どう考えても血を見る展開になってしまうので書いては消してを繰り返しています。
前に感想欄で読者の方からピンポイントでまたえげつない寝取られ作品が出るみたいなのを聞いた気がするんですけど、まさかこれのことだったのか……。
原作:夏休み明けの彼女は…~チャラ男好みの黒ギャルビッチに~
今回はちょっと今までの話と比べて違う箇所が
1、原作ヒロインは帰ってきません。
2、作品と関係のないオリヒロインが出てきます。
原作終了後の主人公に焦点を当てた感じです。
「カット! 今のシーン凄く良かったよ。次もよろしくね」
「はい! お任せください!!」
僕の声に元気に答えてくれたのは今をときめく売れっ子の若手女優だ。美人でありながら愛らしい一面を持ち、今の若い女優の中では絶対に名前を挙げられるであろう女性である。こうして僕が映画監督として映画を作るにあたり、何の偶然か分からないが彼女はいつも出演してくれていた。そのおかげもあってか、彼女とはプライベートでもよく時間を作って会ったりしている。
「……彼女と知り合って4年か。随分経ったもんだな」
口に出して思ったが、本当に4年という年月は長い。いや、普段映画のことで忙しいからあっという間という表現の方が正しいのかな。
「よし、それじゃあ休憩しましょう。20分後にこのシーンの後半を撮ります」
『はい!!』
演者はもちろん、スタッフも僕の声に元気に返事をしてくれた。
休憩の時間になったわけだが、僕は手元にある台本を見て確認作業をする。そんな僕に近づいてくる影が一つ。
「監督、休憩って言ったのに台本の確認ですか?」
件の女優の子だった。
彼女は困った人を見るようにしながらも、すぐに笑顔になって僕の隣に座った。そして僕の見ていた台本を覗き込むのだが、いつも思うことだがこの子は距離感がおかしいのか本当に近い。腕にぴったり引っ付いているせいか彼女の豊満な胸の感触がダイレクトに伝わってくる。
「近すぎじゃない?」
「これくらいしないと監督気づいてくれないんですもん」
「何に気づくのさ」
「そういう鈍感な所治した方がいいと思います」
鈍感って何さ鈍感って。
頬をぷくっと膨らませて私怒っていますアピールをする彼女、僕より年下ということもあって何と言うか……あれだな。妹みたいな感覚なんだ。確かに血の繋がらない他人ではあるのだけれど、彼女の仕草などを合わせてみるとやっぱり妹という感じがしっくりくる。でも妹のように思っているから女性として見れない、なんてことはない。彼女のことはしっかりと意識している。こんな子と結婚できたなら、結婚生活はとても素晴らしいモノになるんだろうなという予感さえ抱くこともある。
でも……。
「……? どうしました?」
「……いや」
でもやっぱり……誰かを好きになることは怖いんだ。
彼女は僕の表情から何かを感じたのか、労わるように優しく手を握ってくれる。本当にこの子は良い子だと思う。美人で可愛らしい、思いやりもあって……確かこの前は弁当も作ってくれたっけか。家事も完璧とかどんだけパーフェクトガールなんだと言いたい。
ずっと顔を俯かせているのも無用な心配を掛けてしまう。だから僕は極めて明るく返事を返した。
「いや、何でもないさ。ほらほら、僕に構っているよりもあちらの俳優仲間たちの所に行ったらどうだい? 今ぐらいの時から唾付けといてもいいんじゃないかな?」
「監督はすぐそう言う……でも私、気づいているんですよ?」
「……何をさ」
ニシシと笑いながらグッと顔を近づけてくる彼女に嫌な予感がする……何を言う気なんだ。
「監督がそうやって私を突き離そうとするときって、決まって私を女として意識してるときですよね?」
「……さあね」
……図星ど真ん中で心臓がバクバクするが、僕は顔を背けて誤魔化す。
「これはもう一押しかな。……えへへ」
何か勝手に照れ笑いをしているのだが、一体何を想像しているのか考えたくもない。
