何とか生きています。
今回はちょっと変わったお話です。
寝取られが元ではあるんですが、主人公がどうしても好きになれない作品だったものです。
主人公に救いはありません。
オリジナルキャラと、ヒロインを描いた話になります。
エロゲでもアニメでもまあそうなるよねって終わりでしたが、オリ主を交えることでヒロインを救う感じのお話にはなったような気がします。
寝取りを肯定するわけではないですが、健気なヒロインをこんなクソみたいな主人公の傍に置いておくのは……って考え書いた次第です。
原作:かがち様お慰め奉ります
青年、富蔵隆彦は目の前で流れる映像が信じられなかった。
『タカく~ん。本当はねぇ、最初っから全部言われて貴方に付いていったのよぉ?』
流れる映像の中で、タカ君と親し気に呼ぶ美しい女性は隆彦の実の父親に抱かれて喘いでいた。男好きする体に叩き込まれた快楽は女の身を焦がし、交わること以外を忘れさせる強力な麻薬のような何かを思わせる。決して自分には見せてくれなかった雌の顔を、女は父親の前で惜しげもなく晒していた。
「……なんだよ……これ……」
この映像は合成か何かではないのか、そんなありもしない希望を抱くもあまりにリアルすぎるそれが嘘だという言葉を否定する。
父親に抱かれている女性――富蔵彩花は隆彦にとって幼少から続く初恋の相手だった。まだお互いに幼い小さな頃、一緒に遊んだりする頃から彩花のことが好きだったのだ。しかし、当時実家がある地域一帯を取り仕切っていた父親の目に彩花は留まり、後妻として富蔵家に招入れられた。初恋の女性でもあり、姉のような存在としても慕っていた彩花を実の父親に奪われた隆彦はそれが原因で実家を飛び出し都会へと移り住んだ。
……そんな隆彦にも、一つの忘れられない出会いがあった。それが現在の妻である愛実との出会いだ。苦い記憶を持ちながらも、愛実の奥ゆかしさや品のある姿に惚れた隆彦、そしてそんな隆彦に惹かれた愛実が気持ちを確かめ合い交際に発展するのもすぐだった。
やがて夫婦となり子供はいないが順風満帆な生活を送っていた隆彦……それはこれからも続くと思われていた。だが、現実はそんな隆彦に牙を剥くこととなる。
「……あ……あぁ……っ」
映像が切り替わり、彩花とは別に映ったのは妻である愛実の姿だった。その姿は衣服を何も纏っておらず、生まれたままの姿が映し出されている。豊満な胸にムッチリとした下半身、極上の女とされた彩花に勝るとも劣らない女体が画面越しではあるが隆彦の目の前にあった。
2年という生活を共にした愛する妻……そんな女が映像の中で、自分とは違う男に抱かれている。その事実についに隆彦の心は限界を迎えた。
『……あぁ……いい……いいですぅ! 好き! 好きなんですぅ!』
男に抱かれ悦ぶその姿は淫靡でありながらも……どこか美しさを孕んでいるようにも見えた。
「……………」
隆彦に残ったのは虚無感だけだった。
愛する全てを奪われただけの惨めな男の姿、一体どこで間違えたのだろうか。どうして自分はこんなにも辛い思いをしているのだろうか。そう問い続けても誰も答えてはくれない。なぜならもう、隆彦の傍には誰も居ないから。
……だが、もう少しだけ隆彦がこんな映像を見ても冷静さを保てていたならば気づけたことがあったかもしれない。
『昔からもう忘れられないの! この快楽が! 村のみんなに犯される幸せが!!』
『もう忘れたくありません! 私を見てくれる貴方を! 私を満たしてくれる貴方を! ……私が寂しかった時傍に居てくれた貴方を!』
彩花と愛実が男と交わっているのは変わらない、だが大きな違いがあることを。
完全に快楽に取り込まれており、目の焦点もあっておらずただただ快楽による叫びを上げ続ける彩花とは別に、確固たる意志をその瞳に乗せて交わる男に愛を捧げる愛実の姿。もしかしたら全く同じに見えるかもしれない、けれど本当に冷静だったなら……今の愛実の姿に隆彦は気づけたかもしれなかった。そうすれば隆彦は気づいただろう、今のこの状況が起きてしまった原因――その全てではなくとも、理由の一端に自分が関わっていたということを。
隆彦が絶望に打ちひしがれているのと同じ時、一人の男もまたやるせないなと空を見上げていた。
「………はぁ」
先ほどからずっと溜息が止まらない男――織主厳は今日一人の幼馴染を失った。何故なら厳はその幼馴染の妻を奪ったようなものだからだ。
そう、この厳という青年は隆彦の幼馴染だった。よく一緒に遊んでいたし、隆彦が彩花に淡い想いを抱いていることも知っていた。隆彦が村を飛び出して少ししてから厳も同じように上京したのだが、あれから二人の間に繋がりはなかったのだ。
「……………」
そして今になって、厳は隆彦と数十年ぶりの再会をし……そして二度と会うことがないだろう溝が生まれることとなった。
空を見上げ、片手にビールを持つ厳に寄り添う影が一つ。
