理不尽外道神話録   作:EX=ZERO

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神々にとって銀騎士が恐れられているのはその『攻撃範囲』
本気の攻撃の射程範囲があまりにも広すぎて
勝ち負け以前に戦うだけで何もかも滅茶苦茶になる
無論勝てた試しなど一度もない。



小麦進化論

 

「は?千歯扱き?」

 

《そう、君ならより単純な作り方を知ってそうだからね》

 

『銀騎士』は基本自分の事しか考えないお馬鹿ではあるが

こと研究と発明に関しては天才的な技術を持っていた。

 

《千歯扱きは君も知っているだろう?

 原始的な作り方ではあるけどより安易に作れないかと思ってね》

 

千歯扱きとは簡潔に言えば麦や米などを脱穀するのを安易にする

魔法もスキルも使わない原始的な装置である。

 

「安易にっ言ってもよ、あれ以上簡単な物にするなら

 もう一段階上の技術を簡略化させた方が早いだろ」

 

《まあ君ならそういうだろうね 

 しかし何事も最初、つまり始まりが肝心なんだよ

 魔法具や機械を作るよりも前に元となる原始的な装置が必要だ》

 

ここで銀騎士は『影の怪物』が

なぜそんな事を知りたがっているのかを察した、

おそらく転生者絡みなのだろう。

 

「要するにもっと単純にしねえと理解できねえってか」

 

《現状つきっきりで教えてあげないと理解できないよ

 神が本を片手に一つ一つ教えているなんてザラだ》

 

「なあそれ転生者にさせる意味あんのか?

 どこぞの農民に教えりゃいいだろう」

 

元より知識を持っているからこそ現地の人間ではなく

わざわざ異世界から呼び寄せた人間に見に余る力を与えて

転生あるいは転移させているのだ。

その知識がないというのは本末転倒である。

 

「なあ、転生させる時ほぼ必ず持たせてる能力あるよな?」

 

《『言語翻訳』の事かい?それがどうしたのさ》

 

「ほら見ろ言葉すらわかってねえじゃねえか

 やっぱそのへんの農民でいいだろうが」

 

《どういえば伝わるかね、そうじゃないんだ

 力を与えるなら農民だって構わないさ》

 

「で?」

 

《今言った千歯扱き、作り方は知らなくても

 どう使えばいいのか、それが何の目的で存在するのか

 そこを把握している事も重要なんだよ、わかるだろう?》

 

「その知識を農民に植えつける方が早くないか?」

 

《そして使い心地を知っている事が重要なんだ

 最初は原始的な物から初めて少しづつ選択肢を増やしていく、

 彼らは元いた世界の快適な暮らしを決して忘れられない

 だからこそ次へ次へと欲求が深まるんだよ》

 

「ああ、なるほどな」

 

ようやく納得してくれたらしい。

だがそれと同時に妙に知能が低くなっている銀騎士の思考に

どことなく違和感を影の怪物は感じていた。

いったいコイツは直前にどんな非常識な世界を旅したのだろうか?

 

「でもそこまでするなら神が直接出てきた方が早いよな」

 

《身も蓋もない事言うんじゃないよ、誰のせいだと思ってるんだ》

 

神々の間で下界に直接介入する事は暗黙の了解で自粛されている

原因は銀騎士と鉢合わせになった時に滅ぼされるからだ。

マヌケな神一柱滅ぶだけならまだいいが

飛び火して天界に乗り込んでこないか皆が危惧しているのだ。

 

《それに人間と神を一緒にしちゃいけないよ

 生きる術も価値観も違うんだ

 人間の暮らしを理解している神の方が圧倒的に少ないんだ》

 

元より神は人間だけに慈悲を与える存在じゃない

逆に人間に肩入れする神の方が圧倒的に少なかった(・・・・・)と言ってもいい

 

「そうかい?最近は人型っぽい神としか会わない気がするなぁ」

 

《だから誰のせいだと思ってるんだい》

 

過去形な理由はそういう事である。

 

 

―・・・―

 

「まあ、茶番はこの辺にして

 お前が欲しがってるのはこれだろ?」

 

そう言って銀騎士が竜皮紙の束を影の怪物に差し出す

中を確認すると千歯扱きの簡略された設計図が記されていた。

 

《ほう・・ああなるほど、ここをこうすればいいのか

 確かにこれなら碌に知識がない人間にも作れるね》

 

「まあ冶金技術がある程度発達してる事が条件だな

 少なくとも鉄かそれに準ずる金属が欲しい」

 

《あれ、ちょっと待って

 一枚目でほぼ完結してるのなら他のは何なんだい?》

 

「あくまで原始的な物なんだろう?

