遅れてしまって申し訳ない。
最近、日曜日も学校に行って勉強するようになりますた()
これがいわゆる、月月火水木金金ってやつですかね(白目)
ということで、ちょっと許してヒヤシンス(´・ω・`)
では、本編どうぞ!
スポーツとは、モテるためのツールではない。
その認識を持つ者はその世界で淘汰されることを余儀なくされる。
等しくして、弱者は切り捨てられる。
平等・公正。故に、弱者は強者に勝つ術が一切ない。
実力だけが勝敗を分ける、と言っても過言ではないものがスポーツという競技だ。
多少の運が介入する余地はあるが、それ自体が試合全体を左右するわけではない。
モテるために運動部に入るなど、その残酷で冷淡な実力主義の世界に身投げすることと同義である。
ただ、その世界の中で厳しい練習を重ね、立派なプレイヤーになる者も多々存在していることもまた事実だ。
己が体を叱咤し、黙々と、努力を怠らなかった者が頂点へと近づく。
これもまた、平等・公正である故のアドバンテージ。
結局のところ何が言いたいのか、というのは。
「誠君、頑張ってね〜!」
「少しはいい動きしなよ、誠」
二人の美少女に手を振られて見送られる俺も、元愚かなる者の一人である、ということだ。
あれだな。スポーツやればモテるってのは嘘だな。
モテる奴がスポーツやるからモテるんだな。
モテない奴がスポーツやってもモテない。
俺がそれに気付いたのは、中ニの夏だった。遅すぎた。
季節はあのクリスマスから、夏へ。
本当にあっという間だった気がする。
ふと気付けば、俺はこうしてクラスマッチでバスケしようとしているのだ。不思議でたまらない。
自信がない、というわけではない。
体力こそ落ちているものの、腕自体はそこまでなまっていない。
見送る茜と音葉へ振り返り、告げる。
「……俺の一本目のシュート、見てろ」
それだけ言って、歓声が湧きわがるフィールドへと足を踏み入れた。
五人と五人が作戦を立てたりして、話し合っている。
一つ、意外というか、想定外だったことは。
「よし、俺達も頑張ろうか、誠」
――黒宮。
歩けば女子の視線を集め、座っても女子の視線を引きつける。
走れば女子の目は独占状態に近い、そんな男子羨む容姿をお持ちのイケメン野郎。
合宿の一件以来、あまり会話をしたことはなかった。
ただ、このバスケチームが決まった際に、あいつは俺にこう言った。
「また一緒になったね、誠」と。
こんなスクールカースト最上位が、天と地ほどの差をつけている俺を覚えている。
そりゃモテますわな、と言わざるを得ない。
しかし、今回ばかりは俺に勝利の兆しは見えている。
元バスケ部という肩書を仮にも背負っている以上、ヤツに負けることはないはずだ。
体育の授業で練習をしていたが、見たところ俺の方が上手い、と思われる。
思われる、という言葉から察せる通り、あいつもかなり上手い。
経験者か聞くと、中学の体育でボールを触った程度らしい。
天は二物を与えず、と言うが、二物も三物も与えてしまっている辺り、どうも神様が働いていないように思える。
世の中の不公平に溜息を吐くと、審判から整列の声がかかった。
礼をして、ジャンプボールへ。
高身長の黒宮が前へ出たが、審判が投げ上げたボールをいとも簡単に俺達側へ弾いた。
俺の正面に落ちてきたボールをキャッチして、すぐさま黒宮が前へと走る。
経験者の動きと見間違えながら、それに合わせてパスをした。
我ながら上手く飛んだパスは走る黒宮にちょうど渡り、そのままレイアップシュート。
ディフェンスが誰もついていない以上、彼が外すはずもなく、綺麗にネットを揺らした。
観客席である屋上から女子の歓声をもらいながら、黒宮がディフェンスに戻ってくる。
「……ナイッシュー」