『私、ずっと監督の映画のファンだったんです。こうしてお会いできて光栄です!!』
……思えば、初めて彼女と会った時こんなことを言ってくれたっけ。あの時はいきなり手を握られて鼻息荒く言われたから若干引いたものだけど、今となっては本当にいい思い出だ。真っ直ぐ純粋な目で僕の映画を好きと言ってくれた彼女に、いつしか僕は惹かれていたのかもしれないな。ま、言葉には出さないし伝える気もないけどね。
『西田君……映画好きなの?』
『えへへ、実は私も好きなんだ』
『ねえ、一緒に見に行かない?』
『近づき過ぎかな? むむ……えい!』
……忘れたくても忘れられない記憶が蘇ってくる。
この子と会話をしていると、決まって脳裏に蘇るんだ……僕が誰かを好きになれない理由。その恐怖を僕に植え付けた初恋の人が……僕の記憶に蘇ってしまうから。
「ほらほら、次の撮影が始まるよ。準備をして」
「むぅ……分かりました」
「……ご飯でも一緒に行くかい? 終わったらさ」
「行きます! 精一杯お努めしてきますね! 忘れないでくださいよ監督!!」
ロケットのように走って行ってしまった彼女を見て思わず笑ってしまった。
さて……それじゃあ僕も監督として仕事をしないとな。多くの人の力を借りての映画なんだ。絶対に良いモノを作り上げてみせる。それが映画監督を夢見た僕の仕事なのだから。
僕――西田一には初恋の人が居た。
高校生の時のクラスメイト、名前は天川花奏さんと言って凄く綺麗な子だった。先生たちからの評判も良く、理想的な優等生とも言うのだろうか。そんな人が僕の初恋だった。
僕と天川さんは別に接点があったわけじゃない、話すことだってクラスで必要なことがあったら話す程度のモノだったのだけど……彼女が僕が入っていた部活、映像研究部に入部してきたことで僕と天川さんの時間は始まった。
『西田君って映画のことを話すとき凄く無邪気な笑顔だよね……凄く素敵だと思うよ』
『ね、ねえ西田君。良かったらこれから一緒にこの映画を見ない?』
思えばあの瞬間、天川さんとの時間を過ごす僕は最も充実していたのだと思う。昔の僕は内向的で人付き合いが上手くなく、友達が少ない根暗だった。でも天川さんはそんなことを気にせず、ありのままの僕を受け入れてくれていた。僕の趣味だった映画、それに理解を示してくれて同じように楽しみを分かち合った天川さん……そんな彼女に僕が惹かれてしまうなんて時間の問題だった。
放課後はいつも部室に集まって他愛のない話をしながら映画を見る幸せな時間、そこにはいつも天川さんが居て僕を幸せな気持ちにさせてくれた。
……でも、この恋が僕を絶望に追い込むカウントダウンだったことに、当時の僕は気づかなかった。
夏休みが始まる前、天川さんは僕にこう言ったんだ。
『この夏休みに、二人の思い出をたくさん作ろうね』って。
僕はその言葉が凄く嬉しかった。
学校でしか会えないと思っていた初恋の人、天川さんに夏休みという長い時間の中で会えるなんて本当に嬉しくて僕は浮かれていた――その結果、僕は夏休みの期間天川さんに会うことは一度としてなかった。
……現実逃避みたいな言い方になってしまったな、違う……僕は逃げたんだ。
夏休みが始まる前、天川さんは松岡というクラスメイトと話していた。当時、この松岡という男は女癖が悪く女を作っては飽きたら捨てるという最低なやつと言われていた。天川さんは……松岡に目を付けられていた。
『ッ!? 西田……君』
『天川……さん』
そして僕が見てしまったのは、天川さんと松岡がキスをしているところだった。ただ普通と違うのは、天川さんは悲しそうに涙を流していたこと。松岡はそれを狙っていたかのような下品な笑みを浮かべていたこと。明らかに天川さんは無理矢理襲われてしまった感じなのに……それなのに、当時の僕は何も言えずに逃げ帰ったのだ。
思えばここがあの時、僕と天川さんの時間が続くかどうかの分岐点だったのだろう。当然逃げ帰った僕はその瞬間に、天川さんと歩む未来を失ったのだ。
