理不尽外道神話録   作:EX=ZERO

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Pixiv版の理不尽外道神話録:転生者観察記録を先に見ておくとより楽しめます


なんと謙虚な

 

『銀騎士』は前の世界で焼いたドラゴンの肉を食べながら

次はどんな世界を旅しようかと考える。

その最中『影の怪物』に呼び止められ、死の世界の深部を並んで浮遊していた。

 

「転生者?」

 

《そう、天界でまた流行ってるんだよ

 人間を別の世界に転生させて別の世界で活躍させるんだ》

 

「いつか昔に転生者の様子を観察してたよな

 またあれをするのか?」

 

《その通りだよ、転生する前の世界では無駄な日々を過ごして

 なんの生産性も無かった人間に姿を本人の望む美形にしてあげて

 あらゆる魔を討つ聖剣を与え魔法も覚えさせた》

 

「そうだったな、転生先がそいつの生前と同じような

 日本じゃなきゃさぞ活躍できてただろうな」

 

《ふっふっふ・・》

 

その転生者はどうなったかというと日本に転移して途方には暮れたが

銀騎士がおまけで与えたアザラシを召喚するスキルのおかげで

水族館のイケメン飼育員としてそれなりに幸せな生活を送っていたそうだ。

 

 

《ほら始まるよ、今度は・・あまり特徴のない日本人だね》

 

影の怪物が虚空から映像を呼び出し今まさに転生が行われようとしていた。

真っ暗な空間に一人の男がポツンと立っていてあたりを見回している。

そこへ眩い光と共に新たな人物が上から舞い降りた。

濃い灰色のショートヘアに角にも見える両サイドにちょこんと生えている黒髪

あとちょっとで見えそうなくらい着崩した黒い着物を来た華奢な女の子

だが頭にある輝く光輪と透き通る羽が女神である事を男に強く認識させていた。

 

 

「今回も転生神は例のモアイか、今度はどんなものが見られるのやら」

 

《いい加減名前つけてあげたらどう?あの子も可哀想じゃないか》

 

彼女は元々銀騎士が全知全能の逆説の実験をするために

誰にも持ち上げられない石をモアイ像として創造し

それを持ち上げて全知全能を超えたとバカなことを言いつつも

なんやかんやで命を吹き込んでから人間の少女に転生

最終的にあらゆる能力と神格を与えられて生まれた全知全能の女神である。

 

 

「お前をこれから転生させる……欲しい能力を言え」

 

女神が無表情で淡々と言うと男は大いに喜んだ。

彼はネット小説の異世界転生に憧れていて

いつか自分もチートをもらって異世界でハーレムを作る事を夢見ていた。

 

そんなはしゃぐ男を見ながら銀騎士は

どいつもこいつも死んだ人間の割にやたら元気だなと眺めていた。

 

「さすがにもうカタコトじゃあなくなったな、ただ口調がおかしくないか?」

 

《多分君の口調を真似てるんじゃないかな?、一応君が生み出した女神だもの》

 

 

一方男は考えていた、もうすぐ自分の夢が叶う

そのために必要な力はなにがあればいいかと。

 

 

「さてあの男はどんな能力を願うかね?

 ところで転生先はどこにするつもりだ?まさか日本じゃないだろうな?」

 

《転生先かい?あの人間が言うところのファンタジー世界って奴だよ

 ただ世界を管理する神がいないから世界は荒れているんだ》

 

「神は死んだ、俺が殺した」

 

《だろうね、だからどこの天界も慢性的な神不足なんだ》

 

二人の間ではもはやお約束とも言える神殺しのくだりの最中に

男は欲しい特典能力を決めたようだ。

 

アイテムを自由に好きなだけ出し入れできる『アイテムBOX』

武器を創造するスキル『武器創造』、四属性の魔法を使いこなす『四大魔法』

速度を早める『神速』、透明な相手を見れる『心眼』、剣を使いこなす『剣聖』

 

