復讐の劣等生   作:ミスト2世

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モノリス・コード

 その頃、司波深雪は黒羽亜夜子・文弥姉弟の訪問を受けていた。

 とはいえ、ほとんどが文弥と深雪の会話に終始していた。

 深雪は魔法力の無い者を極端に蔑む。

 黒羽の双子も、弟のほうは優秀な魔法師なのだが、姉のほうは自分の魔法の特性がわからずそのために一族からは落ちこぼれと蔑まれている。また、親に比較されてきたためか、深雪に対して強い対抗意識を持っており、その対抗意識のため、深雪は亜夜子との付き合いを鬱陶しく思っているところがあった。

 というより、 亜夜子をかつてのあの出来損ないと重ねてしまうのである。

(なによ……自分の魔法の特性もわからない出来損ないのくせに……)

 勿論、それを表に出したりはしない。

 達也・深雪兄妹と亜夜子・文弥姉弟では決定的に違うところがある。

 それは深雪の場合は兄を蔑んでいたが、文弥の場合は姉を蔑んでおらずそれどころか姉としての領分はきちんと守って立てているというところだ。

 そのため、深雪も表立っては亜夜子を非難したりはしていない。

 とはいえ、亜夜子もバカではない。目の前にいる従姉が自分をどのように思っているかくらいはわかっている。つまり互いに互いを友人と偽りながら付き合っているといってよい。

(はあ……何で叔母様は私をこの人(深雪)の下に派遣したのかしら……派遣するなら文弥だけでいいのに……)

 と思いながら、弟と深雪の会話を聞いていた。

 そこに、携帯していた端末に連絡が入る。

 亜夜子はこれ幸いと、深雪に断りを入れて部屋の外に出てから通話に出る。

 相手は四葉本家の執事長である葉山だった。そして、

「え……?」

 と、葉山の言った言葉に、絶句する亜夜子であった。

 

 翌日。新人戦五日目。

 この日のモノリス・コードから、大黒竜也が選んだ3人の友人である十三束鋼、西条レオンハルト、吉田幹比古らが出場する。

 ちなみに試合前に、竜也はこの数日前に幹比古に約束したことを友人としてきちんと果たしている。すなわち、吉田家の術式に無駄があるからと、CADの調整に取り掛かり、魔法そのものを改良することで、幹比古の弱点を「修正」してしまったのである。

 竜也のいいところは、ここにある。

 自らが信じる者、あるいは自らを信じてくれる者には、自分ができる限りのことをするやさしさ。これがある意味、竜也のカリスマと言ってもよい。

 それはさておき、鋼・レオ・幹比古のコンビの強さはまさに無敵で、第八高校を皮切りに、第二高校、第九高校と次々と敵を破っていった。

 

 そして決勝戦。

 第一高校と第三高校が激突した。

 この戦いは、鋼と将輝の死闘で大いに盛り上がった。

 最後に勝利を掴んだのは第一高校だった。

 鋼の接触型の術式解体、つまり鋼の体質が物を言った。

 鋼は「Range Zero(レンジ・ゼロ)」と言う二つ名で呼ばれる学年総合5位をマークする優等生である。ただし体質的に「核」が非常に強固でサイオンを強く引き付け、普通は外へ流れるはずのサイオンが本体から離れようとしない為、自分のサイオンを遠くに放つことが出来ない。この欠陥の為、遠隔魔法が上手く使えない。

 そのため、十三束家の直系でありながら、一族が得意とする「金属精錬」を使用できず、十三束家内部では「鬼子」として敬遠され、孤立し、自らも「百家・十三束の出来損ない、『レンジ・ゼロ』」と発言している。

 竜也はそんな鋼に友人としてアドバイスした。

「なぜ落ち込む? 鋼」

「竜也にはわからないよ……僕のこの体質は呪いなんだ……」

「呪い? むしろお前が無敵になるための授かりものだろ? なぜ自分で自分をそこまで否定する。術式解体はサイオンの塊をイデアを経由せずに対象物に直接ぶつけて爆発させ、そこに付け加えられた起動式や魔法式と言ったサイオン情報体を吹き飛ばすんだ。つまり……」

「つまり……?」

「つまり、接触型の術式解体を鎧として使えばいい。遠隔魔法が苦手? なら近接魔法をマスターすればいいだけだ」

「…………」

「一条に勝つなら、それしかない」

「…………」

 そして、鋼はそれをやった。

 一条が相棒の吉祥寺を助けるために自分に隙を見せたその瞬間。

 一気に一条に接近した。

 一条は慌てて反撃したため、鋼に対して手加減なしの圧縮空気弾を放ってしまう。

 普通なら死ぬはずだった。実際、一条は、

「俺は……なんてことを……ッ」

 と、自分の行為に悔悟の念を浮かべていた。

 だが、鋼は何事も無いように突進を続ける。

「なッ!?」

 一条が驚いたときに、鋼は爆風(ブラスト)を一条の間近で放ち、一条を吹っ飛ばしていた。

 この瞬間、第一高校の勝利が確定したのである。




次回は「九校戦始末記」です。

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