「私に賄賂はいらん。次やったら痛めつけるぞ」
「ぎゃーーーッもう充分痛いです!!!」
帝都メインストリート。エスデスが挨拶回りをしていると、帝都でもかなり宝番の高い甘味処『甘えん坊』の店主がエスデスに賄賂を渡そうとした。が、賄賂として渡そうとした小銭で目つぶしをされて、叫ぶ。
「一番高いやつをもらおうか」
「は、はいっ!ただいま・・・」
しばらく待つと、店主は巨大な・・・・・・巨大すぎるパフェを持ってくる。
「お、お待たせしました!ツインベリー/クラッシュナッツ/キャラメルスクランチ/モカケーキ/カスタード&モンブラン/プリンアラモード・オルタです!」
一瞬、あのエスデスですら思考停止してしまった。だが、直ぐに復帰すると品名について考える。
(何かの早口言葉か?そもそも4品位同時に来たぞ?)
「オルタとはなんだ?この量と関係があるのか?」
「は、はい!オルタとは、オルタナティブ盛りの略称で通常の4倍サイズでの提供となっております」
「食べきれた者は?」
「今までに2人だけで・・・・・・黒いコートを着た将軍と、金髪とアホ毛が特徴の少女です」
一人が確実にクレーエであることをエスデスはすぐに見抜いた。
「少女のほうは『この程度でオルタですか。たいしたことないですね』と最後に言い残して・・・・・・」
「ふっ、いいだろう。私は常に屈服させる側だ。オルタ程度どうにかできねばな!」
そう言いながら、いまにも崩れそうなプリンを掬い取り口に運ぶ。
「む?気配が消えた」
エスデスは正面に見える屋根を見る。
「誘いに乗らなかったのか・・・残念だ。新しい拷問を試したかったのだが」
そう言いながら、ブルーベリーとラズベリーのアイスを食べる。そのまま、下に埋まっているモカケーキを掘り進んでいく。
「今度は四人でつつくか・・・・・・この名前の長いパフェを」
~~~
ホール内に笛の音が聴こえ始めてきた。それから徐々に異変が起こり始める。
乗客たちが次々と虚ろな眼で座り込んだり、床に倒れ出したのだ。
がしゃんとグラスの砕ける音がする。
「っと、大丈夫かリュリエ」
「ちょっとまずいです」
クレーエは片手でリュリエのことを抱き止めながら彼女の頬に手を当て顔を俺の方に向ける。
(顔色は悪くない)
恐らくこの音色を聴いた者にしか効かず精神を蝕むタイプの力だろう。
床に座り込む人々が口々に「やーめた」や「どうでもいい・・・・・・」と言葉を発していることから感情にも効果があるようだ。
これは帝具の力で間違いない。それも三獣士だ。
「奪え、望むままに」
魔術回路を起動させ、防音のルーンで結界を張る。
「これで少しは大丈夫なはずだ」
「あ、ありがとう」
「・・・・・・三獣士に俺の存在が気づかれると面倒だ。俺は船の外にへばり付くことにする」
もし、ここにナイトレイドが潜入していて、それを標的とした三獣士の作戦だとしたら協力を要請されるかもしれない。
「お前は船底に隠れていろ」
リュリエにそう言うと、船の外へと出る。適当な布を魔術で硬化して船に突き刺す。
「うまく固定できた。さて、この先どうなる?」
クレーエは使い魔の鴉を使って、船上を監視させた。
~~~
ブラートはインクルシオを纏うと、上に飛んだ。攻撃しようとした三人の刺客の内、2人をあしらい1人を瞬殺する。
「すげぇ。兄貴って強ええって思ってたけど、めちゃくちゃすげえんだな!!!」
「おうっ!俺の兵士時代のあだ名は100人斬りのブラートだぜ?」
一緒に来ていたタツミに聞かれ、嬉しそうに答えるブラート。
「正確には、128人斬ったな」
ふらりと、一人の老齢の男が立ち上がり、ブラートと距離を詰める。
「その帝具・・・その強さ・・・やはりブラートだったか・・・!」