復讐の劣等生   作:ミスト2世

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三人の戦姫

 今やアイスピラーズ・ブレイクの観客席は超満員だった。

「なあなあ、お前はどの娘がいいと思う?」

「そりゃあお前、あの司波深雪って子だよ」

「え? そうか? 俺はアンジェリーナって子がいいと思うんだが」

「いやいや、北山のご令嬢だって捨てたもんじゃない」

「何しろ逆玉だしなあ」

「誰が勝つんだろうな?」

 などなど。観客席では、いつ始まるのかと、今や遅しと開始の時を待っていたのであった。

 

 さて、3人が当たるとなるとどういう風な戦い方をしたらいいのか。それが問題になった。

 3人が3人とも戦いたいと言っているから、3人がそれぞれ戦うバトル戦となる。

 だが、ここで問題が発生した。

 3人のうち、誰か一人は確実に連戦しなければならないという事実だ。

 つまり、最初に対戦したどちらかが、次の相手とすぐに当たらなければならなくなる。これは大きいと言えるだろう。

 そのため、公平なのかどうかが問題になったが、

「戦いとは実力だけではない。運もまた実力だ。連戦することになったなら、それはその者に運が無かっただけということだ」

 という九島烈の言葉により、連戦もやむなしということになり、3人でそれぞれ籤が引かれた。

 その結果。

 第一試合は司波深雪VS北山雫。

 第二試合は北山雫VSアンジェリーナ=クドウ=シールズ。

 第三試合は司波深雪VSアンジェリーナ=クドウ=シールズ。

 ということになったのである。

 

「お待たせいたしました。ただいまより、新人戦アイスピラーズ・ブレイクの第一試合を開始いたしますッ!」

 アナウンスの声に、うおおおおッ! と歓声が上がる。

 そして、第一試合の選手である緋の袴を着た巫女の司波深雪と、水色の振袖を着た北山雫が舞台に上がった。

 その瞬間、それまで騒がしかった観客席が一斉に静まり返る。

 そして、試合開始を告げるライトが灯った。

 

 先に仕掛けたのは深雪だった。

 深雪の氷炎地獄ことインフェルノによる熱波が雫の陣地を襲うが、雫はそれを情報強化で阻止する。

 負けじと雫は、共振破壊の魔法を発動する。

 だがその震動は、共振を呼ぶ前に鎮圧された。鎮圧したのは勿論深雪である。

 二人の戦いは互角……一部を除き、そう見えていた。

(届かない……さすがは深雪……)

 雫本人は表情こそいつもの不愛想だが、内心はあせっていた。なぜなら、情報強化は氷柱の温度改変を阻止できても加熱された空気までは阻止できないからだ。つまり、雫陣営の氷は少しずつ溶け出しているのだ。

(だったら……ッ!)

 雫が左手を自らの袖の中に入れる。そして、

(ッ!)

 深雪が一瞬動揺した。なぜなら、雫の左手には拳銃型のCADが握られていたからだ。

 その隙を雫は見逃さない。

 雫が深雪の陣にある氷柱に向けて引き金をひく。

 量子化された超音波の熱線が深雪の氷柱を溶かした。

「フォノン・メーザーッ!?」

 七草真由美が叫ぶ。

 フォノン・メーザー。振動系の系統魔法であり、超音波照射による熱で攻撃する魔法である。超音波の振動数を上げ、量子化して熱線とする高等魔法だ。

 これにより、それまで一度も倒されることがなかった深雪の氷柱が初めて崩された。

 だがこの時、大黒竜也は苦渋の表情を見せていた。

(さすがは我が妹……と言ったところか……少し、甘かったかな……)

 竜也の目には、これでも深雪と雫の間に差があることが明らかに見えていたのだ。それは隣にいるリーナも同じだった。

(雫……俺が授けたあの策……あれは危険だがやるしかない……あれ以外にもう、勝ち目はない)

