捻くれた俺の彼女は超絶美少女   作:狼々

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どうも、狼々です!

遅れてしまって申し訳ない。
最近、日曜日も学校に行って勉強するようになりますた()

これがいわゆる、月月火水木金金ってやつですかね(白目)
ということで、ちょっと許してヒヤシンス(´・ω・`)

では、本編どうぞ!


第42話 シューティングガード

 スポーツとは、モテるためのツールではない。

 その認識を持つ者はその世界で淘汰されることを余儀なくされる。

 等しくして、弱者は切り捨てられる。

 平等・公正。故に、弱者は強者に勝つ術が一切ない。

 実力だけが勝敗を分ける、と言っても過言ではないものがスポーツという競技だ。

 多少の運が介入する余地はあるが、それ自体が試合全体を左右するわけではない。

 

 モテるために運動部に入るなど、その残酷で冷淡な実力主義の世界に身投げすることと同義である。

 ただ、その世界の中で厳しい練習を重ね、立派なプレイヤーになる者も多々存在していることもまた事実だ。

 己が体を叱咤し、黙々と、努力を怠らなかった者が頂点へと近づく。

 これもまた、平等・公正である故のアドバンテージ。

 

 結局のところ何が言いたいのか、というのは。

 

「誠君、頑張ってね〜!」

「少しはいい動きしなよ、誠」

 

 二人の美少女に手を振られて見送られる俺も、元愚かなる者の一人である、ということだ。

 

 あれだな。スポーツやればモテるってのは嘘だな。

 モテる奴がスポーツやるからモテるんだな。

 モテない奴がスポーツやってもモテない。

 俺がそれに気付いたのは、中ニの夏だった。遅すぎた。

 

 季節はあのクリスマスから、夏へ。

 本当にあっという間だった気がする。

 ふと気付けば、俺はこうしてクラスマッチでバスケしようとしているのだ。不思議でたまらない。

 

 自信がない、というわけではない。

 体力こそ落ちているものの、腕自体はそこまでなまっていない。

 見送る茜と音葉へ振り返り、告げる。

 

「……俺の一本目のシュート、見てろ」

 

 それだけ言って、歓声が湧きわがるフィールドへと足を踏み入れた。

 五人と五人が作戦を立てたりして、話し合っている。

 一つ、意外というか、想定外だったことは。

 

「よし、俺達も頑張ろうか、誠」

 

 ――黒宮。

 歩けば女子の視線を集め、座っても女子の視線を引きつける。

 走れば女子の目は独占状態に近い、そんな男子羨む容姿をお持ちのイケメン野郎。

 

 合宿の一件以来、あまり会話をしたことはなかった。

 ただ、このバスケチームが決まった際に、あいつは俺にこう言った。

「また一緒になったね、誠」と。

 

 こんなスクールカースト最上位が、天と地ほどの差をつけている俺を覚えている。

 そりゃモテますわな、と言わざるを得ない。

 

 しかし、今回ばかりは俺に勝利の兆しは見えている。

 元バスケ部という肩書を仮にも背負っている以上、ヤツに負けることはないはずだ。

 体育の授業で練習をしていたが、見たところ俺の方が上手い、と思われる。

 

 思われる、という言葉から察せる通り、あいつもかなり上手い。

 経験者か聞くと、中学の体育でボールを触った程度らしい。

 天は二物を与えず、と言うが、二物も三物も与えてしまっている辺り、どうも神様が働いていないように思える。

 

 世の中の不公平に溜息を吐くと、審判から整列の声がかかった。

 礼をして、ジャンプボールへ。

 高身長の黒宮が前へ出たが、審判が投げ上げたボールをいとも簡単に俺達側へ弾いた。

 

 俺の正面に落ちてきたボールをキャッチして、すぐさま黒宮が前へと走る。

 経験者の動きと見間違えながら、それに合わせてパスをした。

 我ながら上手く飛んだパスは走る黒宮にちょうど渡り、そのままレイアップシュート。

 ディフェンスが誰もついていない以上、彼が外すはずもなく、綺麗にネットを揺らした。

 

 観客席である屋上から女子の歓声をもらいながら、黒宮がディフェンスに戻ってくる。

 

