お ま た せ。
いやぁ、実に一ヶ月ぶりですなあ。わっはっは!
あっすいません謝るのでその拳をどうか下ろしてくだ(ピチューン
では、本編どうぞ!
さぁて、俺にもついに彼女ができたわけだが。取り敢えず、眠れないね。彼女のことばかり考えてしまって、他のことが一切考えられない。恋の病、とはよく言ったものだ。本当に病気のようで、不思議でならない。さらに、その治し方もわからない上に、治す気がないのがまた重ねて不思議でならない。
今入っているベッド。その中に、いつか俺の横で彼女が横になるときは来るのだろうか。そんなことを考えると、顔と体が火照ってしょうがない。現実になったときは、一体どうなることやら。というのも、全世界の男子が平静を保てない、と確信のあるシチュエーションではあるのだが。
いや、そういった行為のことではない。したくない、と言えば嘘になるのだが、ただ添い寝してもらうだけでも物凄くドキッとするものだ。彼女と添い寝って、絶対ドキドキするものだ。特に、その彼女が小鳥遊ともなれば、それは過剰化する。まぁ、今の俺なら這々の体で逃げるほどのチキンっぷりを発揮させるだろう。
「あ~……寝るか」
何度、この言葉を呟いただろうか。寝ようとして寝られず、空虚な言葉は照明の点いていない闇へと消えていく。全身に広がっていく充足感を保持したまま、ようやく意識が混濁し始める。俺達の未来がどうなるのか、楽しみで仕方がない。二人の恋人としての関係がどうなるのかを想像しようとして、俺の意識は微睡みの奥へと――
こんなにも清々しい朝はあるのだろうか、というほどのすっきりとした朝。とにかく、体が軽い。それはもう、すっごく。
「……へぇ」
無感動なようで、感動的な感嘆めいた声を上げた。いつもの学校へ行くまでの手順が、妙に早く終わってしまう。どうして、なんて質問は我ながら野暮というもので、答えは明白だった。
――早く、会いたい。
その一心で、玄関へ疾く向かう。いつもよりも、十分は早い時間だ。玄関を開放して、日差しは浅く入り込む。少し霧がかった冬の今日、目の前には、待っている小鳥遊が既にいた。その待ち人が俺であることに、どうしても笑いと満足感と、幸福感が湧いて出て、止まらない。つい昨日、関係が進展したばかりだというのに。……いや、だからこそ、なのだろうか。
「お、おはよう。今日は早いんだな」
「え、あ、えっと……うん。その、早くて時間が余るなら、さ?」
彼女の言葉の先を聞こうとして、手が握られた。大寒波、というほどでもないが、程々に寒い空気が靄と共に蔓延している。その中で、僅かな温度が共有され、お互いを包み込んだ。
「ちょっとだけ、このままじゃ、だめ……かな?」
「いや、可愛すぎてずっとしていたいくらいだ」
「かわ、ぁ、ぅ……ありが、とう……」
指が重なり、各々を絡め取るように、複雑に交差した。触れ合う面積は広くなり、それに比例するように心臓は高鳴りを憶える。冬の寒さが、一瞬で吹き飛んでしまうようだ。
さらには、小鳥遊の言葉と顔が、もう可愛いこと可愛くこと。可愛い、と少しでも口走ると、顔を真っ赤にしながら俯くことが最近わかった。今気付いたことだと、その状態で手を繋いでいると、きゅっと力がちょっとだけ強くなることに加え、指の絡まりが深くなることだ。いやもう……俺が小鳥遊の可愛さで死んでしまうのも、あながち近いんじゃないかと思い始めた。
「……っと、もう時間か。行こうか」
「あ……」
切なげな声が隣から漏れて、否応なしに心臓は鐘を速く刻み始めた。
「あ、あ~……恥ずかしくないなら、このまま手を繋いで登校してもいいんだが……」
「えぅ……繋ぎたい、けど……恥ずかしい」
彼女にとっては、かなり苦渋の決断だったようだ。結局、他の生徒に見られないところまで手を繋いで、学校の少し遠いところで手を離すという、何とも初々しいカップルのような状態が誕生していた。こうなると、俺の心も落ち着くはずがない。
俺と小鳥遊が教室に入った瞬間、互いに話していたらしい吹雪と茜が、こちらをすごい勢いで見て、近寄ってくる。ちょっ。
「さて、誠。私は少し聞きたいことがあるのだ。音葉ちゃんの次に聞くつもりだから、準備しておいたまえ」
「え? ちょ、ちょっと茜ちゃん?」
茜に手を引かれ、教室から外れていく小鳥遊。荷物も降ろさずに、廊下の奥へと消えていった。朝早々だが、元気は有り余っているらしい。どこか活発な少女は、掴みどころが未だにわからない。頭を撫でたり撫でられたりすれば、向こうとしては満足らしいが。
暫く経って、茜がさっきと同じように小鳥遊の腕を掴んで戻ってきた。どこか青ざめたような、頬を染めたようなよくわからない、珍妙とも言える顔で。いや、本当に何があったし。
「は~い次は誠! こっちゃこいこい!」
「うわっ! ちょっ、引っ張んな危ない!」
結構グイグイと強めに引かれながら、階段の踊場へ。生徒の出入りは少なく、通るとしても二、三人くらいだろう。もし見られたところで困る場面でもなく、ただ話しているだけなので、わざわざ個別に呼んで対話することもなかっただろうに。やはり俺には、彼女の奔放な考え方はわからないらしい。
「いや~、私としてもおめでたい限りだよ、うんうん!」
「お、おう、そうか」
本当のところは、一体全体何のことだかわかったものではない。大体、主語なしで――
「で、
「そりゃ嬉しいに決まってるだろ。小鳥遊と――あ?」
今、目の前の小柄な少女は何を言ったのだろうか。恋人? 前の文との脈絡は? どうしてその結論に至った?
