2095年4月上旬。
第一高校の制服を着込んだ大黒竜也、並びにアンジェリーナ=クドウ=シールズは、国立魔法大学付属第一高校の正門前に立っていた。
この時、竜也は髪を茶色に染めて、さらに眼鏡もしている。妹の深雪とは10年ほど前に数回面識があるだけで、しかも幼い頃だから記憶はないと思うが、万一を考えてのことである。
隣にいるリーナは、金髪蒼眼の美少女であるから、先ほどから視線が男女を問わずに向けられている。
「じゃあ、そろそろ行くか」
「ええ」
と、二人が入学式をする予定の講堂へ向けて歩き始める。
その間も、この二人。いや、リーナに対する視線はやむことがない。
「鬱陶しいわね……金髪蒼眼が、そんなに珍しいのかしら?」
「さあなあ……最近の奴らの考えは、俺にはわからん……」
二人とも、弱冠15歳でアメリカを代表する魔法師である。ちなみに捕捉しておくが、戦略魔法師として世界に公表されているのはリーナのほうであり、竜也はされていない。これは、万が一にも四葉に自分の生存を気づかれないようにするための処置である。
それはともかく、この年齢でそれほどの魔法師になっている。そのため、同年齢の友人というと互いに互いしかいない。常に周りは自分より年上の大人だった。そのため、こういう経験が特にない朴念仁であると、お互い言ってよいからわからないのだ。
「竜也……ちょっと私、手を洗ってきたいんだけど……」
「あ? ああ、行ってこい……そこで待ってるよ」
そして、リーナが向かう間、竜也は近くにあったベンチに腰をかけた。端末をいじり、何か情報でも見ようかとしていたときである。
「何かお困りですか?」
女性の声だった。竜也が振り向く。
「新入生ですね? 何かお困りのことでもありますか?」
「いえ。何でもありません」
と、竜也が頭を下げる。
「そうですか……私は生徒会長を務めています……七草真由美です。よろしくね」
すると、竜也の目つきが変わる。
(ナンバーズ……しかも七草……十師族か……)
そして、自らも名乗る。
「自分は、大黒竜也といいます」
「大黒くん……そう、貴方が……」
そこに、
「会長ーッ」
と、真由美を呼ぶ少女と、
「竜也、お待たせーッ」
と、竜也のほうにやって来る金髪の少女がいた。
「七草会長。どうやら連れが来たようですので、失礼します」
と、頭を下げて、その場を後にした。
リーナと一緒に講堂に入った竜也は、新入生の席を見つめる。
「前半分がブルーム、後ろ半分がウィード……か」
「くだらないわね……何でこんな差別してんのかしら?」
「さあな……。まあ、俺らには関係ない。適当にそこらに座ろう」
「そうね」
と、竜也とリーナ、共に一科生であるにも関わらず、二科生が座る場所に腰を下ろした。
そこへ、
「あのう」
と、声をかけられた方に竜也が目を向けると、眼鏡を掛けた少女が戸惑った表情を向けていた。
「お隣は……空いてますか?」
「どうぞ」
と、竜也が空いた右2つの席に手を向けて勧める。
「ありがとうございます」
「あのう、私、柴田美月って言います。よろしくお願いします」
竜也は眼鏡少女こと美月に笑みを浮かべながら挨拶を返した。
「大黒竜也です。こちらこそ、よろしく」
(眼鏡か?)
