捻くれた俺の彼女は超絶美少女   作:狼々

37 / 43
どうも、狼々です!

結局一ヶ月ほどかかってしまった(´・ω・`)
時が過ぎるのが速くて、最近困っています。

さて、今回はいつもの長さです。
遊園地デートも本格的に開始!

では、本編どうぞ!


第37話 童心、それは魅力の結晶である。

 駅から歩いて数分、思いの外すぐに遊園地へと到着。

 フリーパスを購入し、二人揃って手首に巻いていることを店員にチェックされ、中へ。

 

 延々と回り続ける大車輪、レールの上で金切り声を連れ去る箱の連なり。

 走りっぱなしの馬々に、左右へ大きく振れる海賊船。

 様々な速度で回転するカップや、空中を駆け回る巨大ブランコまで。

 

 定番のものから、独特なものまで、アトラクションの宝庫だ。

 見渡す限りから喜びの声が響き、機械の駆動音が鳴り止まない。

 休日のこの時間でも、十分すぎるほどに人は多かった。

 

「案外人、多いな。何かアトラクションに希望はあるか?」

「ん~、近いところから順に周ろうか」

「よし、じゃあ、お土産からか」

「アトラクションだよね!?」

 

 いや、さすがに冗談に決まっているだろうに。

 近いところから、と言われたので、一番近いお土産屋をだな。

 

 遊園地に展開されたお土産品は、割高な気がするのだが、気のせいだろうか。

 まぁ、そのテーマパーク限定品のような物もあるので、考えてみればそうだ。

 だけれども、それを考慮から外してもなお、値が張るような気がする。

 特に、食品やお菓子系等は。

 

 お土産に割くお金に余裕がないわけではないが。

 黒字全てがアトラクションかと言われると、存外そうでもなかったりするものだ。

 

「わかっているよ。取り敢えず、乗れないものはあるか? 絶叫系だったり、ホラー系だったり」

「……だ、大丈夫だよ、うん」

 

 これはあるやつですねぇ、反応でわかる。

 あからさまに目を逸らしたかと思いきや、すぐに視線が戻った。

 逸らす前の表情に、若干硬さがかかっていた。

 

「へぇ、そうかそうか、じゃあどっちも乗ろうか」

「えっ」

「言うなら今の内だぞ」

「……何を?」

 

 あくまでも、「ない」と言いたいらしい。

 変なところで強情にならなくてもいいだろうに。

 

 アトラクションの種類なんて、溢れるほどあるのだから。

 飽きることなんてない上、今日のデートは一日中続くのだ。

 無理をする必要など、全くない。

 

 と、心の中で思いつつ。

 その二つ、またはどちらかに乗る時の反応が楽しみだ、とも思っていた。

 

「まぁ、いいさ。一番近いアトラクションは、っと」

 

 手元のパンフレットを開き、現在地を確認。

 プランを何も練っていない辺り、準備の粗さが目立ってしまう。

 

 ある程度候補は上げてあるものの、どれもが定番。

 観覧車だとか、ジェットコースター、お化け屋敷等々。

 これだけでは、計画と称するには粗末すぎるか。

 

 と、隣の小鳥遊も、俺のパンフを覗き込む。

 パンフ、マジグッジョブ。めちゃ距離が近い。役得だった。

 こういうささやかなシチュエーションだけでも、自分達は恋人同士であるという事実を再認識してしまう自分がいる。

 そんな俺は、まだまだ中途半端に可愛らしいものだと思いつつ。

 

「ここからだと、メリーゴーランドかコーヒーカップだな。どっちにする?」

「どっちも!」

「その元気やよし。メリーゴーランドからにするか」

 

 弾ける笑顔を携えながら、彼女は俺の手を取ってメリーゴーランドへ。

 俺が先導しているわけではなく、小鳥遊が引っ張り役。

 そのまま強引に連れられながら、彼女の表情を後ろから覗いた。

 

 はしゃぎ回る子供のような、そんな無邪気な笑顔。

 早速楽しんでもらえているようで、何よりだ。

 こうして気の向くままに振り回されるのも、思いの外悪くないものだと、今更ながら思う。

 さらに、恋人の笑いというものは、もう片方の恋人の笑いを引き出してくれるらしい。

 

 パスを通して、互いに隣り合わせの馬に乗った。

 愉快でメルヘンな音楽が鳴り始めてから、上下へと揺れながら回転。

 

「ほれ、こっち向いてみ」

「ん、どうしたの?」

 

 こちらを向いた隙に、スマホのカメラのシャッターを切った。

 意図を察したらしい彼女も、ピースをして向き直る。

 少しだけ落ち着いた笑い顔だが、十分過ぎる魅力だ。溌剌(はつらつ)だけが可愛さではないのだ。

 

