捻くれた俺の彼女は超絶美少女   作:狼々

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どうも、狼々です!

今回から第4章ですぜ兄貴。

いやぁ、勉強合宿行ってきました。
そんなにきつくはなかったです。

ただ、女子の目線が……ね……
何もしていないのに睨まれる始末。どうしろと(´・ω・`)

では、本編どうぞ!


最終章 その二人、恋人につき。
第31話 ようやくの決心


 夜。宵闇を駆け抜けていく、闇に同化した黒車に乗せられて自宅へ。戸波さんにお礼を軽く言った後、その車は再び別方向の闇へと消え去っていった。迎えるは、静寂。遠ざかっていくエンジン音を聞き入れて、ようやく口を開く。

 

「……部屋、戻るか」

「……そうだね」

 

 沈黙を孕んだ闇が、俺達を覆い尽くしていた。が、エントランスの照明で自分とその周り一帯は霧払いされる。先の一言だけで、それ以降は話さなかった。無言で、エレベーターへ。上下箱の中に入って、ランプが三の階で点灯した辺りだろうか。

 

「ねぇ、柊君」

「ん? どうした?」

「二つ、あるんだ」

 

 ゆっくりと、お互いの会話は展開された。遅すぎるほどの速度は、エレベーターが八階に着いたベル音に越される。扉は開き、会話は閉じられる。流れるように二人で箱を出る。それが、不変の真理であったり、暗黙の了解であるかのように。扉が開くと、中の空間は箱ごと下へと下がっていった。

 

 しかし、完全に閉ざされたわけではなかった。会話の展開は、まだ行われるようで。

 

「一つは……ありがとう」

「あぁ。まぁ、俺がやりたくてやったことだ」

 

 本当にそれに尽きる。大体、俺がしなくてもいい上にしたくないことをすることはない。時間の無駄だ。したくて、しなければいけなかったから。俺はこの選択を正解だと思っている。その旨を伝えた。

 

「もう一つは――」

 

 

 

 

 

 

 翌日。何事もなかったかのように、朝の陽光は地に届く。真っ直ぐに照りつける曲がりのない光は、白く透けている。逆光を受けながら教室へと差し込む。白透明の硝子で屈折する以外は。

 

 教室へ入る前。片岡先生から連絡が入った。草薙は、退学するらしい。すぐに退学したのか、まだ手続き中でそれまで欠席させるのか、それはわからない。もう、俺には関係のないこと。その事実たった一つだけで十分だった。真弥さんに、約束を守ってくれたことに感謝だ。

 

 結局、個人的平穏の戻った学校生活へと回帰した。小鳥遊の笑顔も戻り、いつも通りに。冬の季節を感じる余裕もできた。吹き付ける冬風に身を震わせ、口から冷気を取り入れる。そんな気の抜けた毎日を送る予定で――

 

「あぁ~……」

 

 ――予定でしたはい。いや本当に何ででしょうねぇ。冷気を吸うのも、身を震わせるのも間違いではない。むしろ事実だ。冬服を着ていて尚それだ。理想の日常と呼んでも過言ではないだろう。邪魔してきた障害は取り除かれた。視界良好、全速前進の命を出すのみとなった、準備万端の状態。

 

 ……のはずだった。

 

()()()()()()かあぁ……」

 

 そう。昨日の夜、ありがとうの言葉と共に贈られた提案。それは正しく、デート延期。それは読んで字の如く、見て字の如く。それはもうまるっきりそのまま。デート、延期。合宿の時に言われた、デート。違いなくそれだ。寸分の狂いもなく。延期後の期日はまだ未定らしいが。

 

 まぁ、考えてみればそうだ。草薙の騒動があって、すぐに気持ちを切り替えて外出、なんて気が乗るわけがないに決まっている。どうせ遊びに行くなら、楽しい方がいい。少なくとも、こんな状況が良い環境なわけではないことは確かだ。

 

