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シェーレはクレーエと取引をしていた。
「マインを生きたままナイトレイドに返す。その代わり、お前は騎士団所属の帝具使いとして働く」
シェーレはその条件を飲んだ。その過程で、記憶喪失を装ってマインを拒絶させたのは単にクレーエの趣味だ。
「さて、シェーレの方はロランに任せるとして、後はセノアの修理用の素材だな」
これもおおよその目途がたった。
帝国にのみ生えている賢木と呼ばれる針葉樹。この樹には心材に多量の鉄分を溜めこむ性質がある。その量は、800年物ならば研いだだけで剣として運用可能な程の量に達する。
更にこれを錬金術を用いた特殊な加工をすれば、堅く腐りにくい貴重な木材として重宝される。
他にも、稀少で強力な危険種の素材がいくつも必要だが、今のところは賢木だけでいいだろう。
「ちょうどいいや、あれも持っていこう」
自宅の工房から出ると、木箱持ってある場所へと向かった。
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「いや~君が持ってくる茶葉と菓子には、外れが無いのお~」
「いえいえ、こうして茶が楽しめるのも、アンゼルム老のおかげですよ」
帝都東部にある帝都では見慣れない創りの館。クレーエと立派な口髭の老人。そして喪服のような黒いドレスを着た少女が茶を飲んでいた。
アンゼルム老。元は地方の小さな商人だったが、現在は帝国経済の重鎮と言ってもいいほどの豪商となっている。
しかし、それは表の顔。実際は華業と呼ばれる麻薬取引、暗殺や殺人、密輸、密造、みかじめ料などの犯罪と、合法的なカジノ運営と金貸し等を活動の内容とする裏組織である。
(この爺さんなら、普通に交易だけでも十二分に食っていけるだろうに)
表には出さない。出せばアンゼルム一家はクレーエと対立してしまう。逆にアンゼルムも、クレーエと敵対するような真似はしない。
(貴重なパトロンを、こんなところで失う訳にはいかんからなあ)
(まだ、この小僧を真に理解できておらん。まだ対立する訳にはいかん)
「今回は、賢木をご都合していただくてですね」
「おお、そうか。なら少し仕事を手伝ってくれんか?」
今までならクレーエは貴重な資材や宝石を貰う代わりに、帝都でも貴重な茶器や、クレーエが作った武器などの提供だけだった。
「珍しいですね」
アンゼルムは無言で人相書きを差し出す。
「この、レオーネという女なのじゃがな、家の金貸しから金を借りとるのに、返す素振りが無いんじゃ」
「とんだ悪党ですね」
「全くじゃ。仕事というのは、この女を連れてくることじゃ」
「了解しました。それから、これは以前西の異民族防衛線の近くの村で見つけてきた土産の品です」
そう言ってクレーエは持って来ていた木箱を渡す。
「ほほう、それはありがたい」その後も、日が暮れるまでチェスをしたり、茶を飲みながら話をした。
「おや、もうこんな時間か。ミカエラ、彼を見送りなさい」
「はい、お父様」
ミカエラと呼ばれた少女が扉を開け、クレーエの退室を促す。
「それでは、今日はこれで失礼します」
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部屋を出て、まっすぐ玄関へと向かう途中、ミカエラが振り返って睨みつけてきた。
「今回は、何を企んでいらっしゃるのですか?」
「なんのことだ?」
ミカエラはアンゼルムの一人娘だ。しかし女は華業の長を継ぐ事は出来ない為、彼女は一家の商人として身を置くしかなかった。
「昨日、ミネルヴァ教導院の学者たちが、私の農園を訪れました」
「教導院の連中が?」
西の王国の錬金術師や科学者が中心となっている研究教導機関。
「薬にも茶にもならないあの草。父が捨てようとしていたそれを彼らは買っていった。ですがその前に、あの草を調べていたのは貴女です」
やはり、この勘の鋭さは異常だ。
確かにあの草単体では、大した効果の薬にはならない。だが、帝国のどこにでも咲いている花の効能と、モルヒネを混ぜることによって攻撃性及び運動能力の向上、痛覚の鈍化、集中力の増加に血圧を急激に上昇させる薬を作る事が出来る。
その上、依存性が低く意識の混濁や感覚麻痺、下痢などを起こす以外の副作用らしい副作用もない。
ミカエラはクレーエが調べた瞬間から、あの草が薬として利用できる事を知ったのだ。それと同時に、クレーエにも薬として加工するにはミネルヴァ教導院の協力が必要であることも。
(毒薬とか、戦闘時に礼装としても使用可能な薬なら自信はあるが、ドーピングとかはまだDrスタイリッシュのほうがうまいんだよなあ)
「もう一度聞きます。あなたは、何を企んでいるのですか?」
その瞳には、秘密を隠している者を咎める目では無かった。
「何も企んでいませんよ。今は」
そう言って、屋敷を出る。屋敷の前に待機している馬車に乗って屋敷を離れる。
「やっぱ、ミカエラは邪魔だ」
次回予告
「そうだ、新兵連れてフェクマでキャンプしよう」
「相変わらずの悪巧みか」
「魔力収束、
「俺が助けられたのに、俺を助けた彼奴を見殺しにして言い訳が無い!」
「ぜ、全速撤退!」
「葬る!」
「なあ、もしどんな願いも叶うような、理想都市を作りたいと言ったら、力を貸してくれるか?」
次話 ドS