 と、同じようにして、小鳥遊も俺をスマホの外カメラの中へと入れた。

 あまりらしくはないが、俺も写真を撮られることにしようか。

 

 ……照りつける陽光の中、控えめな笑顔しか向けられないことは、目を瞑ってほしい。

 

 

 

 ゆっくりと歯車は回ったが、やがて終わりの時が訪れる。

 緩やかな上下運動はなくなり、どこか心許ない気分に駆られた。

 次はコーヒーカップか、と確認をして、歩み出そうした瞬間。

 

「ねえねぇ、結構いい感じに写真撮れたよ」

「お、本当か。ちょいと見せてくれ」

 

 そう言われたので、歩くのを止めて、スマホを横から覗き込んだ。

 すると、突然に彼女から、体を引かれた。

 引くとはいえ、先と同じように駆け出すのではなく、自分の方に引き寄せている。

 

 直後に、聞き慣れたシャッター音が走った。

 自分でも何のことかわかる前に、小鳥遊が画面をしたり顔で差し出す。

 見せられた写真は、明らかにメリーゴーランドの途中のものではなくて。

 

「ほら、いい感じに撮れた」

「……一言声をかけてくれれば、そんな高等技術を使わなくてもいいんだぞ」

 

 ほら、いい写り方の写真だよ、と相手へ会話の種を投下。

 反射的にどんな写真になったのかを確かめようと、スマホの画面を覗くために、相手は自分側へと寄る。

 その隙にさらに相手を寄せ、内カメラでツーショット。

 俺からしてみれば、悪戯溢れる高等テクニックだ。

 

「えっ、いいの?」

「いや『いいの?』って言われても、断る理由がない」

「何か、写真は嫌いそうに見えるから、撮らせてくれないかなって」

「だったら、まだまだ俺のことをわかってないってことだ。ほら、撮り直すぞ」

 

 今度は彼女を逆に引き寄せ、シャッターボタンに指を伸ばした。

 少し驚いたような表情が、自然な感じを豊かに表現している一枚。

 決して上手いと言える出来栄えではないが、下手というわけでもなし。

 

 何事も、中途半端なくらいが丁度良い。

 人目を気にする必要がない。なにせ、周囲という隠れ蓑が山ほどあるのだから。

 ノーマルが最強にして唯一神だ。ポケモンだと全然そうじゃない。

 

「あ、ありがと……えへへ」

「そんなに嬉しいのか」

「うん。思い出っていうのは、形にしたいんだ」

 

 果たして、写真という本物の紛い物が、思い出の化身と言えるのだろうか。

 少し前の俺ならば、今頃は、そう無感動に告げていたのかもしれない。

 ただ、今この状況、そして彼女の優しげな微笑みを見ると、口がそう動く気配すら感じない。

 

 不思議なものだ。恋愛感情は、人を大きく狂わせる。

「恋と麻薬は紙一重」という言葉の意味は、二つの共通点がこれにあるからなのだろう。

 

「よし、今度こそコーヒーカップだ。行こうか」

「うんうん、行こう! 全アトラクション周ろう!」

「あ~……いや、夜までだからできなくもないか?」

 

 いや、やはり厳しいだろうか。

 いくら一日フルに使ったとしても、全アトラクションを周る時間はさすがにないと思われる。

 

 すぐに乗れるならまだしも、いつかは待ち時間なる物に迫られる。

 冬休みの頭とはいえ、まとまった休日であることに変わりはない。

 

「まぁ、今から判断付けても同じか。よっし、周るか!」

 

 デートはまだ始まったばかりなのだ。

 この段階で諦めを付けたとしても、それはそれで夢がない。

 現実的という言葉よりも、今ばかりは夢のある言葉に向かいたいと思った。

 

 意気込んでからコーヒーカップの前へ着くまで、一分もかからなかった。

 二人共走ったわけではないが、気付くと回転するカップの目の前だ。

 無意識・夢中というものも、存外馬鹿にできないものらしい。

 

 同じようにパスを通して、ピンク色のカップの中へ。

 さすがに高校生ともなると、中の窮屈さをどうしても感じてしまう。

 

「最初に言っておくが、俺は無理に速く回すつもりはないぞ」

「大丈夫、()()()()から」

「そうかそうか……いや、おい待てそうじゃなくて――」

 

 先に中央のテーブルを固定しようとして、腕を伸ばした直後。

 メリーゴーランドとは別の、メルヘンチックな曲が流れ始め、床が回転。

 それとほぼ同タイミングで、カップ自体も回り始めた。

 