 しかしながら、ちょっとどころではなく楽しみだったのだ。それが延期ともなると、やはり喪失感にも似た感情は抑えきれない。失くなったわけではないので、それほどでもないが。やはり残念でないことも確か。目先の欲に走るようで情けないが、暫くぶりに出していなかった思考を、展開させるとしようか。

 

 

 

 目先の欲を求める者は、別に悪いことでも何でもない。先を見据えて走ることがダメだと言っているのではなく、目先の欲に囚われることをダメだというのがダメだ、と俺は叫びたい。いや、どちらか一つだとするならば、目先の欲に囚われる側になった方が良いと言えるだろうか。

 

 先を見据えて走るというのは、逆に言えば、目先のことが見落としやすい、ということだ。灯台下暗しの言葉があるように、自分の足を掬われることとなる。それが果たして、利口だと言えるのだろうか。

 

 保守的であると言い換えられる目先を追う者は、比べて利口だろう。こんなことはないだろうか。計画を立てたはいいものの、その計画を実行に移すことができなかった、ということは。典型だ。先を見据えるだけの人間とは、常にそういう者だ。全く、清々しいくらいに上手くいくものではない。

 

 全員がそうではない。先を見据える『だけ』に限る。が、俺はそんなことを一番に言いたいわけではない。自分の一番近い未来をどう対処できるかに関しては、計画する人間と比べてエキスパートだ。

 

 目の前の出来事に懸命になる、と言えば聞こえが良くなる。見栄えも良くなるだろう。そうなると、ぼっちは懸命になるエキスパート中のエキスパートだろう。周りに頼らない、いや頼れない分、自分一人で何事も解決しなければいけない環境下で磨き上げられた宝石のようなぼっち。目の前に懸命になるのは、一体どちらだろうか。

 

 さらに言うなれば、先のこともそうだ。今もそう、前もそう、これからもそう。ぼっちであり続けることを前提として考慮と検証を繰り返す。先のことも、現在のことも平行して懸命になれるのは、ぼっちの特権なのだ。懸命になることに慣れた特殊人材。それがぼっち。

 

 では、一つ問おう。現在のことに懸命になれるのは、果たしてどんな人材でしょう? 答えは、ぼっちただ一つだ。これ以外にパーフェクトな解答は、未来永劫できあがることはない。不変の真理として語り継がれることだろう。

 

 

 

 あ、あれれ~? どうしてぼっちの賛歌になっているんだろうな~? さすが俺。ぼっちの賞賛と弁護に限っては、右に出る者はいないと伝説になっただけはある。今作った伝説だけども。それも俺の中でだけの伝説だけれども。武勇伝として語ることくらいはできるだろうか。いやダメだ。語れるような人がごく限られている。早くも詰んだんだが。どうしてくれよう。

 

「……どうしたのさ?」

「え? あ……吹雪」

 

 俺の顔を覗き込むようにして、尋ねる。昨日の茜の曰く言葉からは考えられない、いつも通りの顔だ。

 

「何があったかと何でそんなに考え事をしているのかはともかく……ま、どうにかなったようで、よかったよ」

「えっ、何でわかんのさ」

「二人。音葉ちゃんも誠も、爽やかそう」

 

 このけしかけたくなる、軽々しい笑顔も健在のようで。そうやって何も気にしない、関心のないフリばかり気取っている彼も、少しはいいなと思ってしまうのだが。

 

「そうかよ」

「そうだよ。特に誠は、いつもの気持ち悪い感じが薄れてるね」

 

 前言撤回だこんちくしょう。誰が気持ち悪いだ、誰が。俺はただ、自分の中で一人論理展開をしたり、本を読みながらニヤニヤしたり……あっ、気持ち悪いわ。いや本を読みながらは確かに気持ち悪そうだけども、仕方ないよ。同業者ならわかるはず。そう信じたいものだ。

 

 ……ってか、『薄れてる』って、まだあるってことの裏返しじゃねぇかよ。完全に消えてないのかよ。

 

「で、さっき聞かないとは言ったけども、考え事とか珍しい。どうしたの?」

「おい。珍しい言うな」

 

