捻くれた俺の彼女は超絶美少女   作:狼々

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どうも、狼々です!

お待たせしましたぁぁぁあ! 実に一週間ぶりでございますね。
すいません。三日も休んで、さらには別作投稿……忙しいんです。という言い訳。
ホントに申し訳ありませんでした!(´;ω;`)

では、本編どうぞ!


第28話 好きな女の子のためなのだから

 澄んだようで淀んだ空気の翌朝、着慣れた制服へと袖を通す。聞き飽きた程の衣擦れの音が、いやに耳に残った。その感情は朝食と共に嚥下できるものでもなく、意識から疎外しようとすればするほど、視界に入りたがりなそれの特性上、どうしても目を逸らせない。重い溜め息を吐きながら、玄関の戸を開く。

 

 昇った日の青白い眩しさに目を細め……一層に溜め息はこみ上げ、口から溢れる。さっと、視線が俺の視界はズレた。視界の先には、棒状の機械がしまってある、通学用バッグのポケットの一つ。早めに草薙を無力化しないと、何が起きるかわかったものではない。まだまだ急ぎ足で、かつ無計画ではあるが、今から動き始めないと、危険が広がるだけ。

 

 俺は直前に、何から目を逸したのだろうか? 目を背けたのだろうか? 拙い疑問は環状線となって、脳裏を掠めかすめる。きっと不安からなのだろう。俺に何ができるか。それを自分で認知できていないはずはない。圧倒的に、足りないものがある。それが何なのかわからないが……俺は、動かないといけなかった。

 

「……おはよう、柊君」

 

 優しい笑みを張り付けた小鳥遊が、隣の部屋から出てきて、外で待つ俺に挨拶を飛ばした。

 

「あぁ……おはよう、小鳥遊」

 

 俺の持つ声色は、周囲の淡色へと滲んで消え行く。透明な景色の映る俺の瞳には、どうにも綺麗には見えなかった。

 

 

 

「……どしたさ」

「いや、何がだよ」

 

 俺と茜が、対面して話を展開する。放課後になって、小鳥遊を廊下で待たせていることに罪悪感を感じるが、茜が俺との時間を所望したようで。理由はまったくもってわからないし、この二人の組み合わせ自体も珍しい。大抵はここに小鳥遊か吹雪が入っているはずなのだが。

 

「何がって、今日の二人だよ。音葉ちゃんと誠の」

「で、それが?」

「ギクシャクしてる」

 

 太陽の殆どを雲が遮った斜陽が差し込む教室で。誰もここにいない中、廊下に声が漏れ出さない程度に、至極真面目な小さい声で言われる。

 

 俺と小鳥遊の今日の組み合わせは、最悪だったと言ってもいいだろう。お互いがお互いを敬遠しあい、様子を見る。奥手に奥手が交錯した結果がこれだ。昨晩からは考えられないが、なかなかどうして、人間はその時々によって感情はすり替わるものだ。たとえ小鳥遊や俺と言えど、例外ではない。

 

「まぁ、そうだな。いつか直るだろうけど」

「そうだね。私もそう思うよ。で、その傷はなに? 気付かないフリすればよかった?」

 

 多少怒り気味な声で、俺の口端を指差す。そこはまさしく、俺が昨日切った口の傷だった。隠すつもりもなかったし、隠すことに意味もない。しかし、だからと言ってことの顛末を披瀝する理由にもならない。

 

「あ? いや、ただ切っただけだ」

「おかしい。音葉ちゃんにも聞いたけど、何も答えないし、誠の話をすると決まって顔を沈ませるし」

 

 正直、何の根拠もない。口の傷と関係するところはないはずだった。が、俺にはそれを受け入れることしかできなかった。反論も見つからないし、見つかっても潰される。即興の抜け穴とは、本来そういうものだ。

 

「……まぁ、あれだな。あったかと言えば、あった」

「……そう。私には?」

 

 言われて俺は、その意味を模索した。私には? とはどういう意味があるのだろうか? 私に何か言うべきことはないのか? ということだろうか。

 

「私には……何が、できる?」

「…………」

 

 意外だった。俺が傷を受けている時点で、暴力沙汰であることは確かだろうに。そんな中、一人で身を乗り出すと言うのだろうか。俺には、意外だったんだ。

 

「……いや、何も。正直、人が増えたところで何も変わるものじゃない。俺も困ってはいるが、これ以上助かる見込みもない」

「そう、かぁ……うん、ごめんね、いきなりこんな話をして。引き止めて悪かったよ」

 

 悲しみをほんの少し孕んだ笑顔は、俺の胸に刺さった。友人ではあるものの、直接関係があるわけではない。にも関わらず、友人を思って危険に身を投げるつもりで助けに入ろうとした。そんな友人の姿が、自分と対比して俺には眩しく見えた。

 

「あ、そうそう。吹雪もあれで心配しているんだよ? あぁいうときは、俺にはどうしようもない。黙って見守るのが一番だ、って言ってたよ」

 