それを実感したのは天川さんと連絡が取れなかった夏休み、それが明けた学校でそれを目にした。
いつもは早めに登校する天川さんがその日は遅刻してきたのだ。それに僕は驚いたけど、もっと驚いたのは天川さんの姿だった。清楚な黒髪は金髪に染められ、校則によって決められていた服装を大きく違反する露出の多さ、白かった肌は黒く焼けていて俗に言う黒ギャルというやつだった。極めつけは、彼女の隣に居たのはあの男――松岡だった。
もちろん僕だけでなく、クラスメイトはもちろん先生でさえも戸惑っていた。そして――変わってしまった天川さんはもう、その中身でさえも僕の知る天川さんではなくなっていた。
『私ね……この夏休みで前も後ろも開発されちゃったんだぁ。すっごく気持ちいい時間だったよ』
『西田君のこといいなって思ってたの。でもさ、西田君私に何も言ってくれなかったよね。可愛いとか、綺麗とか何もさ』
『ごめんねぇ? もう西田君と一緒に居られないや。今日も乱交パーティ呼ばれてるからじゃあねぇ♪』
まるで泡沫の夢から覚めるように、まるで天川さんという人間が最初から居なかったかのように僕の前から彼女は居なくなってしまった。
それから天川さんは行動がエスカレートしていき、松岡とのセックスや乱交パーティの様子を生配信するようなことさえ始めたのだ。……もうその頃から、天川さんは後戻りできなくなっていた。
『ちょうだああああい! おクスリも!! エッチしながらお注射してえええええっっっ!!』
……薬にさえ手を出してしまったのか、天川さんはもう普通に生きることが出来ない体だったのだろう。天川さんと繋がりが完全に切れたのに、その動画を見ていた僕はたぶん未練があったのだと思う。でも、その動画を最後に天川さんの姿を画面越しに見ることさえなくなった。それもそうだろう……生配信の場で薬をやっていることを暴露したのだ。警察とかそう言った機関が黙っているはずがない。
噂によれば、彼女は家族からも見放され僕を含めたクラスメイトたちは皆離れて行ったと聞いた……だから正真正銘、あれから天川さんがどうなったのか僕はもう知る由もなかった。
これが僕の初恋の記憶だ。
僕が弱かったせいで、彼女に向き合わずに逃げてしまったからこそ起きてしまった悲劇。そんな出来事があったからかどうかは分からないけど、僕は意見を言えるようになったし内向的な性格から社交的と言われるまでになった。まあ映画監督なんてやっているからコミュ障だと困るのだけど、とりあえず言えることはあの頃の僕はもういなくなったということだ。
でも……やっぱりこんな経験があるからか恋愛することはとても怖い。愛し続ける自信はある、守ると誓える勇気も人並みにある。それでも、自分ではない誰かに奪われてしまう苦しみと悲しみが怖くて……大人になった僕は誰とも恋愛ができなくなってしまったのだ。
「……監督ぅぅぅぅ!!」
「……だから言ったんだよ。面白い話じゃないってさ」
酒の勢いで思わず、僕はこの子に初恋のことをゲロってしまった。僕の胸に顔を押し付けて、泣き続ける彼女の頭を優しく撫でる。というかこの現状、凄くマズいことを彼女は理解しているのだろうか。少しの変装をしているとはいえ彼女は腐っても今をときめく人気女優、大泣きしているせいでかなりの目が集まっているから彼女の正体がバレてしまってもおかしくはない。そうなった時、困るのは彼女だと言うのに。
「……私は!」
「お、おぉ……」
いきなりバッと顔を上げられ思わずビックリしてしまった。
赤く充血してしまった目、それを見てこんな話を聞かせてしまったことを申し訳なく思う。どうにか謝って泣き止んでもらわないと……そう思った僕だけど、次に聞かされた彼女の言葉に思わず呆気に取られてしまった。
「私は監督が好きです! 映画を見た時からどんな人か気になって、この業界に入って監督のこと聞いたら凄い惹かれて……そして実際にお話しして私は監督に夢中なんです! 好きなんです……大好きなんです!」