多くのスキルを要求したがどれか一つでも通ればいいと女神に向かって要求した。

 

「……。」

 

女神は男の欲しい力を聞いたあと男に向かって光球を発射した。

一瞬欲張りすぎて女神が怒ったのかと錯覚して思わず身構えたが

放たれた光球が体の中に入っていくのを見ると

みるみるうちに力が沸き上がってくるような感覚が生まれた。

そう、全ての要求は受理されて男は望んだチート能力を全て手に入れたのである。

 

「おい、あれだけでいいのか?」

 

《何度も言ってるだろう?彼は日本人で謙虚さが売りだ

 ワビサビっていうんだっけ?ハラキリって言うんだっけ?そういうものだよ》

 

だがそれを映像で見ていた二人には要求した能力が少ないと認識していたようだ。

 

「いや謙虚っていうか異世界舐めすぎてないか?

 あんなんで頂点取れると思ってんのか?」

 

《まあ無理だろうね、魔王なんかが現れたら終わりだろう

 邪神なんかがでてきたら目も当てられないよ》

 

そんな二人が自分の転生の光景を見ていると感じた女神は

影の怪物の気配を探って黒い空間にこちらを覗く目玉を発見する。

もしかしたら生みの親である銀騎士もいるかもしれないと

あわよくば声が聞きたい、褒めて欲しいと目玉をじっと見つめた。

 

「こっちが覗いてるのに気づいてるなありゃ

 もう少し男の方にも目線向けてやれよ」

 

《監視の目を発見したみたいだね、でもあの顔見るに

 頑張ったから君に褒めて欲しいんじゃないかい?》

 

「あの顔っつっても無表情だけどな

 でもまあ・・あれだ、二重丸くらいならをあげようじゃないか」

 

銀騎士は念話を使って女神の頭の中に直接「よくできました」と告げる

しかしそれだけでは『はなまる』はあげられないぞともう一言加えた。

 

 

―・・・―

 

「望みはそれだけか?なんと謙虚な、さらに欲しい力を与えてやろう」

 

男は困惑した、あれだけたくさんの能力を要求したのに

まさか謙虚だと言われさらにチートをもらえるとは思わなかった。

もしかして自分が転生するのは実は天界のミスでそのお詫びなのかと聞いてみた。

 

「そんなわけないだろう」

 

しかし女神の答えはなんだかそっけなく

そして表情こそ変わらないものの女神に鼻で笑われたような気がした。

 

 

 

「なあ、天界のミスってなんだ?」

 

《文字通り天界がミスして男を死なせてしまったみたいなケースだよ

 まあ仮に天界がミスしたとしてそれをわざわざ伝えるわけがないじゃないか》

 

「普通に考えれば黙殺するよな、死人に口なしなんて人間の言葉があるくらいだ

 人間が神に物申せると思っているあたり浅はかだろうよ」

 

《忘れてないかい?日本人は多くの神々と寄り添う人種だ

 力は弱いが神格持ちである事には変わりない、糞にすら神が宿るくらいだ》

 

まあ排泄しない私たちには無縁の神だろうけどねと影は笑う。

 

「で、結局のところ真相は?」

 

《人間の本性を見る事、これにつきるよ

 そして、あまりにも態度が悪ければ転生先でも地獄を見る事になる

 そうだろう?だって『人間は他にもたくさんいるんだから』》

 

紅い眼を物理的に輝かせて凶悪な笑みを浮かべる金髪幼女、影の怪物

さじ加減一つで全てを与え全てを奪う事ができる恐ろしい化物。

そんな極悪人を、銀騎士は今日もこいつはゴキゲンだなとスルーしていた。

 

 

そして男が欲した更なる力というと

修行の効率を上げる『経験値増大』、格闘術を極める『格闘王』

姿をドラゴンに変える『竜化』、空を飛ぶ『浮遊』

他にも思いつく限りで自分が欲しい能力をこれでもかと要求した。

 

