早速タイトルが意味不明ですが……だ、大丈夫な、はず。
ちゃんと本文で出てきますよ。
この作品が始まったのは、五月中旬。てことはあれが……
では、本編どうぞ!
まさか、隣に柊君が住んでいるとは思わなかった。彼も、大分驚いていたみたい。あの表情は、ちょっと面白かった。ふふ、と自然に笑みが溢れる。
それに――可愛い、だって。またもや、笑みが溢れてしまう。そして、自分の服を見る。こういうのが好みなのかな……? そう思いながら、自分の部屋に戻る。電気も点けないで着替え、部屋着に。薄暗い部屋を照らすのは、夜空に浮かぶ一つの月のみ。無限にも続く夜空と星々の中に、ただ一つ。
ベッドに転がり、ふうっ、と息を吐いて、口からこぼれ落ちる、この言葉。
「――やっぱり、覚えてない、か……」
―*―*―*―*―*―*―
あれから六月になった。忌まわしき中間テストというものを乗り越え、今がある。今では周りの視線も軽くなった気がする。いや、慣れただけか? 今日は総合点数の発表がある。まぁ、全教科返ってきているので、計算すればわかるのだが。
隣に彼女が引っ越してきてから、俺の登下校が180°変わった。
「……で、俺はどうすればいいんだ?」
「特には何もないって。一緒に登下校するだけだよ」
そう、家が一緒になり、登下校を共にするようになった。どう考えてもおかしい。不釣り合いだ。俺なんかが、こんな美少女と登下校だなんて。俺でもそう思う。……ちょっと、そこでじろじろ見る生徒よ。何を思ってその目をしているんだね、お? というか、特には何もないわけじゃない。俺への目線!
「いや、でも……」
「嫌……かな?」
う……その目をやめろ、やめるんだ。その物悲しさ溢れる目を、暗くなった顔を。そして、聞こえるのだ。
ほら、また周りの奴が……これが幻聴だったら、どれだけいいことか。まぁ、最初から断る気はないのだが。のだが……何か、恥ずかしいじゃん。ねぇ?
「嫌じゃねぇよ。ほら、行くぞ」
「あ……ま、待って」
数歩先に歩いた俺を、パタパタとついてくる。可愛い。ホント、俺には勿体無い。もっと他の人と登下校すればいいのに、と何度思ったことだろうか。
学校について、HRまで終わり、テスト結果返却の時間。一人ずつ名前が呼ばれる。例の如く、俺は文系科目はほぼ満点。理数系科目は半分もいっていない。全く、大した偏り方だ。吹雪には、文系科目では勝っているものの、他科目で大いに負け、総合得点も負け。悲しきかな、これが差なのだよ。
そして、転入生ということもあり、一番最後に名前を呼ばれた彼女が、俺の席の横に戻ってくる。
「……え!? 小鳥遊さん、その点数すごい!」
一人の少女が声をあげる。小鳥遊さん、という言葉と、点数すごい、という言葉が小鳥遊への視線移動の相乗効果となる。もう予想できる。やっぱり高得点なんだろ? 容姿端麗に加えて、学力も高い。まさに、才色兼備というやつだろうか。
俺も、横目で一瞥。上から数字が、九十六、九十七、九十五……文系科目、全敗。
俺はもう、そこで見るのをやめた。そして、嘆いた。
神様、何で容姿と頭脳を一緒に渡しちゃうんだ、と。
授業も大体終わり、昼休みに入る。いつものように屋上へ行こうとして。
「ねえねえ、昨日のテレビ見た?」
「見た見た! 面白かったよね!」
……はぁ。心の中で、溜め息が出てしまう。
昨日のテレビ。この言葉には、どんな意味があるだろうか。それを考えると、おかしすぎる文だ。昨日のテレビ、ということは、今日のテレビや明日のテレビがあることになる。考えてもみろ。その『テレビ』は、『テレビ番組』とは違う単語だと。
昨日のテレビが面白かった。そうなると、一日ごとにテレビを買い替えているテレビそのものが面白い、ということになる。一日ごとにテレビ替えるとか、どんだけテレビ好きの金持ちなんだよ。何? コレクションなの? コレクションを面白いっていうの? そしてもう一人の奴。そのコレクションの異常性に気付いていないのだろうか。
もしかしたら、テレビは見るものじゃなく、
