復讐の劣等生   作:ミスト2世

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交渉と交換

両親がいるとカノープスに教えられた部屋に赴いたリーナがそこで見たのは、もぬけの殻の状態であった。

誰もいない。

リーナが部屋にあった椅子に自らの白い手を近づける。

温もりがない。

つまり、この部屋から抜け出したのか。

とにかくリーナは、この状況を達也に伝えるべく、部屋から外に出たのである。

 

リーナからそれを伝えられた達也こと大黒竜也は、すぐにカノープスがいるはずの総隊長室に向かった。そこには、シルヴィアたちから切り落とされた右腕の手当てを受け、腰に拘束具をはめられて連行されていかれようとするカノープスがいた。

竜也が、カノープスの襟首を掴み上げる。

「リーナの両親はどこにいる?」

この時の竜也の目は、まさに血走っていた。周りのスターズ隊員が思わず引かずにはいられないほどに。

カノープスが弱々しく言う。

「い、言ったはずだ……突き当たりの……」

「そこにはいなかったそうだ。どこに移した?」

「し、知らない……」

「…………」

竜也が、CADをカノープスに向けた。そして発動する。

カノープスの左腕が消され、血が噴き出る。

「ぎゃああああッ!」

カノープスの悲鳴が轟く。

しばらくカノープスがもがき苦しむ姿を見つめた竜也は、腰に差している別のCADを取り出して、それをカノープスに向けて発動する。

途端に、カノープスの左腕が復元される。竜也は左腕を抑えていた。

そして、カノープスが安堵のため息をついたのも束の間。

再び、竜也がカノープスの左腕を消し去る。

カノープスの悲鳴が再び轟く。

「カノープス。お前が吐くまで何度でも続けるぞ。リーナの両親はどこだ?」

「だ、だから……知らない……」

再び繰り返される惨劇。

このままではカノープスがショック死しかねないし、竜也だって再成の代償はタダではない。それを知っているリーナが竜也を背後から抱きしめた。

「もうやめて……竜也、ベンは本当に知らないわ……」

見ると、カノープスは既に口から泡を吹いている。

ここまでやって答えないのだから、本当に知らないのだ。

「わかった……」

竜也は、CADを腰のホルスターに戻すと、カノープスを連行するようにだけ命じて、その場をあとにしたのである。

 

竜也には、スターズの反乱は鎮圧したが、まだ非魔法師や軍隊の反乱を鎮圧することも職務に与えられていた。

竜也はリーナや反乱に協力しなかった隊員らと共に、これらをわずか2日で鎮圧したのである。

これにより、竜也の存在を好ましく思わない政治家や軍上層部も改めて竜也の実力を認めざるを得ず、竜也をなだめるために大佐に昇格させる人事を発表したのであった。

 

竜也は、反乱鎮圧の任務を終了してその時には風呂に入っていた。

リーナの両親は未だに見つからない。

明日にでも、スターズの隊員も使って捜索に当たらせよう、そう考えていた矢先だった。

通信が入る。

シルヴィアの声がする。

「総隊長。おくつろぎのところ、申し訳ございません」

「どうした?」

「お電話が入っています」

「誰からだ?」

すると、シルヴィアが少し躊躇う。

「それが…………」

「どうした?」

「相手は、総隊長の「母親」からだと……」

「母親……?」

竜也の母親は、一人しかいない。司波深夜。

だが、彼女は今は治療中の身であるはずだし、世話を任せていた光宣にも連絡はするなと言ったはずなのだ。

竜也が、少し考えてから言う。

「10分後に、総隊長室に繋いでくれ」

 

そして急いで総隊長の身なりを整える。10分がたち、目の前のディスプレイにその「母親」の顔が映る。

「…………ッ」

竜也が驚いた。

目の前にいたのは、自分の宿敵の顔だったからである。




次回は「交渉と交換 その2」です。

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