 誰かさんからも言われた気がするのだが、気のせいだろう。……えっ、そんなに考えなしに動く人間に見えるの? 複数人から口を揃えて言われたら、少し気になるじゃないか。ふひひ。気持ち悪っ。

 

 彼の笑顔が昼下りの逆光に照らされ、爽やかそうとはどちらかわからないくらいだ。弾け気味の笑顔が、炎天下と間違うほどの明るい陽光が、俺にとっては眩しすぎる。つい昨日も、夜空に唯一輝く女の子の笑顔を見たばかり、だというのに。

 

 どうにも慣れない。いや、慣れているのだろうが、違和感が拭いきれない。この輪に俺が入っていることが、妙にしこりを残していくのだ。ありがたい限りなのだが。

 

「なになに~? またいつもの感じかい?」

 

 弦楽器のような、小鳥遊の声に似ていそうで違う声質が、俺達二人の元へと飛ばされた。大体予想がつく。俺達に……もっと限るならば俺に話しかける女子など、俺の知る限りでは二人だ。

 

「……おう、茜」

「またまたぁ。嘘ばっかり。音葉ちゃんでしょ?」

 

 う、うおう……どうしてこうもピンポイントで当ててくるんだ? 正解なんだけれどもね。女の勘、というやつなのだろうか? 鋭い、鋭すぎる。日本刀くらい鋭い切れ味だ。俺とか真っ二つ。斬られちゃうのかよ。それに、俺じゃなくとも真っ二つだわ。本当に二つに分かれるのかは置いておいて。

 

「ま、まぁ、そうだけど」

「ふんふん、もう告っちゃいなよ! YOU!」

 

 何それ。そんなノリで言っちゃうの? 俺が失敗したらどうなると思う? すぐに噂は学校中に広がり、下がりきった俺のイメージがさらに下がるぞおい。

 

 という冗談も置いておいて。

 

「いやそんなに簡単に――」

「いける落とせる大丈夫私が保証する」

「そんなに自信満々に言われても困る」

 

 その自信がどこから湧いて出てくるのだろうか、今一度知りたい。小さく平たい胸を張って、『ドヤァ……』と漫画の吹き出しが付きそうな顔である。可愛いことには可愛い。ロリコンとか超喜びそうじゃん。庇護欲そそられそうだね。まぁ俺は小鳥遊が好きなのだけれども。

 

 好きな女の子に対しては、というか女の子に限らず好きな異性に対しては、魅力に補正がかかる。ちょっとした欠点でも、他の異性には持ちえない貴重な魅力に見えてしまえる。痘痕(あばた)(えくぼ)が過ぎるくらいに。

 

「……じゃあ、想像してみなよ」

 

 そう妖しく笑い言うと、俺の肩に手を当てながら耳元で囁く。ふわりとシャンプーのフレッシュな匂いが鼻腔に届き、否応なしに反応してしまう。いや、本当に申し訳ないが、男なんだよね。できれば小鳥遊だけに反応していたい。

 

「指を絡めて手を繋いで、キスをして、ベッドの上で……」

「……ッ」

 

 想像する。指と指が絡み合い、密着度の高い状態の手を繋いだ俺と彼女。お互いが抱き合い、二つの果実が形を変えながら、口元で一つになる影ができあがることを。

 

 ……ベッドの上で横たわった、服が着崩された彼女を。僅かとは言い難い程に紅潮した耳と頬を。扇情的な目線を。ボタンは幾つか開いていて、その間からは――

 

「ほら、どう? ……シたいでしょ」

「おい。女の子だろが。シたいとかさらっと言うな」

「えっ、いきなりどうしたの。変態?」

「おかしいよね? ねぇ、おかしくない?」

 

 『デリカシーがない』とは、確か男が言うものだっけか? 頭の上で疑問符が浮かび上がりそうになる。この二人が揃ってしまったが最後、もう調子は向こうへと消え去る。残念ながら、俺では対処のしようがない。どんな風にかというと、今のように。誠に遺憾である。誠だけに。

 

 ……ん? 隙間風かな? 何か寒くなった気がしたんだけど。冬だし当たり前だねあはは。

 