「そっちこそ、ナイスパス」
お互いにタッチをして、称え合う。
いやほんと、なんでこんなにモテる要素持っちゃうんでしょうかね。
神様を恨む間もなく、敵チームに運ばれたボールはコート半分のラインを超えた。
ある一人にボールが回って、スリーポイントラインの外からシュートを放たれる。
見事、と称賛したくなる程に綺麗なアーチを描いたボールは、赤いリングに掠ることもなく中央を通過した。
バスケットボールのルール上、スリーポイントラインという線の外からシュートを打ち、入った場合は、通常の二点ではなく三点が得られる。
スコアボードが2と3に分かれて、いきなり掴みかけた流れは止まった。
「あの子、経験者だね」
「まあ、そうだろうな」
黒宮と話しながら、考える。
こちらのチームで上手いこと動けるのは、俺と黒宮の二人。
向こうのチームは、攻め方を見る限り、今のシュートを打った一人。
と、なれば。
「おい黒宮。渡す相手に困ったらでいいから、適当にパスくれ」
「了解」
エンドライン外の黒宮からパスを受けて、ドリブルをつく。
相手に困ったら、と言ったのだが、真っ先に渡してくれる辺り、やはりあいつらしい。
とはいえ、俺の得意分野を知ってのことなのだろうから、まあ妥当か。
ハーフコートに十人のプレイヤーが集まって、俺達のオフェンスが始まる。
思った通り、黒宮のディフェンスには、あの経験者がついている。
俺についているディフェンスは、俺への間合いを見る限り、初心者だと伺える。
……いけるか。
ボールを持ってから、瞬時にドリブルをつく――ふりをした。
相手はその方向に流れて、俺との間合いは更に大きくなる。
やはり初心者だと突然の自体、それもこの視線の集まる会場となると、ルールも思い出せないらしい。
ボールを一回持てば、パスをしない限りもう一度ドリブルをつけない、というダブルドリブルのルールがある。
なので、ルールを知っているならば、ドリブルされることはないので、フェイクだとすぐにバレるのだが、上手くいったらしい。
先程のシュートをお返しだ、と言わんばかりに、スリーポイントシュート。
手から離れた瞬間に、知覚した。
――あっ、これ入るわ。
バスケをやっているとわかるが、シュートした直後に、なんとなくわかる。
打ってすぐに、時々だが、シュートが入るという確信するときがあるのだ。
足が床に着いてから、後ろへと引き返す。
本来はするべきでない行為だが、まあ外れても黒宮がいる。
黒宮が外れたシュートを取るため、リバウンドの体勢に入ってくれるが。
美少女二人に大口を叩いた一本目のシュートは、華麗な放物線を描きながら、爽やかにネットを揺らした音を響かせた。
ポジション、というものがバスケにもあまり厳密ではないが決まっている。
俺のポジションは、
役割は、主に外から、遠距離からのシュートをメインに打つこと。
屋上の二人を見ると、俺の彼女はこの上なく上機嫌に手を振っている。
対してもう一人は、大層驚いた顔をしていた。
―*―*―*―*―*―*―
「おおー! 今のかっこいい!」
「お〜、さすが元バスケ部」
隣で活躍者の彼女から惚気を聞きながら、私は呟いた。
正直、ここまでかっこいいシュートを決めるとは思わなかった。
それも、私達に宣言してからのあのスリーポイント。
……やるじゃん、意外と。
「えっ、元バスケ部なの!?」
「うそ、知らなかったの? あれで誠、中学はバスケ部やってたらしいよ」
「ええ〜、そうは見えないなあ」
口ではそう言うものの、走る彼に笑顔を向ける音葉は、完全にあいつに惚れ込んでいるようで。
ここまで来ると、最早羨ましい。
ただ一人の男に、一人の女が恋に浸る。
間近に見ると、微笑ましいと同時に羨ましく、また難しいものだと感じてしまう。
