今回はデート編ということで、捻くれ要素が殆どありません!
そこ、ネタ切れ言わない! 切れてません。まだいくつかあります。
途中、かなり抽象的な表現が入っています。
解釈は、読者の皆さんそれぞれに任せようと思います。
では、本編どうぞ!
電車にしばらく揺られ、徒歩も少しあり。水族館に着いた。電車の中は混んでいるとも空いているとも言えないくらいで、席に困ることはなかった。水族館ではどうかわからないが。受付で入館料金を払って、早速中へ。
電車の中で聞いた話なのだが、どうやら小鳥遊は魚は好きな模様だ。曰く、「可愛らしい」だそうだ。俺から言わせてもらえば、小鳥遊の方が可愛らしいのだがそれは。
着いた時刻は十一時よりちょっと前。少し見てから、昼食にするとしようか。この水族館の中に、カフェみたいなのがあったはずだし。予約は一応入れたから問題なし。抜かりはない。
館内の順路に沿って進んで行き、まず最初にあったのは、クラゲやリュウグウノツカイが泳いでいる、深海魚のゾーン。薄暗く、どこかゆったりとしたイメージ。ここだけが、時がゆっくり流れているんじゃないかと、錯覚も起こしそう。
クラゲの僅かな光が、覗いている俺達を照らしている。えっと……ギヤマンクラゲ? というらしい。説明を見ると、『ギヤマン』はダイヤモンドの意もあるらしい。
「おぉ、綺麗だね~」
「そうだな。クラゲの中でも、ベニクラゲってのは、不老不死らしいぞ」
「え、そうなの?」
らしい。1cmくらいの大きさで、生活環を逆にするという。実際に見たわけではないが、Wikipediaに書いてあった。調べておいて正解だったな。話題に困らない。水族館を選んだのも成功だったかもな。
さて、お次はリュウグウノツカイ。といっても、こっちは剥製なのだが。それにしても、顔が怖い感じもする。けれど、どこか魅力を感じる。迫力ある大きさだったり、透明感がある
「おっきい……」
「そ、そうだな……」
いや、あのですね小鳥遊さん。そんなまじまじとリュウグウノツカイを見ながらのその言葉は、ちょっといけないと思うのですよ。おっきいとか言わない。いや、もっと言って。
奥へ奥へと進んで行く中、人が多くなっていった。まぁ、そうだろうな。今は週末のお昼時。家族連れやカップルなど、複数人での入館者が増える時間帯だ。で、少し。一瞬だが、小鳥遊を見失った。
「あ、あれ……? あ、あぁそこか」
「あ、いた。よかった~」
小鳥遊も俺を見失っていたようで、若干の安堵の表情を見せる。これ以上見失うと、捜索に時間がかかる可能性がある。二人でお互いを捜し合えば、かえって見つかりにくくなる。かといって、連絡をとろうにも手段がない。
……少々恥ずかしいかつ、心に傷が入る可能性があるが、仕方がない。こういうのは、男の俺から誘うべきだろう。俺は嫌じゃないんだが、向こうがどうかな~。
「あ~……ほら、小鳥遊」
俺は小鳥遊に向かって、手を差し出す。そう、手を繋ぐのだ。今俺、かなり恥ずかしい。
「ぁ……うん、ありがと」
彼女の笑顔が薄暗い中でも輝いているようだ。そして、俺の右手に、彼女の左手が重なる。うぉ、やわらかい。それに暖かい。ドキドキするんだけど。汗とかは大丈夫なはず。
進んでいくにつれて、明るさが徐々にだが明るくなっていく。エスカレーターで一階分上がり、二階に。深海魚のゾーンを抜けて、海の魚のゾーンに出た。深海のゾーン程ではないが、暗くなっている。
かなり大きめの水槽に、色々な種類の魚が泳いでいる。マグロやカツオ等、よく見知っていて、見慣れている種類の魚もいれば、エイやマンボウ、ジンベエザメ等のあまり見ない魚や迫力があったりする魚も。小さい魚は群れを成して泳いで、ジンベエザメがそれの周りを雄大に泳いでいる。同じ哺乳類とは思えないな。
