懇親会が終わった後のことである。
大黒竜也は五十里啓とエンジニアとしての仕事をしていたが、適当なところで切り上げて帰ろうとしていた。そんな時。
(うん……?)
エレメンタルサイトで竜也は侵入者の気配に気づいた。
そして、それを追っている人物の存在にも。
(幹比古……)
幹比古が木の陰に隠れて懐から呪符を取り出し、魔法を発動していた。だが、侵入者も彼に気づき、拳銃を向けている。
(それでは間に合わない!)
竜也は分解を使って侵入者の拳銃を分解する。
それに動揺する侵入者に対し、幹比古が発動した魔法の雷で打ち抜かれて侵入者が気絶した。
「誰だッ!」
幹比古が叫ぶ。
(誰が僕を援護したんだ?)
「俺だ、幹比古」
「竜也!?」
幹比古はつい先ほど友人になったばかりの存在に驚愕した。
そんな彼を無視してしゃがみ、侵入者の状態を確認する。
「死んではいない。良い腕だ。ブラインドポジションから相手に致命傷を与えることなく一撃で無力化している。ベストの戦果だな」
「でも竜也の援護がいなかったら……僕は……」
「は? あほか。そんなものは過程に過ぎない。相手が何人いても、どんな手練れでも誰の援護も得ずに勝利する。そんなものを基準にしているんじゃないだろうな?」
「…………」
はあ、と溜息をつく竜也。そして、
「もう一度あえて言う。お前はあほだ。なぜそれほどまで自分を否定する?」
と、罵倒する。それを聞いた幹比古の顔色も変わる。
「ついさっきあったばかりの君に……一体、何がわかるっていうんだッ。知ったふうな口をきくなッ!」
「わかるさ。お前が気にしているのは魔法の発動時間じゃないのか?」
すると、幹比古がまたも顔色を変えた。が、
「……エリカに聞いたんだね?」
と、知っている理由をすぐに突き止める。だが、
「いいや。聞いていない。人の魔法について聞くのはマナー違反だろ?」
「じゃあ、何で……?」
「お前の術式には無駄があり過ぎる。お前の能力ではなく術式そのものに問題があると言ったんだ」
「……僕の術式は、吉田家が長い年月をかけて改良に改良を重ねた物だッ! それを一度か二度見た程度で……」
「いいや。俺にはわかる……信用できないのか?」
「…………」
「よければ、俺がそれを直してやってもいい。俺なら、それができる」
「…………」
幹比古の顔が複雑な表情になる。が、
「俺はお前の友人だろ。それとも、友人の言う言葉が信用できないのか?」
「……わかったよ。信じて……いいんだね……」
「ああ。約束する」
そして、竜也が右手を差し出した。
幹比古も右手を差し出し、互いに握手する。
そして、
「後のことは俺が片づけておく。先に宿舎に戻っておいてくれ」
と、告げて幹比古と別れる。
幹比古の姿が見えなくなる。
大会前に、こんな一幕があった。
2095年。8月3日。
遂に九校戦が始まった。
1日目は、本戦スピード・シューティングとバトル・ボードであり、第一高校からは生徒会長の七草真由美と風紀委員長の渡辺摩利が出場する。竜也らは観戦する。
スピード・シューティングは、30メートル先の空中に投射されるクレーを魔法で破壊する競技で、クレーが5分間の制限時間中にランダムで射出される。素早さと正確さが求められる競技で、予選は破壊したクレーの数を競うスコア型、決勝トーナメントは予選上位八名による紅白のクレーを撃ち分ける対戦型になる。
さて、そんな中、現れた生徒会長はその容姿から早くも観客の声援を浴びる大人気ぶりであった。
競技が開始されると同時に、空中にクレーが3つ同時に投射される。有効エリアにクレーが入った瞬間、真由美はクレーを1個ずつ正確に撃ち抜いた。