「……ナイッシュー」

「そっちこそ、ナイスパス」

 

 お互いにタッチをして、称え合う。

 いやほんと、なんでこんなにモテる要素持っちゃうんでしょうかね。

 神様を恨む間もなく、敵チームに運ばれたボールはコート半分のラインを超えた。

 

 ある一人にボールが回って、スリーポイントラインの外からシュートを放たれる。

 見事、と称賛したくなる程に綺麗なアーチを描いたボールは、赤いリングに掠ることもなく中央を通過した。

 

 バスケットボールのルール上、スリーポイントラインという線の外からシュートを打ち、入った場合は、通常の二点ではなく三点が得られる。

 スコアボードが2と3に分かれて、いきなり掴みかけた流れは止まった。

 

「あの子、経験者だね」

「まあ、そうだろうな」

 

 黒宮と話しながら、考える。

 こちらのチームで上手いこと動けるのは、俺と黒宮の二人。

 向こうのチームは、攻め方を見る限り、今のシュートを打った一人。

 と、なれば。

 

「おい黒宮。渡す相手に困ったらでいいから、適当にパスくれ」

「了解」

 

 エンドライン外の黒宮からパスを受けて、ドリブルをつく。

 相手に困ったら、と言ったのだが、真っ先に渡してくれる辺り、やはりあいつらしい。

 とはいえ、俺の得意分野を知ってのことなのだろうから、まあ妥当か。

 

 ハーフコートに十人のプレイヤーが集まって、俺達のオフェンスが始まる。

 思った通り、黒宮のディフェンスには、あの経験者がついている。

 俺についているディフェンスは、俺への間合いを見る限り、初心者だと伺える。

 

 ……いけるか。

 ボールを持ってから、瞬時にドリブルをつく――ふりをした。

 相手はその方向に流れて、俺との間合いは更に大きくなる。

 

 やはり初心者だと突然の自体、それもこの視線の集まる会場となると、ルールも思い出せないらしい。

 ボールを一回持てば、パスをしない限りもう一度ドリブルをつけない、というダブルドリブルのルールがある。

 なので、ルールを知っているならば、ドリブルされることはないので、フェイクだとすぐにバレるのだが、上手くいったらしい。

 

 先程のシュートをお返しだ、と言わんばかりに、スリーポイントシュート。

 手から離れた瞬間に、知覚した。

 

 ――あっ、これ入るわ。

 バスケをやっているとわかるが、シュートした直後に、なんとなくわかる。

 打ってすぐに、時々だが、シュートが入るという確信するときがあるのだ。

 

 足が床に着いてから、後ろへと引き返す。

 本来はするべきでない行為だが、まあ外れても黒宮がいる。

 黒宮が外れたシュートを取るため、リバウンドの体勢に入ってくれるが。

 美少女二人に大口を叩いた一本目のシュートは、華麗な放物線を描きながら、爽やかにネットを揺らした音を響かせた。

 

 ポジション、というものがバスケにもあまり厳密ではないが決まっている。

 俺のポジションは、SG(シューティングガード)だった。

 役割は、主に外から、遠距離からのシュートをメインに打つこと。

 

 屋上の二人を見ると、俺の彼女はこの上なく上機嫌に手を振っている。

 対してもう一人は、大層驚いた顔をしていた。

 

 ―*―*―*―*―*―*―

 

「おおー! 今のかっこいい!」

「お〜、さすが元バスケ部」

 

 隣で活躍者の彼女から惚気を聞きながら、私は呟いた。

 正直、ここまでかっこいいシュートを決めるとは思わなかった。

 それも、私達に宣言してからのあのスリーポイント。

 ……やるじゃん、意外と。

 

「えっ、元バスケ部なの!?」

「うそ、知らなかったの? あれで誠、中学はバスケ部やってたらしいよ」

「ええ〜、そうは見えないなあ」

 

 口ではそう言うものの、走る彼に笑顔を向ける音葉は、完全にあいつに惚れ込んでいるようで。

 ここまで来ると、最早羨ましい。

 ただ一人の男に、一人の女が恋に浸る。

 間近に見ると、微笑ましいと同時に羨ましく、また難しいものだと感じてしまう。

 