必死に伝えようとする彼女の姿に、僕は何も言葉を発せなかった。
「私はずっと監督だけを愛し続けます。監督だけの傍に居ます! だから……お願いです。私に……監督との時間を一緒に過ごす権利をください」
「……君は」
周りの目を気にすることなく、彼女は僕への気持ちを言葉にした。
そんな彼女の言葉を聞いて何も言葉を返さない僕……なるほど、僕はまだあの時から何も変わっていないのかもしれないな。
「そんな初恋の記憶があったら、女性に対して心を開けない理由も分かります。でも私は……好きな人と居ることが苦しいことだと思われたまま監督に居てほしくない! 幸せなんだって、素敵なことだって知ってほしい! 何度だって言います! 私は監督が好きです! 貴方と一緒に生きて行きたいんです!!」
……僕はずっと、この子から逃げてばかりだった。
過去の出来事のせいにして、僕は自分自身の幸せに向き合おうとしなかったのか……そしてそれは、僕の映画を好きと言ってくれたこの子を悲しませているんだな。
……認めよう、僕はこの子に惹かれている。そしてこの気持ちは間違いなく……恋なんだ。
「……あれ」
何だろう、この気持ちを認めた瞬間体が軽くなった気がする。まるで、ずっと縛られた何かから解き放たれたような感覚だ。よく分からない不可思議なモノ……でも、とても心地よくて気持ちがいい。
僕は目の前で涙を流す彼女の手を取り、強く抱きしめた。
「……監督?」
驚く彼女の顔が面白くて少し笑ってしまったけど、僕は君に伝えないといけないことがある。僕に本当の意味で前に進む切っ掛けをくれたこと、引きずり続けた過去を今度こそ忘れる切っ掛けをくれたこと……そして、君という存在を愛することができる幸せを教えてくれたお礼を君に。
「好きだよ」
「……っ!!」
もう大丈夫、僕はもうあの恐怖を感じてはいなかった。
時は流れ、何本目になるか分からない映画監督西田の新作が発表された。
その頃にはある意味で西田は有名になっていた。彼の作る映画が大ヒットを記録し続け世界中から注目されたのもあるが、何より最前線で活躍する人気のトップ女優と結婚をしたというのも大きかったのだろう。
最初は色々と荒れたものだが、西田と彼女の甘い新婚生活を特集した番組。果てには色んな番組に呼ばれる彼女が本当に幸せそうに薬指にはめられた指輪を見つめながらトークをするのだ。そんな彼女に対し、いつしか悪く言う者は誰一人として居なくなっていた。
どれだけ経っても西田と彼女は新婚のように甘く、芸能界一のおしどり夫婦とさえ呼ばれるほどであった。
過去を乗り越えた西田、西田に根気よく接し見事彼の心を勝ち取った彼女――そんな二人はこれからもずっと、幸せであったということをここに記しておく。
とある映画館から、女性と小さな女の子が手を繋いで歩いて出てきた。
女の子は興奮が冷めないのか大きな声で口を開いた。
「凄かったねお母さん! あの映画。私凄い好きだよ!」
そう女の子から伝えられた母親は笑みを浮かべながら答える。
「私もよ。本当に素敵な映画だったわね」
「うん! 私もあの映画みたいなお付き合いがしたいなぁ」
「大丈夫、貴女は可愛いからきっと素敵な子と出会えるわ」
「うん!!」
無邪気に笑顔を浮かべる少女の頭を撫でながら、母親はもう一度映画館に振り返った。一瞬だけ泣きそうになりながらも、すぐに何かを振り払うように綺麗な笑みを再び浮かべ――。
「私の初恋の人が作った映画だものね、本当に素敵だったわ――西田君」
「西田君って誰?」
「ふふ、さあ誰でしょうね。さ、帰るわよ。今日は貴女の好きなカレーライスにしましょうか」
「わ~いカレーだぁ!!」
はしゃぐ女の子の手を引く母親、二人の姿はすぐに見えなくなるのだった。
寝取られたヒロインって百合華みたいにちょっと色々思う方が居られると思うので、まあこんな感じにアンケートみたいな選択肢です。
よろしくお願いします。