思い付きのネタ集   作:とちおとめ

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頼れるのは防衛本能と普通の価値観と普通の世界観ってことで。

前回の既に犯された後で救済はちょっと難しいのでこんな感じに。
百合華の場合は割と綺麗に纏めれたのでああはなりましたけどこっちではちょいきっついかなと。


ネトカノ IF

「……なんか盛大にクソみたいな夢を見た気がする」

「いきなりどうしたのよ瑞希」

 

 陸上部の合宿ということでいつもと違う環境下での朝だったが瑞希の目覚めは最悪だった。何となく覚えている夢の内容、それは絶対に認められないほどに瑞希にとっての不幸で塗り固められていた。

 

「どうしたのよ。彼氏と喧嘩する夢でも見た?」

「……そんな感じ」

 

 友人の言葉に瑞希は落ち込んだ様子で下を向いた。

 瑞希には誰よりも大好きで大切な幼馴染の彼氏が居る。ずっと抱いていた淡い気持ちを伝え合い付き合うことになった相手だ。

 

「……壮太に会いたいな」

 

 風見壮太、そんな名前の彼氏だ。

 瑞希の彼氏である壮太はあまり目立つような男ではなく、どちらかといえば大人しく静かな方だ。男勝りで活発な瑞希が傍に居ることで必然と騒がしくなってしまうが、それこそが二人の持ち味であり相乗効果のようなものもあって大変相性が良かった。

 

 男勝りでガサツな部分を少しずつ直そうとは思っているが、そんな瑞希が一番好きなんだと真っ直ぐに伝えられてしまったら何も言えなくなる。そもそもの話、瑞希を含め周りの女友達もそういう認識だが彼女はかなりレベルの高い美少女だ。

 競技用の服を着ている時は凛々しく、かと思えばその自己主張の激しい大きな胸部は男の目を誘う。鍛え上げられた肉体は逞しく、陸上という世界の中で将来が有望視されるほど瑞希は期待されていた。

 

「ねえ、私帰りたい」

「やめなさい」

 

 恋人に会いたいから帰る、そんな瑞希の言葉を友人はすぐに却下した。

 元々今回の合宿は一番近い大会を見据え、更にその先の将来に繋がるために必要だと計画されたものであり瑞希自身もその将来の為に参加したものだ。

 

 だが、こんなに傍に壮太が居ないことで切ない気持ちが続くなら参加しない方が良かったなと思うのも確かだった。彼氏という存在に気を向けすぎて陸上を疎かにするわけではないが、そんなことを考えてしまうくらいには壮太という存在は瑞希の中で大きかった。

 

「アンタ本当に彼氏のこと好きよね」

「当たり前じゃない。この世の誰よりも好きだわ」

 

 好きなんてモノではない、もはや愛していると言っても過言ではない。

 ただの幼馴染なのによく好きになったよねと言われるが、逆にどうして仲の良い幼馴染が傍に居て好きにならないんだと反論することも少なくない。ずっと一緒に居たからこそ気持ちが育まれ、ずっと一緒に居たからこそ好意は恋情へと昇華した。

 

「ま、私はアンタと違ってもう男の味を知った大人なんだから♪」

「それだけ聞くとただのヤリマンにしか聞こえないんだけど」

「ヤリマン言うな。私は壮太一筋よ」

「はいはい。いつまでもお幸せに」

 

 言われなくても幸せになってやるわ、そんな言葉で瑞希は会話を終わらせた。

 

「……?」

「……あいつ」

 

 さて、そんなこんなでそろそろ練習が始まると言ったところで顧問が姿を現わした。彼は周りをチラチラと見ながら瑞希を目に留めて近づいて来た。

 

「涼森、今日はお前に個人指導をしようと思っている。準備が出来たら部屋に来い」

 

 顧問はそれだけ言って去って行った。

 その後ろ姿を見送った瑞希は溜息を吐いた。隣で友人がご愁傷様と笑っていたが、すぐにその表情は真剣なものへと切り替わった。

 

「さてと、色々準備しよっか?」

「そうだね。これも自己防衛ってことで」

「大丈夫。アンタは大事な友達だもの、アタシが守ってあげる」

「ひゅ~、カッコイイね。ま、頼むよ」

「あいあいさー」

 

 二人が一体何のやり取りをしているのか、それはすぐに分かることになるのだった。

 瑞希は顧問に言われたように部屋に向かったが、どうやらトイレに行っているのか部屋には居ない。まあそれを見計らってのことだが、だからこそ色々と用意が出来るというものだ。

 

「不用心だなぁってアタシたちが言うのもあれなんだけど」

「まあね。そこにカメラ置いておく?」

「うん。後は……」

 

 そして色々と準備が終わり、部屋に残っただけの瑞希の元に顧問が戻ってきた。

 部屋に入ってきた顧問は鍵を閉め、瑞希の肩に手を置いた。

 

「この手は何ですか?」

「なあに、すぐに分かることだ」

 

 肩に手を置かれた瞬間蹴りの一発でも入れてやろうと思ったが、一応友人も控えてくれているので焦ることはしない。

 

「お前は本当に良い体をしているな。確か彼氏が居るみたいだがあのモヤシには勿体ないだろう。どうだ涼森、俺の女にならないか?」

「正気ですか?」

「あぁ。俺はすこぶる正気だぞ」

 

 そしてトンと体を押されて瑞希は背中から倒れ込んだ。

 倒れた瑞希に顧問が覆い被さるようにして逃げ場を封じた。これから瑞希の瑞々しい体を味わう、それが待ちきれないかのような下種な表情は嫌でも嫌悪感を煽る。

 

