思い付きのネタ集   作:とちおとめ

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原作:とらいあんぐるBLUE



原作は見返しておらず、確かこうだったよなっていうことを思い出しながら書きました。まあ思い出すだけでもメンタルブレイクされそうなんですけど。


姫宮あかねの場合1

 青年――沢村麻人には夢があった。

 結婚を誓い合った大切な恋人と共に、二人三脚で本を作るという夢が。

 

「……あかね」

 

 あかね、麻人が呟いたのは愛する恋人の名前である。姫宮あかね、麻人が彼女と出会ったのは大学に入って暫くした時だ。小説家を目指していた麻人、イラストレーターを目指していたあかねはひょんなことから知り合い、互いに趣味について話していくうちに惹かれ合い交際が始まった。

 今まで趣味に関して一直線に走ってきた二人だったが、付き合い出してからは互いが互いを大切にする理想のカップルとなった。大学生活の4年間を終え、それを機に麻人とあかねは同じ屋根の下で暮らすようになり、それからはお互いに誓い合った夢を実現するために麻人は出版社へと、そしてあかねは専門学校に入った。

 一緒に住んでいると言ってもお互い忙しく、あまり遊びに出かけたりと言った時間は取れていない。そもそも麻人に関しては、会社で寝泊まりすることがほとんどでありあかねが待つ家に帰ることすら最近では難しかった。しかしそれでも、麻人とあかねは強い絆で結ばれており愛し合っている……それはお互いがちゃんと分かっていることだ。分かっている……そう思いたいのに。

 

「……………」

 

 ここ最近、麻人はあかねがどこか遠くへ行ってしまうかのような胸騒ぎを感じていた。例え家に帰れなくても、ちゃんとメールや電話のやり取りはしている……お互いに愛していると言葉は交わしている。それでも麻人は言いようのない不安を感じるようになっていたのだ。

 

『私の絵と麻人と文章でね、一緒に本を作るのが夢なのっ♪』

 

 笑顔でそう言ったあかねの姿がとても懐かしく感じる。あの時の笑顔は麻人にとって宝物、愛する人が浮かべた麻人の一番好きな表情――一番失いたくない宝物だ。

 そういえばと、麻人はふと思った。

 昼に今日も帰れないと言った時のあかねはどんな声だったかを。

 

『っ……そっか。うん。分かった。私は大丈夫だから……お仕事頑張ってね。大好きだよ、麻人』

 

 仕事の最中だったから気にならなかったが、あかねの声はどこか強がったものだった。悲しみを押し殺し、心配を掛けさせまいと元気さを無理にアピールするような……そんな声だったのを麻人は思い出した。

 分かり合っている、愛し合っている……これはおそらく二人の間では間違いないことだろう。麻人もその言葉があるから会えなくても我慢できるのだから。でもこれは麻人に限った話であって、あかねもそうだとは限らない。もしかしたら今こうして離れている間、あかねは一人泣いているのかもしれない。あの広い家で、一人寂しくご飯を食べているのかもしれない……そう考えたら居ても立ってもいられなかった。

 

「……くそっ! 遅すぎるだろ俺! こんなこと、少し考えれば分かることじゃないか!!」

 

 笑顔が眩しいあかね、でも同時に彼女は寂しがりやだった。なんで今までこんなことを忘れていたんだと麻人は己を叱責する。書いていた小説の文章を保存し、パソコンの電源を切って麻人は出版社を飛び出した。仕事に関しては正直不安になったが、あかねのことを考えたらどうということはない。死ぬ気で頑張ればどうにでもなる、そんな気持ちを抱きながら麻人は帰路に着くのだった。

 タクシーを捕まえ麻人はあかねと住んでいるバレンタインハイツを目指す。いつもは何も思わない道なのに、早くあかねに会いたいという気持ちが強くて焦りを生む。守ると誓った、泣かせないと誓った、それほどにあかねのことが大切だから。

 暫く時間を掛けてようやく到着し、麻人は玄関まで来た。

 

「……はぁ……はぁ……っ!」

 

