「う~が~!忙しい!」
唸りながらもてを止めることなく動かし続けるクレーエ。
帝都警備隊死亡。指揮系統が損失された為、現在はクレーエが警備隊の指揮ならびに隊長の業務を代行しているのだ。
「あー。セリューも離反するし、イヲカルが殺されたせいでオネストにはネチネチ言われるし、首斬りザンクはまた出現するし・・・・・・ん?」
思わず読み流してしまった書類を再確認する。
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首斬りザンク。
元は帝国最大の刑務所で首切り役人をしていた男。
しかし、大臣の所為で次第に処刑する人間が増えていった。それでも彼は処刑する人間の首を斬っていった。何度も、何度も。繰り返し繰り返し。
命乞いをする人間の首を斬っていった。
それが何年も続くうちに、首を斬る事が癖になった。
「それが辻斬り魔になるなんて、全くはた迷惑な」
そう言いながら、デミ・サマーイモのタルトを齧る。現在クレーエは宮殿内の執務室を離れ、自宅の工房の中で準備をしていた。
「しかも、所長の持つ帝具『五視万能スペクテッド』を強奪。討伐隊が組織された直後に消息を絶つ」
溜息を吐きながらも対策を考える。
(スペクテッドの能力の1つ、遠視は夜間や霧の中でも左右されずに遠くを見渡せる。なら、この薬はいらないか)
灰色の薬液の入った小瓶をコートから取り出す。この薬液は一滴地面に垂らすだけで半径30mの空間を、薬液の効能を持った霧で満たす事が出来る礼装だ。灰色の薬液は濃霧を、赤い薬液は爆薬、黄色は簡易的な暗示、洗脳用の催眠香など、汎用性も高い。
「透視の能力でどんな武器を持っているかはバレルから、コートに仕込む武器は制限したほうがいいな。それよりも、幻視、洞視と未来視の対策より先に、ザンクを探さねば」
そう言いながら工房を出て、庭へと行く。
「あ、」
「ん?サヨ、どうかしたのか?」
ちなみに、現在サヨはメイドとして雇っている。
(記憶喪失になってて何が出来るかわからなかったから雇ってみたが、戦えるんなら軍に入れてもよかったな)
「えっと、いいんですか?私が副メイド長なんて」
「いいよいいよ。掃除も全部―――――――」
「お願いします!ヒラでもいいのでやることをください!芋の皮むき、芽取りでいいから仕事をください!」
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「うわーまた増えた!もうお前ら住み着くのやめれ!」
ここは異世界ですか?
そこは帝都随一の高級住宅の庭とは思えないほど、異形めいていた。
侵入してきた人間の死体で餌付された植物型危険種と礼装がそのまま生えており、花壇には毒草薬草、麻薬用の植物が所狭しと植えられており、手入れを怠った巨大な桜は枯れ果て、住み着いた鴉と黒猫、蛙と蛇の溜まり場に。いつもいつも、かあかあにゃあにゃあ、ゲコゲコシュウシュウの大合唱。
「いくら結界と幻術映写機で誤魔化しが効いても・・・・・・俺は嫌だぞこんなカオスガーデン」
使い魔(鴉)の効果によって鴉には念じるだけで使い魔として使役が可能だ。
(このあと警備隊を10人編成で夜間警邏させつつ、市民に紛れさせた人形を使って夜の警備網を作るか)