 彼女の目が光り続けたまま、この試合、次の準決勝も誠のチームは勝ち上がっていく。

 一学年だけでやるとなると、このくらいの試合数になるのも当然か。

 

 そして迎える決勝戦。

 ジャンプボールを取り、誠が速攻をかける。

 ドリブルで敵陣へ切り込み、悠々と躱してシュート。

 先制点を取ったが、ディフェンスの戻りが不十分で、すぐに2対2の同点になってしまった。

 

 誠がドリブルでボールを運ぶ姿を見て、気づく。

 

「……なんかこの試合、スローペースだね」

「まあ、誠もわかってるんでしょ。相手チーム、全員経験者だよ」

 

 先程の速攻返し、ディフェンスの戻りの速さ。

 間違いなく、現役か元か、いずれにせよ全員が経験者であることに間違いあるまい。

 スローペース。攻めないのではなく、()()()()()()のだ。

 

 誠を中心にゲームを展開しながら勝ち上がってきていることを知っているのか、誠へのマークもきつい。

 ドリブルで抜かれてもいいように、誰かのカバーがついている状態だ。

 

 ボールを回し、ドリブルで揺さぶりながら、誠にスリーポイントシュートを打つチャンスが巡ってきた。

 完全にノーマーク。体勢もブレていない。今日は五本以上もスリーポイントを入れている誠は絶好調。

 次のスリー、入る。誰もがそう確信した瞬間のことだった。

 

 相手の選手が、無理矢理に後ろからボールをはたいた。

 体を乗り出しているので、誠もそれに巻き込まれる。

 

「……今の、ひどい。謝ってないし」

 

 先程とは打って変わり、相当にご立腹の様子の音葉。

 当然、今のプレイはファウルを取られた。

 誠チームのスローインが始まる、というときにまた彼女は呟いた。

 

「右手」

「えっ?」

「今ので手首、痛めてる。救急箱の用意してくるね」

「で、でもそんなことは――」

「ある。痛そうな顔してたもん」

 

 短く告げて、音葉は階段で屋上を降りた。

 誠を注意深く見たが、確かに少しだけ、右手首を気にしている様子が見られた。

 

 はっきり言って、おかしすぎる。

 音葉が口を初めて開いたときは、そんな顔も見せていなかったはずだ。

 それなのに、痛そうな顔だとか、右手首を痛めた様子だとか。

 ……こりゃ、誠は音葉には敵いそうにないね。

 

 音葉が降りて一分ほどが経ったが、特に動きはない。

 誠は依然としてコートで走り続け、音葉と話したようなこともない。

 やがて音葉は、白い赤十字の箱を持ったまま、屋上まで帰ってきた。

 

「交代しないし。後でいっぱい叱ってやる」

「あ、あはは……」

 

 これはまた、大変な彼女を持ったようで。

 ただ、明らかに誠は無理をしている。

 時折に顔は痛みからか歪み、ドリブルやシュートの回数は目に見えて減っている。

 

 誠の怪我をわかっているのか、相手のチームは誠へのマークを緩めている。

 軸が崩れたチームは、既に攻撃ではなく、守りに徹し始めていた。

 その御蔭か、点差はたった二点のまま平行線を辿っている。

 そして拮抗したまま迎えたラスト数秒で、誠へ絶好のスリーポイントチャンスが巡ってきた。

 

 ディフェンスはいないも同然の状況。

 ただ、不安に残るのは、パスを受けた瞬間の、誠の隠しきれない苦痛の顔。

 ボールが空中に円弧を描く最中、ブザービートが鳴る。

 ――誠のシュートは、リングに阻まれた。

 

 ―*―*―*―*―*―*―

 

 試合が終わった今でも、右手首が痛んで仕方がない。

 最後のシュートを、決められなかっただろうか。

 その言葉が、いくら頭の中を駆けたか数えきれない。

 

 過去に対する後悔など、無駄極まりない。

 普段なら諦めがついただろうが、あの試合、もしかしたら俺の動き次第では勝てたかもしれなかったのだ。

 優勝を逃し、準優勝。

 皆は十分だと称えてくれた。特に、試合途中から怪我に気付いていた黒宮からは。

 

