捻くれた俺の彼女は超絶美少女   作:狼々

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どうも、狼々です!

今回はデート編ということで、捻くれ要素が殆どありません!
そこ、ネタ切れ言わない! 切れてません。まだいくつかあります。

途中、かなり抽象的な表現が入っています。
解釈は、読者の皆さんそれぞれに任せようと思います。

では、本編どうぞ!


第9話 変われるのなら、救えるのなら

 電車にしばらく揺られ、徒歩も少しあり。水族館に着いた。電車の中は混んでいるとも空いているとも言えないくらいで、席に困ることはなかった。水族館ではどうかわからないが。受付で入館料金を払って、早速中へ。

 

 電車の中で聞いた話なのだが、どうやら小鳥遊は魚は好きな模様だ。曰く、「可愛らしい」だそうだ。俺から言わせてもらえば、小鳥遊の方が可愛らしいのだがそれは。

 

 着いた時刻は十一時よりちょっと前。少し見てから、昼食にするとしようか。この水族館の中に、カフェみたいなのがあったはずだし。予約は一応入れたから問題なし。抜かりはない。

 

 館内の順路に沿って進んで行き、まず最初にあったのは、クラゲやリュウグウノツカイが泳いでいる、深海魚のゾーン。薄暗く、どこかゆったりとしたイメージ。ここだけが、時がゆっくり流れているんじゃないかと、錯覚も起こしそう。

 

 クラゲの僅かな光が、覗いている俺達を照らしている。えっと……ギヤマンクラゲ? というらしい。説明を見ると、『ギヤマン』はダイヤモンドの意もあるらしい。

 

「おぉ、綺麗だね~」

「そうだな。クラゲの中でも、ベニクラゲってのは、不老不死らしいぞ」

「え、そうなの?」

 

 らしい。1cmくらいの大きさで、生活環を逆にするという。実際に見たわけではないが、Wikipediaに書いてあった。調べておいて正解だったな。話題に困らない。水族館を選んだのも成功だったかもな。

 

 さて、お次はリュウグウノツカイ。といっても、こっちは剥製なのだが。それにしても、顔が怖い感じもする。けれど、どこか魅力を感じる。迫力ある大きさだったり、透明感がある背鰭(せびれ)だったり。

 

「おっきい……」

「そ、そうだな……」

 

 いや、あのですね小鳥遊さん。そんなまじまじとリュウグウノツカイを見ながらのその言葉は、ちょっといけないと思うのですよ。おっきいとか言わない。いや、もっと言って。

 

 奥へ奥へと進んで行く中、人が多くなっていった。まぁ、そうだろうな。今は週末のお昼時。家族連れやカップルなど、複数人での入館者が増える時間帯だ。で、少し。一瞬だが、小鳥遊を見失った。

 

「あ、あれ……? あ、あぁそこか」

「あ、いた。よかった~」

 

 小鳥遊も俺を見失っていたようで、若干の安堵の表情を見せる。これ以上見失うと、捜索に時間がかかる可能性がある。二人でお互いを捜し合えば、かえって見つかりにくくなる。かといって、連絡をとろうにも手段がない。

 

 ……少々恥ずかしいかつ、心に傷が入る可能性があるが、仕方がない。こういうのは、男の俺から誘うべきだろう。俺は嫌じゃないんだが、向こうがどうかな~。

 

「あ~……ほら、小鳥遊」

 

 俺は小鳥遊に向かって、手を差し出す。そう、手を繋ぐのだ。今俺、かなり恥ずかしい。

 

「ぁ……うん、ありがと」

 

 彼女の笑顔が薄暗い中でも輝いているようだ。そして、俺の右手に、彼女の左手が重なる。うぉ、やわらかい。それに暖かい。ドキドキするんだけど。汗とかは大丈夫なはず。

 

 進んでいくにつれて、明るさが徐々にだが明るくなっていく。エスカレーターで一階分上がり、二階に。深海魚のゾーンを抜けて、海の魚のゾーンに出た。深海のゾーン程ではないが、暗くなっている。

 

 かなり大きめの水槽に、色々な種類の魚が泳いでいる。マグロやカツオ等、よく見知っていて、見慣れている種類の魚もいれば、エイやマンボウ、ジンベエザメ等のあまり見ない魚や迫力があったりする魚も。小さい魚は群れを成して泳いで、ジンベエザメがそれの周りを雄大に泳いでいる。同じ哺乳類とは思えないな。

 

 

「何か……楽しそう」

「ん? どうしてだ?」

「その……なんとなく。ゆっくりで、壮大で、いっぱいで、広くて」

 

 いつもの俺なら、海にいた方が自由だろう、魚達のホームだからな、とか言っていただろう。実際、俺はその言葉を口にしようとした。……けれど、彼女の顔を見たら自然と、口をつぐまなければならない。そう感じた。

 

 彼女は、優しそうで、暖かみのある笑顔を浮かべていた。慈愛に満ちた笑顔を向ける女神の様に、美しく。薄暗い世界の真ん中で、ただ一人卓越した存在として。何ものにも代え難いだろう。不安定で、曖昧に揺らめいている海の中で、自然の恩恵でいっぱいに満ちていて。

