思い付きのネタ集   作:とちおとめ

44 / 45
原作:ネトカノ

良い落としどころかなって結末です。


ネトカノ

 俺、風見壮太には大切な幼馴染が居る。

 ずっと一緒に過ごして来た女の子であり、高校生になってから付き合うことになった最愛の女の子だ。彼女の名前は涼森瑞希といって、少しばかり男勝りだが陸上部のエースとして日々練習を頑張っている。お互いに同じ大学に行くことを誓い合い、瑞希は陸上で推薦をもらうため夏休みを通して合宿を頑張っていた。

 

 あまり遊ぶ時間はなくなってしまったけど、お互いに誓いの為に頑張っていると思うと俺もそんなに寂しくはなかった。電話をすればいつでも話は出来るし、家は近いので会うことも簡単だからだ。

 

 俺は彼女を愛している……だけど、そう思っていたのは俺だけなのかもしれない。

 

「……………」

 

 俺はパソコンの画面に映し出されていた動画を見て唖然としていた。

 魂が抜けるといった表現の方が正しいかもしれない。もうすぐ夏休みが終わるといった頃、俺の元に差出人不明のDVDが届いたのだ。怪しいとは思ったが、送り先は俺だったのでそのまま部屋に持って帰りパソコンで見ることにした。

 

 映し出された映像、それは俺を絶望の底へと叩きつけた。

 俺の愛した彼女が、最愛のあの子が……瑞希が誰とも知らぬ男とセックスをしていた。陸上で鍛え上げられた強靭な肉体、豊満でもあるスタイルの良さを惜しみなく使うように男に奉仕をしていた。俺は最初自分が何を見ているのか理解できなかったが、不思議と頭は冷静になれた。

 

「……………」

 

 瑞希と男は楽しそうにセックスをしていたが、会話の節々から男が陸上部を担当する顧問であることが分かった。瑞希の体がずっと欲しかったや、俺を彼女を寝取られたクソみたいな男だと罵る言葉も数多く聞こえてきた。

 

『わたしぃ、先生と一緒に住むことにしたから♡ 学校も辞めるからもう、壮太とは一緒に居られないの』

 

 ……………。

 

『だから』

「だから」

 

 画面の中の瑞希と俺の後ろに立つ誰かの声が重なった。

 俺がゆっくりと振り向くとそこには変わらない幼馴染の姿があった。でもその纏う雰囲気は全く違っていて……まるで彼女ではないと思わせるかのようだった。

 思えば、こうして彼女が俺の部屋に予定なく勝手に入ってくるのも昔からだった。気づけば背後に立っていて驚かされることもあったが、それだけお互いに心を許している仲でもあったのだ。

 

 俺と目が合った瑞希は制服を着ていたが、スカートの丈はとにかく短く下着が見えていた。ブラは着けてないのか頂点のソレはくっきりと見えていた。瑞希は薄く笑みを浮かべながら言葉を続けた。

 

『私と別れてほしいなぁ』

「私と別れてほしいなぁ」

 

 そのシンクロした言葉と共に動画は終わりを迎えたようだ。

 彼女の見つめる先に居るのは俺一人、さっさと帰ればいいのにずっと彼女は俺の言葉を待っている。唖然とした様子の俺を楽しそうに見つめる彼女の様子に俺は……不思議と何も思わなかった。

 

 自分でも驚くほど冷静であり、怒りに震えてしまうわけでもない。

 

「……悲しいもんだな」

 

 ふと言葉が漏れて出た。

 悲しい、そんな言葉が何も隠されることなく出てきた。

 

「フフ、だって仕方ないでしょう? 壮太より先生の方が――」

「……瑞希が可哀想でさ」

「……はっ?」

 

 怒り、悲しみ……ないわけではないが少しはあった。

 だけどそれよりも俺は瑞希のことが可哀想だった。結局のところ、彼女はあの男に変えられたのだ。今までの価値観も論理観も全て壊されて、ただただあの男が望むままの女にさせられたのだ。俺の言葉を聞いて首を傾げる彼女だが、別れてほしいと言われれば別れるさ。少なくともあんな動画を見せられた後となってはもう俺は瑞希を好きで居ることは出来ない。

 

「瑞希……いや、“お前”学校辞めるんだってな?」

「?? ……そうよ。先生と一緒に過ごすから」

「陸上はどうするんだよ」

「辞めるわ。もう必要ないし」

「あんなに頑張ってたのにか?」

「そうよ。何度も言わせないで」

 