 ……吹雪は、お調子者だ。普段は勝手に飄々とするくせして、重要なことには誰よりも真剣に向き合う。自分と対比して俺には眩しく見えた。今日だって何もない、いつも通りを装っていたんだと、親友の真意に今更ながら気付いた。

 

 今度は爽やかに笑みを見せて、教室の戸を開いて廊下へ出ていく。廊下から多少の話し声が聞こえたが、当然のことながら俺には届かない。少し、窓の外に視線を移した。雲はもうかかっておらず、橙の光は先程よりもずっと明るく、多く静寂の割って教室に侵入している。

 

 二人に心配されて、行動も起こしてもらっている。ここで俺が、朝のようにしょぼくれるわけにはいかないだろう。数少ない俺の友人だが、こんなにもいい友人を持つことができるとは思わなかった。背中を押されて、前に進まないほど俺は卑屈じゃない。ここまでされるまでわからなかった俺に、逆に苛立つくらいだ。

 

 悩んでも、悔やんでも何も変わらない。この状況がひっくり返るわけでもあるまいし。だったら、勝てないことの算段よりも、勝つことの算段をした方がよほど合理的だ。いつもの俺は、捻くれてはいるものの後ろを見ることはなかっただろうに、今回は振り返ろうとしていた。そこに答えなんて、ないとわかっていたはずなのに。

 

 笑った。声には出さずに、静かに。自嘲だとかじゃなく、自分がおかしかった。何を、らしくないことをしているんだ、と。思えばそうだ。俺はいつも、捻くれた考え方を元に一風変わった状態で前に進んできた。いつだってそうだったじゃないか。前にも後にも変わることじゃない。だから、ここで下を向く必要なんてない。

 

 廊下から足音が遠ざかった音を合図に、俺も廊下に出る。そしてすぐ、外で待ってくれた小鳥遊と目が合う。横から橙色の光を浴びた小鳥遊の顔を、普段とは違った魅力を感じてしまう。

 

「あ……わ、悪い。行くか」

「ん……そうだね」

 

 優しそうな微笑みは、本当に慈愛に溢れている。惚れるな、と言われる方が無理な話だ。そんな他を寄せ付けない美麗さを持ちながらも、こうやって俺に付き添ってくれる性格も持ち合わせくれている。その事実に感謝をしてしまうくらいだろう。

 

 自分の好きな女の子のために何かをしたいと思うのは、男の(さが)でもある。女の子が助けを求めてくれているんだ。しかも、俺に。これは見逃すわけにはいかないし、全力で助けになろう。草薙側がどうなろうと、知ったことではない。極論だが、俺は誰よりも小鳥遊の事情を優先させてもらう。

 

 第一、こっちが被害側なのだから、優先されるされないではない。自己防衛の一言で十分だ、全て片付く。こんなにも舞台は整っているというのに、俺は後ろを向きかけた。茜が言ってくれないと気付くこともなく、吹雪がそっとしてくれなかったなら、焦りを生み出していたことだろう。

 

「……どうしたの、柊君?」

「あ? いや、どうしてって、何がどうして?」

「いや……なんか、嬉しそうだったから」

 

 こんな状況だと言うのに、彼女は笑みを浮かべる。俺に対する笑みだとわかった瞬間に、胸が締め付けられる。罪悪感ではなく、歓喜のあまりに。この笑顔に報いたい、笑顔を続かせたい、最高の笑顔を見たい。その一心で、俺は頑張れる気がした。俺の笑みの理由は、きっとそうなんだろう。

 

 窓から差し込む茜色の夕日をバックに、そんなことを考えながら階段を降りていく。そして、途中。

 

「おっ、まだ帰ってなかったか。よかった」

「え……片岡先生?」

 

 もうすぐで靴箱に着こうとしたその時、片岡先生と鉢合わせた。俺が驚いたのは、それだけじゃない。

 

「悪い、一分だけ柊を借りていくぞ」

「え? あ……は、はい。わかりました」

「ちょ、ちょっと、先生!?」

 

 片岡先生が一方的に言い放って、俺の腕を引きながら小鳥遊から離れていく。俺が驚いたのは、それだけじゃない。

 

 ――片岡先生が、一切笑っていなかったからだ。笑っていないことは別におかしくない。顔は勿論のこと、目も声色も笑っていなかった。真剣味を帯びたそれらが、笑うことを許さないように。

 

 小鳥遊から見えなくなったくらいで、手を放されて対面する。

 

「……小鳥遊とのことは聞いた。その傷も、大方それだろう?」

「…………」

 

 指差す先に傷があり、俺は何も言えなかった。

 

「今、校門に草薙って生徒の身内……というか、迎えが来ている。お前と小鳥遊を呼んで、だ」

「……それで、俺はどうすればいいんですかね? 呼ばれるのはいいですが」

「あぁ、迎えが騙しでないことは、既に確認が取れている。呼んでいるのは、草薙の父だよ」

 

