新人戦のモノリス・コードの結果を見過ごせなかった十師族の当主たちが、緊急の師族会議を開いた。
顔ぶれをあげる。
一条家当主・一条剛毅。
二木家当主・二木舞衣。
三矢家当主・三矢元。
四葉家当主・四葉真夜。
五輪家当主・五輪勇海。
六塚家当主・六塚温子。
七草家当主・七草弘一。
八代家当主・八代雷蔵。
九島家当主・九島真言。
十文字家当主・十文字和樹。
いずれも錚々たる顔ぶれといってよい。これらのメンバーが今、テレビ電話で会議を開いていた。
議題は一つ。
一条家の次期当主である将輝が負けたことである。
「いくら相手が百家本流の家系である十三束家の息子とはいえ……」
「十三束の倅以外に、精霊魔法の名門・吉田家の息子もいたという。ならば仕方ないではないのか?」
「だが、吉田の次男は力を失っていたと聞いていた。しかし一条どのの倅との戦いでは間違いなく力を発揮していたように見えた……」
「もう一人は一般人だしな……」
「十師族の直系であり、一条家の跡取りとはいえ、しょせんはまだ高校生……ということでしょう」
「だがな……十師族はこの国の頂点に立つ存在だ。例え高校生のお遊びでもその力に疑いを残すような結果を放置するわけにはいくまい……」
そんな中で、九島家当主・真言は笑いをこらえるのに必死だった。
リーナにしろ、十三束にしろ、吉田にしろ、全てその背後に大黒竜也、いや司波達也-四葉家の直系がいることを彼は知っている。彼が裏で暗躍していたから全て結果がああなったことを知っているから、むしろ当然だろうと思っているのだ。
一方、四葉真夜はある疑問を抱いていた。
(そういえば……なぜ、第一高校はあんなに高得点好成績を出したのかしら……深雪が敗れたこともそうだし、一条将輝が敗れたことも、単に選手の実力だけとは、とても思えないところがある……つまり……)
(つまり、誰か裏で頭の切れる参謀かエンジニアがいるということかしら……)
一方、一条剛毅もあることを考えていた。
(十三束の子息は鬼子、出来損ないと聞いていた。だが、試合を見る限りではとてもそんな風には見えなかった……将輝が油断していたことを考えても……誰か裏で糸を引く者がいるということか?)
奇しくも、真夜と同じことを考えていたのだ。
そんな剛毅に、七草弘一が言う。
「一条どの。貴殿の息子が敗れたのだ。貴殿の意見をお伺いしたい」
すると、剛毅が言う。
「私は師族としての力を見せつけることに不満も異見もありません」
「左様ですか」
そして、弘一が全ての当主を見回して言う。
「ならば、モノリス・コード本戦に十文字和樹どののご子息が出場なされるそうです。そこで、十師族の力を見せつけることにいたしましょう」
それが、師族会議の答えとなった。
モノリス・コード本戦。
ここで活躍したのは十文字克人だった。
まるで消化試合だった。
それは十文字克人のファランクスに相手は誰も対抗できないからである。
ただし、これは相手が弱すぎるとも言える。
もし相手に竜也や一条クラスの使い手がいれば、ここまで消化試合を演じることはなかっただろう。
竜也とリーナは、そんな十文字の姿を半ばあきれながら見つめていた。
「なにあれ……あれで自分は強いとでも言ってるつもりかしらね……」
「さあな……まあ、相手が弱すぎて話にならない。もう少し、楽しめる相手がいたらいいのにな……」
(とはいえ、あのファランクスは俺の分解とは相性は最悪だ……勝てないとは言わないが、苦戦するのは目に見えている……もし激突したら、どうするかな……)
と、考える竜也だった。
第一高校はモノリス・コード本戦でも優勝した。
十文字克人は拳を突き上げて自分こそ最強と見せつけるようであった。
九校戦全競技が終了し、後夜祭が開始された。
この時、竜也は魔法工学関係の企業関係者に、リーナは芸能関係者に次々と話しかけられていた。二人とも、この九校戦でそれなりに名を挙げたから仕方がないといえる。
とはいえ、さすがに疲れる。
そして竜也は戻ってきても、光井ほのか、北山雫、明智英美、里見スバル、七草真由美と次々と第一高校の女子たちに踊りを求められてつき合わされた。
次々と美少女を相手に踊る竜也に、周りの男子たちの嫉妬は頂点に達する。
そして、真由美と踊り終わると、さすがに疲れたのか少し外に出た。
そこには、噴水がある。
噴水の音を聞きながら、夜空を見つめる竜也。
背後から、リーナが現れた。
「お疲れ。竜也」
「ああ」
「……何を考えてるの?」
「いやさ、スターズ以外に、俺の居場所ができたんだな、と思ってさ」
「…………」
「俺は四葉から追われた出来損ないだった……それが閣下に巡り合い、そしてリーナ、お前と言うかけがえのない相棒と出会い、スターズの皆に会えて、俺には居場所ができた。そしてここでも、俺の居場所ができた……俺は今、幸せだと思ってさ」
「…………」
「もし、俺があの時、四葉から追われていなかったら、今頃俺はどうしてたんだろうな、と思ってさ……」
すると、リーナが竜也の頬を両手で挟み込んだ。
竜也が驚く。
「もう、何を辛気臭いこと考えてんのよ。今日は優勝のお祝いなのよ。戻って踊りましょう。さ」
そして、リーナが竜也を引っ張って戻ってゆく。
復讐を目標にする竜也が、一時の幸せを感じる瞬間、大切な友人や相棒に恵まれて充実した時間を感じる瞬間だった。
今回で九校戦は終わります。次回は「四葉家、夏の会議」です。
夏休みの話を少し挟んでから「横浜」へ向かいます。この横浜で一気に動乱に持ち込む予定です。
相変わらずの駄作ですが、これからもよろしくお願いいたします。