落第騎士の英雄譚 破軍剣客浪漫譚「本編完結」   作:どこかのシャルロッ党

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第十五幕「男が泣く姿は時にカッコいい」

 

 

矢が次々放たれ一輝は交わし続ける。だが

静矢が策を打っていないはずもなく、矢を

ステルス化する事で見えない攻撃を繰り出す。

 

「がっ!」

 

「いいね・・・もう少しいい声を聞かせてくれたまえ!」

 

矢を放ち続ける。回避しても太腿に突き刺さり

全く打ち落とせてなかった。観客席からステラや

珠雫、翔真達の表情は段々険しくなる。

 

「あの攻撃って卑怯じゃない?いくらなんでも

特性があるからってあんなの酷いよ!」

 

「私もシャルちゃんに同感!翔真君は

どう思う!?桐原君の攻撃は!」

 

女子からすれば卑怯な戦法としか見えない。

シャルロットや明日菜は異を唱える。

 

「いや。あれは自分の特性を生かした戦術だ。

自らをステルスにする事は知っていたが、まさか

矢をステルスに出来るとはな・・・」

 

少しばかり桐原静矢を甘く見ていた翔真は

自身の考えを真っ向から否定した。今までの

戦い方とは若干違うスタイルだったのが

誤算だった。自身の身を消す事が出来ると

いう事は知っていたが、今回の戦法は

今まで全く知らされていない新たな技。

 

「これは不味いわね・・・」

 

神妙な顔つきでアリスは今の状況を不味いと

考えていた。珠雫もまた静矢の戦いぶりを

見て、兄である一輝の反撃すらままならない

事を察していた。

 

だが、一人だけ一輝の異変に気付いた者がいたー

 

「違うわ・・・確かにアイツの攻撃も問題だけど

イッキの様子もおかしいわ!」

 

「どういう事です?」

 

珠雫はステラに問う。

 

「どうして開幕速攻をかけなかったの?敵が

消えるってわかっているんだから開始線上に

必ずいると分かっている。試合開始の瞬間に

勝負をかけるべきでしょう」

 

「貴女はテロリストの一件で、何も

学んでないの?伐刀者相手に不用意に

飛び込めば自殺行為なのですよ?だから

まずは敵の呼吸を読み、癖を盗むのが

お兄様の剣。ですから・・・」

 

続けようとしたがステラは慎重な姿勢で

口を開く。

 

「手順を重ねて確実に勝利を掴みにいく・・・

それがイッキよ。でも今回の敵は姿を消すのよ!?

どこから鏃を向けられているかもわからない状況

でどれだけ消耗を強いられてると思うの!?」

 

「ッ!」

 

何かに気付いた珠雫は再び一輝の方へ視線を

向ける。

 

「その様子だと、一輝の異変に気付いていたのね」

 

「まあな」

 

アリスの言葉に反応する翔真。

 

「一輝は今あがってるんだ。奴の攻撃を

読めず、行動すら出来ないアイツはそれだけ

今追い詰められてる・・・」

 

やられ続ける一輝。槍が身体を傷付ける最中

次第に血を流している・・・

 

「(悔しいが今回の戦いは桐原の野郎が

一枚上手か・・・負けんなよ一輝・・・)」

 

 

 

――――

 

 

静矢に見下されながら攻撃を食らう一輝。

緊張で冷静さを失っている一輝はひたすら

耐えるしかない。

 

 

「やれやれ頑張るねー・・・これならどうだい!」

 

矢が太腿に、脚に、腕に――次々とかすり

一輝の体力を奪ってゆく。次第に力を失い

地へ倒れてしまう。

 

「アハハハハハッ!なんてみっともない姿だッ!

