「……ッ。お、お前は……」
「久しぶりね……達也……」
司波達也は、目の前にいる宿敵・四葉真夜の顔を見て驚愕と憎悪を抱かずにはいられなかった。それに対し、四葉真夜は45歳という年齢を感じさせない若さと美貌をのぞかせて余裕の表情である。
「……何の用だ……」
「あら? 何の用とはひどいわね……。『実の叔母』に向かって」
すると、達也が目の前にいる真夜に対して怒鳴る。
「何が叔母だッ。俺は貴様を叔母だと思ったことなど一度もない。貴様により、俺は10年前に殺されかけた。俺の事を甥とも思ってないくせにふざけるなッ!」
達也が激しい憎悪を籠めた目を向ける。
「あら……そう。でも、私は今は、貴方を愛しているわよ……」
「…………」
「…………」
しばらく無言のにらみ合いが続く。それが数分ほど続いた後、先に沈黙を破ったのは真夜であった。
「それにしても、貴方が生きていたと知ったときは驚いたわよ」
「……いつ、俺が生きていることに気が付いた?」
「姉さんの身柄を浚ってからすぐのことよ。亜夜子が私を恨んでいるのはわかる。本邸に火を放ったのもわかる。だけど、なぜ姉さんの身柄を浚ったのか……それがわからなかったわ。最初はね」
「…………」
「亜夜子は私に逆らった時点で四葉家のお尋ね者になる……逃走に病身の姉はむしろ邪魔になるはず……なのに何故、亜夜子が姉を浚ったのか、私にはそれが引っかかっていたわ」
「…………」
「そして、その答えは一つ。姉のことを誰よりも案じる人物が関与している……そんな人物は深雪を除けば、貴方しかいないわよね。達也」
「……なるほど……だが、俺は死んだことになっている。その俺がどうして生きていると、そしてスターズの総隊長になっているとまでわかった?」
「貴方の死体は確認されてないわ。私にはそれがずっと引っかかっていた。それに青木に貢さん、消された人間のことを考えると、貴方が生きていると全て辻褄が合うのよ。それと、四葉の情報網を甘く見ないでほしいわね」
「…………」
それは認めざるを得ない。達也は改めてそう思った。
「……それで、お前は何の用で俺に電話などして来た?」
「……決まってるじゃない。貴方に大事な用があるからよ」
「……用……?」
「ええ」
ここで、真夜が机に置いてあったティーカップを手に取り、一服する。
そして、机に優雅にカップを置く。
「……姉の身柄を、私に返してくれるかしら?」
「…………!!」
達也の表情が固まる。そして、しばらくしてから大きく息を吐いて言う。
「……できると思うのか? 齢をとって、頭が惚けたか? 年増」
その言葉に、真夜は怒りを見せることもなく平然としている。むしろ、余裕すら感じさせている。
「あら? そんなこと言っていいの? 達也。私が何も考えなしにこんな条件を出すとでも思った?」
「……何……?」
「今、確かそちらではアンジェリーナ=クドウ=シールズさんのご両親が行方不明になっていたわよね……その身柄を、こちらで預かっているとしたら?」
「…………ッ!」
達也が驚く。それを真夜は見逃さない。
達也が言う。
「貴様が、リーナの両親を人質にしているというのかッ!」
「あら。人質なんて人聞きが悪いわね。保護よ保護」
「保護……だと……」
「ええ。そちらのカノープスさんが反乱を起こした時、私の手の者を送っていてね。その時にカノープスさんが捕らえたリーナさんの両親を、我が四葉家が責任を持って保護しているってわけよ」
「……貴様ッ……」
「……私としては、そちらで保護している姉さんの身柄と交換してほしいってわけ」
「……ふざけるなッ!」
達也が思わず、地団駄を踏んだ。それに対し、真夜は妖艶な笑みを浮かべている。
「ふざけてなんていないわよ……これは言ってみれば取引よ。対等な……ね……」
「……もし、俺がこの条件に応じなかったら?」
「その時は残念だけど、アンジェリーナさんのご両親の安全が保障できなくなるわ。……もしかすると、事故に遭うなんてこともあるかもしれないわよ」
「…………」
達也が唇を噛みしめる。拳も握りしめている。
あまりの悔しさに爪が皮膚を破ったのか、拳から血が流れている。
「……時間がほしい」
「即決してもらいたいのだけど……それに、迷う必要なんてないわよ。イエスかノー。これだけって話だしね」
「…………」
達也は答えない。
真夜が余裕の表情を見せて言う。
「いいわ。時間をあげる。明日の同じ時間にまたかけるわ……それまでに決断しなさい」
「…………」
「いい返事を期待しているわ」
そして、叔母と甥の会話が終了した。
次回は「決断」です。