一度寝取られ妊娠している状態でアフターをどのように作り上げるか、本当に案が出てこなくて結構苦戦しております。
なので今回は後の佐山家のやべーやつ、櫻井恵梨香のお話。
原作:彼女は誰とでもセックスする
私、櫻井恵梨香にとって、最愛の人となる佐山和弘――カズ君との出会いは普通ではなかった。手紙でカズ君に告白され、そんな彼に私は見てほしいモノがあって放課後に図書室に呼び出した。もちろん告白の返事をするためというものもあったけれど、“当時”の私は彼に見てほしかったのだ……私という人間がどんな存在なのか、どういう風に生きて来たのかを。私という女が、どんな女なのかを。
『櫻井……? 居るのか?』
そんな自信無さげな声が聞こえた。私は彼が約束を守って来てくれたことに安堵し、こっちだよって声を出そうとしたけど、下半身からの強烈な快感に身悶え言葉を話すことはできなかった。言葉にならない声の代わりに出てきたのは快楽を叫ぶ浅ましい雌の悲鳴だった。
『先生ぃ……凄く良いですッ! 先生の大きくてぇ!!』
何故なら私はその時、屈強な体育教師に犯されていたのだから。
私のこの声を聞いて本棚の向こうにカズ君が来たのは分かった。今の叫びから私と教師が何をやっているのかも、彼は気づいたのか聞き耳を立てるようにしたのはそれからすぐだった。
一つ誤解が無いように言うなら、犯されていた……と言っても性奴隷にされているとかそんなことではない。当時の私は単純にセックスという行為が大好きだったんだ。相手は誰でもよくて、ただただ気持ちよくなりたいだけ……その一番の方法が男とのセックスだっただけである。相手する男が私を犯しやすいように、相手が望むであろう女を作り上げる――幸か不幸か、私にはその才能があったのか近づいてきた男に相手されないことは終ぞなかった。少しそばかすが目立ちはするが、体が極上のモノだったという自負はあったから。
体育教師との情事を終え、白い液体を顔にまで掛けられている私をカズ君が驚いた目で見下ろしていた。思えばこんな最低とも言える出会いが、私とカズ君の本格的なファーストコンタクトだったのだ。
クラスでは目立たない地味な学級委員、その裏の顔がどんでもない淫乱女……自分で言うのもなんだけど、ちょっと凄い設定だと思わなくもない。
『私、セックスがだ~いすきなんだぁ♪』
確か……こんなセリフをカズ君に言った気がする。校内や校外にセフレがたくさんいる、それでもいいのかと聞くと驚くことにカズ君は頷いた。思わず目を丸くした記憶があるけれど、たぶん誰もがそんな反応をするはずだ。だってこんな女を好き好んで彼女にしたいと思う人間なんて絶対に居るはずがないから。
パシッ!
けど……当時の私はそこで何か罅が入るような音を聞いた。それに対し首を傾げながら、どうしても付き合うならカメラマンでならいいと言った。更に貴方とはセックスをしないけどそれでもいいの? っと付け加えて。
思えばどうしてあの時、こんな条件を咄嗟に出したのか分からなかった。付き合う付き合わない以前に、彼も他のセフレと同じようにすれば良かったはずなのに……どうして彼だけ遠ざけるようにしたのかが理解できなかった。
こんな滅茶苦茶な私の要求に彼は……こう答えた。
『いいよ。君の傍に居れるなら。好きな人の傍に俺は居たいんだ!』
『っ!!』
パシッ!