「……おい茜」
「大体、二人共わかりやすすぎるんだよ。浮かれてるし、音葉ちゃんに至っては、昨日からずっと誠をちらちら見てるし」
「そ、そうなのか? ――じゃなくてぇ!」
どうやらこの少女、勘もいいらしい。というよりも、茜はいつもどこ見てるんだよ……
「さっき音葉ちゃんにも確認したよ。あ、音葉ちゃんが白状する前に私が当てたから、責めないでね?」
「いや、責めるつもりは毛頭ないけども……まぁ、ありがとう」
「まあまあ、私も嬉しいって言ったじゃん? いいってことよ!」
ないに等しい慎ましやかな胸を張って、笑顔を向ける茜。恋愛的な意味は孕まずに、素直に可愛いとは思う。やはり彼女補正がかかるのか、小鳥遊の方が可愛く見えてしまう。比較するのもどうかと思うのだが。
第一に、俺は選べる立場の人間ではない。女の子を射止める整った顔立ちも、心を惹くような優しげな性格も、相手に好印象を与える雰囲気も、何一つだって持ち合わせていないのだから。そう考えると、尚の事小鳥遊が俺に告白した理由がわからない。単純に嬉しすぎるのだが、そうなった理由がさっぱりだ。おぉっと、自分で言っていて悲しくなってきたぞ。
「あ、そうそう。それでここに君を呼んだのは他でもないのだよ」
「お、おう、そうか」
「もうすぐ、何がありますか? ヒントは、冬のリア充イベントです」
あぁ、もうこれだけでわかるんだが。町並みを埋め尽くすカップル。最早跳梁跋扈、とも呼べそうで怖い。一つのマフラーを二人で一緒に巻いたりとか、イルミネーションを見たりだとか、とにかく非リア充にとっては邪魔でしかないイベントだね。
「あ~、クリスマスだな」
「そうそう。で、デートを先送りしたんでしょ?」
「何でそこまで知ってるんだよ」
恐ろしい、この子。俺なんて、他人の恋愛事情には踏み込まないスタイルを貫いてきたというのに。興味があるわけでもなかったので、自然とそうなったという言い方の方が正しいのだが。俺が思うに、他人の相談事に出されて困る話題は、恋愛なんじゃなかろうか。
よくある展開としては、相談者が好きな異性は、本当は相談される側が好きで、告白した際にバレて関係が崩れる、みたいな。不用意な発言をしたが最後、勝手に恨まれて終わり、というわけだ。全く、理不尽極まりないものだ。
……あ、よくあるわけじゃない? あっ、はいそうですか。
「それは音葉ちゃんがさっきポロッと。で、私の言いたいことは――」
「……クリスマス、デートに誘った方がいい、と?」
「そうそう。話が早いねぇ?」
「まぁ……俺も誘おうと思っていたからな」
一応、恋人の祭典みたいな日と化したクリスマスだ。恋人になりたてということもあり、昨日の夜の時点でいつ誘おうか、小さく計画立てしたりしていたのだ。
しかし、もう少しでクリスマス。誘うならば、早いに越したことはない。
「って、そういえば冬休みももうすぐか」
「あ~、言われてみればそうだねぇ~」
クリスマスが近いとなると、もっと近いのはクリスマスが属する冬休みだ。終業式も、思えば来週くらいじゃなかっただろうか。本当に今更なのだが、早いものだ。そうなると、もう年明けも背中が見えてきたくらいだろう。
「ん、まぁ誘うよ。一緒に来るか?」
「……あのね~、わかっていないの? それとも、わかっててわざとやっているの? どっち?」
「いや、そりゃ二人きりってのはいいシチュエーションだろうけどさ、茜が一緒の方が小鳥遊も――」
「んなわけないでしょ! あのね――っと、これ以上口出しするのもいけないかな。ま、好きにするといいよ。取り敢えず、私は行かないからね~」
それだけ言って、茜は教室へと戻っていく。俺も無意識についていっていると、SHR開始の予鈴が鳴った。冬の針の刺すような寒さを廊下で感じながら、考える。どう誘おうものか、と。
恋人といっても、なりたてほやほやすぎる。数ヶ月……せめて一ヶ月でも経っているのならば、カップルという関係が互いの間で定着し、染み込んでいるので誘いやすくはある。色々と考えてみるものの、自分のことなので、結局は誘う結論に走っていくのだろう。彼女と一緒にいて何かしらしたい。いや、もう一緒にいるだけでもいい。