 乱れた息のまま、麻人は玄関のドアを開けてリビングに行く……するとそこにはもちろんのことだがあかねが居た。

 

「……麻人?」

「……っ!!」

 

 ……思った通りだった。

 あかねは一人で夕食を取っていた……目尻に小さく涙を浮かべた状態で。あかねとしてもいきなり麻人が帰ってきたことは予想外なのかポカンとしているが、すぐに我に返って涙を拭いて笑顔を浮かべた。

 

「お、おかえり麻人。ビックリした……!?」

「あかね!」

 

 もうそれは反射だった。

 泣いているあかねの姿を見た麻人はすぐさま彼女に駆け寄り、その体を思いっきり抱きしめる。あかねはいきなりのことに更に驚いたが、やはり久しぶりにこうして抱きしめられたことが嬉しかったのだろう。困惑の表情は鳴りを潜め、幸せような表情となって麻人を抱きしめ返した。

 あかねを抱きしめることで、彼女の存在を直に感じられ安心する。どれだけそうしていただろうか、お互いに満足したのかやっと腕を離し、当然のことながらあかねが疑問を口にした。

 

「えっと……今日は帰らないんじゃ?」

「そのつもりだったけど……あかねに会いたかったから」

「……~~っ! もういきなりそんなこと言わないでよ。照れちゃうから!」

「嫌だった?」

「嫌なわけない! 凄く嬉しい!」

 

 あかねが浮かべたのは満面の笑み、麻人は確信した。帰って来て良かったと。

 

「俺、少し考えたんだ。仕事ばかりになって、あかねを蔑ろにしてたことにさ」

「そ、そんなことないよ! 私は――」

「いや、そうなんだよ。だってあかね……寂しかったんだろ?」

「っ!」

 

 図星を突かれたようにあかねは固まった。さっきまでは嬉しそうに笑顔だったけど、こうして指摘してしまえばあかねは素直になって表情に分かりやすく出る。麻人が忙しいのは分かっている、だからこそ麻人のことを想ってあかねは我慢していたのだ。でもやっぱり本当は、あかねはいつだって麻人と一緒に居たいと思っている。もっともっと恋人として甘い時間を過ごしたいとずっと願っていたのだ。

 言葉に出さずともあかねが何を考えているのか、ずっと恋人だった麻人には分かる。

 

「ごめんな。気づくの凄く遅くなったけど、これからはあかねとの時間をもっと取れるようにするよ。何だかんだ俺も寂しかったんだ。大好きなあかねが傍に居ないことに」

「あ、麻人……っ!」

 

 麻人の言葉を聞いて限界が来たのかあかねは麻人の胸に飛び込んだ。

 胸に顔をこすりつける様に涙を流すあかねを麻人は再び強く抱きしめる。大人になっても変わらない、あかねはやっぱり寂しがりやだ。大人になって成長したあかねだけれど、こういう部分は変わらないんだなと感慨深いものを麻人は感じる。

 泣かせないと誓ったのに泣かせてしまった……でも今日だけだ。これからは今以上にあかねを大切にする。彼女が望むことは可能な限り叶え、そして傍に居ることを麻人は改めて誓うのだった。

 

「あかね、俺は――」

 

 今一度好きだと、そう伝えようとした時……ぐぅ~っと麻人のお腹が音を立てた。

 

「……あ」

「……ふふ」

 

 参ったなと麻人が照れながら頭を掻くと、あかねはすぐにご飯を用意するねと言って準備に取り掛かった。その日は本当に久しぶりに二人揃ってご飯を食べたように思える。麻人にしてもあかねにしても、終始笑顔が絶えなかったあたり今までの反動が出てしまったのだろうか。

 楽しい夕食を終え、そして――。

 

「麻人。好き」

「俺もだよ。あかね」

 

 二人はベッドの上に居た――裸の状態で。

 二人でご飯を食べるのが久しぶりなのだから、こうして夜の営みをするのも久しぶりだった。暫くご無沙汰だったのもあったし、何よりお互いに今回の出来事を経て気持ちが一層強くなったのも手助けし、今までにないほどに激しい交わりだった。

