思い付きのネタ集   作:とちおとめ

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いつか書くだろう“彼女”の物語の前日談みたいなものです。

この思い付きのネタ集を書くに辺り、割と初期の段階で一番狂ってるやべーやつは誰にしようと考えた時浮かんだのがこの子ですね。

何だろうこれ、もうこの子は最終兵器かもしれない。
今回は簡単に彼女に関して紹介していますが、実際に書き始めた時にもっと詳しく書いていきます。イチャラブも書きたいですし。







狂気の開花~闇の底から~

 彼女という存在は極上だった。

 雄を引き寄せるかのような体に常日頃より多くの視線が集まる。誰も彼もが彼女に下種な視線を投げかけていた。うら若き女子高生である彼女の体を舐めるように、しゃぶりつくすように欲望に染まった目で見続けていたのだ。

 たわわに実った胸を、ムッチリとしたハリのある尻を……その美しい顔を欲望で汚く染め上げたいと。

 男たちの抱く欲望は留まることを知らず、それは個人だけでなく多くの人間へと、まるで感染するかのように広がっていく。

 

 男である以上、女を意識して欲情するのも仕方のないことだ。彼女のような極上とも言える女が目の前に居るのなら尚更だろう。

 しかし――そんな彼女の本当の姿を、周りにいる男たちは知らない。

 ただその体を求めるような男たちは何も気づいていないのだ。彼女が抱く深淵よりも深い闇を、大切な者以外は路肩の石ころ以下にしか考えられないその欠落した思考を。現代において人の命を奪う行為である殺人、その非人道的なことすら愛する者の為なら顔色一つ変えずにやれる彼女の異常性を――誰も知らないのだ。

 

 今日みたいな日だってそうだ。夜の帳が降り、辺りが闇に染まった今この瞬間――彼女の中で蠢くソレは一人のターゲットを仕留めようとしていた。

 

「……何なんだ……何なんだお前はっ!!」

 

 その声はくぐもっており男か女か分からない。

 分厚いマスクに身を包みコートも着ていることから、やはり性別の判断はできなかった。そんなマスクの存在に対し、ゆっくりと、ゆっくりと足を進める女がいる。

 足音一つ一つが響くたびにマスクはビクッと体を震わせる。そんなマスクの見つめる先、そこに居たのは美しい女性だった。黒のコートを着ているが、その下には制服を着ていることが分かるため学生ということが見て取れる。真っ暗な周りの光景も相まって、彼女がゆっくりと歩く様はまるで死神の行進だ。

 

「逃げられると思っているの? ざんね~ん♪ 絶対に逃がさないわぁ」

 

 口元を歪め、マスクを見下す女性はひどく恐ろしい印象を受ける。

 更に足を踏み出せばマスクは恐れおののき後方へと弱弱しく後退するも、不運なことにそこには大きな大木があった。背中に大木の硬さを感じ、背後に逃げられないと悟ったマスクの心境は一体どんなものなのか。おそらく恐怖以外の感情はなかっただろう。

 そんな風に恐れるマスクを目の当たりにしても、女性の顔に浮かぶのは上位者たる愉悦のような歪んだ笑み。

 

「……くるな……くるな……っ!!」

 

 必死に叫ぶも、女性の歩みは止まらない。

 

「それは無理な相談ね。だってそっちに行かないと殺せないじゃない」

「ひっ!?」

 

 女性の眼光は心臓をキュッと締め付けるかのような力を持っていた。視線だけで人を殺せるという言葉があるが、正にそのようなものと言っても過言ではないだろう。別の何か特殊な見えない力が働いていると言われても信じてしまいそうになるほどなのだから。

 

「スニーキー、あなたには感謝しているのよ? 邪魔な存在を消す手間が省けたから」

 

 マスクの存在――スニーキーは怒りに身を任せ女性に殴り掛かるが、女性に腕を掴まれ体勢を崩し、脇腹に強烈な蹴りを受けてその場に蹲る。だが女性は待ってくれず、蹲って見えないその顔を見せろと言わんばかりに顔面を蹴り上げられた。幸いにマスクをしていたからこそ直接打撃を受けることはなかったが、マスクの目元に大きな罅が入る程度には強力な一撃だった。

 

「やめておきなさい。あなたは弱い人間、足掻くだけ苦しむだけよ?」

 

 その言葉にスニーキーは怒りと悔しさに身を震わせた。しかし体を襲う激痛のせいで満足に動けない、彼女の言うようにこれ以上体を動かせば無用に痛みに苦しめられるだけだった。

 意識を失いそうになるほどの痛みの中、彼女の場所に雲に隠れていた月からの光が差す。

 月明かりに照らされた彼女は顔を隠すことはしない。それが意味を成さないと分かっているから。

 

 彼女――白崎綾乃はただただ、弱者であるスニーキーを冷たく見下ろしていた。

 

 動けないスニーキーの傍にしゃがみ込み、思い出話をするかのように語り出す。

 

「私の弱み、そんなに男たちに売れるほど知っているなんて凄いわねあなた。まあ? 私にとって弱みなんて無縁なものよ。私の弱みなんて言ってしまえば、“愛おしいたぁ君”に関わることくらいね」

「っ!!」

 

 たぁ君、その名前を聞いてスニーキーは反応するが綾乃が首を絞めたことで思考が止まってしまった。腕を離そうと足掻くスニーキーだが、綾乃は止めることなく言葉を続ける。

 

「木を見て森を見ていない、正にそれね。“あなたは私のことを何も分かっていない、何一つ理解していない。ずっと一緒に居たのに何もかも”。でもね? それは仕方のないことなのよ。だって私がありのままの姿を見せるのはたぁ君の前だけだから。彼の前でだけ、私は私になれるのよ。彼の居ない場所にいる私は抜け殻みたいなもの、それはそうよねぇ? 私は彼以外の存在を人と認識することさえ怪しいくらいなんだもの。そう……彼が、たぁ君だけが私を人間にしてくれるのよ。誰かを愛することのできる真っ当な人間に! 彼が……彼だけがっ!!」

 

 綾乃の瞳に映ることができるのはいつだって一人の男の子だった。その存在こそが綾乃の愛する男、綾乃の全てと言ってもいい何よりも優先し守るべき存在。病的なまでの独占欲と狂気の集合体、それが白崎綾乃という女の本質であり在り方なのだ。

 狂ったようにぶちまけられる彼女の言葉、それを見て聞いたスニーキーは綾乃が別世界の存在に見えてならない。正しく化け物のようだとスニーキーは綾乃に対する認識を改めた。

 

「……………」

 

 もう抵抗する気力さえ湧かなかった。

 白崎綾乃という存在を敵にした時点で、自分という存在は破滅を迎えることが決まっていたのだとスニーキーの心に諦観が生まれてくる。

 綾乃自身もスニーキーから抵抗の意思が消えたことが分かったのか、更にその笑みを深くし、首を絞めていた手を解きスニーキーのマスクへと当てた。一切の抵抗がないため、スニーキーが被っていたマスクは簡単に外れてしまうのだった。

 情報という名の弱み、それを使って多くの男を綾乃に対しけしかけたスニーキーの正体――それを知った綾乃はこう呟くのだった。

 

「やっぱり――“貴女”だったのね」

 

 そう呟いた瞬間、綾乃を照らしていた月は再び雲に隠れ――より一層深い闇が訪れた。

 




原作~誰もが彼女を狙ってる~

ヒロイン:白崎綾乃

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