復讐の劣等生   作:ミスト2世

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竜也とリーナの夏休み

 九校戦が終了してからの夏休み。

 竜也の日常は充実していた。いや、こんなに充実した日を送ったのは、リーナに出会って以来だろうかとすら思えるくらいに。

 雫の提案で北山家が所有するプライベートビーチに友人らと遊びに行った。

 そして、この話はその後のことである。

 

「買い物につきあえ?」

「そうよ」

「あのなあ……買い物なら、ひとりで行ってこい。俺は今、忙しいんだ」

 竜也は軍の命令で潜入任務をしているが、仕事がないわけではない。スターズの総隊長としての任務は常にこなしている。報告書の作成、定時連絡、魔法技術に関する調査、それに日々の鍛錬と、やることは事欠かない。むしろ、超人的な体力の持ち主と言ってもよいだろう。

「私はあんたと一緒に行きたいって言ってんの!」

 と、リーナが強引に竜也の手を取る。

 実は、竜也の仕事が忙しいのはリーナにも原因がある。リーナは戦闘力こそ竜也に次ぐナンバー2だが、事務能力がとにかく低い。そのため、竜也がリーナの本来の仕事まで処理しないといけない状況にあるのだ。

 そのため、二人分の仕事を一人でこなしている。

「あのなあ……俺の仕事が二倍になってるのは、誰のせいだ?」

「うッ……男なら、そんな小さいこと気にしないでよッ」

「小さいこと……ねえ……」

 ジト目でリーナを見つめる竜也。だが、

「いいだろう。相棒のお願いだ。付き合ってやるよ」

 と、リーナに言う。その言葉に喜んで笑顔を浮かべるリーナだった。

 

 大黒竜也。この男、こう評価されることがある。

「トラブルに愛される男」

 そのため、リーナからもこう言われているくらいだ。

「あんたといると、本当に退屈しないわ」

 そして、この時もそうだった。

 リーナが竜也の腕にしがみついて買い物を楽しんでいる時だった。

 ジリリリリリリッ! とベルがビル内で鳴り響く。

 火災警報である。

 ただし、竜也はすぐに異常を察した。

 21世紀の時代、どんな火災だろうと早急にスプリンクラーが発動して鎮火するようになっている。だが、避難経路に映し出されているモニターには、熱でスプリンクラーが故障しているため作動しないと出ているのだ。

(耐熱性のあるスプリンクラーが只の熱で壊れるわけがない。つまり……)

 つまりこれは、ただの火事ではない。

 すぐに竜也はエレメンタル・サイトを発動して原因の場所を探し出した。そして、傍らにいる相棒に言う。

「行くぞ」

「ええ」

 既にリーナも、それまで竜也にしがみついていた時とは表情を一変させて、戦闘者の顔つきになっている。

 そして二人は、大勢の人間が避難する中で、その波に逆らって火災現場に向かうのであった。

 

 黒ローブを羽織った男がそこにはいた。炎の中で狂気の笑みを浮かべている。

 竜也とリーナは、臆することなくその男に近づいた。

「何者だッ」

 男が叫ぶ。

「あんたこそ何やってるのよッ。私と竜也のデートを邪魔して、断じて許さないわよッ」

「許さないだと? 偉そうに……そうかお前ら、俺を見下した協会の人間か!?」

「はあ?」

 リーナと竜也が、訳がわからないとばかりに互いの顔を見合わせる。

 そして男は、拳銃型のCADをリーナに向けて火炎弾を発射しようとする。

 しかし、男のCADがその前にバラバラにされてしまった。

 言うまでもなく、竜也の分解である。

 男がすぐに銃身を放り投げ、懐からナイフを取り出して襲いかかる。標的はリーナ。

「死ねッ!」

 この男は、少女のリーナならやれると完全に思い違いをしていた。

 次の瞬間。

 いつの間にかリーナの前に立っていた竜也が男の右腕に手刀を繰り出す。それはただの手刀ではない。手刀には分解の力をつけている恐ろしい凶器である。

 男の右腕が吹っ飛び、男の悲鳴が轟いた。

 そして、苦しみ床に倒れてもがく男の首筋に手刀を打ち込んで気絶させる。

 こうして、騒動は終焉した。

 

「本当に、あんたといると、退屈しないわよ……竜也」

「いや、そんなかわいそうな人を見るような目で見るなよリーナ……」

 二人は、男を駆けつけた警備員に任せた後、簡単な事情聴取を受けてから解放され、今は食事をしていた。

「でも、だからこそあんたの相棒として働けるからいいんだけどね」

「ああ……」

 竜也はそう言いながら、夜景を見つめる。

 ここはタワー内におけるレストランで、絶景が見れる場所であった。

「リーナ」

「なに?」

「そろそろ、俺の計画を実行に移そうと思ってる……」

「…………」

「もう一度だけ言う……俺についてきてくれるか?」

「何度同じことを言わせる気? また殴られたいの?」

「わかった……ならついてきてくれ。相棒」

「勿論」

 そして、互いに微笑みあう二人の男女がそこにいた。




次回は「横浜への序曲」です。

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