「厳さん。外は冷えますよ?」
品のある声がバルコニーに響いた。
その声に視線を向けると一人の女性が厳の傍まで歩いてきた。一つ一つの動作が洗練されたような美しさを感じさせるその女性の名前は愛実。何を隠そう隆彦の“妻だった”女性だ。
視線を寄こしはしても後悔を滲ませる厳の様子が愛実への歩みを戸惑わせる。どこまでも真面目な人だなと、愛実は愛しさを感じてぴったりと厳の隣に寄り添った。
「……………」
「……………」
ただただ寄り添うだけで会話のない空間が広がる。
数秒、数分と経った頃……厳は小さく口を開いた。
「……俺は……許せなかったんだ」
「……………」
厳の言葉に、愛実は視線を向ける。口を挟むことはなく、ただ厳から伝えられる言葉を受け入れるために。
「あいつが……隆彦が彩花さんをずっと想い続けていたのは知ってた。忘れることができないほどに好きだったことを……彩花さんを取り戻すために、あの村に帰ってきたことも」
隆彦がずっと一人の女性を想っていたのを厳は知っていた。とある筋から隆彦が村に帰ることを教えてもらった厳は隆彦と話をするために同時期に帰ってきたのだ。
実際に話をして、厳はもう絶対に彩花が傍に戻ってくることはないと伝えたが隆彦は聞かなかった。
「彩花さんはもう後戻りできない……幼いころから刻まれた快楽は消えることはない。心を取り戻すことができたとしても、体があの村で犯された記憶を思い出して疼きが止まらなくなる。彩花さんはもう……男に犯されないと生きていけない体になっていたんだ」
……犯されなくては生きていけない、これほどに恐ろしい依存はないだろう。だがそれこそが彩花に刻まれた呪いとも呼ぶべきもの。厳と隆彦が生まれた村、白縄村に伝わる“かがち様あそばせ”という風習だ。それはお愛手と呼ばれる女性を村の若者が犯すというモノ。それに選ばれたのが彩花だった。隆彦の父親だけではない、彩花は村に生きていた厳と隆彦以外の男と彩花は交わっていたのだ。
幾度も幾度も繰り返される風習という名の快楽調教……それがずっと続いていたのだ。もう、何をどうしたとしても彩花はあの村から離れることはできない。
「それを伝えても……あいつは聞いてくれなかった。取り戻せると……そんな叶えることもできない夢を語り続けていたんだよ」
厳としても彩花は姉のような存在だったのは同じだ。違うのは隆彦と違い恋心を抱いていなかっただけ。そんな彼女を絶対に取り戻すという隆彦の意思は褒められるべきものかもしれない、そこに既に彩花が隆彦に抱く想いが一切なかったとしてもだ。
というよりも、そもそもの話“お愛手”となっている彩花が村を離れることはできない。故に隆彦は、絶対にしてはならないことをしようとしたのだ。
「……あいつは……彩花さんを取り戻すのと引き換えに……あなたを、愛実さんをお愛手にしようとした」
それが隆彦が彩花を取り戻すために用意した作戦だ。
彩花を連れ出し、生贄となった愛実が犯され堕とされるまでに本当の彩花を取り戻すというもの。
「ある意味、あいつも昔に壊れていたのかもな。いくら初恋の相手を取り戻すためとはいえ、今の自分の妻を生贄に出すなんて普通なら出来るはずがない」
結局隆彦はその手段を取ろうとして初恋の人も妻も失ってしまった。
尤も、愛実はお愛手にはなっておらず村の男に犯されるということもなかったが、そこに至るまでの流れは厳の存在があったからと言っても過言ではない。
たとえお愛手になっていなくても、村の人間は愛実を狙っていた。そんな愛実を守るために厳はずっと愛実の傍に居たのだ。愛実が許す限り傍で守り続け、決して少なくはない時間を厳と愛実は過ごしていた。そんな中で、村のことを知りたいと言った愛実に厳はかがち様に関する風習を伝えた。それだけ伝えてしまえば、愛実が自分で隆彦のしようとしたことを理解するのに時間はそう掛からなかった……傍で守り続ける優しい女性を、傍で守り続けてくれる強く優しい男性を、お互いが好きになるのにも時間は掛からなかった。
「……私はどこかで気づいていたんです。隆彦さんが私を見ていないことを」
「……それは」
どんな気持ちで話をしているのだろうか、そう思った厳は愛実の様子を窺うが、不思議なことに今の愛実に悲観な様子は見られない。それどころか、見る者を魅了するかのような美しい笑みに厳は見惚れる。
「隆彦さんの為なら……って最初は思いました。でも、多くの男の人に囲まれた時私は恐怖で動けなくなったんです。そんな私に隆彦さんは……あの人は何もしてくれなかった。ただ、これから犯されるかもしれなかった私よりも彩花さんを見つめ続けていたんです」
当時を思い出したのか少し指先が震える愛実だが、それでも視線は下を向かず前を見据えている。
「その時、こう思ったんです。今までの私は……あの人に尽くしていた私は何だったんだろうって。夜にそういうことをすることもありました。キスだって何回もしました。でもその全てが私ではなく彩花さんを見ていたのだと思うと……急にあの人に対する想いが失われていくのを感じました」