これがテレビ番組と言い間違えているのだとしよう。何でそのテレビ番組についてを明言していないのに、それが通じているんだよ。小鳥遊は俺に以前、エスパーだと言っていたが、こいつらの方がよっぽどエスパーやってる。
……何考えてんだろ、俺。
「あ! 遅いよ、柊君!」
少し大きな声に迎えられ、屋上についた。彼女とは、あの日からずっとここで一緒に昼食をとっている。彼女は気付いていないが、最近このことに周りが感づき始めている。そろそろ注意すべきか。
「悪い。でさ、小鳥遊がここに来てるの、感づかれてる」
「うん、それで?」
彼女が首をかしげる。いやその表情も殺人級なんだが。純粋無垢な感じの。たまらなくいい。だがしかし。説得せねば。ここで本格的にバレてみろ。俺の人生が終了する。社会的に抹殺される。その内親衛隊とかに殺られる。
「いや、だから、バレちゃまずいだろ? 小鳥遊だって、俺といることが嫌なら素直に言え。傷つくとか考えないでいいから、正直に――」
「じゃ、私はここに来る。私はここにいたいから」
そう言って、小鳥遊は弁当を取り出して、平然と食べ進める。
「だから、俺と一緒にいたら、悪く思われるぞ? 俺なんかと一緒にいたら――」
「じゃあ、その『なんか』って言うの、やめよ? 私は、柊君といて楽しい。周りからは煙たがられてるのも知ってる」
小鳥遊は、食事をしながら淡々と述べていく。それでさえも、美しい風景画のよう。
「けどね、私はそうじゃない。皆は本当の中身を知らないからそんなことを言うの。私は、そうじゃない。そうなりたくない。……私が、そうであってほしいから」
小鳥遊は――彼女は、強いられている。何が原因かはわからないが、周りから完璧でいることを。それは、中身を見ていないことと同義。本質を知っていれば、それじゃないものは、本気で求めようとしないから。けれど、そうじゃない仮の本質を押し付けられた彼女は、そうであることを強いられた。
ぼっちは、強いられている生き物だ。周りからは蔑まれ、孤独でいることを強要される。何故か。それは、自分よりも劣っていると認識できる存在を、常に作っておくため。何かに失敗して、自分よりも下位の種族を見て、安心感と優等感を感じるため。
勿論、それで何が変わるでもない。けれど、皆はその幻想の様な存在に頼る。何故か。それは、自分一人でその残酷な結果を受け止められないから。藁にもすがる思いなのだろうが、実際には、目の前には藁さえもない。だから、他人を藁に、浮き輪にするのだ。自己犠牲ならぬ、他者犠牲で、自分が助かろうとする。その対象となるのが、ぼっちなのだ。
「だったら尚更だ。俺の中身なんて知ったら、あまりの腹黒さに怖気づくぞ」
「そうやって自分さえも騙そうとする人、本当は優しいんだって知ってる。柊君が、なんやかんや言って、優しいことも」
彼女がこちらを向き、優しげな表情で笑う。
優しい。この言葉には、どれだけの責任が込められているのだろうか。無責任なのだろうか。俺は、この言葉は嫌いだ。自分に都合の良い人間を優しい。そう呼ぶから。どれだけ優しくなくとも、自分に都合が良かったら平気で嘘を吐く。それが人間。
「目が曇りすぎだろ。俺が優しいなら、俺以外の連中はどうだ? もう神の域だろ」
「他人を考えられる人間は、優しいの。柊君みたいにね。それで、私は救われた気もする」
そう言って、昼食を再び昼食を食べ始める。が、すぐに止まる。
「……もしかして、私が嫌? 嫌なら、そう言って。傷つくとか考えないでいいから」
いつぞやの、誰かさんのセリフ。全く、こういうところが……
「嫌なわけねーだろ。ほら、さっさと食べ――」
「……うん? どうしたの?」
今思えば、何で俺に近づくんだ? 俺じゃなくてもいい。むしろ、俺なことが不思議なくらい。俺にこだわる理由。俺に執着する理由。俺に固執する理由。……わからない。
「……いや、なんでもない」
俺は、小鳥遊の言っていることが、わからない。俺が、優しい?
……わからない。
昼休み、清掃に授業一時間が終わり、今日最後の授業だ。なのだが、この授業は、学習の授業ではなく、何か決めることがあると、朝のHRで片岡先生に言われた。チャイムが鳴ってしばらくして、片岡先生が教室に入ってきた。遅くない?