またその時、私は不可解な音を聞いた。
あの音は何だったのか、それは学校から帰っても私の頭を悩まし続けた。結局その夜考え続けても答えは出なかったが、それからだ――私とカズ君の奇妙な彼氏彼女の関係が始まったのは。
1、佐山君は私の専属カメラマン。
2、私と佐山君は絶対にセックスをしない。
3、これが守れないなら別れる。
こんな無茶苦茶な決め事が私たちの中で生まれた。我ながらアホなことをするようなものだと思ったけど、カズ君が納得したことで私も深く考えるようなことはしなかった。
それからはいつもと違うカズ君を交えた快楽漬けの日々の幕開けだった。
当時住んでいたマンションの管理人との本番無しエッチ、建設現場での作業員たちによる大乱交……一心不乱に快楽を求めるように腰を振り、上も前も後ろも全部塞がれて責め立てられるあの高揚感。全てが全て私の望んだ日常だった。そこにカメラマンであるカズ君が加わってもやっぱりあまり変化はなかった……いや、一つだけあった。周りの人間は私を犯すのに、彼氏であるカズ君はそれができないことにとても悔しそうな顔をしていた。それに対し私が感じたのは申し訳なさではなくて背徳感、それすらも私が欲する快楽に上乗せする効果すらあった。
正直言って彼は異常だ……もし彼が本心からこれを望んでいるのだしたら、私以上の変態だと思う。でもそれは間違っていなかったのかもしれない。だってこんな変態な私と付き合いを続けるのは、彼のような変態でなければ駄目だろうから。
それからも当然のことながらそんな日々は続いた。でも――そんな私の内面に変化が訪れたのはそれからすぐ、あれはそう……ネカフェでの撮影を終えてそれを私の自宅で二人揃って見ていた時のことだった。
『それにしても不思議だなぁ。本当ならこんな女すぐに別れたがるはずなのに……佐山君は本当に変な人だねぇ』
それは間違いなく心からの言葉だった。この言葉に対し返ってきたカズ君の言葉が……私に決定的な変化を齎したんだ。
『それでも、好きだからに決まってるだろ? 櫻井を好きって気持ちは今も変わらない。変わるわけがない!』
『っ!?』
まさかこれほどに強く言われるとは思わなくて、私は柄にもなく固まってしまったのだ。カズ君から伝えられた嘘偽りのない好きという言葉、それは私の心に深く浸透し今までに感じたことのなかった新しい感情を生み出す。
パシッ!!!
今度は今までよりも強く、罅が入る音がしっかりと聞こえた。頬に熱が集まり熱くなるのが分かる。今までにない感情に自分が分からなくなって、まともにカズ君の顔が見れなくなった。でもその日の撮影はまだ終わっていなくて、管理人さんとの本番無しエッチが待っていた。
最初は今まで通りだったけど、その日は管理人さんもスイッチが入ってしまったのか本番に突入してしまったのだ。この人とは本番はしない決まりだったので驚きもしたが、その驚きよりも私の心を覆ったのはこのセックスに対する不快感だった。
今までセックスに対して不快感なんて感じたことは一度としてなかった。だから私は犯されながら混乱していた……なんだこれはと、これは私の求めるセックスじゃないって。確かに気持ちいい、絶頂に導かれて頭が弾けるような快感は確かにあった……でも、私の心までは満たされなかった。
管理人さんが去り、いつものように肩で息をする私をカズ君が綺麗にする……その時カズ君に体を触れられ、私は自分で自分を抑えきれなくなった。自分の分からない感情に突き動かされるように、私はカズ君に飛びついて深くキスをした。
ただのディープキス、今まで幾度となくして来たその行為のはずなのに……どうして、どうしてこんなに満たされるんだろうと驚いた。驚いたように目を丸くするカズ君がおかしくて、私は思わず笑ってしまい……そして。
『セックス、しようか』
二人の間で取り決めた協定を、私が破るようにそう言った。
私の言葉を聞いてカズ君は今までのことを全て私に返すように、一心不乱に私の体を貪った。
『恵梨香……恵梨香!!』
『カズ君……カズ君ッ!!』
その初めてのセックスの時に、お互いの呼び方が今の呼び方に変化した。
パシッ!!!!
彼に名前を呼ばれ、彼を新しい呼び名で呼ぶと……またあの音が聞こえた。この時になってようやく、私はこの音の正体に気づいた。これはきっと壁なんだ。私の本心を閉じ込める最後の防波堤。
カズ君の全てを己の体の中に受け止めた時、今まで感じたことのない快感と温もりが駆け抜けた。力尽きたように私の上に体を倒すカズ君を抱きしめながら、私はやっとその時に――自分で気づいた感情の正体を知ったんだ。
『……カズ君……好きだよ』
好き、私はカズ君に恋愛感情を抱いていた。どうして今までこの芽生えようとしていた気持ちに気づかなったのか、簡単である。本来セックスとは愛を確かめ合う行為、私はその愛を育むという過程をすっ飛ばしてセックスをしていたのだから誰かを好きになるという気持ちが分からなかった。でもこれが好きになると言うこと、誰かを愛したいと思うことなんだと納得すると、心にあったモヤモヤは綺麗に消えていった。
私はカズ君が好き……でも、この好きを自覚するとぶち当たる壁というモノがあった。それは私という存在がカズ君にとって、きっと汚点になってしまうということ。
『カズ君、ありがとう』
私はカズ君への気持ちに気づくと同時に、カズ君の前から去ることを決めた。
その日カズ君が帰ってから私は引っ越しの準備をする。この街から離れ、どこか遠くへ行ってしまおう。そんな気持ちを抱きながら最後に、カズ君への手紙を書く。
“カズ君、今まで本当にありがとう。私は旅に出ようと思います。目的は……そうだなぁ。色んな男の人を食べてみるの旅~♪ って感じ。それじゃあね!”
