原作:堕落令嬢
ヤンデレ成分はないです。
寝取られからの取り返し?ですかね。
改変部分は優介君の性格と考え方、そしてもちろんですがエンディング。
おそらく小春ちゃんを含めほかの話もこういう感じに幸せに終わらせるようにはしたいと思います……過程は置いといて。
原作やアニメですと、優介がまた会いたいっていうメールを開いている後に百合華が現れ、優介に最後にしよ? って言ったところでエンディングです。
愛は快楽に勝つのじゃあああ!!
というのを書きたかっただけなんです許してください。
悪い夢ならば醒めてくれ……そう願ってもどうにもならない現実というものはあった。
突然だが俺には彼女がいた。美人で、優しくて、絵に書いたような素晴らしい女性が彼女だった……そう、だったのだ。
少し前まではどこにもいる恋人のように、いつも一緒にいた……幸せな日々は唐突に終わりを告げた。
『ごめんね。私……もう行くね』
そんな言葉を残し彼女――一条百合華は姿を消した。
一体どうしたのか、そんな俺の困惑すらも置き去って事態は更に進んでいた。ふと俺の家にDVDが送られてきたのだ。それに残されていた映像は……百合華が知らない男と肌を重ねているものだったのだ。
最初は信じられなかった、でも映像が進んでいくうちに信じるほかなかった。これは間違いなく現実なのだと。最初は拒んでいた百合華だったけど、最後には男と体を重ねることに喜びすらも感じていたのだろう。男の情欲を誘う嬌声を上げながら、百合華は男を受け入れ齎される快楽に酔いしれていた。
箱入りの令嬢だから、男の味を知ってしまったらそのまま流されるとは誰かが言っていたか……まさかそんな寝取られの王道とも言える漫画のような出来事が自分に起こってしまうとは全く予想すらしていなかった。辛い、悲しい、憎い……数えきれないほどに負の感情が溢れ出す。
俺を裏切った百合華が憎い、俺の彼女だった百合華を寝取ったあの男が憎い……でも俺はそこで気づく。情けないことにこんな状況になってしまっても、俺は百合華のことが好きなのだということに。あの笑顔、気遣い、温もり、すべてが所詮思い出でしかないというのに忘れられそうにないのだ。
「……どうしてかなぁ」
その理由を考えてみても答えは出そうにない……そう思っていたけれど。
「……あぁそうか」
思わないことに答えは出た。
その答えを頭の中で反復させると、如何に自分がお人好しであり馬鹿なのかが嫌でもわかる――そう、その答えはこうだ。
「……こんなことになっても、どんな形になっても、どんなに変わってしまっても……百合華自身が幸せならそれでいい」
俺が不幸になっても、百合華が幸せであってくれたならそれでいい……ひどく歪んでいるとは思うがこれが俺の出した答えだった。
昨日まで俺はずっと百合華に会って話ができないかとメールを送り続けていたけど、もうそれは終わりにしよう。百合華が俺のことを忘れたのだとしても、俺は百合華を忘れない……俺の記憶に残り続ける彼女を、ずっと覚えていたいから。
「よし! なんかスッキリしたなぁ……切り替えの良さが良いって母さんにも言われてたっけ」
クラスの友人に話したら頭イカれてるとか、なんで取り返そうと思わないんだとか言われそうだが……まあその辺りの言葉は甘んじて受けることにしよう。これが俺、そう思ってもらうしかないんだから。
先ほどまでの鬱にも似た負の感情が全て出切ったのを感じた俺は立ち上がった。心なしか目の前の景色がキラキラしているように見えるのは気のせいか……なんて思いながら今までいた学校の屋上を去ろうとしたその時だった。
「優介君」
「……え?」
突如俺の名を呼ぶ声が聞こえた。
その声は聞き覚えがあった……だってその声は。
「……百合華?」
「うん。そうだよ」
百合華だった。
戻ってきてくれた? そう淡い希望を抱いた俺だったけどそんなことはなかった。百合華の顔を見ればそんな感情などこれっぽっちもないことに気づくのだった。
