“あんてきぬすっ”の作画は色んなアニメも見習ってもろうて。
香澄姉が変わった。
変わったというのは見た目に変化があったというか、性格が変わったとかそういうものではない。何というか、やけに僕の傍に居たがるようになったのだ。まあいつぞや決めた目標よりも大幅に付き合うことは早くなってしまったけど、恋人になったというだけでここまでの変化が起きるのだろうか。個人的には大好きな香澄姉とイチャイチャ出来るのは嬉しいので良い事だけど。
「綾斗君♪」
「何?」
「呼んでみただけだよ」
「……何だよそれ」
「うふふ~」
一つ屋根の下に居るということでほぼほぼ香澄姉と同じ時間を共有することになる。平日はお互い学校に通っているということで、帰ってくるとその間の寂しさを埋めるように香澄姉は引っ付いてくる。休日になると朝から晩まで、それこそ物理的に一心同体って感じで傍に居るのだ。
「……………」
あっとそうだ。簡単にではあるがあの後のこと話そう。香澄姉を眠らせて犯し、ビデオを撮ったあの男は逮捕された。いいとこの金持ちで色々とあったみたいだけど、修羅のように怒り狂った叔父さんと叔母さんによってちゃんと豚箱に放り込まれた。
安生だか安西だか……別に知りたくもない相手なので名前がうろ覚えだ。けどそれでもいいと思っている。あの男のことは憎んでいるけど、金輪際関わることもなければ顔も見ることはないだろうから。
「……香澄姉」
「なあに?」
耳元で甘く囁かれる言葉に背筋が震えそうになる。何度目になるか分からないが、僕は年齢の割りに背も低くて幼く見える。香澄姉と並んだらそれこそ年の離れた弟にしか見られないほどなのだ。だから香澄姉が好きな一つの体勢として、体の小さい僕を香澄姉が自身の膝に乗せる形で後ろから抱きしめていた。
「……この体勢は色々とヤバいんだけど」
「ふふ、お姉ちゃんに興奮する?」
「……します」
いやするでしょうよ、そう声を大にして言いたいね。香澄姉は本当に美人なのだ。見る人にはよっては綺麗よりも可愛いかもしれない。でもそれは香澄姉が間違いなく美少女だという証明と言えるだろう。それにスタイルも凄く良くて首に伝わる柔らかさは至高の一言。そしていい匂いもするしで……もう最高過ぎて幸せなのだ。
「いいんだよ? 綾斗君がしたいことはなんだってしてあげる。遠慮なんてせずに、欲望のままにお姉ちゃんに襲い掛かってもいいんだからね?」
「……その、それは夜でお願いします」
「分かった。言質取ったからね?」
……また今日も疲れる夜になりそうだ。
まあでも、こうして香澄姉に抱きしめられているのが一番好きかもしれない。夏とかだとちょっと勘弁したいけど、暑さよりも涼しさを感じるこの時期なら丁度いい。
「……あ」
「どうしたの?」
ふぅっと耳に空気を当ててくる香澄姉に変な気持ちを抱きつつ、僕は一昨日のことを聞いてみた。
「そう言えば香澄姉、あの友達のことは……」
「あぁ……わかんないかな。だってあの子、もう学校に来てないらしいし」
「……え?」
あの友達、そして香澄姉が口にしたあの子は共通している人物だ。あのビデオに映っていた男と一緒に居た女の人、つまり香澄姉を誘い出して罠にハメたその人だ。男が逮捕されたということで、あの女の人にも言いたいことがあると香澄姉は本当に信頼できる友達と会いに行った……でも、学校に来てないってどういうことなんだろう。
「なに? 綾斗君はもしかして気になるのかな? 嫌だよ、私以外の女の子を気にしちゃ」
「そういうわけじゃないよ。というか香澄姉も知ってるでしょ? 僕がどれだけ香澄姉のことを好きなのかってことをさ」
「……そうだね。それもそっか」
言葉は勢いを失くし、香澄姉はもっと僕に抱き着くように密着した。後ろからでも香澄姉の大きな胸が苦しそうに形を歪めているのが分かる。これはあれだ……照れているんだ香澄姉は。さっきまでの発言は今の体勢も大胆なのに、こうしていざ言葉を伝えると香澄姉は照れてしまうのだ。
「……なんか悔しい。こんなに綾斗君は小さくて可愛いのに、ふとした時に私なんかよりとても大きく見えて大人っぽく見えるんだもん」
「もしそうならそれは香澄姉のおかげかな……ちょっといいかな香澄姉」
「? うん」
お腹に回っていた腕を外して僕は立ち上がった。こうやって立ち上がるとやっとソファに座っている香澄姉の顔の位置より高くなる……あれ、でもそう考えると僕ってどんだけ小さいんだ。
ちゃんと毎日牛乳は飲んでるんだけど、その努力はあまり反映されてくれない……っと今はこんなことはいいんだと僕は頭を振った。
座り続ける香澄姉と向き合い、僕は口を開こうとして……あれ~?