 ……なるほど、もう瑞希は本当に俺の知る彼女ではないらしい。

 女の子にお前というのは気が引けるが、俺はもう彼女を名前で呼びたくはなかった。女々しいと思われるかもしれないが、俺が名前で呼ぶのは記憶の中に居る彼女だけだ。

 

「……あぁそうか」

 

 俺はそこで納得した。

 俺はもう今の段階で瑞希のことは何も思ってないのだ。無関心とまでは行かないまでも、目の前に居る彼女を瑞希と思えないからこそ引き留めたりする気持ちは一切なかった。

 

『ねえ壮太! 私は絶対に陸上で一番取ってみせるから!!』

 

 あんな風に心の底から俺の大好きな笑顔を浮かべてくれた人は……もういない。

 

「お前が今まで積み上げてきたもの全部捨ててまでそうしたいと思うならいいんじゃないか? もう俺には関係のないことだし」

「ちょっと壮太、いきなり他人行儀じゃ――」

「馴れ馴れしく名前を呼ぶな!!」

「っ!?」

 

 思えば彼女にこうして怒鳴ったのは初めてかもしれない。

 周りに囃し立てられるくらいに仲が良かったからこそ、軽いじゃれあいはあっても喧嘩なんて以ての外だった。俺と彼女は……それだけお互いに想い合っていたんだ。

 

「……すぅ……はぁ」

 

 大きく息を吸い込んで吐き出した。

 何も思わないとはいったけど無理だったらしく、怒鳴ってしまった自分の頭を冷やすように深呼吸をすれば落ち着いてきた。そうなると一つだけ、俺は彼女に聞きたいことがあった。

 

「お前は……瑞希は最初からあの男とそういう関係だったのか?」

「違うわ」

「……襲われたのか?」

「最初はそう。でも今はお互いに愛し合ってるから」

「……なんでその時、俺に相談してくれなかったんだ?」

「壮太に嫌われたくなかったから……だけど」

 

 ……ふざけんなよ、なんで一人で抱え込んだんだよ馬鹿が。

 

「嫌いになんかなるわけないだろ……俺がどれだけ瑞希のことを好きだったと思ってるんだ」

「……………」

 

 もう後の祭りだな。

 俺はもう話すことはないと瑞希の背中を押して外に追いやった。最後の最後まで俺の知らない顔をしていた彼女、たぶんもうここで別れたら彼女と会うことはないんだろう。そうだとしてもやり直そうとか無様に縋りつくことだけはしたくなかった。

 

『壮太はカッコいいよ。私が保証する! そんな壮太が私は大好きなんだから!』

 

 俺の大好きな彼女がそう言ってくれたのだ。なら俺は絶対に泣きはしないし縋りつきはしない。

 

「それじゃあな」

 

 返事を聞くことはせず俺は玄関を閉めた。

 しばらく立ち止まっていたが、瑞希はすぐに歩いて行ってしまった。彼女の気配が遠くに行ったのを実感した瞬間胸に襲い掛かってきた強烈な悲しみを堪えるように、俺は蹲って涙を流すのだった。

 

 

 

 

 それからの日々は目まぐるしく過ぎ去っていった。

 瑞希は宣言通り高校を中退し、将来を期待されていた選手としての道は終わった。当然瑞希のことについて俺は色んなことを訊かれたが何も分からないと言葉を返すだけだった。ただ、彼女の親御さんについては隠すことも出来ず話してしまい、その流れで厳正な調査があの教師に行われ彼はいつの間にか消えていた。

 

 その後、彼と瑞希がどうなったかを俺には知る由もない。

 風の噂では色々と危ないこともしていたことかで逮捕されたことは聞いたが結局はそれだけだ。

 

「……さてと、そろそろだっけか」

 

 数年の月日が流れれば俺も大分変わったものだ。

 瑞希と一緒に行くと約束していた大学だが、元々やりたいこともあったのでそこを目指すことは変わらなかった。大学に入ってから一年、俺が二年になった時になんと後輩の彼女が出来たのだ。

 

 今日はその彼女との待ち合わせ、これからデートと言ったところである。

 スマホで時間を確認していると背後から元気な声が響き渡った。

 

「少し遅れたっすか~?」

「いや全然……うん、遅れたな?」

「……うぅ、化粧に時間を取られ過ぎたのがマズかったなぁ。ごめんなさい」

「いいよ全然」

 