 麻人の腕を枕代わりにしているあかねは本当に幸せそうで、そんなあかねを眺めている麻人も同じく幸せだった。やっぱりあかねは麻人にとって宝物、彼女の笑顔は麻人の生きる活力と言ってもいいほどである。気づくのに遅くなったけれど、もうあかねに寂しい想いなんて絶対にさせない。

 

「……えへへ」

 

 決して人様に見せられない締まりのない顔をしているあかねを見つめながら、麻人は彼女の温もりを感じながら今と言う掛け替えのない時間を過ごすのだった。

 

 

 

 

 

 一方で、あかねは麻人以上の幸せを感じていた。

 寂しく過ごしていた日々、いつまで続くのかと憂鬱になっていた時に麻人が帰ってきた。彼に心配を掛けないようにと気丈にずっと振る舞っていたが、それでもやはり寂しいモノは寂しかった。だからこそ、こうして心配してくれたことが嬉しかった。同時にもっともっと、今までよりもっと麻人のことが好きになった。

 寂しかった想いは麻人の愛で埋められ、麻人と交わりたかった欲求は今回のことで一気に解消された。いつもはあっさりしている麻人なのに、今日はいつも以上に激しく、もっと欲しいと言わんばかりにあかねを求めた。激しい交わりだったがあかねに不満は一切ない、それどころか愛する人にあそこまで求められたのはあかねにとって天にも昇るほどだったのだ。

 

(凄く気持ち良かったな。それに……ふふ、麻人ったら何度も好きって言ってくれた。それが何よりも嬉しい)

 

 麻人に寄り添えば、感じるのは彼の体温だ。不安だった心が一気に洗い流されるそれは麻薬のようで、どうしようもないほどに麻人のことが好きなんだなとあかねは実感する。

 そして――。

 

(……本当に、麻人以外の男って気持ち悪い)

 

 麻人に気づかれないように、あかねは今ここには居ないある男たちへの嫌悪をその瞳に乗せる。あかねを嫌らしい目で見てくる専門学校で結成されたサークルの男、ネガティブなことばかり口にして本当の自分を隠す浪人生、極めつけはバイトの時間を無理やり夜に入れようとするバイト先の男……その男に関しては麻人の叔父であるが、あかねからしたら嫌悪感しか感じない薄汚い家畜以下の屑共だった。

 あかねにとって麻人以外の男は居ないも同然であり、愛すのも愛されるのも麻人以外考えられない。あかねという女性はどうしようもないほどに、麻人という男性しか見えていなかった。

 夢を語り合い、惹かれ合った、運命を感じた麻人を愛することだけがあかねにとっての生きがい。

 

「麻人、好き」

 

 更に密着するように、大きく育った胸も押し付ければ麻人は頬を赤くして照れてくれる。自分の体で興奮してくれる、これだけでもあかねにとっては絶頂ものである。ブルっと震えた体、それを勘違いして麻人は大丈夫かと気遣うが、馬鹿正直に今ちょっとイッちゃったなんて流石のあかねも恥ずかしくて言えない。まあでも、お互いの体はとても正直である。

 

「あ、麻人のが……」

「……あかねがエロいのが悪い」

「ふふ♪ 麻人の前だけだよ……もう一回する?」

 

 そう言えば麻人も再び火が付いたのか、第二回戦へと突入するのは当然のことだった。

 再び与えられる愛と快楽にあかねの心も燃え上がる。

 

(麻人、私を絶対に離さないでね? その代わり私も、絶対にあなたを離さないから)

 

 守ると誓った麻人、離れないと誓ったあかね。意味合いの違いがあれど、二人がお互いを想っているのは間違いなく本物、それは誰にも邪魔されることのない二人の間に培われた大きな繋がりだった。

 

 

 

 

(……元気の無さを演じて縛り付ける……ちょっと気が引けたけど、麻人にずっと一緒に居てもらうためなら……うぅ~~っ! やっぱりちょっと罪悪感感じるよぉ!)

 

 あかねの心の叫び、その真の意味を理解できるのはどこまで行ってもあかねだけであった。

 




今回は死者が出る可能性微レ存。

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