「おりゃぁあっ!」

「待て待て待て! ちょ、ちょっ!」

 

 普段では聞けそうにない可愛らしい、叫び声とも言えないような叫び声。

 されど、俺達の座るカップの回る速度は、笑いにならなかった。

 ご丁寧に、両手を使ってから、思い切り回している。

 体全体まで使っているので、女の子一人の腕の力がどうこう、という話ではない。

 

 さて、この遊園地のコーヒーカップには、構造上、より速く回るポイントというものがあるらしい。

 それは意外なことに、重心の位置にあるのだという。

 

 一つのカップの中で、どの域に人が寄っているかで、重心は変わる。

 隣の人との距離が等しい状態では、重心は一箇所からあまりズレることがない。

 しかし、特定の箇所に人が寄ると、その点はズレ始める。

 

 そのズレが移動し続けることで、加速が生まれる。

 ここで問題のは、俺達の座っている位置だ。

 もうお察しだと思われるが――二人で、固まっている。

 

「止めろ止めろ! 体が引っ張られるんだよ!」

「あっははは! 柊君の困った顔、おもしろ~い!」

「俺は楽しくねぇよ!」

 

 困惑顔が面白いと言われても、当人である俺は、ちっとも面白味を感じられない。

 俺がテーブルを止めようにも、両腕で回しているため、介入さえしにくい状態。

 介入したとして、摩擦で手の平が大変熱くなってしまうことも自明の理。

 

 せめて飛ばされないようにと、ティーカップの縁を握ることしかできない。

 結局、高速回転は音楽が終了するまで、無駄に拍車がかかり続けた。

 

「いやぁ、速いのも意外と悪くないね」

「三半規管弱かったら死んでたぞ」

 

 割と本当に、同伴で無理矢理コーヒーカップを速く回すことは止めた方がよい。

 ふざけ半分で回す者が多いが、三半規管が弱い人からすれば、たまったものではないのだ。

 本気で否定しているときと、余裕がある否定とは見分けくらいは、つけるべきである。

 

「あ、あ~……その、ちょっとやり過ぎた、かな?」

「少し、な。少しだけだ」

「……楽しく、ない?」

 

 悲しそうに、上目遣いでそう言われると、こちらとしての立場がない。

 あの言葉を発した時、本当に楽しくなかったかと言われると、完全には否定しかねる。

 

 もし心の底から嫌だったなら、俺の機嫌はマイナスを振り切っているところだ。

 けれども、コーヒーカップから離れて歩く今でも、こうして手を繋いで次のアトラクションへと向かっている。

 それが自分の心境を、何よりも正直に映し出す鏡だ。

 

「楽しくないわけないだろ」

「ホント?」

「あぁ、そうだとも。大好きな彼女をからかいたかっただけだ」

 

 まぁ、この程度にはぐらかすのが一番だろうか。

 はぐらかすと言うよりも、気の利いた冗談を不器用に振っているようにしか見えない。

 けれども、それでも十分過ぎるほどの関係性が、俺達というものだろうと信じたい。

 

「ふふっ、そっか。私も、とっても楽しいよ」

「そりゃお互い来た甲斐があったってものだ。次、行くか」

「そうだね。じゃあ、次はどこになるの?」

「えぇ~っとだな――」

 

 まだ少しだけ目眩の残る眼で、パンフレットの紙面に視線を巡らせる。

 メリーゴーランドとコーヒーカップから現在地を割り出した上での、最寄りのアトラクション。

 

「――あっ」

「どうしたの?」

「次は、ジェットコースターだな」

 

 つい、声を漏らしてしまう。

 少しの酔いが回っていた頭が、完全に覚めた瞬間だった。

 楽しみであること、この上ない。

 

 さらにこのジェットコースターは、遊園地の目玉のジェットコースター。

 つまるところ、人気アトラクションであり、その中でも堂々と上位に君臨するものだということ。

 時間を考慮しても、今から行くのが最善だ。

 

「そ、そうなの?」

「おう、そうなの」

「へ、へぇ~……い、行こうか」

 

 キュッと握り直された右手に、思わず声のない笑いが浮かんだ。

 まるで本当の子供のような行動。童心に返る彼女は、思っている以上に可愛らしい。

 

 二人で仲良く歩幅を合わせて、金切り声が聞こえる源へ、着々と歩を進めていた。




ありがとうございました!

コーヒーカップで、重心どうのこうのの話は、遊園地によって異なります。
重心がズレるタイプなのか、そうでないのか。

で、あるんですよ。重心ズレるタイプ。
それは……あの、某ネズニーシーですね。
詳しい名前は控えますが(`・ω・´)キリッ

ではでは!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。