2097年4月。
大亜連合が動いた。
国軍を動員して、日本の九州、対馬方面に進軍を開始したのである。
その進軍路は、かつての悪夢「凍結の悪夢」の時と全く同じであった。
これに対して、日本側も直ちに応戦する。
九州と四国にいる軍を総動員し、付近の住民には直ちに退避勧告を出す。
さらに十師族の五輪家に八代家を動員して防がそうとした。
日本側は、これで十分に防げると考えていた。
ところが、である。
大亜連合軍が対馬に近づき、それに応戦しようと日本側がしていたときである。
「なんだと? 大亜連合軍の別動隊が沖縄に攻め込もうとしているッ!?」
「はい。先ほど、沖縄基地よりそのような報告が届きましたッ!」
さらに、である。
「た、大変ですッ!」
「今度はなんだッ!」
政府の要人の悲痛な叫び声である。
「し、新ソ連軍が佐渡に向けて進軍を開始しようとしているとの報告が届きましたッ!」
「なんだとッ!」
さすがに、これには驚いた。
そして、
「そんなバカな……新ソ連と大亜連合が繋がっているとでも言うのかッ?」
「そこまではわかりません……ですが、ウラジオストクに新ソ連の軍勢が集結しているのは紛れもない事実です。佐渡からは支援要請も出されていますッ!」
「……なぜだ……」
日本の政府首脳は、愕然とした。
「なぜだッ。大亜連合と新ソ連がどうして……ッ!」
悲痛な声が、部屋を包んでいた。
そして、こうなると日本軍だけでは危うくなってくる。
事情は分からないが、大亜連合軍が対馬と沖縄に二方面侵攻作戦を展開し、それに合わせるように新ソ連軍が佐渡に侵攻の気配を見せているのは、紛れもない事実なのだ。
沖縄には関西の軍隊と魔法師を直ちに差し向け。
佐渡には北陸の軍隊に東北の軍隊。それに一条や六塚といった魔法師を差し向けた。
さらに、日本全土に非常事態宣言が出され、関東にも緊張が高まる。
とはいえ、こうなると、日本側は不安になってくる。直ちに強力な援軍が欲しい。
そして、そのような強力な援軍が望めると言えば、やはりUSNAである。
「USNAに直ちに支援を要請するべきです」
これは、直ちに全閣僚の総意で決定され、すぐに公式に日本からUSNAに対して支援要請が出されたのである。
さて、そのUSNAである。
ホワイトハウスで、日本からの要請にどう答えるべきか、直ちに議論が開始された。
一言でいうと、日本を支援するべきという意見と、支援せず様子を見るべきという2つの意見に分かれている。
支援すべきという意見はこうである。
「もし、日本を支援しなければ、日本海の制海権などは完全に大亜連合、新ソ連に抑えられます。また、日本は我がUSNAの長年の友好国であり、さらにアジアにおける重要なパートナーです。ここで日本を支援しなければ、大亜連合や新ソ連をさらに勢いづかせますぞ」
支援せず様子を見るべきという意見はこうだ。
「日本の軍事力は最近、我が国を脅かすほどになりつつあります。特に魔法師の人材の質と量は我が国に追いつき追い越せの状態です。ここは様子見して、まずは両者を互いに潰しあいさせてから、支援をするべきと考えます」
そして、互いに意見が紛糾した。
「互いに潰しあいをさせろというが、もし、大亜連合軍と新ソ連軍が優勢になり、日本軍が大敗したらどうするつもりだッ」
「そうだッ。日本には、我が国の人間も少なからずいるのだぞッ!」
「黙れッ。日本側は近年、魔法師の質量で我々を脅かしつつある。これ以上成長したら、我が国を脅かしかねんのだッ!」
「そうだッ。日本はあくまで、我がUSNAの属国としていてもらう。属国が余計な力をつけるなど、むしろ体内に病魔を抱えるようなものだッ!」
と、どちらも譲らない。
そして、そのような中で、ひとりだけ平然としている若者がいた。
大将に就任したスターズの大黒竜也である。
竜也はまだわずか18歳になったばかり。だが、大将という地位である事実から、この会議に出席していた。
そして、一切の発言をせず、傍観していたのであった。
次回は「動くもの」です。