復讐の劣等生   作:ミスト2世

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九校戦始末記 その2

 さて、九校戦はいよいよ大詰めを迎えようとしていた。

 怪我から回復した渡辺摩利がミラージ・バットでは大活躍した。これに対して第三高校も一年生ながら本戦に抜擢される程の実力を持っている師補十八家・一色家の令嬢である一色愛梨が頑張ったが、十文字や七草と共に数えられる第一高校の三巨頭の壁はやはり大きく、渡辺摩利は見事優勝し、この時点で第一高校は総合優勝を果たした。

 試合後、渡辺は善戦した一色と握手してお互いを認め合い、観客から大いに拍手や歓声を受けていた。

 

 同じ頃。

 司波深雪は、魔装大隊の少尉・藤林響子と会っていた。

 深雪の隣には、ガーディアンである桜井水波もいる。

「深雪さん……大丈夫?」

「大丈夫です。もう気持ちは落ち着きました」

 深雪は笑顔を見せながら言う。

「それより、あの下衆どものことはわかりましたか?」

 深雪がその整った容姿からは信じられない乱暴な言葉を使う。それだけ、深雪にとって怒りが溜まっている証でもある。

 いや、その怒りは無頭竜に向けられたものか、それとも不甲斐なくリーナに敗れた自らの力の無さを悔いてなのか、少なくとも藤林にはわからなかった。

 藤林が気を取り直して言う。

「ええ。奴らは横浜中華街のホテルにいるわ」

「そうですか。それで手筈は?」

「真田大尉が本作戦には参加します。また、私の手でハッキングして無線通信は全て支配下に置くつもりです」

「わかりました。ならば行きましょうか」

 そして、深雪が水波と共に動き出した。

 

 さてその頃、大慌てになっている連中がいた。

 場所は、横浜中華街のホテルの一室。

 そこにいる男たち-無頭竜(No Head Dragon)東日本総支部の構成員たちである。

「まさかジェネレーターが取り押さえられるとは……」

「くそッ! なぜ我々がこんな目に……ッ」

「ジェネレーターを押さえた奴らの素性はわかったのか?」

「目下、確認中だ」

「そうか……」

 そのときだった。

 突然、部屋の中が極寒の地獄に見舞われた。

 その絶対零度でジェネレーターの一体が苦しみだし、そして凍りついた。

 深雪の得意魔法であるニブルヘイムである。

「なッ!?」

 驚いた構成員たちが一斉に伏せる。

 構成員のひとり・ダグラス=黄は仲間と囲んでいたテーブルを倒して楯にする。そして、

「何処だ!? 何処からだッ!?」

 と、二人のジェネレーターに言う。

 すると、ジェネレーターは二人とも顔を東に向けた。

 そこには、ヘリがいたのである。

「十四号! 十六号! やれッ!」

 ダグラス=黄が命令する。しかし、二人のジェネレーターもニブルヘイムで凍らされてしまった。

 ダグラス=黄が狙撃銃をヘリに向ける。しかし、それは無意味だった。

 深雪の振動減速系概念拡張魔法・凍火(フリーズ・フレイム)により、火器は意味を成さないのだ。仮に撃っても、水波の対物障壁もあるから無意味だっただろうが。

 そして、深雪がニブルヘイムを構成員に向けて発動した。

 構成員たちが次々と凍り付いてゆく。

 構成員のひとりが有線を、もう一人が無線をそれぞれ外部に向けて連絡を取ろうとした。しかし、

『慌てなさんな。あんたらの運命はもう決まってるんだからおとなしくしてな』

 有線から聞こえてきたのは男の声。それは真田の声だった。

 そして無線からは、

『もう諦めなさい。貴方たちの運命は決まっています』

 と、無線を支配下に置いた藤林の声が帰ってきた。

 それを聞いて、構成員たちが絶望にとらわれる。

 ダグラス=黄は、仲間が次々と凍り付いてゆくのを見て、恐怖のあまり無線につながる女性に命乞いを始める。

「ま、待ってくれッ!」

『何を待てと?』

「我々はこれ以上九校戦に手出しをするつもりはない」

『九校戦は明日で終わりです』

「我々はこの国からも出ていく。いや、我々無頭竜東日本支部は日本から手を引く」

『貴方にそんなことを決定する権限があるのですか? ダグラス=黄?』

 ダグラスは自分の素性を調べ上げられていることに驚く。しかし、ここでひるんではいられない。自分の命がかかっていた。

「……私はボスの側近だ。ボスも私の言葉は無視できない」

「貴方の言うことが真実なら、当然ボスの名も知っているはずですね?」

「それは……」

「ならば、ボスの名を言ってもらいましょうか」

「…………」

 さすがのダグラスも口を閉ざす。ボスの名を口にすれば、この場は助かっても組織に葬られるからだ。

 だが、目の前で仲間のジェームス=朱が氷漬けになったことで、命惜しさの気持ちが高まった。

「わかった……言う……ボスの名は、リチャード=孫。本名は孫公明だ」

 そして、ダグラスは組織の情報を洗いざらい藤林にぶちまけた。

 そして、秘密を全て話した。

「御苦労さま。じゃあ、さようなら」

 藤林の冷たい声と共に、ダグラスの断末魔の声が上がり、ダグラスは永遠の凍結地獄に落ちたのであった。

 無頭竜東日本支部はこうして、壊滅したのであった。

 

 その頃、大黒竜也は妹と大隊が無頭竜を始末しているのをホテルの地下駐車場からエレメンタルサイトで一部始終を眺めていた。

 この時、リーナは同行していない。実は渡辺が優勝を決めた事で第一高校は祝勝会を開いていた。深雪が密かに動いていることを悟った竜也は祝勝会に出られない。かといって、リーナまで連れていけば二人とも欠席ということで十文字に疑われる。

 そこで、リーナに祝勝会に出席させて自分はエンジニアとして働いて疲れているから休んでいると伝えさせた。

 同じように深雪と水波はリーナ戦の敗北からショックで寝込んでいるのを理由に、この祝勝会の出席を拒否している。

 それはさておき。

「出てこいよ。いつまでそこで俺を監視しているつもりだ」

 竜也が突然、言葉を口にした。

 ……変化はない。

「出てこいよクソ坊主。そこに隠れているのは分かっているんだ」

 そして、竜也がCADを取り出し、圧縮空気弾をそこに放つ。

 その場から、坊主が現れた。

「やはり出てきたか……クソ坊主……」

 竜也は冷たく凍るような声で言う。それに対し、

「僕の気配を見破るとはなかなかやるねえ……。ところで、君にひとつ聞いておくよ」

 すると、九重八雲の目にも殺気が生まれた。

「小野遥くんをやったのは、君なのかい?」




次回は「九校戦始末記 その3」です。

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