内容はよくあるエロゲ転生という形で心春ちゃんとイチャイチャ。
でも新君にも葛藤はあるようです。
これが転生だと気づいたのは彼女を見た時だ。
高校生になり新しい生活に誰もが期待と不安を滲ませる中、俺もその一人で中学の友達は何人かいたか圧倒的に初めて知り合う人の方が多かった。
そんな人の中に彼女はいた――陽ノ下心春、俺が今まで見た中でトップクラス……いや、比べるのも烏滸がましいほどに容姿が整った美少女が居たのだ。
『……ぐっ!?』
彼女を見た瞬間一瞬ではあったのだが俺を襲った頭痛、そして掘り起こされる前世の記憶。俺はそこで自分がゲームの世界に転生したのだと気づいたのだ。子供ながら異世界の転生には小さな憧れもあったしテンションが上がったのも事実、しかしすぐに意気消沈することになった。だって、これエロゲーの世界だもの。
ケダモノ(家族)たちの住む家で~大嫌いな最低家族と彼女との寝取られ同居生活~
こんな題名のエロゲーが俺の世界には存在していた。元々エロゲーとして発売され、後にアニメ化もされていた作品だ。簡単なあらすじとしては主人公である朝岡新には恋人がいた。その恋人の名前が陽ノ下心春という美少女だ。新は心春と甘い青春を送るのだが、女癖の悪い新の家族に犯され快楽に堕とされるという寝取られモノとしては至極ありふれたものだった。
その作品の中でヒロインとして描かれた心春が居て、そして今生での俺の名前は朝岡新と……まあそういうことだ。この世界が本当にエロゲーの世界なのだとしたら、俺は心春を奪われ絶望に身を沈めて残りの人生を過ごしていくと言ったところだろう。
……それは本来の世界ならだ。
少なくとも今の俺は心春と付き合ってはいないし、家族の元から離れてアパートで一人暮らしをしているから最早家族の接点はない。あぁそうだ補足しておくと、原作通り俺の家族は屑だったよ。まあ流石に現実世界だから媚薬だとか強姦だとか、それに連なるご都合主義は働かないようだが……義父と義兄の女関係が爛れているというのは同じだった。
原作で新が惚れたように心春は本当に優しい子で容姿も飛び抜けている。クラス内の男子でも彼女を狙っている奴は多いし、現に告白したが振られた者が多いのも事実。やはり心春はモテるようだ。
『……勿体ないとか思っちゃうのも仕方ないな』
俺が新であるならあんな可愛い子と付き合える未来もあるのだろう。しかし前世で寝取られ作品としての登場人物だと知っているのでそんな気は起きない。寝取られは苦手である……けれども手が伸びてしまって見てしまうのは仕方のないことだ。だってエロいんだもの。
このまま俺は心春の彼氏にならず、心春も俺の彼女にならない。それが色んな意味で平和な未来に繋がるだろう。心春は俺の家族に出会わないなら襲われないで済むし、俺もあるかは分からないが寝取られの恐怖に怯えなくていいのだから。
そう、全部これでいい。
俺と心春はただのクラスメイト、それが一番良いのだと俺は言い聞かせる。
高校生活、その一日が終われば俺も自分が住んでいるアパートに帰ることになる。鞄を背負って友人たちに挨拶を済ませ、そのまま教室を出ようとした俺の耳に届く女の子の声。
「あ、まってよ新君! ごめんね、私も帰るから!」
その子は友人たちに別れを告げて、パタパタと足音を立てながら俺の横に並ぶ。
「一緒に帰るって約束したでしょ? もう!」
そう言って頬を膨らませる表情はとても可愛いかったが、俺は小さく溜息を吐いてどうしてこうなったのかと考えを巡らす。下校しようとした俺に付いて来た女の子――心春はどこか嬉しそうに鼻歌でも歌う勢いで俺の隣を確保するのだった。
……思えば、こうして心春が俺と一緒になって帰ったりするのは何日目だろう。決して付き合っていないはずのに心春は何故か俺の傍にいようとしたがるのだ。何か裏があるのかと思ったが、純粋で優しい心春がそんな黒いことを考えるとは思えず、俺はずっと分からないままだ。
学校を出て暫くすると生徒の姿は見えなくなる。すると心春は遠慮はしないと言わんばかりに俺の腕を取って自身の腕を絡めた。
「……えへへ」
照れくさそうにするならやめろよと言いたくなるのだが、そんなことを口にしようものなら心春を悲しませてしまいそうだから言えない。寝取られのトラウマとも呼ぶべき一人ではあるが、やっぱり心春は可愛い、故に役得と考えてしまってまあいっかと流されてしまう自分が居る。
腕を絡めているものだから心春の大きな胸の感触はもちろん、距離が近いため甘い香りも漂ってきて変に意識してしまう。次いで脳裏に過るのは彼女の裸というべきか、エロゲ脳だろうが何だろうが好きに言ってくれ。みんな絶対にそうなるから。
心春のような美少女と腕を組んで歩いているとやっぱり注目は浴びてしまう。
「なあ陽ノ下――」
「心春だよ?」
「……陽ノ下」
「心春だよ?」
「……心春」
「なあに? 新君」
少し離れてくれないか、そう言うと彼女は物凄い笑顔になってこう答えてくれた。
「嫌だよ♪」
「さいですか……」
本当にどうして心春の俺に対する好感度が高いのか、その原因の心当たりは一つだけあるけど、果たしてそれだけでこうなるものなのか、或いはゲームの修正力とも言うのか、分からないことだらけの世界で美少女とイチャイチャするという謎の現象に今俺は悩んでいるということだ。
その人を見たのは偶然だった。
