理不尽外道神話録   作:EX=ZERO

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ゲームのような世界で

《よっ、ほっ・・ああ、また落ちてしまったね》

 

「・・・。」

 

場所は日本、とあるマンションの一室

ジャージ姿で寝転がりテレビゲームで遊ぶ死の世界の主『影の怪物』

その横で『銀騎士』は不機嫌な顔でテレビ画面を眺めていた。

 

《いやはや、人間もこういう娯楽を作ることに関しては評価していいね

 そのおかげか転生や別世界の概念を説明する手間が省けていい》

 

「・・・。」

 

影の怪物が操作しているキャラクターが奈落の底へ落ちていくのを

銀騎士はただただ不機嫌そうに黙って見ていた。

 

《さっきから黙っててどうしたんだい?

 ああ、もしかして君もやりたいのかい?》

 

二人プレイも可能だよと、銀騎士にコントローラーを差し出す

しかし銀騎士はコントローラーを受け取らずに指を鳴らして姿を消した。

 

『ほら参加してやったぞ、これで満足か?』

 

《誰がゲームの中に直接入れと言った》

 

テレビを見るとその中で影の怪物の操作キャラが死に戻りする場所で

永遠と操作キャラを殺し続ける不機嫌な顔の銀騎士がいた。

 

『ほらな?こっちのほうが何倍も楽しい

 なにが悲しくてあんな狭い場所でじっとしてなきゃならないんだ』

 

《うんこっちのセリフだよね?私の操作キャラクター

 開始とともにサッと殺されすぎて一歩も動けてないよ?》

 

『お前がゲームに飽きるまで殺し続けてやる

 健康的なアウトドアライフをさせようとしてる俺様なりの優しさだ』

 

《そんな優しさは聞いた事ないよ

 早くこっちに戻って来てよ、私はゲームをしたいんだ》

 

『このままゲームばっかやるってんなら日本中の発電所を破壊するぞ』

 

ゲーム機のコンセント引っこ抜くみたいなノリで物騒な事を言い出した。

 

《おやおや?そんな事言ってもいいのかい?

 今私が電源を切ったらゲームの中にいる君はどうなってしまうのかな?》

 

だがそんな脅しは通じない、むしろ日本が壊滅的になるなら望むところだ

まだ生きているこの世界の管理者にきっといい嫌がらせができる。

しかし影の怪物はそんな事より絶好の機会にも見えるこの瞬間を喜んだ。

 

《そうだ、君の終わりがやってくる、この時をどれだけ待ち詫びた事か!》

 

故に影の怪物は凶悪な笑みを浮かべてゲームの電源に指を添える

画面の中の銀騎士の返事を聞くよりも早くゲームの電源を切りテレビを消した。

影の怪物は画面が消えるのを確認すると、ゲーム機からディスクを取り出して

中に入っているであろう銀騎士ごと巨大なハンマーでディスクを破壊した。

 

《ふっふっふ・・さようならだね銀騎士ミラージュ

 君のことは忘れないよ、ふっふっふ・・・》

 

この時の影の怪物はそれはそれは楽しそうな笑みを浮かべていた。

 

 

―・・・―

 

 

数分後、何事もなかったかのように銀騎士が部屋に戻ってきた。

 

「あのゲームのラスボスだけどよ、魔王に取り憑かれたお姫様だったぞ?

 これ魔王城で拾った最強武器の聖剣な」

 

《そんなお土産はいらなかったかな、ゲームの中で手に入れたかったよ》

 

故にさっきまでの事は影の怪物も無かった事にした。

あの数分間になにがあったのか影の怪物はあえて聞かないし言わない。

無駄に艶のある銀騎士の顔を見てお姫様に何をしたのかを察したからだ。

 

「んで結局お前はここで何をしようとしてたんだ?」

 

《ああ、それはね転生者の暮らしぶりというのを体験してるんだよ

 だから部屋に篭ってずっとゲームしてるんだ》

 

「どんな苦行だよ、外に出ろよ」

 

《彼らにとっての外は楽しい楽しい悪意で満ち溢れているんだ

 彼らは部屋の中にしか居場所がない、だから異世界に行くのを夢見るんだ》

 

「居場所なら作ればいいだろ、世界中を敵に回してるわけでもあるまいし」

 

《じゃあ君聞くけど穀潰しを見つけたらどうする?》

 

「殺す」

 

《君が敵になっちゃったじゃないか》

 

一番敵に回してはいけない相手が殺意しかないというのは残酷である。

 

「だったらお前が穀潰しを見つけた時はどうすんだ?」

 

