復讐の劣等生   作:ミスト2世

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申し訳ありません。
私の都合で、23話と24話を少し変更しました。
変更点としては、大黒竜也(司波達也)がモノリス・コードを辞退して代わりに友人3名を推挙した事。
それにより四葉にはまだ正体はバレてはいないという事です。
ただし正体はもう少し先でバラす予定です。
真夜と達也の戦いを期待されていた方々、もう少しだけお待ち願いたいと思います。


九校戦始末記

 大黒竜也は、自分の部屋で端末から報告を受けていた。

「我々以外に、無頭竜(NO HEAD DRAGON)を調べていた勢力の正体がわかりました」

 報告するのは、部下のシルヴィア・マーキュリー・ファーストである。

「そうか……で?」

「日本の警察省公安庁の捜査官でした」

「なに?」

 さすがの竜也も顔色を変える。

「公安……ということは、日本政府が動いているということか?」

「いいえ。政府そのものが動いているとは思えません。我々の調べでは、動いているのは公安の捜査官1人だけです」

「1人……」

「はい」

「そいつの名は?」

「小野遥。表向きの顔は、第一高校のカウンセラーです」

「ああ……あの女か……」

 竜也は校内で何度か面識があるので、すぐに脳内に思い出した。

 そして言う。

「ご苦労だった。シルヴィア」

 そして、端末を遮断した。

 

 同じ頃。横浜中華街。

 ここに、生命の危険に迫られている面々がいた。

「第一高校の優勝は最早確定的だ……」

「馬鹿なッ! 諦めると言うのか? それは座して死を待つということだぞッ!」

「このまま一高が優勝すれば、我々の負け分は一億ドルを超える。ステイツドルで、だ」

「これだけの損失、楽には死ねんぞ? 良くて生殺しのジェネレーターだ……ッ」

 その言葉に、全員の顔色が恐怖に染まる。

「こうなっては最早、手段を選んでいる場合ではない」

「そうとも! 多少手荒になっても今更躊躇う理由はない。客に疑いを持たれたところで、証拠を残さなければ言い訳は何とでもなる」

「協力者に使いを出そう。明日のミラージ・バットでは、一高選手の全員に途中で棄権してもらう。強制的にな」

「運がよければ死ぬことはあるまい。さもなくば、運が悪かったというだけだ」

 勝手なことばかり述べて、自分たちの助かる道を懸命に模索する哀れな鼠たちであった。

 

 九校戦九日目。ミラージ・バット。

 この日は第一高校から3年生の小早川景子が出場する。

 小早川は今日にも自分の成績次第で第一高校の優勝が決まるからと張り切っていた。ところが、しばらくしてCADを操作しても魔法が発動せず、10メートルの高さから落下する恐怖に小早川の顔が引きつったのを、観客席からも伝わった。悲鳴が上がる。

それを見た竜也が動いた。

 なんと、信じられない跳躍力で一瞬にして小早川の下に接近すると、落下する小早川を受け止めたのである。

 そして、受け止めた小早川をステージに寝かせる。

 あのまま落ちていたら、小早川は魔法不信に陥って、魔法を使えなくなってしまったかもしれない。竜也はそれを救ったのである。

 そしてそれは、モノリス辞退で失っていた先輩たちの信頼を取り戻すのに十分な出来事でもあった。

 さらに、柴田美月から通信が入る。

 美月曰く。

「小早川先輩がCADを操作した時、CADの辺りで何かが……いえ、精霊が弾けた気がします……」

 それで、竜也には全てがわかった。

 竜也は美月に礼を言うと、九島烈に連絡を入れ、その上でリーナを連れてある場所へと赴いた。

 

 その天幕の中では、九校戦での選手が使用するCADの最終チェックが行なわれていた。

 竜也は渡辺摩利が出場するミラージ・バットで使用するCADを持っている。

 そしてそのデバイスチェックが行なわれている時。CADに何か異物を紛れ込ませているのを知覚した竜也は、すぐにその男の襟首を掴んで投げ飛ばした。

「うわあッ!」

 検査員が悲鳴を挙げ、周囲の面々が驚く。

「……なめられたもんだな……同じ選手のCADに二度も細工して気づかないほど、俺が馬鹿だと思うのか?」

 そして、背後にいるリーナに男の顔を抑えさせ、さらに、

「そいつの右目を開けさせろ」

 と、冷たい声で命じた。

 リーナはためらいを見せずに、男の右目を開けさせる。

 その右目に、竜也は親指を向けた。

 周りにいる者たちが息を飲んだ。

 竜也が、その指を男の右目に向けて突き刺そうとしているのがわかったからだ。

「チャンスをやろう。CADに何を紛れ込ませた? それと、お前の黒幕は?」

 だが、男は首を横に振る。

「そうか……言いたくないか……」

「……ひいいッ!」

 この時抑えられた男は、自分の目に指が向かってきていることより、竜也の絶対零度に近い冷たく凍るような殺気の籠もった目に恐怖していた。

 そして、男の目に竜也の指が接近したその瞬間。

 九島烈が現れた。

 そして、烈により全てが明らかになる。

「このCADは異物が紛れ込んでおるようだ。これは見覚えがある。私がまだ現役だった頃、東シナ海諸島部戦域で広東軍が使っておった電子金蚕だ。電子金蚕は有線回線を通して電子機器に侵入し、高度技術兵器を無力化するSB魔法」

 SB魔法とは「精霊」を含む自律性の非物質存在(Spiritual Being)を媒体とする魔法の総称。

「プログラムそれ自体を改竄するのではなく、出力される電気信号に干渉してこれを改竄する性質を持つため、OSの種類やアンチウイルスプログラムの有無に関わらず、電子機器の動作を狂わせる遅延発動術式。我が軍はこれの正体が判るまで、随分と苦しめられたものだ……」

 そして、検査員の男は烈の手配した警備員により連行されていった。

 竜也はあらかじめ、烈と打ち合わせていたから予定通りだった。

 これにより、無頭竜の計画はまたも打ち砕かれたのであった。

 

 だが、自分の生命がかかっている者たちは最早なりふりを構わない。

 無頭竜は、ジェネレーターを使って九校戦の観客を襲って大会を中止させようとした。そうなれば大負けしている賭けも不成立となり、自分たちの生命は助かる。

 だが、その計画も、藤林の探索で既に魔装大隊に見抜かれており、柳連によりジェネレーターは取り押さえられて計画はまたも失敗したのであった。




次回は「九校戦始末記 その2」です。

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