 

「そう……だな」

 

 俺は、肯定する。彼女の様に優れた感性を持っているわけじゃない。彼女の言葉を完全に理解しきったわけでもない。けれど。なんとなく、そう感じた。どこまで自分を内省(ないせい)したところで、答えが返ってくることはない。それでも、俺は。いや、()()()()()、俺は。彼女の考えを少しでも理解したい。

 

 間違っているかもしれない。見当違いかもしれない。掴もうとしても、指の間をすり抜けて逃げられるかもしれない。それでも。彼女の考えによって、俺自身が変われるのなら。俺が、彼女を救えるのなら。彼女自身が救われるのなら。

 

 

 

 ――俺は。

 

 

 物思いに(ふけ)っていると、隣から声がかかる。

 

「――柊君? どうしたの?」

「あ……いや、なんでもないよ。どうする? もう行くか?」

「うん、次に行こうか」

 

 俺達が立ち去る直前、魚の大群も、ジンベエザメも、泳ぎが少し遅くなっていた。

 

 

 さらに一階分上がって三階に。ここ三階は、様々な魚の剥製や、魚の情報を知れるゾーンになっている。深海魚のゾーンや海の魚のゾーンとは違い、かなり照明が明るくなっている。眩しさに目を細めながらも、展示されている魚の剥製を見ていく。

 

「ほら、柊君! これサメの歯なんだって!」

「へぇ、想像よりもずっと尖っているな」

 

 ホホジロザメの歯の剥製は、思いの外鋭利だった。なるほど、これに顎の力が合わされば、それはもう痛かろう。小鳥遊と一緒にいた俺への視線より鋭い。いや、同等くらいか? 視線、コワイ。

 

 標本のようなものもあり、二人でそれを覗き込む。のだが……如何せん近づく必要がある。それはもう、カップルみたいな感じになっている。遠目から見れば、腕を組んでいるように見えなくもない。いい匂いがするわ、腕にやわらかいものが当たったり離れたり。もう俺の精神が崩壊寸前なんですが。

 

 一方の小鳥遊はというと、全く気にしない様子のようで。俺だけが勝手に色々考えて、馬鹿みたいだ。いくらそうやって気を紛らす考えを巡らせても、意識がそっちに刈り取られるのは事実。変わらない。全部見終わって、時間はお昼少し前。今くらいが丁度いいだろう。

 

「よし、ここらで昼食にしよう。一階まで降りてカフェまで行くけど、いいか?」

「うん! 行こう行こう!」

 

 そう言って、俺の隣に並び直して手を繋いだ。このあたりは人も少なく、決してはぐれるようなことはないだろう。でも、彼女は手を繋いでくれている。

 

 ……少なくとも、嫌われているわけではなさそうで。よかったよ。

 

 

 

 一階カフェ。窓には一面に海景色が広がっている。このカフェは、泳いでいる魚を見ながら昼食を取れるということらしい。おしゃれな感じはするが、小鳥遊がどう思うかはわからん。

 

「おぉ、綺麗だね~。ふふっ」

 

 笑顔が眩しい。お気に召してくれたようでなによりです。この輝くような笑顔を見るだけで、来てよかったとも感じる。俺が安心しているだけなのかもしれないが。

 

 

 軽食のような昼食をとってカフェを出る。支払いは俺がする予定だったのだが、そこで小さく争っていた。結局俺が払うことを渋々ながら受けさせた。別に困っているわけでもないし、お金の方も使われないより使われた方がいいだろう。

 

 今の時刻は十二時半過ぎ。ふむ、これなら大丈夫か?

 

「なぁ、小鳥遊。イルカのショー、見に行くか?」

「いいの?」

 

 おぉ、この顔がまた可愛い。不思議そうにしてる顔が素みたいで可愛い。

 

「あぁ。この時間なら丁度いい」

「じゃあ行ってもいい?」

「おう。なら、行こうか」

 

 イルカのショーを見ることが決まり、二階へ上がって、外へ出る。あの中央に円形のプールがあって、青い席がずらりと並んでいる、よく見るあんな感じ。せっかくなので、前の方の席に座る。イルカの飼育員さんが餌をあげつつ、芸の練習をしている。ジャンプをしたり、跳んで上から吊り下げられた輪っかやボールをくぐったり、タッチしたりしている。

 

 あと数分でショーが始まろうとしたところで、席がほぼ埋まった。中々に人気があるらしい。親子で笑顔を浮かべながら来ている客もいれば、カップルで幸せそうに腕を組んで見ている客もいる。さらには、女子だけ、男子だけで集まって遊びに来ている客も。

 

 開始予定時刻になり、前に飼育員のお姉さんが出て来る。

 

「皆さ~ん! こんにちは~!」

「「「こんにちは~!」」」

 

 主に子供の声が響く。まだまだ純粋なようだ。ちなみに、隣からも小さく聞こえた。可愛い。

 

「今から、イルカのココちゃんが芸をしてくれま~す!」

 