真由美はランダムに投射されるクレーを1個ずつ撃ち抜いていき、結果はパーフェクト。高速にして正確無比であり、まさに遠隔魔法のスペシャリストにふさわしい妖精姫の大活躍で幕が開けた。
次はバトル・ボード。これは、動力のないボードに乗り、魔法を使って全長3キロの人工水路を3周して競う競技で、水面の魔法行使は認められているが、他選手の身体やボードへの攻撃は禁止されている。
ここでも、渡辺摩利が圧倒的な実力を見せて第一高校の巨頭に恥じぬ活躍を見せた。
再び、スピード・シューティング競技場に戻ってきた竜也たち。
と言っても、七草真由美の優位は変わらない。
(さすがマルチスコープに死角はないな……スターズにほしい人材のひとりだ……)
真由美を見つめながら、そんなことを考える竜也。
そして、周りにいる幹比古、エリカ、レオ、美月、雫、ほのか、リーナ、深雪、水波らに言う。
「会長なら全方位から撃てる。つまり……スポーツ競技だからまだいいが……想像してみろ。もしここが戦場で、殺傷力を最大にした『魔弾の射手』を使われたら─」
「!!」
「ぜ、全滅です……」
「……そんなんアリかよ……」
その光景を想像して、竜也とリーナと深雪以外の全員が青ざめたように見えた。
「たった一人でも戦争を勝利に導く切り札となりうる、それが日本最強の魔法師集団・十師族というものだ」
そんなことを言う相棒に対し、
(あんたは一人で一国を滅ぼしかねない魔王だけどね……)
と、心の中で呟くリーナであった。
そして、真由美は全試合をパーフェクトで優勝した。
大会2日目。クラウド・ボール。
これは、圧縮空気を用いたシューターから射出された低反発ボールを相手コートに打ち込む競技である。第一高校からは七草真由美が出場する。
第1セットが終了し、真由美が圧倒的な強さで勝利した。
竜也はこの時、真由美のエンジニアを担当している。
その竜也が相手選手を見つめる。
(大分消耗しているな……。ペース配分を誤ってサイオンが枯渇している。あれでは、次のセットは無理だ……)
そして、真由美に声をかける。
「会長、お疲れ様でした。おそらく相手選手は棄権して終わりますよ」
「えッ!?」
直後、アナウンスで選手の棄権が伝えられる。
「次の試合に備えてCADのチェックをしておきましょう」
こうして、先輩の信頼を得ていく竜也が、そこにいた。
女子クラウド・ボール本戦で、七草真由美は全試合を無失点ストレート勝ち、優勝を果たした。
女子バトル・ボード準決勝。一高、三高、七高による3人のレース。
第一高校から出場するのは、渡辺摩利である。
競技が開始され、摩利が一番に躍り出るが、「海の七高」と呼ばれるだけあって、すぐ背後に七高の選手がついていた。そして、もうすぐカーブに差し掛かるというところでである。
(うん……?)
それに最初に気づいたのは、竜也であった。
リーナに耳打ちする。
(嫌な予感がする……リーナ、対物障壁を用意しておいてくれ)
(わかったわ)
そして異変が起きた。カーブを曲がるなら、本来は減速しなければならない場面で七高の選手が逆に加速したのだ。
「オーバースピード!?」
エリカが叫ぶ。
このままだと七高の選手はフェンスに激突してしまう。
異変に気づいた摩利が魔法と体さばきでボードを反転させ、続けざまに移動魔法で七高選手のボードを吹き飛ばし、自分に加重系統・慣性中和魔法を掛けた。相手を受け止めた時の衝撃を中和するためだった。
ところが、
「え!?」
摩利の足元で水面が沈み、それにより体勢を崩した摩利と七高の選手は衝突した。
だが、
「リーナッ!」
「ええッ!」
リーナが発動した対物障壁で、摩利と七高選手はフェンスに激突を免れたのであった。
次回は、「得られていく信頼」を予定しています。