彼女の目が光り続けたまま、この試合、次の準決勝も誠のチームは勝ち上がっていく。
一学年だけでやるとなると、このくらいの試合数になるのも当然か。
そして迎える決勝戦。
ジャンプボールを取り、誠が速攻をかける。
ドリブルで敵陣へ切り込み、悠々と躱してシュート。
先制点を取ったが、ディフェンスの戻りが不十分で、すぐに2対2の同点になってしまった。
誠がドリブルでボールを運ぶ姿を見て、気づく。
「……なんかこの試合、スローペースだね」
「まあ、誠もわかってるんでしょ。相手チーム、全員経験者だよ」
先程の速攻返し、ディフェンスの戻りの速さ。
間違いなく、現役か元か、いずれにせよ全員が経験者であることに間違いあるまい。
スローペース。攻めないのではなく、
誠を中心にゲームを展開しながら勝ち上がってきていることを知っているのか、誠へのマークもきつい。
ドリブルで抜かれてもいいように、誰かのカバーがついている状態だ。
ボールを回し、ドリブルで揺さぶりながら、誠にスリーポイントシュートを打つチャンスが巡ってきた。
完全にノーマーク。体勢もブレていない。今日は五本以上もスリーポイントを入れている誠は絶好調。
次のスリー、入る。誰もがそう確信した瞬間のことだった。
相手の選手が、無理矢理に後ろからボールをはたいた。
体を乗り出しているので、誠もそれに巻き込まれる。
「……今の、ひどい。謝ってないし」
先程とは打って変わり、相当にご立腹の様子の音葉。
当然、今のプレイはファウルを取られた。
誠チームのスローインが始まる、というときにまた彼女は呟いた。
「右手」
「えっ?」
「今ので手首、痛めてる。救急箱の用意してくるね」
「で、でもそんなことは――」
「ある。痛そうな顔してたもん」
短く告げて、音葉は階段で屋上を降りた。
誠を注意深く見たが、確かに少しだけ、右手首を気にしている様子が見られた。
はっきり言って、おかしすぎる。
音葉が口を初めて開いたときは、そんな顔も見せていなかったはずだ。
それなのに、痛そうな顔だとか、右手首を痛めた様子だとか。
……こりゃ、誠は音葉には敵いそうにないね。
音葉が降りて一分ほどが経ったが、特に動きはない。
誠は依然としてコートで走り続け、音葉と話したようなこともない。
やがて音葉は、白い赤十字の箱を持ったまま、屋上まで帰ってきた。
「交代しないし。後でいっぱい叱ってやる」
「あ、あはは……」
これはまた、大変な彼女を持ったようで。
ただ、明らかに誠は無理をしている。
時折に顔は痛みからか歪み、ドリブルやシュートの回数は目に見えて減っている。
誠の怪我をわかっているのか、相手のチームは誠へのマークを緩めている。
軸が崩れたチームは、既に攻撃ではなく、守りに徹し始めていた。
その御蔭か、点差はたった二点のまま平行線を辿っている。
そして拮抗したまま迎えたラスト数秒で、誠へ絶好のスリーポイントチャンスが巡ってきた。
ディフェンスはいないも同然の状況。
ただ、不安に残るのは、パスを受けた瞬間の、誠の隠しきれない苦痛の顔。
ボールが空中に円弧を描く最中、ブザービートが鳴る。
――誠のシュートは、リングに阻まれた。
―*―*―*―*―*―*―
試合が終わった今でも、右手首が痛んで仕方がない。
最後のシュートを、決められなかっただろうか。
その言葉が、いくら頭の中を駆けたか数えきれない。
過去に対する後悔など、無駄極まりない。
普段なら諦めがついただろうが、あの試合、もしかしたら俺の動き次第では勝てたかもしれなかったのだ。
優勝を逃し、準優勝。
皆は十分だと称えてくれた。特に、試合途中から怪我に気付いていた黒宮からは。