 既に無人となったロッカールームで、まだ着替えもせずに、ベンチに座って俯きながら溜息を吐くばかりだ。

 少し強めにドアが開いた。

 何事かと思ってそちらを見たが、すぐに視界は飛んできたタオルで柔らかく阻まれた。

 

「……馬鹿」

「……ホント、申し訳ない限りです」

 

 来訪者である彼女の声は、怒りを含んでいる。

 俯いたまま顔を直接見なくとも、それは声色から容易に想像がついた。

 

「ごめん、勝てなかったわ」

「勝ち負けとか、そんなのどうでもいい。なんでベンチに下がらなかったの」

 

 救急箱を持っているようで、彼女は俺の手を掴んでから手当を始めた。

 握られたことによる不意の痛みで音葉を初めて見たが、その顔は声色よりもずっと沈んでいた。

 

「まあ、あれだな。やっぱ彼氏としても彼女にいいとこというか、かっこいいとこ見せたかったというか」

 

 手早く治療を終えた彼女は、優しく俺を抱きしめた。

 

「すっごくかっこよかった。けど、無理しないでよ」

「あ、あ~……」

 

 思う。俺は、つくづくこういう展開に弱いらしい。

 本気で心配されたり、寄り添われると、どうしていいのかわからなくなる。

 

「あ、あれだな。まあお世辞も悪くない」

 

 俺を引き離した彼女の顔は、ふくれっ面だった。

 子供らしい表情に可愛い、と言おうとして、唇を唇で塞がれた。

 肩を掴まれながら口づけをされてたっぷり十秒ほどで、ようやく唇が離れる。

 

「……お世辞じゃないし」

「え、あ、いや……」

 

 多少頬を赤らめながら言われると、こちらとしても恥ずかしくなる。

 付き合っていてわかるが、音葉は意外と行動派だ。

 

 喜怒哀楽をはっきりと示す性格。

 さらには、時々に見せる大胆な行動。

 やった彼女自身が恥ずかしくなる、というのはザラにある。

 そんな顔を見る度に、今度は俺が恥ずかしくなるのだ。

 

「ねえ。今日、疲れてるよね?」

「ん、どうした。何かあるのか?」

「い、いや、えっと……明日、休みでしょ?」

 

 俺は静かに首を縦に振る。

 土曜である本日、その翌日は日曜日なので休日だ。

 

「今日、その、泊まっていい?」

「え? あ、あぁ」

 

 泊まっていいもなにも、部屋は隣だ。

 距離があるわけでもないし、ものの数秒で移動できる。

 そういう意味では、かなり楽なものだろう。

 

「ねえ。今夜、可愛がってよ」

 

 後ろからもたれかかる彼女は、耳元で甘く囁く。

 可愛がる、というのはつまり、そういうことか。

 

「あ~、わかった。。取り敢えず、先に着替えるわ」

「ん。じゃ、私先に教室戻っとくね」

 

 軽い足取りでドアへと向かった音葉。

 横に開いたドアの先には――茜がいた。

 

 盗み聞き、盗み見。

 思えば、ドアが数センチほど開いていたのかもしれない。

 ロッカールームはそれほど広くはなく、当然俺達二人以外は部屋にいない。

 声はある程度響き、むしろ聞こえなかったはずがない。

 

「う……うわぁぁぁあああ!」

 

 茜は絶叫しながら、走り去った。

 無言でそれを追いかける音葉の顔は、どんなものだろうか。

 背中を見送る限りの俺には、さすがに予想はつかない。

 

 あの様子だと、三十秒もしない内に追いつかれることだろう。

 茜は思いの外足が遅く、逆に音葉は思いの外足が速い。

 誤魔化しが利かない会話を、どう取り繕おうものかと考えると、最初に出たのは軽い溜息だった。




ありがとうございました!

短くて、次回で最終回ですかね。
何度も申し上げている通り、綺麗な終わり方じゃないですからね。
特別にエンディングがあるわけでもありません。

短くてと書きつつ、多分次回最終回の可能性は大でしょうね。
そろそろ、終わらせないと。

スポーツって、モテる人がするからモテるんですよ。
でも、試合見に来てくれた女の子の先輩とかいた時期もありましたね、私。
嬉しかったよ~、見てくれてる試合でスリーポイント決めたときは。

ではでは!

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