きっと辛いだろうに、愛実は笑顔で語り続けている。厳は少しの期間しか傍に居なかったが、今の愛実が強がっていることは分かった。だからこそ、厳は優しく愛実の体を抱き寄せた。一瞬驚いた愛実だったが、すぐに厳に甘えるように体を押し付ける。ひとしきり厳の温もりを堪能した愛実は顔を上げ、そして言葉を続けた。
「これからどうすればいいのか分からなくなった時、私を救ってくれたのがこの温もりでした。安心して、守ってくれて、私を少なからず想ってくれるこの温もりに……私は惹かれてしまったんです」
当時はまだ妻という立場であるにも関わらず、別の男性に惹かれてしまった自分を尻軽な女だと思いもした。けれども抑えられない想いが……厳に対する恋心を抑えることができなくなってしまった。隆彦とは違い、ちゃんと自分を見てくれる厳を、どんなに村の人間に囲まれても一歩も退くことなく自分を守ってくれた厳を……あの夜、自分のことを労り本当の女の“喜び”を教えてくれたこと厳のことを……愛実は余すことなく好きになってしまった。
「厳さん好きです。貴方のことが好きです」
失くした友を想うならば、この告白は受けるべきではない。しかし、愛実が厳を想うように、厳も愛実を想っている。
「……俺も、貴女が好きだ――愛実」
一つの不幸の裏で、花開く幸運がある。
正当化されるべきではない、しかし燃え上がる恋を止めることはできない。
忌むべき風習が残る白縄村、そこから解き放たれた厳と愛実を害するものはない。真の意味で、厳は大切な人と出会い……愛実は厳を“縛り付ける”ことができたのだった。
ベッドの中、愛実は厳に抱かれ幸せを実感していた。
厳を縛り付ける、彼の責任感に付け込んだ罪悪感はあるが、彼と離れたくないのも本当だった。隆彦に連れられ村に来た時、男共に囲まれ恐怖を感じたのは本当だ。助けてくれなかった隆彦に失望を感じたのも本当だ。守ってくれた厳に恋をしたのも本当だ。そして、隆彦にあの映像を送り付けたのは愛実自身。今までの生活に決着を付ける意味もあったし、ずっと尽くした自分を見てくれず最終的に見捨てたことへの意趣返しでもあった。
「好き……好きです厳さん……すきぃ」
絶対に手放さない、この掴んだ温もりを絶対に。愛実はもう遠慮することをやめた。
……そして最後に一つ、これは愛実だけが知っていて厳と……そして隆彦も知らなかったことがある。それは彩花のことだ。
彼女は確かにお愛手として選ばれた娘ではあったが、何も思考回路がダメになるほどおかしくなっていたわけではなかった。もちろん快楽の依存によるセックスはやめられないのは確かだが、彩花には彩花なりの意思と想いがあったのを愛実は知った。
『過去は取り戻せないわ。私とタカ君は絶対に元通りにはならない。だからこそ、私は彼を突き放すしかできないの。だって私はもう、男の体を忘れられない醜い女だから』
『彩花さん……』
『そんな顔をしないの。私はもう前に進んでいるわ……立ち止まっているのはタカ君だけ。だから……貴女を失うことになったのだろうし』
『……………』
『貴女も前に進みなさいな。厳は良い子よ。責任感があって、パートナーを絶対に蔑ろにするような子じゃない。……ふふ、タカ君が居る手前こんな話をするような私たちは最低ね』
『……そうですね』
『貴女は何も気にする必要はない。タカ君が貴女を生贄にしようとしたことも全て、この村が悪いの。だから憎しみは全て私たち村の人間に向けて、そして遠い地でここのことは忘れて生きていきなさい。残酷だけど、タカ君のこともこの村のことも全て忘れて生きていくのよ。そして厳の傍で、愛される女の喜びを感じて……満足して人生を終えなさい』
風習を目撃した時、愛実は彩花を薄汚い雌のように感じたが、この話をされた時だけは頼りになる姉のような印象を受けた。経緯はどうであれ隆彦がやろうとしたことも、厳がしたことも、彩花がした仕打ちも、愛実がやった仕返しも等しく最低の行為だ。
それらをすべて受け入れ前に進めるか否かはその人次第。
少なくとも厳と愛実、そして彩花は自分なりに答えを見つけて前に進んでいる。立ち止まっているのは過去の未練に囚われ続ける隆彦のみ。
これから先、彼がどんな道を歩むのかは分からない。隆彦と厳、愛実の道が交わることは絶対にない。
でも一つだけ言えること、それは――。
「……あ、今動いたかしら」
「本当か? ……どんな子が生まれてくるかな」
「まだ分からないけど……きっと貴方に似て優しい子だわきっと」
「……そっか」
「今更照れないでよ厳」
「……愛実の真っ直ぐな好意は慣れないなまだ」
「……可愛い」
「ん?」
「ふふ、なんでもありません♪」
どこかの地で、一つの家族が幸せに過ごしているのだけは確かだ。