竜也は、自宅でパソコンをいじりながらそれを聞いていた。
「ブランシュ?」
「ええ」
「あの反魔法師団体を気取っている弱小テロリストどもが動いているというのか?」
「本国からの情報ではね。しかも舞台は、私たちが通う一校よ」
「ほう……」
リーナの言葉に、竜也がパソコンをいじる手を止めて尋ねる。
「それで? 本国は俺とお前にブランシュを始末しろとでも言うのか?」
「別にそこまでは言ってきてないわ。ただ注意しろと、それだけよ」
「あいつらごとき、俺やお前の敵ではないことくらい、わかっていると思っていたんだがな……。まあいい。これは面白くなりそうだ」
と、酷薄な笑みを浮かべる竜也がそこにいた。
その翌日。
竜也は壬生沙耶香に話をしたいと呼び出されていた。
リーナは少し不機嫌な顔をしていたが、竜也は応じた。そして、壬生の剣道部への勧誘を拒否し、その他の誘いも全て拒否した。
それから数日後のことである……壬生が学内の差別撤廃を目指す有志同盟と組んで校内の放送室を占拠したのは。
『私たちは学内の差別撤廃を目指す有志同盟です。私たちは生徒会と部活連に対し、対等な立場における交渉を要求します!』
校内のスピーカーからから大音声が響きわたる。
すぐに竜也はリーナとともに放送室前に駆けつける。
放送室前には、市原鈴音、十文字克人、渡辺摩利、そして司波美雪に深雪の友人である桜井水波らがいた。
「状況は?」
竜也の質問に、渡辺が答える。
「電源をカットしたからこれ以上の放送は不可能だ。ただ、奴らは内側から鍵をかけて放送室に立て籠もっている」
「鍵は?」
「奴らは立て籠もるにあたり、マスターキーを盗んでいるようだ」
「……明らかな犯罪です。手加減する必要はないでしょう」
「どうする気だ?」
「実力行使するべきです」
すると、市原は慎重論を、渡辺は短期解決論を述べる。十文字はどっちつかずの論を展開する。
「深雪さん。あなたはどうお考えですか?」
竜也が妹に質問する。
「私は、生徒会あるいは風紀委員の意向に従います。特に意見はありません」
「そうですか……ならリーナ、お前はどうだ?」
「私は竜也の意見に賛成よ」
「これで俺と渡辺先輩とリーナが実力行使、十文字先輩と深雪さんがどっちつかず、市原先輩が慎重論。つまり多数決でいくなら実力行使というわけでいいですね」
竜也が渡辺らに鋭い視線を向ける。そして、竜也が動いた。
「リーナ。俺が背後から放送室に乱入する。音が聞こえたら一気にドアを破って踏み込め」
「おい……」
渡辺が呻くような声を出すが、リーナは、
「わかったわ」
とリーナが答えると、竜也はその場から去っていった。
しばらくして、放送室から悲鳴が上がった。
「な、なんだお前はッ!」
放送室のガラスが割れる音がして、次に悲鳴が轟いた。
それを聞いたリーナが、CADを使って放送室の扉を消し去る。
そして、一斉に踏み込んで壬生をはじめとする放送室を占拠していた面々を取り押さえた。
そして、壬生らを連行しようとしたときだった。
七草真由美がやって来て、教師らに話を通して生徒会と有志同盟の公開討論会が2日後に行われることが決まったから、彼らを解放するようにと述べた。
それを聞いた竜也やリーナは、
(甘い……)
と思ったが、逆らうわけにもいかず、この場は壬生らを解放したのである。
それから2日後の討論会の日。
討論会が行われている最中、学園はテロリストの襲撃を受けた。
しかし、竜也にリーナ、それに渡辺、深雪、七草、服部と一高が誇る魔法師の活躍で襲撃は鎮圧され、テロリストは拘束された。
……壬生沙耶香も、拘束されたひとりだった。
そして、
「……思えば入学当時の私は剣道小町なんて言われて思い上がっていたんです。渡辺先輩にお前とは戦うまでもないと手合わせを断られた時もそうです……。その時はショックでしたがきっと先輩は私の驕りを見抜いていたんだと思います」
その言葉から、壬生の誤解と渡辺による真実の説明が始まる。
それを聞いて、そこにいる大半の人物が今回のことをすべて悟った。
そして、
「会長。申し訳ありませんが、急用ができましたので、これで失礼させて頂いてよろしいでしょうか?」
と言い出したのは、司波深雪である。
場は落ち着いているので、拒否する理由も無い。だから、真由美は受け入れた。
深雪は水波と共に一礼してから、その場を去った。
深雪と水波が学園の正門まで来ると、迎える女性と男性があった。
「藤林少尉。柳大尉。お待たせしました」
「ええ。深雪さん。行くのね?」
藤林の質問に、
「はい」
と答え、そして、深雪と水波が藤林が運転する大型のオフロード車に乗り込んだ。
それを追跡していた影があるのを、深雪も水波も藤林も柳も気づいていなかった。
……竜也とリーナが、後をつけていることに……。
だが、
「そこまでにしてもらえるかな?」
「ッ!」
竜也とリーナが驚いて、その場を離れると、そこに狐目の坊主が現れた。
竜也とリーナは、自分たちに気配を気づかれずにここまで近づいたことに純粋に驚いていた。
(こいつ……どうやって俺たちの傍にまで近づいた……!?)
竜也は内心動揺するが、
「何者だ……?」
と尋ねる。だが、
「人に名前を尋ねるときは、自分が先に答えるのがマナーというものじゃないのかな?」
「そうか……なら、力づくで聞き出してやる」
「簡単に行くと思うのかい? 大黒竜也くん?」
「ッ!」
竜也が驚く。
「USNAのスターズの君にこれ以上、僕たちの国で勝手な真似をさせるわけにはいかないんだよ……ましてや、僕の弟子である深雪くんの手の内を知られるわけにはいかないからね」
「なんだと……」
「これ以上先に進みたいなら、僕を倒してからにしてもらおうか」
「いいだろう。後悔するなよ。くそ坊主がッ!」
そして、ここでも戦闘が始まった。
次回は、破られた最強を予定しています。