 ほう、メスか。だからといってどうというわけでもないが。俺は魚のオス・メスは見分けられない人間だ。勿論、イルカも。何かしらの目印があるんだろうな。尻尾が稲妻だったら♂、ハートだったら♀みたいな。どこの電気ネズミだよ。

 

「はい、じゃあココちゃん。いくよ!」

 

 そうお姉さん飼育員が声をかけて、人差し指を立てた。そして、いくらか人差し指で円を描いて、あるところを指さした。指差した場所は、上から吊り下げられた輪っか。

 

 輪っかに指がさされた直後、水面からイルカが跳躍し、輪っかをくぐった。結構高いやつなので、歓声も思いの外あがっている。歓声が、イルカが水面に当たる水しぶきと音で掻き消える。

 

「おぉお~! あのイルカさんすごいね、柊君!」

「あぁ。あの高さはスゲェよな。六、七メートルくらいか?」

 

 俺的には小鳥遊の言葉が気になった。イルカ『さん』って、可愛い。普通の人がやってもあまり魅力を感じないし、むしろ少し気持ち悪い感じもするが、小鳥遊がすると別だなこれ。超かわいい。イルカより可愛い。試しに俺も呼んでみようか。イルカさ~ん。ほら、やっぱり気持ち悪い。

 

 次は吊り下げたボールにタッチ。同じく歓声、水しぶき。そして隣で小鳥遊の笑顔。可愛い。小鳥遊は、はしゃいでるのか?いつも楽しそうな笑顔を見せてくれているが、今日は一段と嬉しそうだ。来てよかった。そう思える。

 

 ボールの位置が少し低くなった。ボールタッチの次は、テールキック。さっきまでのタッチは口で行っていたが、今度はその名の通り尻尾で。歓声、水しぶき、笑顔。可愛い。さっきからこれがずっとだ。小鳥遊の隣はある意味耐えられない。精神が持ってかれる。

 

 そして、後ろの方で男の声が聞こえた。

 

「なあなあ。あの子、超可愛くね?」

「あぁ。めちゃくちゃ可愛いな。俺の好みだわ」

「さっきから声も聞いてるが、声も可愛いぞ」

 

 ちら、とそちらの方を見る。いかにもチャラそうな男三人組。どこか不良にも見えなくもない。ピアスを付けていたり、金髪にしていたりと、ツンツンしている。そんな見た目だ。

 

 俺は正直、こういった種類の人間は苦手だ。嫌いじゃなく、個人的に苦手。俺がその種類の人間と関わって、いいことがあった(ためし)がない。完全に偏見になるが、俺の経験則からすると、あまり関わらない方がいい。勿論、全員が悪いやつとは思っていないが、悪いやつの方に引っかかった時は、ダメージが大きい。

 

 気の強さっていうのは、外見に表れるとよく言う。この言葉は正解でも間違いでもあると思うのだ。本当に気の強い人間が外見をツンツンさせることがある。そうじゃない人間もいる、ということだ。

 

 しかし、気の強い人間だけがツンツンした見た目なのではない。むしろ、逆だ。気の弱さを悟られないため――いわゆる、カモフラージュだ。気の強い感じを見せて、自分の器の大きさを大きく見せようとする。けれど、実際はそれはハリボテなのだ。崩されれば、それだけ普通の人よりもダメージは響くだろう。

 

 今まで見せかけの虚像で騙し続けた奴は、受け身を取ることを知らない。だって、受け身を取る以前に(かわ)してきたのだから。痛みを知らない人間が、人一倍痛みに弱いように。崩されたことがない人間は、崩された後のことを考えていない。今までずっと、必要なかったから。だからこそ、崩されたらまずいのだ。

 

 そう、俺のクラスにもいるじゃないか。気が強いでもないけれど、自分よりも下だとわかった人間にだけ強くあたる。器を大きく見せかけている、ピエロのような、詐欺師のような、外見を貼り付けているような人間。

 

 ……降旗と愛原。この二人は、この部類に属することだろう。強くあたるけれど、崩されたら途端に弱くなる。崩れれば突破は簡単なのだ。なんてことはない。合宿も気にする必要がないだろう。俺は勝てる。しかも余裕で。

 

 今まで人に頼らずに、自分独りで結果と向き合ってきた心の強さを持っている俺に、偽物・レプリカの器を掲げている二人が勝てるはずがないのだ。俺を敵視した時点で間違い。チェックメイトなのだ。そこでもう、ゲームは終わっている。俺の完全勝利で、な。

 

 っと、せっかくのデートなんだ。嫌でマイナスなことは好ましくない。小鳥遊はこんなにも楽しんでくれている。そんな中で、俺がここで失敗するわけにはいかない。きっちりやらないとな。

 

 俺は、この時点では気付いていなかった。同じ男として、気付くべきだった。気持ちを読み取る分野で長けている俺が、気付くべきだったんだ。

 

 

 

 ――この三人組の、小鳥遊の全身を(ねぶ)るような視線に。




ありがとうございました!

ということで、デート編は二話に分かれます。
このままだと、合宿編が第十五話前後になると思います。

早く合宿編が見たいという方もいらっしゃると思いますが、ご了承ください。

終わり方がなんかえっちぃですね。
変態さんです。

ではでは!

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