女神は同じように光球を男に向かって発射する

体に入っていく感覚が終わったのを感じた男は

さっそく『竜化』を使い巨大な黒龍へと姿を変えて自分の変化を喜んだ。

 

何もない真っ暗な空間ではしゃぐ男を見て

やはり女神は男に向かった無表情で淡々と告げた。

 

「望みはそれだけか?なんと謙虚な、さらに欲しい力を与えてやろう」

 

黒龍に姿を変えた男の動きがピタリと止まる

これにはさすがに男も何を言っているのか一瞬理解するのに時間を要した。

 

 

 

 

《ねえ、君はあの子に何を言ったんだい?》

 

「俺がいいというまであのセリフを言って要求に答えろって告げてみた

 どこまで人間の欲が出るのか少し気になってな」

 

《そう、欲ねぇ・・・なるほど》

 

その後も男は考えうる力、魔法、スキル、アイテムを要求する

女神はアイテムにだけ少し時間がかかった以外全て叶えてくれた。

しかし続けて出てくる言葉は「なんと謙虚な」の繰り返し

もしかしてループしているのかと思って「おっぱい揉ませてくれ」と頼んだら

普通に断られた、見えそうで見えない部分を堪能するしかないようだ。

 

だんだんと欲しい能力が思いつかなくなった男は

漫画やアニメ、ネット小説でみたような能力も要求した、し続けた

それらを女神が叶えてもまだまだ謙虚だと言われ続ける

男はいったいこれはなんの拷問なんだと思い始めてきた。

 

 

「飽きてきたな、実のところあれでも温いくらいだが

 人間が持つにはちょうどいいくらいか?」

 

《あれで温いんだ、君は何と戦わせるつもりなんだい?

 でもそうだね、このくらいで十分かな》

 

「あれだよほら、前にいただろ?どれだけ人間にスキル持たせられるかって

 実験した時に持たせたスキルは億、いや兆は軽く超えてただろ?」

 

《ああ・・あの実験体の少女か、兆じゃないね、もっとあった気がするよ

 君が途中で飽きなければもっと与えられただろうにね、もったいない》

 

男がとある漫画で見た時間停止のスキルを受け取ったところで

銀騎士は女神にそれで十分だとはなまるを与えた。

顔には出ないが嬉しそうな女神がそろそろ異世界に旅立つ頃だと男に告げる。

男はある意味で苦行に近かった神様転生がようやく終わったのかと一安心した。

 

「しかし、前回はスルーしてたが転生者が要求したもので

 用意できないものをお前が与えてるんだな」

 

《そうだね、彼女は会話ができるとは言え知能はまだまだ子供だ

 転生者が求めているアイテムがどんなものか把握できない時もあるんだよ》

 

「で、問題はそのアイテムどっかで見たことあるなーと思ったらよ

 俺のコレクションじゃねえか!勝手にプレゼントしてんじゃねえよ」

 

《同じものいくつも持ってるんだからいいじゃないか

 なければまた手に入れる楽しみが増えたと喜べばいい》

 

「なるほど、その手があったか いいわけねえだろふざけんなよ」

 

思わず言いくるめられるところだったと影の怪物を睨む

睨まれている当の本人は知らん顔で多くの能力を手に入れた転生者を見る。

過多とも言える万を超えるスキルやアイテムを持ち男は異世界へと旅立った。

 

「かくして転生者は異世界で理想を叶える・・か

 転移先も望んだようなファンタジー世界とやらだろう?」

 

前回は特典をもらったにも関わらずそれを生かしにくい日本への転移だった

それが過酷とは言えあれだけのスキルを持っていれば理想は叶えられるだろう。

 

《そうだね、これで彼は異世界で夢を叶えるゴキブリに転生したわけだ

 姿を変える能力は邪魔だから全て奪っておいた、彼は一生あの姿のままだよ》

 

銀騎士の問いに、鼻をほじりながらどうでもいいと言わんばかりにそう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

《ふっふっふ・・・・》

 

 

 

 


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