寝取られ物にあるまじきほのぼの風景です。
本当にごめんなさい。
あの後のことを少しだけ語ろうと思う。
改めて百合華と心を通わせた俺は、百合華の先導の元彼女の家族の元へと向かった。俺は百合華のお父さんとお母さんとは初対面ではなく何度か顔を合わせていたこともあり面会もすぐに行われた。そしてお腹を膨らませた百合華の姿を見て家族は狼狽し、そして百合華の身に起こったことを知った瞬間お母さんは百合華に謝りながら泣き崩れ、お父さんは自分の不甲斐無さを嘆きながらも、しっかりと報復とも取れる処置に出た。
元々今回の騒ぎはお父さんの会社に対する資金提供を巡って起こったことではあるが、お父さんの方で独自に調べていた結果相手の男の黒い部分がこれでもかと出てきたようだった。そしていざ行動に移そうとしていたその時、今回の百合華の異変を知ることとなったのだ。
……まあそこからは俺たち子供の出番はなかった。大人しく事態が解決するのを待ち、全てが落ち着くまで百合華の傍に寄り添い続けていた。
そして――。
『百合華! どうして私を裏切った!? 君のご主人様である私を裏切るなどと!? 君は私の物だろう!?』
悪事が大っぴらになり、警察に連れていかれる男が百合華の姿を見てこんな言葉を吐いた時のことだ。百合華のお父さんはまだ言うかと怒鳴りながら思わず殴り掛かりそうになったけど、それを止めたのは百合華だった。百合華の行動にお父さんは驚き、逆に男の方は百合華はやはり自分の物だとでも思ったのは余裕の笑みを浮かべたのだ……まあその笑みはすぐに凍り付くことになったのだが。
『私はあなたの物ではありません。これからずっと、私が寄り添いたいと思うのは優介君だけです』
『なん……だと!?』
男にとって百合華は仕込みに仕込んだはずだったのだろう、けれども今の百合華の意思は紛れもない本物の彼女の物だ。快楽に塗り潰された心で発したものではなく、本来の彼女が持つ芯の強さを思わせる言葉。男は百合華の言葉を聞いて俺に憎悪の視線を向けてきたが、すぐに諦めたのか肩を落とし警察に連れていかれたのだった。
っと、このようなことがあって今回の件は一先ず終わりを迎えることとなった。
それから取り戻された日常は暖かいものだった。俺はそこまで百合華を無理やりに求めることはなかったけど、逆に百合華の方はそうではなかった。本人曰く俺と離れていた時間を埋めたいということらしくとにかく俺の傍に居たがり、事あるごとに俺の為に何かをしようと今まで以上の気遣いが見えた。おそらくその気遣いは俺を傷つけてしまったと後悔し続ける百合華なりの償いなのだろう。勿論その必要はないと俺は百合華に伝えた……だって百合華が傍にいてくれるだけで俺は幸せだから。そう告げると百合華は照れながら抱き着いてきたが、それでも気が済まないと言って聞くことはなかった。
まあそんな感じに一度は絶望しかけた俺の日常だったが再び幸せな日々が戻ってきたのだった。百合華を愛し、百合華に愛され、強く求め、強く求められ……互いが互いを必要とし、共に生きる時間は本当に幸せである。
「優介君」
「百合華?」
何度目になるかわからない百合華の家にお邪魔してゆっくりしていた時、お茶を汲んできた百合華は俺の隣にぴったりと引っ付くようにして腰を下ろした。
今日は百合華のお父さんとお母さんは仕事で遅くなるらしく、今は百合華と二人きりである。何度も思うことだがこうして百合華と穏やかに暮らせていることは本当に幸せだ。
「……………」
「……ふふ」
気づかれないように横目で盗み見たつもりだったが、ちょうど百合華も俺の方を向いていて目が合った。まあ偶然一緒に顔を向けたのか、それともずっと俺の方を見ていたのかは定かではないが、こうして目が合っただけだというのに柔らかな笑顔を向けてくれる百合華が愛おしくてたまらない。
手を伸ばし百合華の頭を撫でると、彼女は目を細めながら気持ちよさそうに俺の手を受け入れる。更にはもっとしてと言わんばかりに頭を押し付けてくるのだから、百合華は本当に俺のツボと言うか何と言うか、その辺りのことをよく押さえていると感心すらしてしまう。
「なあ百合華」
「な~に?」
「呼んでみただけだよ」
「なによそれ」
こんなベタなやり取りすら心が温まる。