 頭を下げた彼女に俺は笑みを浮かべて大丈夫だと口にした。

 日に焼けた小麦色の肌からにじみ出るスポーツマンらしさ、何を隠そう彼女は陸上部に所属している。何の因果か瑞希と同じ陸上を頑張っている女の子と再び俺は付き合うこととなったのだ。俺にとってある意味トラウマともいえる響きだが、いつまでも過去に囚われ続けることは自分自身の為にもならない。

 

「先輩優しいっすよね。なんか女性の扱いが本当に丁寧っつうか、あの……最近自分のガサツさが嫌になって来てるんすけど変わった方がいいっすか?」

「必要ないよ。今の君が一番だって」

「……ほんと、私が好きになった人はかっこいいっす」

 

 そう言ってくれると嬉しいもんだ。

 出会いは突然で、キャンパス内で迷子になっていた彼女を案内したところから俺たちの時間は始まったのだが、それから彼女は俺を見かければすぐに近寄ってきて声を掛けてくる。その小動物っぽい部分も可愛いが、大人の仲間入りを果たそうとする大学生ともなればそのスタイルも完璧で……俺は彼女にとって頼れる先輩であろうと頑張るも、何度彼女のスキンシップにドキドキさせられたことか。

 

「ほら先輩、せっかくのデートですから早く行くっすよ!!」

「ちょ、落ち着けって!」

 

 ……やっぱり子供っぽい部分はあるな。

 彼女という存在に恐れがあった高校時代、どうも俺は顔に出やすいらしく彼女にはバレていた。具体的に何があったのかを尋ねられることはなかったが……そこは気を遣ってくれたんだろう。彼女のその優しさに感謝をしつつ楽しい時間を俺たちは積み重ねていった。そうなってくると過去に向かって振り向くことは自ずと少なくなり、俺は記憶の中の瑞希のことすら忘れて行った。

 

「先輩が暗い顔をする時は昔の女を思い浮かべてる時っすね!」

「……なんだよいきなり」

「ふっふ~ん! 私は分かるっす! なんたって先輩の大好きな彼女っすからね!」

「大好きなのは当たり前だけど」

「……あう」

「いやそこで照れるんかい!」

 

 だって嬉しいんすよ! そう大きな声を上げた彼女に俺は苦笑が零れた。

 そうだ、彼女のこういうところに俺は何度も救われた。彼女の底なしの明るさが俺を照らし、もう一度恋愛をする勇気をくれたのだ。

 

「ねえ先輩、浮気なんて絶対にしちゃダメっすよ? したら殺して私も死んでやりますから」

「なんで君は時々怖いことを言うのかな?」

 

 そしてこの子……ちょっと病んでる部分があるがそれも愛嬌みたいなものだ。

 それから俺たちはデートを楽しみ、偶にはホテルでイチャイチャしないかととある場所に向かう。まあ言ってしまうとラブホである。彼女と腕を組みながら繁華街を歩いていると、とある大人向けの店の前で客を選別しているような様子の女性が居た。

 

「……? ……っ!」

「……………」

 

 その目が合った女性に俺は何も思うことはなかった。

 ただ……やっぱりそうなったかと、幸せになることはなかったんだなって気持ちが強かった。俺を見て驚く女性を通り過ぎる瞬間、俺の腕を抱く彼女がジッと女性を見つめた。

 

「……先輩? 今見惚れてたっすか?」

「見惚れてません」

 

 見惚れてなんかない嘘じゃないってば。

 そう告げると彼女はそうっすよねと輝く笑みを浮かべるのだった。

 

「ほらほら、早くラブホに行ってイチャイチャラブラブするっすよ! ほらほら壮太先輩!!」

「だああああ! そういうことを大声で言うんじゃない!!」

 

 本当に今の彼女は何というか……とてもパワフルです。

 毎日毎日振り回されることは多いけれど、楽しい日々だと言うのは自信を持って言える。辛い出来事があっても腐らず、前を見据えれば自ずと光は見えてくる。どんなに辛い事でも忘れることが出来てそれ以上の幸せがきっと待っている。

 

 俺はそれをこれでもかと実感した。

 

「……ありがとな」

「うっす!!」

 

 本当に幸せだ。




この後輩も寝取られたら、なんて鬼畜所業はやめましょう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。