おまたせぇ。またまた空いちゃった。
さらに、今回は短いという。すいませんね、ホント(´・ω・`)
では、本編どうぞ!
夜空に輝く星を、二人で隣り合って見ていた。その明るくも暗くもある中、彼女の輝きはどれよりも美しい。可愛い彼女を隣にして手を――繋いでないんですよねぇこれが。
いざ彼氏彼女になった、さぁ手を繋ごう! ってなったら、緊張がすごい。手汗はまだ大丈夫なものの、手が震えそう。声も震えそうだから、迂闊に出すわけにもいかない。心臓は鳴り止まず、幾度となく煩く鼓動を連ねている。
「どうしたの?」
「え、っと……」
途轍もない迷いが、自分の中で横行する。手を繋げ、という囁きと、指まで絡めてしまえ、という囁きの二種が飛び交った。結局繋ぐのかよ。繋ぎたい、という願望自体が死んでいないことに変わりはないのだが。
――意を決し、すぐ隣にある彼女の手を握る。仄かな暖かさを感じてすぐに、手の柔らかさに驚かされる。指は絡めていないあたり、俺の小心者・チキン加減が溢れていると思うんだが違うかね?
「ぁっ……」
「少し、恥ずかしかっただけだ」
「そっか」
そう言いながら、こちらを向く彼女に
「……いつまでなら、こうしていい?」
「俺は、まぁ別に」
「じゃあ、いつまでも、って言ったらどうするのさ?」
「それでも、まぁ、構わない」
いつまでも、と言われるのならば、喜んで手を繋ぎたい。そう思う、彼女に魅了される自分がいた。小さな静寂の中、響くのは俺と彼女の声のみ。宵闇の風情に、小鳥遊への想いに酔いしれてしまう。深くへと誘い込まれる俺は、その勢いを留めることを知らない。
手から伝わる感覚に、ほぼ全ての神経が集中しているかのようだ。互いの手の感触だけのはずなのに、満たされてしまう。
「じゃあ、さ。いつまでもとは言わないから――」
そう言葉も繋ぐ彼女。手は動き、俺の指と指の間を、彼女のそれが掻い潜る。網のように捕まえられる俺の手は、もう離れる気すら起きない。僅かのみの手の温度は、一層と深みと暖かみを増した。
「――この繋ぎ方じゃ、だめ?」
恋人繋ぎ。互いの指を絡め合い、しっかりと握る手の握り方。離れたくないと言わんばかりの絡みは、さらに心臓を暴れさせる。荒れ狂いそうになるそれを抑えつつも、満足に声が震えることも我慢しながらも、俺は言葉を返す。
「だめなわけ、ねぇだろ。むしろこの繋ぎ方で、いつまでも繋がっていたい」
「あ……私も、なんだ。柊君を、もっと感じていたいの」
……せっかく清純なところ悪いんだけどさぁ。その言い方、非常にエロいよね。
―*―*―*―*―*―*―
ずっと、夢に見ていた。あぁ、彼氏として紹介できるような関係になったら、どれだけ幸せなことだろう、と。いつもベッドの上で考えて、空想の関係に溺れ、ひどいときには夢うつつになっていた。そして、現実へと引き戻された時、胸の中に穴がぽっかりと空いてしまったような虚無感に駆られる。
その感覚が、とても嫌いだった。切なくてたまらなくなって、それを埋めようと枕を抱き締める。が、何も変わらない。
彼の名前を呟けば少しはマシになる。そう思ってもいた。けれど、口にした途端に、胸がきゅっと締め付けられた。一層に切なく、切なくなっていく感覚が他でもなく嫌いだった。
そのはずだったのに、やめられなかった。辛くなるとわかっていても、空想に溺れていたかった。終いには、仮想の関係を楽しもうとも、一瞬考えた。辛すぎた。自分が、十年も叶うはずのない恋を、まだ諦めきれていなかったことが。
「ねぇ、柊君」
「ん、どうした?」
すぐ隣に聞こえる声が、この右手に伝わる暖かさが、彼のものであることを夢にまで見た。こうあったら、という願望の景色だった。窓枠の外側に見えるだけの風景だった。それが今、手元に。
「私ね。今、すっごくドキドキしているんだ」
「……恥ずかしいだろ。やめてくれ」
そうやって、本当に恥ずかしそうに向こうを見る彼も、案外可愛いものだ。いざという時にはとても頼りになって、時々こういう意外で可愛げのある一面を見せる。何というか……その、反則だよね。ずるいというか、惹かれてしまうというか。
「俺も……その、めちゃくちゃドキドキしてるんだからさ。そう言われると、尚のこと恥ずかしいだろ」
「……やっぱり、柊君はずるいよ」
「いや何がだよ」
自覚がないのが、さらにいじらしい。お互いにドキドキ、してるのかぁ……。本当に、夢みたいな話だ。叶わなかったはずの恋が今、叶ったのだから。
私は、ずっと思っていた。この恋を諦めたくない、と。ただ単純に結ばれたいというのもあった。友人、幼馴染という境界の先の関係を楽しみという願望もあった。けれども――