「優介君」
「なんだ?」
「ふふ、呼んでみただけよ」
「なんだよそれは」
……本当にベタだ。だけどやっぱり嫌ではない。
しょうもない、けれども心温まるやり取りをした俺たちは互いに笑みを浮かべる。そして何を思ったのか百合華が小さな掛け声と共に俺の胸に飛び込んできたのだ。いきなりのことで俺は受け身すらとれず、胸に飛び込んできた百合華を抱えたまま座っていたソファの上に背中から倒れこんだ。
「どうしたんだ百合華」
胸に顔を埋めたまま動かなくなった百合華がどうしたのだと不安になる。けれどもそんな不安はすぐに吹き飛ぶことになるのだった。その理由はもちろん、百合華の笑顔とその言葉である。
「本当に……本当に幸せだなって思ったの。こうして優介君が傍に居る。触れることができる。話すことができる……そして、愛することができる。それが本当に幸せなの」
俺の目を真っ直ぐに見つめて放たれた言葉、それは強く俺の胸に刻み込まれると同時に更に大きな百合華に対する愛おしさが溢れ出す。
思わず百合華をギュッと抱きしめると、百合華も更に体を強く押し付けてきた。
今は感動というか、温かい気持ちになっているところ悪いのだがやっぱり俺も男なわけで、こうして百合華が体を押し付けてくると色々と柔らかい物が当たっているのである。しかも同年代に比べて百合華のそれは大きい方だからその感触がこれでもかと伝わるため俺の理性がかなり危ない。
「襲ってくれてもいいんだよ?」
「……本当に君は」
誘うような目をしながらそんなことを言う。雰囲気と声音からそれは冗談ではなく百合華の本心の言葉だろう。というかやっぱりあれだ、あのことを思い出すのは嫌気が差すことだがやっぱりこういう性的なことに積極的になっているな百合華は。
「なんか積極的になってるよね?」
「エッチをすることに?」
「……あぁ」
ストレートに言ってくるんだもんなぁ……あの頃の初々しい百合華はどこへ行ったのか。少しばかり苦笑していると、百合華が少しだけ表情を歪めて口を開いた。
「私はただ、優介君と愛し合うことが好きなだけなのよ? 別にエッチというかそういうことに対して見境なく積極的になったわけではないもの……というか、あれから不思議なことに優介君以外の男の人とエッチするのを想像しちゃうと気持ち悪くなっちゃうのよね」
「そ、そうなんだ……」
更に百合華の独白は続く。
「優介君以外の男が薄汚い粗末なもの見せたら踏みつけてやるし、無理やりにしてこようものなら嚙み切ってやる……私は優介君だけの女なんだから」
「……………」
百合華の静かな怒りが俺に向いているわけではないことがわかってはいるものの、少しだけ想像して下半身がスッと冷たくなった気がする。何と言うか、積極的にはなったけど強かにもなったなぁ本当に……これならお父さんもお母さんも安心できると思うようん。
「ねえ優介君」
「うん?」
まだ俺の上に居続ける百合華が笑みを浮かべて続ける。
「私のこと、好き?」
首を傾げるように問いかけてきた百合華、この問いに俺が答えは当然こうである。
「もちろんだよ。好きだ。大好きだ。愛してる。結婚してくれ」
言いたいことが多い? 馬鹿を言うな、それほど好きだってことだ。
俺の答えに百合華は顔を赤くしながらも満面の笑みを浮かべこう返してきた。
「私も好き。大好き。愛してる。後結婚はもうするのは決まってるから大丈夫!」
花の咲いたような輝く百合華の笑顔。
……あぁ本当に、俺は百合華のことが大好きだ。
でも一つだけ不安というか心配というか、体力の不安というかそれがある。だって――。
「それじゃあ優介君」
百合華の目は潤み、少しだけ息が荒くなってるんだもの。
こうして互いに好意をぶつけ合った後何に発展するのか……それはもう答えなんてすぐに出るものだ。
「今日もたっくさん愛し合いましょう!」
……また明日の朝も疲れた目覚めになりそうだと、俺はため息を吐きながら百合華を受け入れるのだった。
~堕落令嬢 一条百合華編 fin~
一条百合華のお話はこれで終わりですたぶん。
次はなんの寝取られものを書こうかな。
勿論小春ちゃんのやつも手を付けていこうとは思っていますが。
個人的な候補としてはTRUE BLUEが筆頭ですかね(笑)