「何か……楽しそう」
「ん? どうしてだ?」
「その……なんとなく。ゆっくりで、壮大で、いっぱいで、広くて」
いつもの俺なら、海にいた方が自由だろう、魚達のホームだからな、とか言っていただろう。実際、俺はその言葉を口にしようとした。……けれど、彼女の顔を見たら自然と、口をつぐまなければならない。そう感じた。
彼女は、優しそうで、暖かみのある笑顔を浮かべていた。慈愛に満ちた笑顔を向ける女神の様に、美しく。薄暗い世界の真ん中で、ただ一人卓越した存在として。何ものにも代え難いだろう。不安定で、曖昧に揺らめいている海の中で、自然の恩恵でいっぱいに満ちていて。
「そう……だな」
俺は、肯定する。彼女の様に優れた感性を持っているわけじゃない。彼女の言葉を完全に理解しきったわけでもない。けれど。なんとなく、そう感じた。どこまで自分を
間違っているかもしれない。見当違いかもしれない。掴もうとしても、指の間をすり抜けて逃げられるかもしれない。それでも。彼女の考えによって、俺自身が変われるのなら。俺が、彼女を救えるのなら。彼女自身が救われるのなら。
――俺は。
物思いに
「――柊君? どうしたの?」
「あ……いや、なんでもないよ。どうする? もう行くか?」
「うん、次に行こうか」
俺達が立ち去る直前、魚の大群も、ジンベエザメも、泳ぎが少し遅くなっていた。
さらに一階分上がって三階に。ここ三階は、様々な魚の剥製や、魚の情報を知れるゾーンになっている。深海魚のゾーンや海の魚のゾーンとは違い、かなり照明が明るくなっている。眩しさに目を細めながらも、展示されている魚の剥製を見ていく。
「ほら、柊君! これサメの歯なんだって!」
「へぇ、想像よりもずっと尖っているな」
ホホジロザメの歯の剥製は、思いの外鋭利だった。なるほど、これに顎の力が合わされば、それはもう痛かろう。小鳥遊と一緒にいた俺への視線より鋭い。いや、同等くらいか? 視線、コワイ。
標本のようなものもあり、二人でそれを覗き込む。のだが……如何せん近づく必要がある。それはもう、カップルみたいな感じになっている。遠目から見れば、腕を組んでいるように見えなくもない。いい匂いがするわ、腕にやわらかいものが当たったり離れたり。もう俺の精神が崩壊寸前なんですが。
一方の小鳥遊はというと、全く気にしない様子のようで。俺だけが勝手に色々考えて、馬鹿みたいだ。いくらそうやって気を紛らす考えを巡らせても、意識がそっちに刈り取られるのは事実。変わらない。全部見終わって、時間はお昼少し前。今くらいが丁度いいだろう。
「よし、ここらで昼食にしよう。一階まで降りてカフェまで行くけど、いいか?」
「うん! 行こう行こう!」
そう言って、俺の隣に並び直して手を繋いだ。このあたりは人も少なく、決してはぐれるようなことはないだろう。でも、彼女は手を繋いでくれている。
……少なくとも、嫌われているわけではなさそうで。よかったよ。
一階カフェ。窓には一面に海景色が広がっている。このカフェは、泳いでいる魚を見ながら昼食を取れるということらしい。おしゃれな感じはするが、小鳥遊がどう思うかはわからん。
「おぉ、綺麗だね~。ふふっ」
笑顔が眩しい。お気に召してくれたようでなによりです。この輝くような笑顔を見るだけで、来てよかったとも感じる。俺が安心しているだけなのかもしれないが。
軽食のような昼食をとってカフェを出る。支払いは俺がする予定だったのだが、そこで小さく争っていた。結局俺が払うことを渋々ながら受けさせた。別に困っているわけでもないし、お金の方も使われないより使われた方がいいだろう。
今の時刻は十二時半過ぎ。ふむ、これなら大丈夫か?