彼に宛てようとした手紙は彼との短い触れ合った時間のように短かった。でも……この手紙を書く時の私の手は信じられないほどに震えていて時間が掛かった。頬に手を当てるとボロボロと涙が零れていて、本当に私は心の底からカズ君に惚れているんだなと実感した。
『……男の人を食べてみる……か。ふふ、そんな気が全くしないのが不思議だなぁ』
カズ君という存在を知ってしまったら、もう今までみたいにセックスする気もなくなってしまった。けれど私なら別れ際もこう言った方が私らしい……最後まで私らしく、彼を好きになった私で居たいから。
翌日、普段なら学校に行くのだが私はもう行くことはない。カズ君も今は学校で授業を受けている頃だろうか、そして私の書いた手紙も朝早くに学校に行って彼の下駄箱に入れておいたから多分見てくれたはずだ。
思い残すことはない、カズ君という存在に出会えただけで私はもう……幸せだから。
どこか遠くに向かうために電車を駅で待つ私、ピーっと音が鳴って次の電車が来るのを知らせてくれた。椅子から立ち上がって目の前で止まった電車に乗り込もうとした――その時だった。
『恵梨香あああああああああっ!!』
ドクンと、大きく心臓が脈打った。
あり得ない、もう聞くことはないはずだ……絶対にあり得ない。そう心は思うのに、今私の鼓膜を震わせた声が私をその場に縛り付けた。
まさか、そんな気持ちで振り向いた私の目はやっぱり……彼を捉えた。
スマホを片手に、汗びっしょりになっているカズ君の姿を。
『……ったく、いきなりすぎるだろ……バスとか電車とか色々考えたけど、駅に電話してみればビンゴだった』
『電話……って』
まさか、そうまでして私を探しに来てくれたのか……私の心は歓喜と感動がごちゃ混ぜになるけれど、これは私が決めたことなんだ。これ以上カズ君の姿を見ていると、彼の前から去ると決めた決心が粉々になってしまいそう。儚くも脆い私の心の壁が、粉々に砕けてしまいそうになる。
カズ君に背を向け、電車に乗ろうとするも私の足は動いてくれない。そんな私にカズ君は声を掛けてくる。
『俺は……俺は君が好きだ! これからもずっと君と一緒に居たい! 恵梨香! 俺は君と……君とずっと一緒に生きていきたいんだ!!』
それはきっとカズ君の魂の叫びだったのかもしれない、彼の泣いてしまいそうな……縋りたいと願うその言葉にもう、私の心の壁は意味を成さなかった。
決心は揺らぐ、一度揺らいだ決心は簡単には元に戻らない。あぁ認めよう、私はカズ君と離れたくない……私も、私もカズ君という一人の男性が好きなんだ!!
パリーンッ!!!
心を覆っていた最後の壁は綺麗に砕け散った。私の足は動き出す……別れを齎す電車ではなく、これからの未来を彩る彼との場所へと。
私はカズ君の元へ走り、彼の胸元に飛び込む。かなりの勢いで抱き着いたというのに、彼はしっかりと私を抱き止めてくれた。こうすると感じるカズ君の匂い、感触、温もり、愛おしさ……その全てが私を満たしてくれる。
『良かった……ちゃんと君を捕まえられた』
安心するようにそう言ったカズ君の言葉が嬉しくて、私は思わず彼の唇を奪った。でも一つだけ、カズ君は勘違いしていた。だって――。
私はもう、ずっと前からカズ君に捕まられていたのだ。
多分あの時、心の壁に罅が入る音を聞いたあの日から私はカズ君に惹かれていたのだろう。一番最初に絶対にセックスをしないと協定を作ったのはもしかしたら……当時気づけなかった私の心は、カズ君に惹かれ恋をしてしまうことを予感していたのかもしれない。
『カズ君、大好きだよ!!』
本当に人生何があるのか分からないものだ。
色んな男とセックスをして欲求を満たす生活をしていた女が、たった一人の男に惹かれ心を奪われるなんて。一つの物語が出来てしまいそうなほど、でも私はこれが物語ではなく現実なのだと分かっている。
カズ君に惹かれ、カズ君を好きになり、カズ君の傍に居ることを決めたのは他の誰でもない――今ここに存在している“私自身”が選び紡ぎ出した未来なのだから。
いつまでもきっと、貴方の傍に。
だからどうか、貴方も私の傍に居てください。
私、櫻井恵梨香が願うのは……あの時から今もずっとこれだけです。
カズ君も結構な地蔵メンタルだと思います。