今浮かべている顔を俺は見たことがない。男を知った女の顔、正に言葉にすればこれだろう……そして極めつけは百合華の大きく膨らんだお腹だ。動画で見せられたけどあんなに男としたんだ……それなら出来ても仕方ない。
「……はは」
百合華に知らない男との間に子供ができたというのに落ち着いている自分に感心する。どうやら俺はいまだに百合華を好きだということと、彼女の幸せを願っているという気持ちに嘘はないみたいだ。
一人で心の中で自己完結した俺の心の内を知ってか知らずか、百合華が口を開いた。
「ご主人様がね。優介君に見せてこいって言ったの」
そういって百合華は服を脱いだ。
大きく膨らんだお腹、そして子供ができたせいか更に大きくなった乳房が目に入った。さらに百合華は続ける。
「それで最後に優介君としてきなさいって言ったの。だから……しよ?」
最後、それは百合華から俺に対する決別の言葉。令嬢として育ってきた百合華が男に媚びるような目でしようと言ってくるその様に、人間変わるものだなぁとどこか楽観的に俺は百合華を見ていた。小さなことで照れるような初々しく優しい百合華はもういない、ここにいるのは男を知り快楽に身を焦がす一人の女……か。
でもそうか、最後だと言うなら思いっきりここで百合華を押し倒すのもいいのかもしれないな。
「……百合華」
「ふふ」
一歩踏み出す、百合華は逃げ出さない。
二歩踏み出す、百合華は妖しく笑う。
三歩、四歩と歩みを進め百合華との距離が0になるそんな時……俺の取った行動は――。
「ほら、簡単に人前で肌を見せるな。そのご主人様……だっけ? がいるんだろ?」
「え……?」
脱ぎ捨てられた服を百合華に着せボタンを留める……つうか胸本当にでかいなおい。締めるのがきついぞ……。
心の中でどうでもいいツッコミを入れながらなんとか百合華の服を正すことに成功した。やっぱり百合華には今相手がいるんだから、その別の相手に肌を簡単に見せるのはやめたほうがいいよな。
そんな気持ちで俺は行動に出たわけだけど、百合華は呆気に取られるように俺を見ていた。
そりゃそうかと、俺は思いながら大きく噴き出す。それほどに百合華の顔が面白かったから。
「あっはははははは! なんだよその顔! まるでこんなの予想外って感じじゃん」
「だって……え? でも……優介君?」
さっきまでの男に媚びる目を百合華はすでにしていない、今の百合華にあるのは困惑という感情だけだった。でもその困惑という困り顔は記憶の中にある百合華と同じで、俺は少しだけ嬉しくなった。困っている百合華を置いて俺は改めて百合華に向き直り言葉を紡ぐ。これは伝えておきたかった言葉、百合華を奪われたとしても変わらなかった想い、そしてこれからの願いを。
「なあ百合華。今は幸せ?」
「え? うん。とても幸せだよ。ご主人様に毎日可愛がってもらえるから。優介君より気持ちいいし」
「あはは……それはできれば俺の居ないところで言ってほしかったなぁ」
今の言葉はボディブロー並みに響きましたとも……やるな百合華。
「それで? どうしたの? 私と最後にできるんだよ? 優介君は嫌なの?」
追及するように言葉を投げかけてくる百合華に俺は苦笑するしかなかった。
だから他人の女に手を出すような真似はしたくないってば俺は。
「今はそのご主人様とやらが大切なんだろ? なら俺とするのはダメだって。普通に考えて」
「……それは」
そうだと……言いそうになって目を泳がせた百合華。
俺はその百合華の様子に気づかないふりをして言葉を続けることにした。やっぱり整理を付けたといっても早くこの場から立ち去りたいのだ……このままここにいて百合華の傍にいたら情けなく泣いてしまうと思うから。
「なあ百合華。俺さ……どうしたことか今でも百合華のことが好きなんだよね」
「……え」
いきなり始まった俺の話に百合華は目を見開いて驚いている。まあそれはそうだろう、俺の家にDVDを送り付けたことなどはおそらく知っているはず。絶望はしてもいまだに俺が百合華に対して好意を抱いているとは思ってなかったみたいだ。