《殺す》

 

「同じじゃねえか」

 

《同じじゃないよ、だから転生させてるんじゃないか》

 

「ああ、そう繋がるのか・・なるほど」

 

そうかそうかと、どこか納得してしまった銀騎士だった。

 

「でもよ、ずっと同じ場所でゲームしてたって飽きるだろ」

 

《過去に千年間パンを食べ続けるだけの生活してた君が言う言葉じゃないね

 最初聞いた時それこそどんな苦行なんだと思ったよ》

 

「それほど苦でもなかったぞ?パンは美味かった

 なんてったって食えるんだからなぁ、ゲームと違ってよ」

 

《うん、だからそれゲームの中でお姫様食べた君が言う言葉じゃないよね》

 

銀騎士にはゲームと現実は違うという言葉は通用しない

デタラメな力で本当にゲームの世界に入ってしまうからだ。

にも関わらず区別しようとしてるあたりタチが悪い。

 

《ああそうだ、あれならきっと君も納得してくれるだろう

 別の世界へ行こう、ついてきてよ》

 

「お?ついに引きこもりがお外にでるのか?

 いいぞ、どこにでもついてってやろうじゃないか」

 

ゲーム生活を初めて2日しか経ってないのにこの言われようである

さすがの影の怪物も反論しようと銀騎士の方を見るが

えらくゴキゲンな表情を浮かべた銀騎士を見て何も言えなくなった。

 

 

―・・・―

 

 

訪れた新たな世界は平原の広がるほぼ何もないと言っていい世界だった。

 

《『ワールドシステム』って知ってるかい?》

 

「一応はな、それがどうした?」

 

ワールドシステムとは、神々が世界をより管理しやすいように

ステータスの概念を導入して世界全体を数値化する事である。

 

《この世界にワールドシステムを組み込んで

 何もないこの世界をゲームみたいにするんだ、作るのも簡単だよ?》

 

「結局ゲームはやるんだな、まああんなとこにいるよりはマシか」

 

《既に基礎は組み込んである、試しに『ステータス』と言ってごらんよ》

 

「ほう、既にできてんのか、そいつは管理が楽そうだ

 んじゃさっそく・・『ステータス』!」

 

 

 

・・・・。

 

 

 

「ん?『ステータス』!」

 

 

 

 

 

・・・・・。

 

 

「『ステータス』!おい何も起こらねえぞ?どうなってんだよ」

 

《ああやっぱダメか、システムが君の存在を認識できてないや》

 

銀騎士は自身の能力のせいで外部からのあらゆる力を無効化する

力の概念が銀騎士の存在を認識できずに素通りしてしまう

具体的に言うと結界魔法とか世界のシステムがザルになるのだ。

影の怪物の顔がどこまでもニヤけているあたり確信犯だろう。

 

「まあ・・普通に考えればそうだろうよ

 でどうする?仲間はずれにされた俺を放ってどう世界を構築するんだ?」

 

《ふっふっふ・・今の君の悲しそうな顔はとても素敵だ、愛してるよ

 さっき私がしていたゲームのような世界を作ろうと思ってる》

 

「いたるところに不自然な穴の空いた世界にか?」

 

銀騎士の言っている穴とはおそらくゲームで落下死する場所の事だろう。

 

《ずっと気になってたけどあれそんな風になってたんだね

 いや、穴はやめておこう、住人が落ちたら面倒になる》

 

影の怪物は虚空から半透明の画面を呼び出しそれらを操作していく。

すると世界が形を変えて何もない平原に樹が生えて

湖が生まれて、遠くに山がそびえ立ち、鳥や動物などの生命が誕生した。

 

「随分と便利なもんだな、このシステムを考えた奴はすげえな」

 

《珍しく感心してるね、これは元々人間だったゲーム好きの転生者が

 神になって世界を管理するようになった時にこのシステムを開発したんだ

 ちなみに当人は死んでるよ、会いたかったかい?》

 

「もう既にいないのか、そいつは残念だ

 技術者の話ってのはどんなものであれ色々とタメになるからな」

 

実はその神を殺したのは他でもない目の前にいる銀騎士なのだが

その事はあえて影の怪物は黙っている事にした。

 

《魔法があって文明はある程度魔法具の影響で発展している

その反面容易く人間を屠る魔物が蔓延る危険な世界だ》

 

「極々ありふれた世界だな、しかし文明が発展してるのはいい事だ

 なにより飯がうまい、その魔物も食糧にできればさらに幅が広がるだろう」

 

影の怪物にしては案外まともな世界を作ったなと銀騎士は感心する。

 

《魔法は火、水、風、土の四属性だ

 そして人間は生まれつき必ず一つの属性を持っている

 レベルが上がれば使える呪文の難度も量も増えるけど複数は扱えないよ》

 

「誰でも使える反面、呪文の幅には制限があるのか

 一つ属性しか使えないのはやや辛いな

 例えばよ、風と水を持つ二人組が力を合わせて魔法を使えば

 氷の魔法が使えるなんて感じの合体魔法はどうだ?」

 

《なかなかいい発想じゃないか、是非取り入れよう

 もし組み合わせが失敗したら死ぬんだ、まさに命懸けの魔法だよ》

 

「それだと少しリスクが大きすぎないか?