「――恋を諦めるって、結ばれるよりも、ずっと難しいんだね」
「そう、かもな。想いの丈にもよるが」
「……やっぱり、そういうとこは変わらないんだね」
「人を勝手にロマンチスト扱いしないでくれ。勝手に印象付けられて、勝手に期待を裏切られたって騒がれるこっちの身にもなってほしい」
そうそっぽを向いて言いながらも、私の右手は力を少し増して握られた。彼なりの照れ隠しと考えると、やはり可愛い一面が垣間見える。
ふと、夜空を見上げた。気のせいか、星は輝きを増して暗空に留まっていた。彼もいつの間にか空を見上げていて、目を離そうとしない。そして、その時。
一筋、暗闇の中に星の涙が走った。瞬く間に夜空を駆け抜けたそれは、願い事をする間もなく暗がりの彼方へと。二人で笑顔を零しながら、流星の足跡を目で追った。黒で塗りつぶされたはずの空には、飛行機雲のような『なにか』が、見えた気がした。
さすがに夜も更けてきた頃。彼が帰った後に、どうしようかと悩んでベッドの上で悶々としている最中だ。足をぱたぱたさせたり、意味もなく寝返りをうったりしながら、スマホの画面に視線を固定させている。
「電話……いやでも、さっき話したばっかりだし……もう寝てたりしたら迷惑になっちゃう」
彼の声が、聞きたくなっていた。柊君の声は、何かと私を安心させてくれる。時には安心どころかドキドキが止まらなくなるため、服用には注意。何だかお薬みたいだね。
もう画面には通話をタップするだけで電話がかかる状態。あと一歩のところで迷ってしまうあたり、情けない。かけないならかけないで、最初から迷う必要なんてないのに。
結局、電話をかけないで寝ることに。あまりにしつこいと、嫌われてしまいそうで怖いし。付き合ってすぐにこんなことじゃあ、すぐに嫌われてしまいそうだ。
「あっ、そうだ」
スマホを手放そうとするのをやめて、連絡先の項目へ。意外と沢山の名前があることに驚きつつも、『柊君』と書かれた連絡先を見つけた。そして、登録された名前を変える。
「――これでよし、っと」
『誠君』と名前を変えられた連絡先を眺めながら、一人で笑みを零す。いつまでも眺められそうだ。一人で何もなしに笑うとは、相当に気持ちが悪いことなのだろうが、どうしても笑顔が止まりそうにない。
「いつか、下の名前で呼び合いたいなぁ……」
そうしたら、より恋人っぽくなりそうで。淡い願望を胸に秘めたまま眠りにつこうとして、一つ練習してみることに。いざという時に、ちゃんと彼の前で言えるようになるため。
「……誠、君……」
一人、呟く。灯りの消えた部屋の中で、ただ私の声で呼ばれた彼の名前だけが響いて、急に恥ずかしくなってしまう。一気に現実に引き戻されるように。
「うぅっ……恥ずか、しい」
布団を一気に口元まで引き上げて、眠ろうと瞼を閉じた正にその時。お互いの名前、なんて意識をしたものだから、勝手に自分の中での想像が広がっていく。音が、色がある景色は構成される。目の前には彼が。
大好きな笑顔を浮かべた彼の手が、私の背中に回される。そのまま優しく引き寄せられて、抱き締められた。勝手な想像だというのに、心拍数は一気に上昇する。実際にそんなことは起きていないのに、緊張が全身へ回った。
極めつけには、耳元で彼の声。
『……音葉』
「あ……あ、うわわあぁぁ~……!」
自分の妄想で、悶え死にそうになってしまう。いつまでも耳に残る、彼の声。間違いなく呼ばれた私の名前。頭がぐるぐると回るように酔って、視界は明滅しそうになる。暗い色と明るい白が、チカチカと切り替わって。心拍の上がりすぎで、呼吸さえもままならない。
「落ち、ついて……」
気を留めるのでさえ、意識しないといけない。とくんとくん、と早鐘を打つ心臓を落ち着けるのでさえ。これからどうなってしまうのだろうか。彼に夢中になりすぎた今ですら、こんな有様だ。もっと夢中になってしまったら……一体、どうなるというのだろうか?
その答えを求めるようにして、窓の外を覗く。住宅の灯りもほんの少しだけ少なくなる時間帯。悠然だが、星は輝き続ける。あれほど眩しかった光は、今はすっかり穏やかになっていた。
「……でもまぁ、溺れ続けるのも、悪くないかな?」
これからが、楽しみだった。笑顔が止まらない。一種の嵐のように、笑顔が。ただ、一つ違っているところがあった。この笑顔が、嵐と違って通り過ぎる気配がないことだ。
ありがとうございました!
短かった分、甘い成分は凝縮できたかと思われます。
私の基準なので、本当にそうかは怪しいものがありますが。
ではでは!