「正直悔しかったよ。辛かったし、悲しかったし……憎いとすら思った」
「……………」
百合華は黙って聞き続ける。
そうだ、そのままでいてくれ。このまま言うことだけ言わせて俺をここから逃げさせてくれ。
「けどどんなに負の感情が溢れ出しても……俺は百合華のことが好きなんだよ。愛してる……この気持ちはこの先変わることはないだろうし、今回のことを忘れることもないと思う。だからさ」
「……?」
「俺は自分のことよりも、百合華の幸せを祈ることにした。どんな形になっても、どんな百合華になっても、ずっと好きだし君の幸せを誰よりも願ってる」
「ゆう……すけ……君」
あぁだめだ、目頭が熱くなってきた。
これ以上は我慢できそうにないからもう終わろう。俺と君の物語はここでお終い、言葉にしたように君の知らない場所で俺は大好きな君の幸せを願うことにするから。
「だから幸せに……ってもうなってたか。あはは」
「……………」
感傷的になった俺に対して馬鹿にするようなことを言ってくるとも思ったがそんなことはなかった。どうやら少しだけなら俺の気持ちを汲んでくれるのだろう……根っこの部分である優しさだけはまだ残っているようだ。
でもこれで言いたいことは全て言葉にした。百合華に伝えたかった言葉は全て……。
俺は歩き出し百合華の傍を通り抜ける……あぁでも心残りが一つだけあった。
「百合華」
「……んっ!?」
罵倒してくれていい、叩いてくれていい、逃げてくれていい、でもこれで本当にサヨナラだ。
俺がしたこと、それは百合華への口付け。ずっと俺自身ご無沙汰だったし寂しかったんだ……これくらいなら罰は当たらないだろう。まあ百合華の反応は怖いけれど。
数秒だけの触れ合うキス、それを終えて俺は百合華から離れた。
「……ごめん。それじゃあ……っ!?」
こみ上げてくる想いが涙となって溢れてくる。
きっと今の顔は百合華に見られただろう。できることなら最後までかっこよく笑顔で決めたかったんだけどなぁ。そう思いながら最後に百合華に背を向けて屋上を後にしようとした……それなのに。
「待って!!」
ガシッと、強く手を掴まれた。
やめてくれ、こんな泣き顔を百合華には見られたくない。そう思う俺を他所に百合華が口を開いた……さっきまでと違うのは百合華の口調が少し、辛そうなものに変化していたということ。
「どうして……なんでそんな風に思えるの!? 優介君と付き合ってたのに他の男の人とセックスして……その時の映像まで送り付けたんだよ!? こうして子供までできて、最後の思い出に優介君とセックスしてきなさいって命令されて来ただけの私に……なんでこんなに優しいのよ!?」
想いを吐露するような百合華に目を丸くしてしまう。
さっきまでの胸を焦がすような感覚は百合華の姿を見たことで治まりを見せる。
「……わからないよ……なんでこんなに……こんなダメになった私なんかの幸せを……っ」
百合華も限界が来たようだった。
涙を我慢できずに顔を手で覆い隠すようにして泣いてしまった。俺にそれをする資格はない、そう思っていてもそうせざるをえなかった。
泣き続ける百合華を優しく抱きしめ、大丈夫だと落ち着かせるように頭を撫でる。
「その疑問に答えることは難しいかな。何せ俺もよくわかってないんだ。ただ単純に君の幸せを祈るってことにしただけだからさ。過程がどうであれ、そういうもんだと受け取ってもらうしかない」
「優介……君……っ!」
温もりを求めるように、百合華はゆっくりと俺の背に手を回した。
……仕方ないけれど、もう少しだけこうしていようか。
優介の温もりに包まれながら、百合華は久しく感じていなかった幸せという感覚を思い出した。
いや、幸せ……まあ快楽によって生み出されるそれを幸せと呼ぶならそうなのかもしれないが、少なくともこんなに胸が温かくなる幸せは久々の感覚だった。
(……どうしてこうなったのかな)
優介に腕に抱かれながら、百合華はこうなってしまった経緯を思い出す。
