理不尽外道神話録   作:EX=ZERO

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根本的に思いつくネタが1000字未満で終わってしまうのが悩み。
なぜそうなるかといえば、漫画8コマ分くらいでひとつのネタ終わるので……




飴の歌声

 

 

『豚』という生き物をご存じだろうか?

この豚は他種族、一般的には人間によって食肉用に家畜化された生物であり

肉はもちろん排泄物すら肥料として使え鳴き声以外は捨てる所がないとされていた。

 

「だから鳴き声もついでに食えないかと思って飴玉にしたわけだ」

 

《相変わらず着眼点がおかしいね、このピンク色のがそうかい?》

 

『影の怪物』は渡されたピンク色の飴玉を口に放り込みそのままガリガリと咀嚼する。

口いっぱいに広がる生臭い豚の肉の味が何とも言えず、正直に言っておいしいものとは呼べなかった。

 

《はっきり言うけどおいしくないよ、失敗作なんじゃない?》

 

「そういうと思ってベーコンの焼ける音を飴玉にしてみたから食ってみろ」

 

《それ鳴き声として認識しちゃうんだ》

 

「同じ豚だろ?生きてるか死んでるかの違いだよ」

 

随分えらい違いがあるが『銀騎士』から渡された飴色の飴とかいうややこしい物体を、

これまた口に放り込み咀嚼すれば、口いっぱいによく燻製された肉の味が広がった。

 

《うんうん確かにベーコンの味がするね、なかなか面白いじゃないか》

 

「そんな面白い物を皆が今まで捨てていたんだぜ、勿体ないって思うだろ?」

 

《いや勿体ないかどうかって言われれば別にどうだっていいものなんだけどね》

 

何しろ鳴き声である、捨てる捨てない以前の問題だ。

そこへ行くと銀騎士は先ほどから作った飴玉を舐めずに噛み砕かれたり

どうでもいいなどと言われてしまえば、やはり気に入らないという感情が表に出る。

そこで他のモノで度肝を抜いてやろうと別の飴玉を用意した。

 

「まあこんなもんは肩慣らしにすぎねえ、

 この飴を作るのはそこまで苦労しなかったんだがその後色々試したんだがな」

 

《はいはい飴玉が神になるんでしょ、さっさと神出して異世界にでも消えてくれよ》

 

「それは後の楽しみだからとっとけ、他の音や音楽も飴に出来ないか

 あわよくばどんな味がするのかってのを気になって色々作ったわけだ」

 

《その前に食べ物じゃないって理解しようか》

 

「そいつは既に過去の話だ、この飴があれば音楽を味覚でも楽しめる

そんな新たな時代が始まるのさ」

 

銀騎士は語る。自然の音が、奏でる音楽が、高らかな歌声が、思いを込めた告白が

それら全てが飴玉という形を持った食べ物に姿を変え、それまで聴覚でしか感じられなかったものが

新たに味覚で感じることができるという素晴らしさをとにかく語り続けた。

 

《しかし飴玉っていうのもね、どの種族をターゲットにしてるかしらないけど

 そんなに飴と言われてそこまで食いつきがいいとは思えないかな》

 

「まあ普通はそうなるよな、だからそのために紅茶にしてみたんだよ

 さっき更地にした時気づいたんだが今天界じゃ茶会がブームらしいからな」

 

《案の定飴玉じゃなくなっちゃったね

 ついでに飲む奴もいなくなったじゃないか》

 

先ほどまでの飴への熱意はなんだったのか。

 

「なーにあいつらどうせ復活するんだからそん時飲ませりゃいいんだよ、

 んでこいつはとある秘境の風景を次元ごと切り取って紅茶にしたものだ」

 

《もう音ですらなくなったね》

 

先ほどまでの音への思いはなんだったのか。

 

「ああ・・・お前ならこっちの方が好みかねぇ?」

 

銀騎士はマントの中から赤い飴を取り出して

幼い少年の姿をした影の怪物の口の中に無理やり突っ込んだ。

 