「この時間は、一ヶ月後の合宿の班決めと役割分担とかの時間だ。男女3人ずつ計6人で班作れ~」
……あぁ、合宿か。入学する時のパンフレットにそんなものがあった気がする。場所は確か……長崎だったか。この栄巻高校は、福岡県にある。同じ九州だし、行きやすいのだろう。ちなみに修学旅行は奈良・京都。ぼっちの俺にはあまり盛り上がることのないイベントだ。
ざわざわとし始める教室。やべ、耳塞がないと――
「小鳥遊さん! 俺と組もう!」
「私と組もう! 小鳥遊さん!」
「小鳥遊さん! 結婚してくれ!」
あぁ、ほらいるよ。こうやって迷惑を考えずに人を誘う人。小鳥遊、コマッテル。てか最後。お前はいつも何かしらヤバイことを言わないと死んでしまう病なのか? ちなみに俺は、皆と仲良くしたら死んでしまう病です。ちなみに俺は、もう吹雪と組むことを結構前から約束していた。完全にぼっちじゃなくてよかった。
「あ、あの……私、一緒に行きたい人が……」
そう小鳥遊が言うと、周りがさっきの騒ぎを一瞬で抑える。なんだ、やればできるじゃない。それをやるんだよ……って、行きたい人か……嫌な予感がする。いや、決して嫌じゃなく、むしろ嬉しいのだが、この状況がまずい。標的になることが間違い無い。
「……柊君。一緒に組もう?」
「あ、あぁ、組もうか。でも、吹雪とあと三人どうするよ?」
皆の視線が、あぁ、いたいいたい。何故に俺がこんな目線を受けなければならないんだ。代償なのだろうか。ならむしろ構わないというか。小鳥遊と同じ班になれる機会は少ないだろうしな。
すると、どこからか声が聞こえる。それも、爽やかめの。
「じゃあ、俺達を入れてくれるかい? 女子も二人だから、人数は合うよ?」
声がした方を向く。そこにはクラス委員長的な存在の……存在の……誰だっただろうか。えっと……
やや青がかった黒髪に、
そして、連れの女子の一人が、小声で黒宮に話しかける。
「ちょ、ちょっと。小鳥遊さんは……」
そう言って、女子の一人が小鳥遊を一瞥。……冷たい目線で。俺はこの視線の種類と意味を知っている。なるほど、そこまで嫌か。それに、小声ででも黒宮に言うあたり、嫉妬なのだろうか? モテる男子は大変ですねぇ。ちなみに、モテるという言葉も、例によって嫌い。
同じく、小声で黒宮が返す。……連れの女子の二人の名前、何だったっけ。
「いいじゃないか。楽しそうだし。何か不満があるか?」
「べ、別に、優流君が言うなら……」
「私も、いいけど……」
そう言って、今度は二人共が冷ややかな目線を。何なんだこいつらは。俺達は入れる側なんだが。そこまで嫌悪感を抱かれてまで入れてやる義理はない。俺が上から言うことでもないが。……少し、頭にくるのだ。
「……はっ」
そう俺が侮蔑的・嘲笑的な意味を込めて、声に出して笑った。その瞬間、女子二人がこちらを、攻撃的な目で見る。小鳥遊に向けるものより、冷たく、鋭いものだ。
本当に、都合の良いやつらなことだ。自分より上の相手になったら、影に隠れて見つからないよう、
そして、吹雪に小さな声で問う。今更なのだが……
「ねぇ、あの二人、誰?」
「はぁ……左の茶髪ちゃんが
降旗の方は、ショートヘアーの茶髪。黒の瞳が何を映すだろうか。おっとりとした性格そうだが、さっきの言動を見た後では、そんなことはお世辞でも言えない。睨まれたし。
愛原の方は、セミロングのオレンジ髪。最初に黒宮に抗議したのは、気の強そうなこっちだ。見た目通り、気が強いらしい。俺には二人のどっちがツンケンしてるとか、関係ないし、興味もない。睨まれたし。
どちらも顔は整っているともいないとも言えないくらい。良く言えば『無難』。悪く言えば『中途半端』。おぉ、また睨まれた。こわいこわい。やっぱエスパーやってんじゃね?
てか、吹雪も中々頭にきてるのか? 茶髪ちゃん、オレンジちゃんってなんだよ。
「私は、喜んで。よろしくね、皆」
小鳥遊が声をあげ、皆に呼びかける。黒宮は相変わらずの爽やかスマイルで、降旗・愛原は、人にわかるくらいの作り笑い。俺と吹雪は、少し怪訝そうに。
――小鳥遊は、少し乾いた笑いで。
ありがとうございました!
週間オリジナルランキングにものりました、皆さんありがとうございます!
ここまでくると、悪いことが起こる気がしてきました。
相当危ないことの前兆なんじゃないかと、ビクビクしております。
皆さん、アンケートのご協力ありがとうございました!
結果なのですが、魂恋録優先と交互投稿の票数が同じになり、
二回目をとっても結果は変わらないだろうという判断のもと、
誠に勝手ながら、『交互に投稿しつつ、時々魂恋録を連続投稿』にしたいと思います。
本当にありがとうございました!
ではでは!