「……ん」
「……?」
「……ん!」
「……えっと」
「……んん!!」
「……………」
何だろう、香澄姉が腕を広げた状態で僕に視線を向けている。まるでそう……こっち向いたまま抱き着いてきなさいって暗に言われているようだ。……こうなると香澄姉は頑固だからなぁ、僕はそれが合っているのか分からないけど香澄姉の期待に応えるようによっこいしょと足を上げる。
香澄姉に向き合うように上り、さっきと体勢が逆になる形で香澄姉の膝の上に乗った。
「……これで間違いないよね?」
「うん♪ ふふ、綾斗君だぁ!」
今度は正面からギュッと抱擁された。
顔がまるで胸にサンドイッチされるようにされるけど……あぁ、この感覚幸せ過ぎておかしくなりそうだ。って違うだろ! 僕はちゃんと香澄姉に伝えたいことがあったんだ。
トントンと香澄姉の肩を叩くと、香澄姉はあははと笑いながら体を若干離してくれた。それでも距離が近いのは相変わらずだけど、ちゃんと口元が自由になったからこれで話をすることが出来る。
「あのさ、僕が強く在れるのは香澄姉のおかげなんだよ」
「私の……?」
「うん。だって僕、香澄姉が大好きだもん。あの時の香澄姉を見て僕の中で何かが変わったんだ。僕にとって香澄姉は憧れだった……でも、香澄姉も僕と同じように弱い部分もあるんだって知った。香澄姉の身に起きたことは想像を絶するものだったけど、今にも消えてしまいそうなこの人を僕は絶対に失いたくない! 守りたいって思ったんだ!」
「……………」
香澄姉の頬が段々と赤くなる。でも、その潤んだ瞳はずっと僕を見つめ続けていた。
「それくらい僕は香澄姉を想えば強くなれるんだ。……その、やっぱりこんなことをいくら口にしても僕はこんな形で自信は消えちゃいそうだけど、それでもこの想いは誰にも負けないよ。僕は世界中の誰よりも香澄姉が――」
それ以上の言葉を口にすることは出来なかった。開こうとした口を香澄姉の口に押さえられたからだ。触れ合うだけのキスではない、しっかりと舌も使って全力で香澄姉は僕とのキスを楽しんでいた。
「……ぷはぁ!」
「……か、香澄姉?」
突然キスされたことに驚いたのは当然だけど……こう言ってはなんだが僕は香澄姉がまた我慢できなくなったのかと思った。でもそうじゃないらしくて、今香澄姉が浮かべている表情は真剣そのものだ。
僕たちの体勢に関しては正直締まりがないけど、それでも今この場に漂う空気は真面目である。
「ねえ綾斗君、ちょっと早いけど言いたいことがあります」
「……何?」
今までに見たことがない香澄姉の表情に、僕も自然と背筋がピンと伸びるのを感じた。一体何を言われるんだろう、そんな不安を抱いた僕に届けられた香澄姉の言葉は……予想外のモノだった。
「私と、結婚してください」
「……ほへ?」
結婚してください、その言葉に僕は間抜けな声を上げてしまった。確かに付き合うことになったわけだけど、まだ将来のことはあまり考えたことがなかった。そもそも、今は目先の学校に合格するという目標を掲げている今……結婚かぁ。したいなぁ……うん。
「僕もしたい……香澄姉と結婚したい」
……そう、僕は正直に言葉にした。
何度も言うけどまだまだ先の話だ。香澄姉はすぐだけど、僕が成人になるのはまだまだ先である。今考えても仕方のないことだってのは理解している。それでも好きな人との結婚生活、憧れるし想像しないわけがない。
僕の返事を聞いて香澄姉は満面の笑みを浮かべた。
「本当だよ? 約束だよ?」
「うん。もちろん……その、ちょっと待たせることになると思うけど」
法律的にね。こればかりは仕方がない。
「大丈夫だよ。待ち遠しいけど、綾斗君との未来を思えばいくらでも待てるから」
……マズい、さっきから香澄姉に好き勝手されていたようなものだけど、今度は僕の方から香澄姉に甘えたくなってきた。……いいかな? いいよね。よし、僕は思い切って香澄姉の方に体重を掛けた。
「きゃっ!?」
可愛らしい姫を上げて香澄姉は背もたれに背中を引っ付けた。僕は香澄姉の存在をもっと感じたくて、必死に甘えるように背中に回した腕に力を込める。
「……ふふ、大丈夫。私は逃げないから。ねえ綾斗君、もっと甘えて?」
「うん」
至高の弾力に飛び込んだ僕を香澄姉は撫でてくれた。そうやって甘えていると、いつの間にか香澄姉は上半身を曝け出していて……僕は赤ん坊のように吸い付いて……うん? おや? おやおや?