 と、隣をちらと見た。目線がぶつかり合う。瞬間、俺の刻む鼓動は早く、強く、大きくなった。先程の想像から背徳感も相まって、胸の締め付けは強い。自然、お互いがお互いに目線を逸らし合う。情けない話だが、どうにも恋は上手く扱えない。

 

 会いたい、話したいと思うのに、拙くなってしまう。そんな姿を見せては好印象を見せられないと思いながら話すが、やはりボロは出てしまう。目が合っただけで全身に緊張感は巡り、用意していたシチュエーションは全て崩れ去る。言葉は詰まり、結局何もなく終わる。

 

 それをどれだけ繰り返しただろうか。気付けば目線を逸していて、目眩のようなあの感覚も訪れが途絶えた。いつか、それは解消しなければ進展しないことはわかっている。

 

 それに、あの日も迫っている。小鳥遊曰く、『四ヶ月後』。クリスマス少し前の月。結局、ヒントの「スコップ」も、わけがわからないまま今に至る。どれだけ考えようとも、思い出せない。

 

 ……どうしたものか。

 

 ―*―*―*―*―*―*―

 

 家に帰って、照明も点けないでベッドへとなだれ込む。無意識に吐き出された吐息は、溜め息となって空気へ逃げていく。今夜は月が出ていないので、部屋を照らすものは本格的になし。暗いまま、天井を仰ぐ。

 

「はぁ……」

 

 今日の昼。茜ちゃんと柊君が、かなり近い距離だった。耳元で囁くような。やっぱり悲しくなる。……それに、茜ちゃんが恋敵になるのかと思ってしまう。遠慮する気はないのだが……どうにも、茜ちゃんと話しているときと私と話しているとき。茜ちゃんのときの方が本心で話しているように思えてしまう。

 

 その度に、苦しい。いつ取られてもおかしくない状況。私と結ばれると決まっているわけではないことは、重々承知している。でも……抑えきれない。だから、もう決めた。

 

 デートも後に回してもらった。余計なことを考えると、()()が失敗しそうで。

 

 私はそれの用意のために、電話をかける。数回のコール音の後、機械音は途切れた。

 

『もしもし?』

「……もしもし。こんばんは。えっと、小鳥遊です。覚えて――」

『あぁ! 音葉ちゃん! 誠から話は聞いていたよ! 同じ高校なんだってね! 元気にしていたかい?』

「はい。お陰様で」

 

 電話先は――柊君の自宅。実家の番号は私の母に聞き、引っ越しがないこともわかっていた。固定電話が繋がるかどうか不安だったが、杞憂だったようだ。さて、今回ちゃんと用があって電話をかけた。でなければ、突拍子もなくこんな時間に電話なんてしない。

 

「その、ですね……今週末、そっちに取りに行きたいものがありまして……」

『……わかったわ。誠は連れてくるの?』

「いえ、私一人で。彼には内緒でお願いします」

 

 ある物を取りに行く。もう、十年にもなる、あれを。

 

『あの子ったら、何で……ごめんなさいね』

「い、いえいえ、いいんです。なにせ、十年も前ですし」

『申し訳ないわね……今週末ね。用意して待っているわ』

「はい、ありがとうございます。失礼しました」

 

 そう告げて、早めに電話は切り上がる。そして共に、私の決心もついた。やっとだ。ちょうど十年になる、その節目に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――想いを告げると。……()()()()()()()()




ありがとうございました!

魂恋録に続き、次回は恐らく告白話。
多分だけどね。
その時は、12月まで時を飛ばします。

多くの方が、『それ』の存在に気付いたかと。
ただ、感想を書いていただけるのならば、そのことについては触れないでください。
今後見ていただける方にとってのネタバレになりますし、私自身それについて返信できませんし。

もしそれで書いていただいても、スルーします。事前に言いましたからね。
「何で返信しないんだよ! このエ狼々が!」とか言われても知りませんからね、私。

と、いうわけで。ご了承ください(´・ω・`)

ではでは!

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