(いや、それでも勝てるかどうか……俺は少し、深雪の魔法力を過小評価しすぎていたようだな……)

 と、認識を改める兄・竜也だった。

 

 深雪は確かに動揺したが、それはほんの一瞬のことである。

 深雪はすぐに気を取り直し、魔法を切り替えてフォノン・メーザーに対応した。その結果、氷の昇華が止まり、加熱を上回る冷却が作用し始めた。

 深雪の陣地が白い霧に覆われる。その霧はゆっくりと雫の陣地へ押し寄せて行く。

雫が情報強化の干渉力を上げる。だが、

(雫……さすがは私の友にして一科生だわ。ほめてあげる……でも私は四葉を継ぐ者……こんなところで負けてはいられないのッ)

 深雪が使ったのは。得意としている広域冷却域魔法であるニブルヘイムである。かつてブランシュを壊滅させたあの魔法だ。

 最大でマイナス200度の大規模な冷気の塊。その冷気が液体窒素を発生させる。

 液体窒素の膨張率は700倍。それが雫の陣営に襲いかかる……はずだった。

(え?)

 それに、誰もが驚愕した。

 雫が右手を自らの袖の中に入れて、あるものを取り出したのだ。

 それは、拳銃型のCAD。

 つまり、雫は2挺の拳銃形態CADと、自分のCADの合わせて3つのCADを一度に操作していることになる。

 これは、竜也が授けた策であり賭けだった。

 

 ………30分前。

「ねえ竜也さん。私、どうしても深雪に勝ちたい」

「…………」

 控え室において、雫のCADの最終チェックをしていた竜也に、雫が詰め寄る。

 ちなみにリーナ、深雪の調整も竜也が担当している。だから、CADの調整で差はなく、あるとしたら作戦のあるなし、互いの魔法力が差になるといえる。

「……深雪の実力は並じゃない。それをわかって言っているな?」

「もちろん」

「……仮に深雪に勝てても、それで力を使ったら次の試合に差し支えるかもしれない……それでもやるか?」

「うん! 何もせずに負けるより、やれることをやって負けたほうが、悔いも残らない!」

「……わかった……」

 そして授けた策の第一段階が、拳銃型CADと自らのCADの併用。

 第二段階が、3つのCADを同時に使うという離れ業だった。

 だが竜也には、それでも勝てるかどうか……雫に保証することはさすがにできなかったが、雫は、

「ありがとう竜也さん。負けても悔いはないよ。やってみるッ!」

 と、喜んでいたのであった。

 

 複数のCADを同時に使うなら、サイオン波の干渉で両方のCADが使えなくなる。

 雫は最初は、それをうまく使いこなしていた。

 これをパラレル・キャストという。

 別種の魔法を発動させる場合には、特異と言っていいほど難易度が高い技術であるが同種の魔法であれば、混信による干渉波は起こらない。

 とはいえ、相当なサイオン量を消費することに変わりはない。

 雫の2本のフォノン・メーザーによる膨大な熱量が、ニブルヘイム』により発生した液体窒素の霧を霧散させる。

 雫による2本のフォノン・メーザーで深雪の氷柱を攻撃する。

 深雪の氷柱が3本ほど倒れたそのとき。

 雫に限界が来た。

 2挺拳銃を使う前から既にそれなりにサイオンを使っていたのだ。しかも、深雪の攻撃に耐えながら。

 2挺拳銃になることで深雪の動揺を誘い、押し出しはしたが、それがもう限界ギリギリだった。

(雫……どうやらここまでのようね……よくやったわ、褒めてあげる……でも、勝つのは私よッ)

 そして、深雪のニブルヘイムが再び炸裂。

 この瞬間。勝負は決した。

 雫の陣地の氷柱は轟音を立てて崩れ落ち、それを合図に決着を告げるブザーが鳴ったのである。

 勝利したのは、司波深雪だった。




次回は、「三人の戦姫 その2」です。

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