「レイプは犯罪ですけど?」

「知ってるか涼森。相手が同意したのならレイプにはならない。安心しろ、お前はすぐに従順な雌になるからな」

「……ふ~ん」

「やけに冷静だがまあいい。それじゃあ俺が男を教え込んでやるとしよう」

 

 男を教え込む? 馬鹿を言うなと瑞希はキッと睨みつけた。

 トントンと小さく音が聞こえた。瑞希を犯そうと躍起になっている顧問は気付いておらず、そのまま瑞希の体に手を這わせながら顔を近づけてくる。瑞希はやっぱりこうなったかとため息を吐き、思い切って足を振り上げた。

 

「があっ!?」

 

 何をしたのか、それは簡単で男の金的を蹴り上げただけに過ぎない。

 いかに屈強な男であってもその部分だけは鍛えることは出来ない。モロに瑞希の蹴りをソコに受けた男は苦しむように下半身に手を当てて瑞希から離れた。

 

「す、涼森てめえ……!」

「あのさぁ先生、そう言うのが通じるのはエロ漫画とかの世界だけだよ」

 

 心底見下げ果てたと言わんばかりの瑞希の表情に男は痛みを堪えて再び掴みかかろうとするのだが、それよりも早く衣装棚が開き瑞希の友人がカメラを構えて現れた。

 

「バッチリ撮れたけど……先生アンタちょっと典型的な間男過ぎない? その間抜けっぷりに呆れるよりもこんな人を顧問として採用した学校自身に呆れるわぁ」

 

 二人の女に見下ろされる不格好な男という構図、男からすれば生意気なその視線にイラつきはしてもまだ痛みは残っていて満足に動けない。実を言えば男はこれまで数多くの女子高生を食ってきた。それと同じことをここでもするだけだったのだが、まさかこんな反撃を食らうことになるとは思わなかった。

 

「その動画で俺を脅す気か?」

「あはっ♪」

 

 それは良い提案だねと笑顔を浮かべた瑞希だが、当然そんなことをするつもりはない。瑞希は男の前に屈むようにして顔を近づけた。その瞬間、笑顔は冷酷なモノへと切り替わり男を恐怖させた。

 

「弱みを握って脅すような行為は……私としては別に良いけれど、優しい彼氏を持つ身としては彼に言えないことを抱えたくはないからね。大人しく警察の世話になりな」

「証拠もバッチリだしね。あぁでも先生、一億円くらいくれたら見逃しても――」

「おい」

「ダメみたいですぅ。大人しく縄についてくださいな」

 

 夏休みを活用した陸上部の遠征合宿はこうして幕を下ろした。

 証拠がしっかりと残っており男に逃げ場はなく、学校側も責任問題と問われることになった。陸上部としては痛手だが、自分たちの娘が毒牙に掛からなかっただけでも良かったと喜ぶ親も多かった。

 

 その後、陸上部は色んな意味で大変な立場だったが新しく担当になった女性の顧問は生徒を大切にすると評判ですぐに練習も再開することになった。まだまだ長い夏休み、練習の合間にある休みの日は基本的に壮太の家に瑞希はお邪魔していた。

 

「ってことがあったんだよね」

「本当に無事で良かったよ……」

「あはは、泣かないの」

 

 瑞希が無事だったことに涙する壮太をその豊満な胸元に抱きしめた。男としては情けない姿のようにも思えるが、そんなものは他人に言わせておけばいいと瑞希は思う。彼女だからこそ彼氏には甘えてもらいたいし、こうやって甘やかせるのも瑞希は好きなのだ。

 

「まあ彼氏の居る女に手を出そうとした男に情け容赦なんていらないしね。お父さんとお母さんも怒り狂ってたし」

 

 ちなみに、今回のことは出来るだけ大事にしないでほしいと校長と教頭が頭を下げてきたが当然瑞希の両親は納得などしなかった。むしろそんなことを傲慢にも要求してくるとは何事かと瑞希の前で怒り狂っていた。

 

 一歩間違えばレイプを受けていた被害者、その立場を利用するように瑞希は全然トラウマになってはいないがそうであると思わせるかのようにプルプルと体を震わせていたが……とはいえ今回のことは明らかに瑞希が被害者なので学校側としても変な要求は出来ないわけだ。

 

「……でも」

「?」

 

 少しだけ、瑞希には我慢できないことがあった。

 壮太が首を傾げていると瑞希は真っ直ぐにゴミ箱に近づいていく。中を覗き込むとティッシュがクシャクシャになって入っていた。

 

「クンクン」

 

 時間は経って匂いは変わっているが、それが何であるかは瑞希には良く分かる。

 

「私が居ない間、もしかして別の女で抜いた?」

「……えっと」

 

 別の女というのは浮気と言う意味ではなく、おかずにしたという意味のことだ。目を逸らした壮太に追い打ちを掛けるように再び体を寄せた瑞希の表情は正に捕食者のそれだった。舌なめずりをして顔を寄せてきた瑞希に恐怖と同時に興奮を覚えたのはもしかしたら……壮太には若干のMっ気があるのかもしれない。

 

「それは許せないなぁ。こんなに可愛くて美人でエッチで一途な彼女が居るのにAVなんかで代わりにするなんて……許せないなぁ?」

「……瑞希さん?」

「しよっか」

「え?」

「しよっか♪」

「……おう」

 

 まあ何はともあれ、この二人の仲が引き裂かれることはなかった。

 瑞希が見た夢の続き、もしかしたらその先の世界もあるのかもしれない。だが今ここに居る瑞希は確かに壮太の隣に立っている。若干気持ちが重すぎて病んでいる感はあるものの、間違いなくお互いが幸せだと思える日常なのは確かだった。


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