理不尽外道神話録   作:EX=ZERO

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時間泥棒

 

 

暇を持て余していた漆黒の異形『影の怪物』は友であり敵であり仇である

『銀騎士』に久しぶりに構ってもらおうと、銀騎士の影を伝って転移した。

 

《やあ、久しぶりだね君は何をして・・いや何してるんだい?》

 

影の怪物の目線の先では森の中で大量のフリルのついたドレスを着て

動物達とお茶会を楽しんでいると思われる銀騎士の姿だった。

 

「お前か、何してるかって言えば開発中の装置が完成したんでな

 のんびりお茶でも楽しんでいたところだ、お前も混ざるか?」

 

そう言って銀騎士はカップを口元へ運び上品に微笑む

元のアレを知っているだけになんとなく腹が立つ光景だった。

 

《いや、私は別にいいかな

 それより完成した装置というのが気になるね、なにかな?》

 

できれば各世界を滅茶苦茶にするような兵器である事を期待する

一瞬で消し去るようなものではなくじわじわと絶望を味あわせるものがいい。

 

「時間停止の装置だよ」

 

銀騎士が見せたのは淡く輝く灰色の四角い水晶体だった

中心部に時計と思われる針がついていて今は長い針が時を刻んでいる。

 

《ありふれたものじゃないか、つまらない》

 

時間を止めるなんて方法は今や人間にすら制御できるような力でしかない

そんなものの開発に銀騎士はどれだけ時間を費やしていたのだろうか?

 

「まあ、普通はそういう反応になるよな

 しかしこのアイテムは時間停止に耐性を持った奴にでも通用する」

 

《ほう?》

 

「ただ時間を止めるわけじゃない、目的はズバリ『世界の凍結』だ

 世界の外側からあらゆる事柄を止めちまうんだ、素晴らしいだろう?」

 

《君も止まるのかい?》

 

仮に銀騎士が停止したらどんな悪戯をしてやろうかと

影の怪物は思わず笑みがこぼれてしまう。

いっそそのふざけたドレス姿のままどこかに城でも構えて

城どころか星が風化するまで飾ってやろうか。

 

「んなわけあるかよ、俺の防御力を舐めるな」

 

《だろうね、わかってたよ》

 

たとえ停止したとしてもその後何食わぬ顔で動き出しそうな気がした。

以前銀騎士が自分自身を封印できるか試した時もそうだった。

 

「懸念は神々だ、世界を止めたのに元に戻されちゃたまらない

 その為に装置の効力を解除されないように強化したんだよ」

 

《外側からの力に弱いんじゃないかい?》

 

「世界に入れば仲良く永久凍結だ、だが外側から壊されたら無意味だ

 だからこそ解除されないように耐久性を増やした」

 

《基本だね、それから?》

 

「そして認識阻害、こいつで外側からの停止世界の認識を消去させる

 これで外からは世界が止まっている事を認識できない」

 

《でも動いてなかったら認識が阻害されてても無意味じゃないかい?》

 

「それに関しては平行世界の映像を代わりに写してる

 認識阻害と合わせてまず見破るのは無理だろうよ」

 

《なるほど平行世界か、でもこうして見ると

 ただ時間停止させるだけの装置っていうのがもったいないところだね》

 

「お前もそう思うか?

 いっそこのまま神を捕獲する装置に改造しちまおうかね?」

 

《趣旨変わっちゃったね、ただのトラップじゃないか》

 

そう言いつつ影の怪物は聞いていて銀騎士がお約束のように

そろそろこのアイテムを神に転生させてしまわないか警戒し始める。

同じ穴の狢だが銀騎士もきまぐれだ、すぐに別の事に興味を持ってしまう

たった今時間停止の装置を別の物に改造しようとしてる事からわかるだろう

となるとまた放置されて自分が育てるハメになるのだ。

 

《それで?開発が終わった君は何をするつもりなんだい?》

 

「ん?そうだな・・あー、なんだろうな

 魔法少女のステッキが欲しいな、どの世界に行けば手に入るだろうか?」

 

《今のドレス姿といい君はどこに向かおうとしてるのさ》

 

問題発生、アイテムの開発が終わり既に銀騎士は興味を失っていた。

やはりこのままでは新たな神を押し付けられてしまいそうだ

ふと、そこで考える。別にアイテムを神にして放置されたところで

自分も我関せずを貫けばいいのではないだろうか?