そんな見え透いた自覚をしながら、窓を見た。霜が降りていた外の空気は、白く濁っていて先が見えていない。硝子の至る所に水滴が幾つも走っていて、窓枠に触れながら、それに沿って雨となる。あれだけ沢山あった水晶玉は、やがて複数の大きな水晶玉へと変貌して、加速して窓を駆け下りた。
―*―*―*―*―*―*―
「はい、音葉ちゃん。私は一つおめでとう、と言いたいよ」
「えっと……何が?」
「告白。成功したんでしょ?」
「……ふぇっ!?」
茜ちゃんに腕を引かれて、階段の踊場に着いたと思ったら、いきなりこれ。どうしてバレているんだろうか。つい昨日の、しかも夜の出来事だ。勿論自分が連絡した覚えもないし、彼女に知られることはないはずなのだ。なのに、どうして。
「そんなに驚くようなことでもないよ。ずっと誠の方を見て、何か言おうとしては話しかけずに終わってたのが何回か見えたからね」
「で、でも告白とは限らないんじゃ……」
「何回も迷って結局言えない。そんなことがあった翌日、すっきりした顔で誠と教室に入ってきて、それに顔もちょっと緩んでる。これでもまだだめかね?」
「……緩んでるの?」
「うん、それはもう幸せそうに」
何とも恥ずかしい話だ。恋人ができて、恥ずかしいから途中で手も離したというのに、バレバレとは。どうせバレるのならば、もっと手を繋いでいたかった――じゃなくて。
「そんなに、幸せそうに見える……?」
「見える見える。そりゃあ、十年間の恋が叶ったんだから、当然だよね!」
慌てて自分の顔を確認したが、それさえもあまりわからない。けれども、相当に嬉しいのもまた事実。これはもう、本格的に病気のようだ。ただでさえ、彼を想うだけで、こんなにも苦しいというのに。でも、この苦しみが、今では幸せの象徴なのだから、わからないものだ。
「……大方、登校のときに手を繋いできたんでしょ? 全く、これだからリア充は」
「い、いや、繋いできては――」
「あ、言っとくけど見えてたよ」
「えぇっ!? で、でもそんなはずは……!」
「ほらやっぱり繋いでるじゃん。着く少し前に離したんでしょ、どうせ?」
ここまで見え見えとなると、私も一層恥ずかしい。彼に少しでも触れていたい、という自分の願いが強すぎるようで。ま、まぁ実際弱いかと言われたら全くそんなことはないので、もっと
手を繋ぐのだって、相当にドキドキしてしまっていた。隣で寄り添って歩く彼に、心臓の音が聞こえてしまうんじゃないか、と思えるほどに。この先やっていけるのか、心配でもある。しかし、幸せすぎてぼうっとしてしまいそうでもあるのが現実。
手が触れるだけで、身が震える。寒気さえする。怖くなりそうだ。恐怖を憶えるほどの、幸せ。本当に、この先が思いやられる。抱きしめられたり……き、キスなんてした日には、おかしくなってしまうんじゃないだろうか。
「……はい、その通りです」
「いいんだよ、そのくらい熱々な方が。それでだけど、次のデートとか決まってるの?」
「決まってない、けど……前に中止になったデートを……その、クリスマスでもいいのかな~、って」
我ながら呆れてしまう。気が早い、というかなんというか。結ばれたばかりだというのに、もうクリスマスのことを考えるなんて。時期としては問題ないが、気持ちの問題がある。
「ん、心配してたけど、ちゃんとデートできそうだね。じゃ、戻ろう!」
「う、うん……何を心配してたの?」
「恋人って関係に竦んで、デートできないんじゃないかって。そうじゃないとすることもできないじゃん。色々と」
「い、色々、と……」
「うん、色々」
色々……色々……ピンク色に染まった妄想しかできない自分の顔は、相当に赤くなっていることだろう。
ありがとうございました!
今回遅れた理由ですが、活動報告にも書いた通り、魂恋録の連続投稿です。
最終話が近かったので、一気に最終話と番外話まで投稿しました。
何も報告なしに連載終了は、まぁ無いと思っていただけると。
もし連載終了になるような大事件が起きたら、それぞれの作品の最新話、活動報告、Twitterにてきちんと報告しますので。
何もなかったら、「あぁ、あのオオカミまた遅れてんのか。狩ってやろうか」
くらいに思っていただきたいです(´・ω・`)
ともあれ、遅れてしまって申し訳ありませんでした(´;ω;`)