「なぁ、小鳥遊。イルカのショー、見に行くか?」
「いいの?」
おぉ、この顔がまた可愛い。不思議そうにしてる顔が素みたいで可愛い。
「あぁ。この時間なら丁度いい」
「じゃあ行ってもいい?」
「おう。なら、行こうか」
イルカのショーを見ることが決まり、二階へ上がって、外へ出る。あの中央に円形のプールがあって、青い席がずらりと並んでいる、よく見るあんな感じ。せっかくなので、前の方の席に座る。イルカの飼育員さんが餌をあげつつ、芸の練習をしている。ジャンプをしたり、跳んで上から吊り下げられた輪っかやボールをくぐったり、タッチしたりしている。
あと数分でショーが始まろうとしたところで、席がほぼ埋まった。中々に人気があるらしい。親子で笑顔を浮かべながら来ている客もいれば、カップルで幸せそうに腕を組んで見ている客もいる。さらには、女子だけ、男子だけで集まって遊びに来ている客も。
開始予定時刻になり、前に飼育員のお姉さんが出て来る。
「皆さ~ん! こんにちは~!」
「「「こんにちは~!」」」
主に子供の声が響く。まだまだ純粋なようだ。ちなみに、隣からも小さく聞こえた。可愛い。
「今から、イルカのココちゃんが芸をしてくれま~す!」
ほう、メスか。だからといってどうというわけでもないが。俺は魚のオス・メスは見分けられない人間だ。勿論、イルカも。何かしらの目印があるんだろうな。尻尾が稲妻だったら♂、ハートだったら♀みたいな。どこの電気ネズミだよ。
「はい、じゃあココちゃん。いくよ!」
そうお姉さん飼育員が声をかけて、人差し指を立てた。そして、いくらか人差し指で円を描いて、あるところを指さした。指差した場所は、上から吊り下げられた輪っか。
輪っかに指がさされた直後、水面からイルカが跳躍し、輪っかをくぐった。結構高いやつなので、歓声も思いの外あがっている。歓声が、イルカが水面に当たる水しぶきと音で掻き消える。
「おぉお~! あのイルカさんすごいね、柊君!」
「あぁ。あの高さはスゲェよな。六、七メートルくらいか?」
俺的には小鳥遊の言葉が気になった。イルカ『さん』って、可愛い。普通の人がやってもあまり魅力を感じないし、むしろ少し気持ち悪い感じもするが、小鳥遊がすると別だなこれ。超かわいい。イルカより可愛い。試しに俺も呼んでみようか。イルカさ~ん。ほら、やっぱり気持ち悪い。
次は吊り下げたボールにタッチ。同じく歓声、水しぶき。そして隣で小鳥遊の笑顔。可愛い。小鳥遊は、はしゃいでるのか?いつも楽しそうな笑顔を見せてくれているが、今日は一段と嬉しそうだ。来てよかった。そう思える。
ボールの位置が少し低くなった。ボールタッチの次は、テールキック。さっきまでのタッチは口で行っていたが、今度はその名の通り尻尾で。歓声、水しぶき、笑顔。可愛い。さっきからこれがずっとだ。小鳥遊の隣はある意味耐えられない。精神が持ってかれる。
そして、後ろの方で男の声が聞こえた。
「なあなあ。あの子、超可愛くね?」
「あぁ。めちゃくちゃ可愛いな。俺の好みだわ」
「さっきから声も聞いてるが、声も可愛いぞ」
ちら、とそちらの方を見る。いかにもチャラそうな男三人組。どこか不良にも見えなくもない。ピアスを付けていたり、金髪にしていたりと、ツンツンしている。そんな見た目だ。
俺は正直、こういった種類の人間は苦手だ。嫌いじゃなく、個人的に苦手。俺がその種類の人間と関わって、いいことがあった
気の強さっていうのは、外見に表れるとよく言う。この言葉は正解でも間違いでもあると思うのだ。本当に気の強い人間が外見をツンツンさせることがある。そうじゃない人間もいる、ということだ。
しかし、気の強い人間だけがツンツンした見た目なのではない。むしろ、逆だ。気の弱さを悟られないため――いわゆる、カモフラージュだ。気の強い感じを見せて、自分の器の大きさを大きく見せようとする。けれど、実際はそれはハリボテなのだ。崩されれば、それだけ普通の人よりもダメージは響くだろう。
今まで見せかけの虚像で騙し続けた奴は、受け身を取ることを知らない。だって、受け身を取る以前に
そう、俺のクラスにもいるじゃないか。気が強いでもないけれど、自分よりも下だとわかった人間にだけ強くあたる。器を大きく見せかけている、ピエロのような、詐欺師のような、外見を貼り付けているような人間。
……降旗と愛原。この二人は、この部類に属することだろう。強くあたるけれど、崩されたら途端に弱くなる。崩れれば突破は簡単なのだ。なんてことはない。合宿も気にする必要がないだろう。俺は勝てる。しかも余裕で。
今まで人に頼らずに、自分独りで結果と向き合ってきた心の強さを持っている俺に、偽物・レプリカの器を掲げている二人が勝てるはずがないのだ。俺を敵視した時点で間違い。チェックメイトなのだ。そこでもう、ゲームは終わっている。俺の完全勝利で、な。
っと、せっかくのデートなんだ。嫌でマイナスなことは好ましくない。小鳥遊はこんなにも楽しんでくれている。そんな中で、俺がここで失敗するわけにはいかない。きっちりやらないとな。
俺は、この時点では気付いていなかった。同じ男として、気付くべきだった。気持ちを読み取る分野で長けている俺が、気付くべきだったんだ。
――この三人組の、小鳥遊の全身を
ありがとうございました!
ということで、デート編は二話に分かれます。
このままだと、合宿編が第十五話前後になると思います。
早く合宿編が見たいという方もいらっしゃると思いますが、ご了承ください。
終わり方がなんかえっちぃですね。
変態さんです。
ではでは!