 属性だけじゃなくさらに魔法によって派生があんだろ?」

 

《むしろ君が使う魔法のリスクが少なすぎるんだよ

 指パッチンだけでなんでもできるって舐めてるのかい?》

 

「そこまで登りつめんのにどれだけ苦労したと思ってるんだお前は

 そういや治癒魔法とかはねえのか?それとも各属性に混じっているとかさ」

 

《よくぞ聞いてくれた、数万人、数百万人に一人は光属性の魔法が使える

 そんな希少な光属性の魔法にのみ治癒が存在するわけさ》

 

「ほう?勇者とか聖女みたいな感じか」

 

《君こういうの好きだろう?とくに聖女》

 

「ああ、大好物だぜ」

 

聖女と聞いて食欲と性欲が沸いてきた銀騎士である

さっきのお姫様だけでは物足りなかったようだ。

 

《そして闇属性、これは四属性全てに対して有効になる

 ただし光属性には致命的なダメージを受けてしまうんだよ

 もちろん光属性はその逆に四属性に対して弱いのだけれどね》

 

「バランスのとれた相性とは言いたいが

 そこまで行くと光と闇属性持った奴の数が少なすぎやしないか?」

 

《希少なほうが選ばれた存在みたいで面白そうだけどな

 じゃあ代わりに光と闇は同時に生まれるようにしようか》

 

「運命的だな、ところで光と闇の複合魔法はどうする?

 わかりやすくしないと失敗した時に死んで次の時代まで待ちぼうけだ」

 

《そうだね、じゃあどの組合せでもいい

 あらゆるものを消滅させる虚無の呪文にしようじゃないか》

 

「それがこの世界の最強の呪文ってところか」

 

《自由度が低いかもしれないけれどいいだろう?

 別に神々と戦うわけじゃないんだ、そこまで強くする必要もないよ》

 

「まあ、それが無難か

 他にはどんな要素があるんだ?」

 

ゲームのような世界というのならこれだけでは少し物足りない気がするのだ。

 

《魔物を倒すと死体じゃなくてアイテムがドロップするよ》

 

「そいつはゲームっぽいな、でも死体が残らねえのか・・」

 

《お肉もドロップするようにできるさ

 なんなら料理だってドロップさせられる》

 

「そんな簡単に変えられるのはすげえな

 もしかして雑魚から金銀財宝がでたりもするのか?」

 

《もちろん可能だよ、絶対に面白くないだろうけど》

 

「むしろ金銀財宝目当てにどこまでも楽しめそうな気がするけどな

 ちなみに人間が死んだ場合はどうなる?」

 

《人間かい?持ってるアイテム全部ぶちまけて死体も残るよ》

 

「ほう、人間は残るのか」

 

《だって死体を魔物の玩具にできなきゃ面白くないじゃないか

 そうじゃなくても例えば知った顔の人間を不完全に蘇らせてさ

 ゾンビやゴーストなんかのアンデッドにすればもっと面白いと思うんだ》

 

「そのへんはお前の趣味か」

 

《それが私の本質というものだよ、ふっふっふ・・》

 

影の怪物はその後も銀騎士の質問に答えつつ時々アドバイスをもらいながら

ワールドシステムに情報を入力し続けて世界を創っていった。

 

完成を間近にして銀騎士が作ったばかりのこの世界で旅をしてみたいと言う。

影の怪物は魔法は一つの属性だけ使うならいいと条件をだしこれを承諾

銀騎士は風の属性を選んで意気揚々とゲームのような世界へ歩みだした。

 

しかし、いざ冒険だと降り立って数秒、銀騎士が壮大にくしゃみをしてしまい

もはやシステムがどうのとか関係なく世界が粉々に砕け散ってしまった。

影の怪物はせっかく作ったのに台無しだと思いながらも

あんなもので滅ぼす銀騎士の理不尽さにむしろ爆笑していたのだった。

 

 

 

 


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