 ならその先の改良するための設計図も必要だろう?ん?」

 

銀騎士はクスリと妖艶な笑みを浮かべた

こんなのが女性らしい服装を来て腹立つ顔で微笑むだけで

ひとつの国が余裕で傾くのだから世は無情である。

 

《じゃあ二枚目は・・

 なんだいこの『無限に小麦を脱穀できる』って

 ダメだねこれは、件の世界には魔法はないんだ」

 

「ねえのか、そいつは残念だなぁ」

 

《いや魔法があったってこれは無理があると思うよ?

 どういう術式で動いてるんだい?》

 

「文字通り治癒魔法の応用だよ

 そぎ落とされたところから麦が再生するんだよ」

 

説明しながらパチンと銀騎士が指を鳴らす。

すると大気中に漂うマナが集積していき形が構成されていく

やがてそれは魔法合金の刃をつけた千歯扱きへと姿を変えた。

 

「とまあこいつがその現物になる

 原始的という点を生かしたまま付与魔法をメインに構築された

 俺様特製魔導式千歯扱きだ」

 

《ねえ、設計図あるのに魔法で全部作るのやめない?

 一から作ってあげなよ、可哀想だろ?》

 

「そんなもん素材を一つ一つ創るか装置を創るかの違いだろ?

 同じなら完成品創ったほうがマシだよ

 どうせ目的は説明なんだ、なら早い方を選ぶさ」

 

《それもそうか、しかし付与魔法か、これなら人間でも・・

 ところでこの魔法合金の部分はどうするんだい?》

 

「ベースは銀、んで信仰か神聖系統の魔法を付与しながら

 そこに書いてある金属のリストにある奴と該当すんのと合わせて

 精錬しときゃマナ伝導率が高い合金ができる」

 

ただし耐久値に問題があるんで魔法でなんとかしろと付け加える

影の怪物はそれを聞きながらリストの金属を一つ一つなぞっていく。

 

《金属ねぇ・・これどれも融点が高すぎないかい?

 鉄器どころか青銅レベルの文明の世界が多いのに

 この合金はちょっと敷居が高すぎると思うよ》

 

「そういうだろうと思っての三枚目だ

 どうせこいつも必要になると思ったからな」

 

言われて影の怪物は竜皮紙の設計図をめくった。

そこに書かれていたのは魔法合金を精錬するための炉の設計図だ。

 

《もう千歯扱きじゃなくなったんだね

 あーあー、どうせこの後千歯扱きを神にでもするんだろう?

 わかってんだよ君の思考回路なんてさ》

 

もはやヤケクソである。

 

「いや神の下りは九枚目だ、もう少し待ってろ」

 

《絶対嫌だよ》

 

むしろなんで用意してたんだよと思わず突っ込みたくなる、

そして恐る恐る九枚目と思われる物をこっそりと影の怪物は見た。

そこに書いてある『脱穀のように神々の軍団を造る装置(仮名)』

なんてふざけた設計図に思わず頭を抱えたくなった。

 

《・・絶対嫌だよ》

 

「何で二回言うんだよ

 んで炉は単純に煉瓦なんかにこの術式彫り込んどけば

 どうにでもなる、わざわざ耐火性の煉瓦を用意する必要もない」

 

《術式彫るだけでいいんだ、へぇいいね

 どうせそれも神にするんだろ?ねぇ?そうだろう?

 いつもの事なんだろう?なあ、神創るんだろう?

 やればいいじゃないか、今すぐにでもさぁ

 どうせ煉瓦の神とか炉の神とか言うんだろう?ねぇ?》

 

「なにやさぐれてんだよ

 期待してるようで悪いがそいつは十枚目だ

 楽しみは最後までとっとけ、な?」

 

《・・・・。》

 

その言葉を聞いて影の怪物は膝から崩れ落ちて倒れた。

何事だと銀騎士が不思議に思っていると、

依代の銀髪の少年には既に息の無い物言わぬ人形と化し

抜け出た本体の影は闇に紛れて死の世界へと逃亡した後だった。

 

 

 

 

―・・・―

 

 

 

数千年後、天界に一つの事件が起こった。

現存する神々の勢力が新参である小麦を司る有象無象の神々のその

あり得ないほどの数の暴力によって塗り替えられてしまったのだ。

 

その現象に嫌な予感がした影の怪物は、

あの時持ち逃げした後何重にも封印を重ね掛けした忌まわしい

ふざけた設計図を引っ張り出しその最期のページを恐る恐る確認する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

影の怪物は激怒した。

 

 

 

 






最後のページにはいったい何が描かれていたのか?

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