父の会社を助けるために、資金提供をしてくれるという男に体を許したこと……父は百合華に気にするなと言ったが日に日に弱っていく父を見ていることができなかったのだ。だから百合華は男の要求である体を差し出した……その果てに大人であり経験豊富な男のテクニックに身も心も堕とされてしまったわけだが。
男の言いなりになり優介に対して最低なことをしでかし、けれども優介の気持ちよりも自分に与えられる快楽の方が心地よかったから百合華はただ身を任せたに過ぎない。
もはや優介のことはどうでもいい、ただただ男であるご主人様に可愛がられることこそが幸せ……だったはずなのにどうしたことだ。今の百合華の心を占めるのは……快楽に支配された心を溶かし、心の奥底に封じ込められた愛する優介への愛おしさだった。
「……優介君」
「百合華……っ!?」
今度は百合華からキスをした。
さっきまでの触れ合うようなキスではなく、舌を絡ませる大人のキスだ。ゆっくり味わうように、けれども激しく求めるように……最低なことだとはわかっていても、百合華は自分を止めることができなかった。
「優介君……ちょっと今の私からすれば最低なことを言ってもいいかな?」
「……最低なこと?」
首を傾げる優介に頷く百合華。
百合華は一度目をつむり、そして次に目を開いた時景色は一変していた。快楽という名の鎖に囚われていたはずの世界なのに、まるでその鎖から断ち切られ自由に飛び立つことができるような感覚だ。
「まだ私を愛してくれますか? まだ私を好きでいてくれますか? ……まだ私を……私を! 好きだって……愛してるって言ってくれますか……っ!」
一度は優介を捨て、更には子を身籠ったのに本当に最低な言葉だ。でも今の百合華こそが優介の知る百合華である。優介は一瞬大きく目を見開き、そして大粒の涙を流しながら頷き口を開くのだった。
「……もちろんだよ。でも……やっぱり不安なものは不安なんだ。信じて……いいんだね?」
その問いに百合華は力強く頷く。
「うん……うん! もう絶対に裏切らない。だからもう抱え込むこともしないよ。力を……貸してくれる?」
「もちろんだ。大好きな百合華のためなんだ。俺にできることはなんでも!」
一度砕かれた愛はさらなる強固な繋がりを持ってここに蘇る。
そして後に百合華は語るのだ。大人になり、結婚をして、愛する者の隣で過去を振り返るように。
『愛って本当にすごいものだと思うの。優介君がいてくれたから今の私がいるんだよ。まだまだ償え切れていないけれど……これからもずっと私は優介君を、旦那様を愛し続けます』
徳井百合華、旧姓一条百合華は令嬢特集のインタビューにこう答えたと記録されている。
時は流れ、どこかのお墓でのことだ。
一つの墓を前にしてまだ幼い少年は口を開く。
「親父……俺は貴方のようにはならない。反面教師ってやつだろうな」
墓を睨む少年の目は険しい。
少年は小さく握りこぶしを作る。それはまさに決意の宣言のようだ。
「お義父さんと母さんのように幸せな家庭を作るのが夢なんだ。弱みに付け込んで相手の心を縛るようなことは絶対にしない。親父、俺は貴方の血を継いでるけど安心して眠ってくれ……俺はお義父さんと母さんが口を揃えて言うほどに優しい性格をしてるらしいからさ」
その様子はとても誇らしげで、胸を張るその姿は成長を楽しみにさせる若い力そのもの。
「それじゃあ親父、もう行くよ」
そう言って少年は足を踏み出す。
向かう先には3人の影があった。
「挨拶は済んだかい?」
「あぁ。ありがとなお義父さん……それとごめん」
「気にしないの。あなたは私たちの大事な息子なのよ? 謝る必要なんて全くないわ」
「母さん……」
「お兄ちゃん泣きそうな顔してる……えっと、なんて言うんだったかな? 思い出した! 泣き虫だ! 泣き虫お兄ちゃんだ!」
「な、なんだとこのっ!」
「きゃ~~!♪」
絶望を乗り越えた先にあるのは一つの幸せ、それは何にも代えがたい大切なもの。
これからもずっと共に歩き続ける一つの物語。
「愛してるよ。百合華」
「私も愛してる。優介君」