高校生になって暫くして、どうしてなのかは分からないけど私の視線はその人に釘付けになった。名前は朝岡新君という男の子で、少しだけ雰囲気が周りの男子と違う男の子だ。
一目惚れ……というわけではなく、単純に理由は分からないが気になったという感じだ。
友人たちと話しながら時折視線を感じてチラッと見てみると、新君はよく私を見ていた。厭らしい視線とかではなくて、どこか苦しそうに、或いは心配そうに見つめてくるのだ。私と彼に接点はないためそのような視線を送られる理由はないはずだが、だからこそ気になってしまう。
『初めまして。陽ノ下心春です』
『朝岡新です。よろしく』
初めて話した時はこんな感じだった。何の変哲もない会話、でも私の心は少しだけ弾んだ。いつも心配そうに見つめていたその瞳がキラキラと輝いたように見えて可愛いなと思ったから。可愛いというのは男性にとっては嬉しくないかもしれないけど、私の第一印象はそんな感じだった。でも話せば話すほど、接すれば接するほど新君の良い所が見えてくる。私と話すことなんて特に何もないはずなのに、とても楽しそうに話すからこちらまで嬉しくなる。女癖の悪い先輩に告白されて困っていた時、何かあったら助けるからと言ってくれたその表情にドキリとした。
そして極めつけはあの時――。
体育担当の教育実習の人に体を触られ、悲鳴を上げようとして口を押えられ、恐怖に包まれていた私を救ってくれたのも新君だった。飛び込んで来た新君は私とその人を離し、背後に私を守るようにしてその人を睨みつけた。新君に続くように多くの人が何事かと現れたことで私を襲おうとした男の人は肩をガックリと落とし、次の日にはもう学校から姿は消えていた。
『……ったく、家だけじゃないのかよイベント。どんだけ関わらせようとすんだよ』
新君が何を言っているのかよく聞こえなかったけど、その時の私はずっと新君を見つめていた。その時の私の心臓は大きく鼓動を立てていて……いつもより彼の横顔がかっこよく見えて、私は新君という男性に恋をすることになった。
『全然いいよ。何もなかったんだしさ。気にしなくていいって』
ひらひらと手を振って、足早にその場を離れようとした彼の手を思わず掴んでしまった。目をパチクリさせる新君に私はどうしてって聞く。すると返ってきた言葉はこうだ。
『あぁ……いやあれだよ。男に襲われかけたからさ、同じ男が傍に居ない方がいいかなって思ったんだよ。陽ノ下さんのお友達呼んでくるからさ。今は彼女たちと一緒に居たらどうかな』
新君はどこまでも私のことを気に掛けてくれていた。
その時でもう駄目だ。私は完全に新君を好きになった。どうしようもないくらいに好きになった。チョロイとか言われてもどうでもいい、吊り橋効果とか知ったことじゃない。私の初恋、私が人生で初めて好きになったこの人の傍に私は居たい!
それからの私は積極的に新君と話をすることにした。
まずは学校で、そして段々と登下校を含めて彼の日常に私という存在を刷り込んでいく。こんなにも好きなんだ。どうしようもないほどに好きなんだ。だから分かってよ新君! っと、そんな想いを常に抱きながら私は新君の傍に居たのだ。
ふと新君と視線が合うと嬉しくなる。
彼の視線をこの身に浴びていると考えると下半身が疼く。
私の全てで彼に奉仕したいと心が叫ぶ。
私以外の女が近づくと殺したくなる。
そんなありふれたどこにでもいるような恋する乙女のような私、もどかしいようで嫌ではない。大好きな新君のことを考えるとそれだけで私は幸せになれるのだから。
「ねえ新君」
「なんだ?」
「私の胸気持ちいい?」
「っ……ごほっ!」
新君に体を押し付けながらそう聞くと、彼は照れたように分かりやすいリアクションをしてくれる。それだけで可愛い、もう今すぐ溶け合いたいくらいに愛おしい。
私の容姿は優れている、それは告白の数を考えれば嫌でも理解してしまう。そして体も極上らしい、男子たちのヒソヒソ話や胸に視線が集まることを考えれば分かることだ。前までは鬱陶しく思いどうしてこんな体なんだと思いもしたが、新君がドキドキしてくれるなら話は別だ。
友人たちが褒めるこの顔、他の男たちが求めるこの容姿。大人の人が犯したいと思うこの身体、その全てを私は新君に捧げよう。新君が望むなら、今すぐにでも私はあなたに体を捧げます。
「ねえ新君、私たち付き合わない?」
「……いや、遠慮しておくよ」
「また断られちゃったぁ。新君ってひどい!」
「それは仕方なくない? てか何で俺なんだよ」
「新君だからだよ。すっごく好きなんだもん」
「……さいですか」
……まだ落とせないか。でもそんなに掛からないと思う。私は何が何でも新君の心を射止めてみせる。彼と将来を過ごす女は陽ノ下心春、この私だ。
だから新君、どうか早い段階で私と一緒になる決断をしてほしいな。
じゃないと……もっと色んな手で君を追い詰めるよ?
あぁでも、追い詰めると言っても酷いことはしないからね絶対に。私は純粋に新君のことが好き。その気持ちは何があっても変わらないから。
どうしても我慢が出来なくなったらその時は……。
薬でも飲まして無理やり既成事実を作って……あ、ダメ。あぁ、濡れちゃう。
新君、早く心春と愛し合おうね? ふふ……アハハハハ!!
さて、同じ立場に立った時あなたは我慢ができるかな?
……ってお話でした。
結構話を続きを作るのが難産でして、でもこういう感じのは面白いからスラスラと書けちゃいました。他のヒロインでも書いてみたいとは思います(笑)