竜也の場合、眼鏡は素性を隠すために使っている。だが、この少女の場合は……と思ったのだ。
すると、竜也の右隣に座っていたリーナも自己紹介する。
「私はアンジェリーナ=クドウ=シールズ。リーナと呼んで下さいね」
「はい。よろし……」
すると、それに割り込むように、美月の左隣に座った赤髪の少女も言う。
「私、『千葉エリカ』! よろしくね。大黒君。それにリーナも」
「こちらこそ、よろしく……」
「ええ。よろしくね。エリカ」
(千葉ね……またナンバーズか……だが、こいつは二科生だ……)
だが、竜也の目には、目の前にいる赤髪の少女が只者ではないことが、一目でわかる。誰よりも戦場を歩んできた彼には、彼女が並の人物ではないことがすぐにわかった。
(『百家』の一つ、『千葉』であるのに『ニ科生』な女……か)
そして、アナウンスが入り、入学式の開始が告げられる。
最初に生徒会長・七草真由美の言葉から始まり、そして新入生答辞が始まる。
新入生答辞をするのは、司波深雪。竜也の妹である。
深雪が新入生総代(代表)として壇上に上がった。
そして、答辞を始める。
「この晴れの日に歓迎のお言葉を頂きまして感謝します。私は新入生を代表し、第一高校の一員として誇りを持ち、『一科生』として勉学に励み、学び、この学び舎で成長することを誓います」
と、一科生を特に強調するような答辞だった。
それを聞いた竜也は、
(どうやら、四葉の次期当主として周りにいい人物に恵まれてないようだな……。あんなに一科生を強調するようでは……)
と感じていた。
ただし、二科生らはそれに気づいていない。それは深雪の人並み外れた美しさが原因で、それに見とれていたからであった。
入学式が終わり、竜也はリーナや美月、エリカと共に講堂を出た。
周りから見れば、まさにハーレムである。
そこに、
「こんにちは……また、会いましたね」
と、生徒会長・七草真由美がやって来る。
「ええ……」
と、声をかけた瞬間、妹が真由美の左隣にいることに気づく。
深雪は、竜也に気づいていない。もともと、深雪は竜也こと司波達也の本領を知らず役立たず扱いして強く当たっていたこともあり、興味はないようだ。
(どうやら、あの年増(四葉真夜)は、養女の育て方を失敗しているようだな……ん?)
と、竜也がここで、深雪の後ろにいる女の子を見て驚く
(ッ!)
そこにいたのは、まさに、
(ほ、穂波さん……生きていたのか……いや……)
そう、そこにいたのはまさに、自分の命の恩人である母のかつての側近であった故・桜井穂波そのものだった。
(どういうことだ……調べてみる必要があるな……)
と、竜也は感じたのであった。
その日の夜。
竜也とリーナは、アメリカ軍が用意した家に帰っていた。
リーナがコーヒーを持ってくる。
「ありがとう。リーナ」
「いいわよこれくらい……それより竜也」
「ん?」
「あの美月って子、霊子視覚過敏症でしょ?」
「気づいていたのか」
「あったりまえよ。こう見えても、あんたの相棒なんだから」
「ああ。そうだな」
と、竜也がコーヒーカップを机に置く。
「それに千葉エリカ……あれだけの腕を持ちながら二科生とはな……ハッキリ言って驚いたよ」
「それほどなの? エリカは」
「達人は達人を知る……さ……もし、俺が3年も鍛え上げたら、あいつは恐ろしい使い手になれる。リーナ、お前でも単純な対人戦闘なら、油断は決してできないと思うぞ」
「ふ~ん」
と、リーナが、カップを机に置く。
「で、妹さんはどう思ったの?」
実は、リーナは竜也が司波達也であること、そして四葉の時に何があったかを知っている。
現時点で竜也の正体を知っているのは竜也を拾った九島烈、その息子の真言、そしてリーナの3人だけである。真言には現当主として、リーナにはアメリカに竜也を送る際、よき知人となってもらうためにあえて教えたのだ。
「妹は……あいつは、どうやら魔法力に秀でているあまり、周りを見る目を失っている……どうやら、四葉は次期当主さまの度量や見識をよく磨けていないようだ……あれなら、それほど問題にはならないかもしれない」
「そう……」
そして、リーナとの話をその後、1時間にわたり続けてから、互いに就寝する二人であった。
次回は、「生徒会」を予定しています。