《むぐっ・・??急に口に突っ込むのはどうかと思うんだよね私は

 って、へぇ?面白い味じゃないか、これは何を飴にしたんだい?》

 

「天界の神々」

 

影の怪物の大好きな悲鳴や絶望の怨嗟の声、ついでに神の力ががたっぷり詰まっている一級品だ。

モノがモノである。思わず噴き出した影の怪物の事を誰が責められるだろうか。

 

《なんてものを食べさせるんだ君は、結局行きつくとこは神しかないのか》

 

もはやお家芸である。

 

「ならこいつはどうだ?天界を空間ごと切り取った飴玉がここに」

 

《お前それっ、更地ってそういう・・》

 

影の怪物は思わず頭を抱えた。

こいつがここに来る前に妙に腹部に違和感を感じると思ったら

よもや天界ごと抉られていたとは恐れ入った。

 

「なーに気にするな、お前が飴を食えば元に戻るさ

 ただ気をつけろよ?元に戻したいなら噛ま・・」

 

《いいからさっさとそれを寄越せ・・!》

 

銀騎士がこれみよがしに見せびらかしている飴玉を掠め取り口に運んだ。

再びガリガリと齧る間ニヤけた顔をしてる銀騎士を無視して咀嚼し終えて

本当に元に戻っているのかどうか影の怪物は分体を飛ばして天界を見に行った。

 

「あーあ、飴玉はきちんと噛まずに舐めて楽しまなきゃダメじゃねえか

 ほらほらお前が変な喰い方するから天界がごらんの有様だぜ?」

 

《私のせいなのかい?ねえこれ私のせいなのかい??》

 

影の怪物は目の前の光景にはかつての美しい天界の姿はどこにも無く

まるで子供がクレヨンで書いたような落書きのようにその全てが捻じれてしまっていた。

 

《ああもう、何もかも滅茶苦茶じゃないか!》

 

「これでわかったろ?これからは飴はきちんと舐めて楽しむことだな」

 

《うるさいさっさと戻せ!》

 

「戻す必要あるかね?別にどうでもいいだろ?」

 

《いいわけないだろう、『私』が困るんだよ!》

 

「お前が戻せばいいだけの話じゃないか」

 

《・・・。》

 

影の怪物は黙って指を振り神の力を行使した。

特に苦も無く捻じれた天界が徐々に再構築されて元の形へと戻っていく、

その後消されていた神々も奪われた力を取り戻して完全なる復活を遂げた。

 

《失念していた、私も戻せるじゃないか》

 

いままでの茶番はなんだったのかというほどあっけなく事態は終息した。

ここ最近人間にくだらない能力を与えて転生させるばかりで

自分自身の本来の力を完全に忘れていたのだ。

 

《ふっ・・ふふふっ》

 

思わず笑みが零れる、いまで復興を他任せにしてたので分からなかったのだ

碌に力も使わずできるのならば、今度からは自分がやればいい。

なんだったら銀騎士を真似て自動で修復する装置を創ったっていい

ここが『死の世界』である限り自分の届かない場所はどこにもないのだから。

もう悩むことも、何度も破壊されて復興を待つこともないのだ。

 

《ああ、いくらでも破壊すればいいさ

 私が直せばよかったんだ、こんな簡単な事だったとはね、ふっふっふ・・》

 

もう一つ失念している事がある。

そんな調子に乗った台詞を銀騎士の前で口にしてしまった事だ。

 

 

 

 

 

 

「そう思ってお前の力じゃどうしようもできないレベルで

 多次元を捻じ曲げて練り飴に変える魔法を用意したんだが・・」

 

《やめろおおおおおおおおおお!!!》

 

怒りの感情などないはずの影の怪物がキレた瞬間である。





補足として影の怪物に限らず
指先一つ、スキル一つ、魔法一つで天界を復興するのは
ある程度霊格の高い神や次元観測者ならいくらでも可能。
ただし復活するたびに銀騎士に捕食されて力が奪われてしまうため
最近は見つからないように異世界のどこかに逃げ込んでいる。

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