レリックを石川県の吉祥寺の下に運ぶ役目を担ったのは、国防陸軍第101旅団・独立魔装大隊に所属する軍人である真田繁留である。
この時、真田は警戒をしていなかった。何故なら、レリックの存在が外部に漏れているなどと夢にも思っていなかったからだ。
ただし、これは真田を責めるわけにはいかない。まさか軍の経理データが外部からのぞき見られているなど、誰が想像しただろうか。
そのため、全く警戒していないところを不意を突かれてしまった。
真田は乗っていたコミューターからすぐに飛び降りた。
勿論、レリックを入れたケースを手にしてである。
すぐに覆面をした男たちが真田に襲いかかった。
真田は魔法師ではあるが、本質は魔法師ではなく魔工師である。とはいえ、それなりの戦闘力は持っている。
そのため、襲いかかる男たち数名を体術で倒した。
襲撃者たちは真田が只者ではないことに気づき、距離をとる。
真田はこの時、敵を倒しながらも愕然としていた。
(……交通管制システムに介入して、交通量を少なくさせる徹底ぶり……かなり場数を踏んでいる、優秀な指揮官がいるな……)
ただし、監視カメラがある幹線道路上でこの襲撃は、余りに大胆すぎる。この手口だけで、犯人が只者ではないことに気付く。
(敵の狙いは、これというわけか……)
と、真田はレリックの入ったケースを見つめた。
そして、乗り捨てたコミューターの陰から飛び出て、逃走を図ろうとする。
「逃がすなッ!」
襲撃者たちが追跡する。
だが、並の襲撃者たちでは、真田の相手にはならない。そう、並ならば。
真田は普通の人間ではどれだけ鍛えても出すことの出来ない速度で駆けた。勿論、自己加速術式を使ってだ。
ところが、その真田にピッタリと追走してきた男がいた。
「鬼ごっこは終わりだ」
「ッ!」
真田が驚く。
真田の前には、大柄の青年が立っていた。真田はその青年を軍の所持するデーターで見た事があった。
「人喰い虎……呂剛虎……」
そう、真田の目の前にいたのは白兵戦で人を殺すことにかけては大亜連合随一と噂される大亜連合軍特殊工作部隊のエースである男である。
真田はゾッとする自分を感じた。
真田がCADを使って魔法を発動させようとした。
だが、目の前にいる青年はそれを許さなかった。真田の手首に、あるものが突き刺さっていたからだ。
「え……?」
真田にはそれが、呂剛虎の指だと気付くのに数十秒かかった。
当然、痛覚も気付いた後にやってくる。
「あ……あああ……あああああああッ!」
真田が痛みのあまり叫ぶ。真田には、呂剛虎の動きが全く見えなかったのだ。
そして、痛みのあまり手首を抑えている時。
真田の心臓が青年の大きな親指によって貫かれた。
真田はその瞬間、断末魔の叫びを上げる事も無く、永遠の眠りについたのであった。
「弱すぎる」
呂剛虎の感想は、それだけだった。
そして、真田の血がついた親指を懐から取り出した紙で拭う。拭き終わると、その紙を真田の遺体の上に放り投げた。
そして、真田の遺体の隣にあるケースを回収し、中身を確認する。
「よし」
それだけ言うと、ケースを閉じて、真田の遺体の上に抛り捨てた紙に火をつけた。紙は真田の流した血よりさらに赤く燃えあがり、そしてやがて真田の遺体そのものを覆い尽くしてしまった。
呂剛虎はそれを見届ける事無く、部下と共に素早くその場を立ち去るのであった。
「さすがは大亜連合のエースさんですね」
光宣は、周公瑾からレリック奪取の報告を受けて、中華街の周の店舗を訪れていた。
竜也の言う通り、大亜連合にレリックを解析できるような力は無い。大亜連合とは中国4000年の歴史を誇るだけあって古式魔法に関しては世界のどこよりも長けているが、逆に現代魔法にはかなり後れをとっている国家だった。
そのため、解析になると、どうしても余所の力を借りないといけない。それが飛行デバイスの技術データーを供与した相手なら、協力してもらうのが一番だった。
「これがレリックですか……」
「ああ……言っておくが、奪ったのは我々だ。解析したら、すぐに返してもらうよ」
「わかっていますよ。ただしこちらも、技術データーは頂きますよ」
「ああ」
そして、陳祥山に対してペコリと頭を下げ、レリックを持ってその場を去る光宣だった。
次回は「祭りの前に」です。