汚ならしいッ!ここで倒れていいのかい?」

 

静矢の言葉に一輝は違和感を覚える。

次の瞬間、ある内容を口にした。

 

「ここで皆に教えてあげよう!ここにいる

黒鉄君はねー、Fランク騎士であり能力不足で

普通だと卒業なんて無理な話なのさ。だがね

理事長がある条件を出したらしい――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―それは、七星剣武祭で優勝し七星剣王になれば

卒業させてやるっていう条件なんだよッ!―

 

「(アイツッ!!俺や黒乃のBBAしか知らない事を!)」

 

思わず立ち上がる。だが次の瞬間生徒達から

笑い声が吹き出す。

 

『バッカじゃねーのッ!?Fランクのクセに!?』

 

『無理無理ッ!Fランクで何ができんだよ!!』

 

次から次へと飛び出す罵声。そして静矢は

この状況を楽しむように笑っていた。

 

「(そうか・・・こういう野次馬達を使って

一輝の精神をすり減らそうって魂胆か!くそがッ!)」

 

差別的な発言、一輝の努力をバカにするような

発言が飛び交う中でステラが立ち上がる。

 

 

「アンタ達に・・・何が分かるのよォォォォ!!!」

 

ステラの声に生徒達一同が静まり返る。

 

「さっきから聞いてれば・・・Fランクだから

勝てない、FはAに勝てない?そんなのアンタ達が

勝手に決め付けた格付けじゃないのッ!」

 

周り全員ステラに視線を向けている。

未だに倒れている一輝は、静かにステラの

言葉に耳を傾けていた。

 

「天才には何をやっても勝てない・・・そう言って

自分自身の諦めを正当化してるだけッ!それを

理由にッ!イッキの強さを否定するなァァ!」

 

「(ステ・・・ラ・・・)」

 

薄れゆく意識の中、次第に立ち上がろうと

する一輝。すると新たな声援が耳に入る。

 

「一輝ィィィィィ!!てめえ諦めるのかよッ!!

ヴァーミリオンの前で無様な姿晒すのかァァ!

こんなにお前の事を想っている女の子の前で

寝てるだけなのか!どうなんだ一輝ッ!」

 

 

―全く・・・少し声が大きいよ翔真。けど、

ステラが・・・ステラの目の前で・・・倒れる訳には

いかないんだ!・・・ッ!―

 

 

「うおおおォォォォ!!!」

 

「・・・まだ立てるのかい」

 

獣のような雄叫びを上げて立ち上がる。

 

 

「確かに・・・僕の目標は難しいかもしれない・・・けど」

 

一輝は精神を集中させて《一刀修羅》を発動した。

 

「僕は勝つ。まずは君を倒すッ!僕の最弱を

似て君の最強を捕まえるッ!勝負だ桐原君ッ!」

 

「捕まえるだ?さっきまでやられて

ばかりの君が、僕を捕まえる?なら・・・

やってみせろよ!落ちこぼれェェ!」

 

静矢は矢を放つ。心臓に向けて放つ

だが―――

 

「悪いけど・・・もう受けないよ」

 

「なに・・・」

 

一輝は矢を手で捕まえていた。まるで獲物を

捉えたような獣の眼差しで静矢を見る。

 

今までのパターンを読み切り、既に

静矢お得意のエリア・インビジブルは

見破られていた。

 

『桐やん、もうその狩人の森は役に立たねーぜ!』

 

笑いながら西京寧音は立ち上がる。先程の

言葉に静矢は反応する。

 

「ふ、ふざけるなッ!僕の狩人の森は無敵だ!

こんなたかがFランクの屑に見破られるはずが・・・」

 

『そうだねぇ。対人最強の伐刀絶技だよ

狩人の森はさ。けどね、もう黒坊に見破られ

てるんだよ桐やん』

 

「う、嘘だね!?そんなバカな事が

ある訳ないッ!」

 

狼狽える静矢をよそに一輝は刃を向ける。

 

「もう終わりにしようか桐原君・・・

今ここで決着を着けよう」

 

そう言うと走りだし、陰鉄を構え走り出す。

「ふざけるなッ!僕がこんなFランク風情に

負けられるかッ!!お前と違って僕は期待され

てる!お前みたいな何にもない屑と違って

失うものが・・・」

 

「・・・ッ!!」

 

静矢の言葉に耳を貸さず、一輝は矢を弾き

攻撃を交わす。そして――――

 

「せいァァ!」

 

「痛いのはやだ・・・助けてママァァァァァァ!!」

 

カッコ悪い台詞を吐いて静矢は倒れた。実際に

一輝が攻撃をしたのは静矢を覆っていたバリアで

静矢は単に怖さのあまり気絶しただけだ。

 

 

『し、勝者・・・黒鉄一輝選手!』

 

 

一輝は見事、勝利を手に入れた。

 

 

 

 

 

 





あとでもう一本投稿します。

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