「ぅあ……それいいよぉ……」
頭上から響く甘い声に僕は正気に返った。
チュポンと音を立てて顔を離した僕を香澄姉が切なそうに見つめている……おかしい、僕は純粋な気持ちで香澄姉に甘えていたはずなのにどうしてこうなった。もう一度言わせてほしい、どうしてこうなった?
「綾斗君? もう終わりなの? 好きなだけいいんだよ?」
「……はっ!?」
再び無意識に吸い付こうとした自分に怖くなった……もしかして香澄姉、僕に高度な催眠術を掛けていたりしないよね? ……いや、単純に僕がスケベなだけなのかな。ううん、何を恥じることがあるんだ。男はみんな女の子のおっぱいが好きだろ! そう僕は無理矢理に納得することにした。
僕と香澄姉の間に流れる甘ったるい空間、でも香澄姉……もうすぐ叔父さんと叔母さんが帰ってくる時間なんだけど。
「えい」
「あ~れ~」
簡単に押し倒されてしまった。おかしい、香澄姉の力に全然勝てない。情けなさを感じながらも、絶対に僕を逃がさないと言わんばかりの香澄姉に抵抗することを止めた。だって……ねえ? 鼻息荒く瞳孔も開いてて、完全に発情した状態の美人が目の前に居るわけだ。怖くなる? 馬鹿を言っちゃいけない。僕はね……不覚にも興奮してしまったんですはい。
「……ねえ綾斗君、女装してセックスしてみない? 何かこう、インスピレーションがビビッて来たんだけど」
「嫌だよ! ていうか何度目なの!?」
「メス堕ちする綾斗君……ぐへへ」
「いやだあああああ!! ただでさえ女の子に間違われることもあるんだから絶対に嫌だああああ!!」
「良いではないか~良いではないか~」
「いやあああああああああああ!!」
これじゃあまるで僕が香澄姉に襲われているみたいじゃないか……いや、間違ってないんだけどね。まあ結局、香澄姉が口にしたように女装させられたりすることはなかったけどやることはしっかりとやった。
「それにしても綾斗君、本当に女装は嫌?」
「うん」
「そっかぁ……」
「なんか……」
「??」
「別の世界線の情けない僕を見ているようで嫌なんだ」
「……どういうこと?」
分からない、そんな世界があるのかもって嫌な受信をしただけなんだ。
……まあでも、あんなことがあったけど僕は香澄姉と幸せな毎日を送れている。それから希望していた学校にも合格して、香澄姉と一緒に過ごすことになるわけだけど……やっぱり色々と問題が起こるのは当然だった。
その辺りのことは長くなるからまた別の機会にでも話をすることにしよう。
「綾斗君、愛してるよ」
「僕も。香澄姉を愛してる」
もしかしたら、香澄姉が傍から居なくなる世界もあるのかもしれない。でも僕は、今ここに居る僕はそんな世界は認めない。認めてなるもんか……僕は香澄姉と二人で幸せになってみせる。
僕が辿り着いた運命、それはいつまでも香澄姉と幸せに暮らしていける世界だった。