき、目をカッと見開く。
「夕歌さんと勝成さんは、東京に戻って屋敷の再建と残った一族、使用人の人たちをかき集めてください。私は水波ちゃんと周公瑾に対する作戦を続行します」
「…………」
夕歌と勝成は、そんな深雪に対して無言で頷くだけだった。
「それから夕歌さん、勝成さん……ちょっとお願いがあるのですが……」
と、二人に何事か囁く深雪がいたのであった。
周公瑾はその頃、京都の伝統派の下に逃亡していた。
伝統派とは、京都を中心とする地方の古式魔法師が宗派を超えて手を組んだ魔法結社である。
周公瑾は目的がある。それは魔法を社会的に葬り去り、魔法の無い世界で覇権を手にすることである。
ただし、彼はナンバー1になるつもりはない。自分がそんな器で無いことは承知している。だが、ナンバー2にならなれると思っている。
(私は表に立てた主人を裏で操る……道化師の役目が似合っていますからね……)
周公瑾の頭にこのとき、自分の主人の顔が浮かんだ。
今、自分が従っている主人は周公瑾にとってその野心をかなえるのに理想的な主人である。適当に誤魔化しながら操ることも可能だと思っている。
(そのためにも……私はまだまだ生きなければなりません……命がなければ、野望もかなえられませんからねえ……)
周公瑾が、ニヤリと唇を綻ばせた。
そのときである。
「周さま」
「なんでしょうか?」
「お手紙が届いています」
「誰からですか?」
「それが……」
そして、伝統派の魔法師から聞かされたその名前に、周公瑾は驚いた。そして、手紙を見る。
「面白い……」
手紙を持つ周公瑾の手が、プルプルと震えていた。それは、緊張からくるものだった。
そしてその翌日。
その三人が京都にある料亭で会っていた。
その3人とは、四葉深雪と桜井水波、そして周公瑾だったのである。
次回は「深雪と周公瑾 その2」です。