リーナから光宣はそれを聞かされていた。
「それは絶対にいけない。何が何でも達也さんにその条件を受け入れさせるな」
目の前のディスプレイに映っているハトコに、光宣は言う。
「それはわかってるわよ……でも、達也は深夜さんのことを気にして受け入れる気でいるわ……」
「そこを何とかして時間を稼げ。その間に僕が何とかする」
「何とかするって……どうする気よ?」
「要は、それを受け入れさせなければいいんだろ。それなら方法はある」
「その方法って?」
リーナの質問に、光宣は笑みを見せるだけだった。
光宣は黒羽亜夜子を呼んで相談する。
亜夜子は光宣の説得と達也の導きで、既に以前のような死んでいるような眼はしていない。むしろ、意志の強さをうかがわせるような女性になっている。
そのため、光宣と達也には並々ならぬ信頼を抱いている。
だが、その彼女でもこの提案には驚かされた。
「…………ッ!? み、光宣貴方……な、何を言ってるのかわかってるの?」
「ああ。勿論だ」
「なら、そんなことできると思う? 私は絶対に嫌よ。そんなこと、できるわけないッ!」
「ならどうする? 達也さんが四葉の傀儡として利用されるのを指を加えて見てるのを選ぶのか?」
「…………」
「僕は以前、貴女に言ったはずだ。せっかくの機会を逃がすのか……と。この機会を逃がしたら、次はない。達也さんは四葉の人形として一生を過ごすだけの人形でしかなくなる」
「だからって……だからって、そんなこと、できるわけがないでしょッ。それに、その件を達也兄さんは知ってるの?」
「いいや知らない。全て、僕の独断だ」
「なら……」
「わかってる。達也さんの怒りを買うのは覚悟の上だ。最悪、達也さんに処断されることになっても悔いはない」
「…………」
「僕のことは以前説明しただろ。僕は達也さんと出会うまでは生きている価値のない病人だった。達也さんと出会ってその導きで、僕は今の全てを手に入れた。……達也さんのためなら、この生命を惜しむつもりはない」
「…………」
「貴女のことなら心配ない。僕が脅迫して味方にしただけと言うつもりだ。達也さんも、貴女にまで手をかけることはないはずだ」
「……わかったわ……でも、どうする気なのよ……私たちで四葉に殴り込みをかけるとでも言うの?」
「いいや。そんなつもりはない。そんなことをしても僕たちだけであの四葉真夜に勝てると思うか?」
「…………」
「不可能だ。四葉真夜に勝てるのは達也さんだけだ。僕たちでは流星群の餌食になるのがオチだ」
「じゃあ……」
「正面突破が無理なら、外堀からじっくり攻めたらいいだけのことだよ。君には、四葉家に出入りしている医師や看護師を調べてほしい」
「…………」
「その医師の家族構成、女、友人。何でもいいから弱点を調べてほしい。時間がないからできるだけ早く……にね」
「…………」
「そして僕のいう条件に見合った医師や看護師が見つかったら、すぐに僕の下に連れてきてほしい。……できるだけこれは早くに頼むよ」
「…………」
「どうした?」
「……やっぱり、できるわけないわ……だって……」
すると、光宣が亜夜子の両肩に手を置いて言う。
「気にすることは無い。僕は達也さんの命令であの人の世話をしていた時、医師から聞かされたよ。『よく、こんな状態で生きていられるものだ』ってね。既に死んでいてもおかしくない状況だそうだ。恐らく彼女は、達也さんに出会いたいその一心だけで命永らえてるに過ぎない。僕たちは、達也さんのために彼女に最後の一歩を踏ませようとしているだけだ……いいか……これは達也さんのためにやるんだ……僕たちの行為は、正義なんだ!」
「…………」
亜夜子が力なく頷いた。
そして、光宣の目が怪しく輝いていた。
数日後、亜夜子によってひとりの医師が連れて来られた。
光宣がその医師に何かを吹き込む。
医師は驚いていたが、最終的に頷いていた。
こうして、達也の知らないところで光宣のたくらみが着々と進行していったのである。
次回は「たくらみの実行」です。