既に無人となったロッカールームで、まだ着替えもせずに、ベンチに座って俯きながら溜息を吐くばかりだ。
少し強めにドアが開いた。
何事かと思ってそちらを見たが、すぐに視界は飛んできたタオルで柔らかく阻まれた。
「……馬鹿」
「……ホント、申し訳ない限りです」
来訪者である彼女の声は、怒りを含んでいる。
俯いたまま顔を直接見なくとも、それは声色から容易に想像がついた。
「ごめん、勝てなかったわ」
「勝ち負けとか、そんなのどうでもいい。なんでベンチに下がらなかったの」
救急箱を持っているようで、彼女は俺の手を掴んでから手当を始めた。
握られたことによる不意の痛みで音葉を初めて見たが、その顔は声色よりもずっと沈んでいた。
「まあ、あれだな。やっぱ彼氏としても彼女にいいとこというか、かっこいいとこ見せたかったというか」
手早く治療を終えた彼女は、優しく俺を抱きしめた。
「すっごくかっこよかった。けど、無理しないでよ」
「あ、あ~……」
思う。俺は、つくづくこういう展開に弱いらしい。
本気で心配されたり、寄り添われると、どうしていいのかわからなくなる。
「あ、あれだな。まあお世辞も悪くない」
俺を引き離した彼女の顔は、ふくれっ面だった。
子供らしい表情に可愛い、と言おうとして、唇を唇で塞がれた。
肩を掴まれながら口づけをされてたっぷり十秒ほどで、ようやく唇が離れる。
「……お世辞じゃないし」
「え、あ、いや……」
多少頬を赤らめながら言われると、こちらとしても恥ずかしくなる。
付き合っていてわかるが、音葉は意外と行動派だ。
喜怒哀楽をはっきりと示す性格。
さらには、時々に見せる大胆な行動。
やった彼女自身が恥ずかしくなる、というのはザラにある。
そんな顔を見る度に、今度は俺が恥ずかしくなるのだ。
「ねえ。今日、疲れてるよね?」
「ん、どうした。何かあるのか?」
「い、いや、えっと……明日、休みでしょ?」
俺は静かに首を縦に振る。
土曜である本日、その翌日は日曜日なので休日だ。
「今日、その、泊まっていい?」
「え? あ、あぁ」
泊まっていいもなにも、部屋は隣だ。
距離があるわけでもないし、ものの数秒で移動できる。
そういう意味では、かなり楽なものだろう。
「ねえ。今夜、可愛がってよ」
後ろからもたれかかる彼女は、耳元で甘く囁く。
可愛がる、というのはつまり、そういうことか。
「あ~、わかった。。取り敢えず、先に着替えるわ」
「ん。じゃ、私先に教室戻っとくね」
軽い足取りでドアへと向かった音葉。
横に開いたドアの先には――茜がいた。
盗み聞き、盗み見。
思えば、ドアが数センチほど開いていたのかもしれない。
ロッカールームはそれほど広くはなく、当然俺達二人以外は部屋にいない。
声はある程度響き、むしろ聞こえなかったはずがない。
「う……うわぁぁぁあああ!」
茜は絶叫しながら、走り去った。
無言でそれを追いかける音葉の顔は、どんなものだろうか。
背中を見送る限りの俺には、さすがに予想はつかない。
あの様子だと、三十秒もしない内に追いつかれることだろう。
茜は思いの外足が遅く、逆に音葉は思いの外足が速い。
誤魔化しが利かない会話を、どう取り繕おうものかと考えると、最初に出たのは軽い溜息だった。
ありがとうございました!
短くて、次回で最終回ですかね。
何度も申し上げている通り、綺麗な終わり方じゃないですからね。
特別にエンディングがあるわけでもありません。
短くてと書きつつ、多分次回最終回の可能性は大でしょうね。
そろそろ、終わらせないと。
スポーツって、モテる人がするからモテるんですよ。
でも、試合見に来てくれた女の子の先輩とかいた時期もありましたね、私。
嬉しかったよ~、見てくれてる試合でスリーポイント決めたときは。
ではでは!