 

《・・・・。》

 

いっそ放置された神で悪戯するのも悪くない。

そう思うと銀騎士が神に転生させるの止めるよりも

むしろこちらから提案するのもいい気がしてきたのだ。

どうせ止めたって無駄なのだ、ならばけしかけてやろう。

 

《ふっふっふ、いっそ神にでもすればいいんじゃないかい?》

 

「は?やだよ面倒くせぇ」

 

《・・・。》

 

やめろという時は聞かずに創る癖にこれである。

 

《ところでこの装置を作った目的はなんだい?》

 

「今の俺は変身ヒーローのベルトが欲しい気分でよ

 しかしこの世界の行く末も気になる、故に世界を止めるんだ

 そうすれば帰ってきた時が時差がなくなる、名案だと思わないか?」

 

《君さっき魔法少女のステッキが欲しいって言ったよね?

 ついにやる前から飽きちゃったのか》

 

「変身ヒーローがいるなら同じ世界に魔法少女がいるかもしれないだろ?

 なんなら俺自ら魔法少女を用意してもいいくらいだ」

 

《自分で用意して渡した物を奪うのかい?

 それに意味があ・・》

 

そこで影の怪物は口を閉ざした

銀騎士のサングラス越しに見える目がギラついているのだ。

 

「よお、お前魔法少女になってみる気はないか?」

 

アレは飢えた捕食者の目だ

既に標的を幼女姿の影の怪物に定めようとしているようだった。

銀騎士はドレス姿のまま両手を広げてジリジリとにじり寄る。

 

《嫌だよ、そんなに言うなら自分でなればいいじゃないか》

 

「俺の姿見て少女だって思うならお前は病気だよ、ああ可哀想に

 ほら治療だ、最高にゴキゲンな注射してやっからこっちに・・」

 

 

 

―・・・―

 

 

《で?世界を止めるこの装置はどうするんだい?》

 

影の怪物はそこらに散らばる食い散らかされた動物たちの

残骸を見ながらこの惨劇の元凶たる銀騎士に再び話を振った。

 

ちなみに影の怪物は今、赤眼銀髪の少年の姿を取っている

先ほどまで何をされたのかは察して欲しい。

 

「既に量産はできてるからな、これからは途中で別の世界に

 行きたくなった時にいつでも世界を止めておけるぜ」

 

《使い方は?》

 

「裏にレバーがあるだろ?

 こいつを動かせば世界は止まる、簡単だろう?」

 

《あれ、じゃあ何で動いてるんだい?

 世界が止まるなら装置も止まるはずだ》

 

「こいつは時間の流れの影響を受けない、だが装置はそれすらも無効化する」

 

《矛盾してるね》

 

「そう矛盾だ、矛盾が起これば爆発的なエネルギーが発生する

 そのエネルギーを動力にしてるわけだ、余剰エネルギーは俺に行く」

 

《割とめんどくさい工程を踏んでるんだね》

 

「一番めんどくさかったのは余剰エネルギーの転送だな

 俺がどの世界にいても力が送られてくるように調整するのには苦労したぜ」

 

《うん、それ別の動力使えば良かったんじゃないかな?》

 

「この世界でも作れるどんぐり永久機関でも良かったんだよ

 ただアレを使うと見た目がな、どうもしっくりこないんだよ」

 

どんぐり永久機関とは、どんぐりで作られた永久型魔力発生装置である。

誰もが求める永久機関にして自然にとても優しいのだ。

 

《どうせ世界が止まるんだから誰も見ないだろう?なんでこだわるのさ》

 

そもそもレバーなんぞくっついてる時点で台無しなのだ

いまいち銀騎士がこだわっている部分が分からい。

 

《それで結局装置自身が停止しないのはなぜだい?》

 

「俺自身がこの時間停止の影響を受けないんだ

 それと同じ事をすれば簡単だったぜ」

 

《そもそも君が停止しないのも十分におかしい話なんだけどね》

 

 

その後も二人の会話は続き、銀騎士は装置を影の怪物にも分け与えて

宣言通り魔法少女を変身ヒーローを狩りに異世界へと旅立った。

 

それから数年後、銀騎士が降り立った世界の行く先々で

世界があの装置で停止しているのを感じた。十中八九影の怪物の仕業だろう

 

影の怪物にやはり渡すべきではなかったかもしれないと思いながらも

どうせあいつの事だから知らぬ間に持ち出されていただろうと諦めて

これはこれで風流だと自分しか動く事ができない世界を満喫した。

 

 

 

 

 






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