 このタイミングの迎え、そして草薙。これだけでも、俺の行動理由となる。呼んでいるということは、こちらにとってかなりいい状況であると考えていいだろう。向こうには何も危害は加えていないのだから。あるとするならば、草薙の犯行履歴がバレたと考える方が自然だろう。

 

 ただ……

 

「どうしても、小鳥遊もですか?」

「らしい。二人にはできるだけ来てほしいとのことでな。勿論、呼び出す身だから強制はできない、ともね」

 

 正直な話、小鳥遊を連れて行くのはまずいだろう。安全策を取るならば、間違いなく連れて行かないべきだ。犯行履歴が親に知れていることを前提として考えると、草薙の小鳥遊への当たりが一層に強まる可能性だってある。それこそ身内が止めるだろうが、事実隠蔽のためにわざと草薙を見逃すことだってありえない話ではない。むしろ十分すぎる。

 

 家柄も良いらしいので、事実隠蔽の可能性はさらに高まる。立場が逆ではあるが、犯罪者が犯行場所に戻る理由もない。余計なことはなるべくしないでおきたいのだが。

 

「……俺はどうとでも。小鳥遊の考えで動きますよ。正直、俺がいてもいなくても変わらないでしょうし」

 

 俺が一人いたところで、権力の差が逆転するわけでもない。邪魔はできるだろう――草薙一人でなら勝算はあるのだが――。それを抜きにしても、小鳥遊の行動が一番関わってくることも変わらない。俺がここで判断したとして、大きく結果を左右するのは小鳥遊。それに付随する俺の存在の位置関係は不動だ。

 

「そうか。……先に柊には話しておきたかったんだ。急な話で悪かったな」

「いいんですよ。俺も、どうにかするつもりでしたし」

 

 二人で消えた笑みをさらに消して、階段を上って小鳥遊の元へ戻る。

 

「ホントに一分だったね」

「あぁ、借りてすまなかったな。……今、草薙の迎えが来ている。二人に来てほしいとのことだ。断ることだってできるが……どうする?」

 

 片岡先生が早速本題に入ると、小鳥遊は顔を曇らせた。無理もない。突然にストーカー相手の迎えが来るなんて、怪しいにもほどがある。何をされてもおかしくないこの状態、自ら沼に足を踏み入れることもないのだ。そんな中、彼女が弾き出した、彼女なりの答えは――

 

 

「――わかりました。()()()()

「……いいのか、小鳥遊」

「うん、いいんだよ。元々私のためだし、私がいかないっていうわけにも……ね?」

 

 先程までと同じ笑みだったが、俺にはその張り詰めた笑顔の裏に、苦しみが紛れているようにも感じた。俺には、それを今どうしようもできない。この笑顔をありのままとさせるためにも、この草薙との問題は解決するべきだ。だったら、俺にできることとやることは変わらない。さっきと、同じように。

 

 

 

 靴箱まで階段を半ば駆けるように降りて、ローファーに履き替えて外の暖色光を直接浴びる。夕焼けが眩しいのは、気のせいではないのだろう。隣の小鳥遊と一緒に、校門までの道のりを辿る。いつも通学路として登下校するこのただでさえ短い道のりが、異様なまでに長く感じる。

 

 タイルやコンクリートを踏みしめる靴音が、妙な耳障りとなってまとわり付いてくる。それも相まってか、全身にはいつの間にか緊張感が駆けているが、抜けていくことはない。彼女もほんの少し、歩幅が小さくなっているかもしれない。

 

「……お待ちしておりました」

 

 大きめの黒車を背にして、同じく黒スーツに身を包むその姿は、一目見ただけで執事だとわかだろうか。丁寧に腰を曲げて、こちらにお辞儀をしている。やや年配の人の見た目なことも相まって、一層執事に見える。いや、『見える』というよりも、実際そうなのだろう。

 

「突然、申し訳ありません。お初にお目に掛かります。私は草薙旦那様の身の回りのお世話をさせていただいています、戸波(となみ)と申します」

 

 やはりというべきか、執事の戸波さんに再び礼をされる。こうも堅苦しいと、どういう対応をしていいのかわからなくなりそうだ。相手は草薙側だというのに、渋る気持ちが止まない。が、よくよく考えてみれば、わかっている以上ではこの人は何もしていない。できる限りは同じく敬語を使うべきか。……まだ、な。

 

「こちらこそ。俺達の名前は……ご存知ですよね?」

「はい、柊様、小鳥遊様」

「こちらも、用件は先程伺いました」

 

 無難に、冷静に。答えを間違えることはないだろうが、念には念を入れる、石橋を叩いて渡る。むしろ石橋を叩いて壊して別の橋を渡れ。何それ無意味じゃねぇかよ。

 

「助かります。では、こちらに……」

 

 彼が、背中にしていた大きな黒車の後部座席のドアを開ける。レディーファーストを見せるためにも、小鳥遊を先に乗せる。うん、いつも通り、いつも通り……と思うものの。

 

 やはり――そうもいきそうにないようだ。少なくとも、小鳥遊は。




ありがとうございました!

もうすぐでこの章は終わると思います。

修学旅行の京都が中止になる可能性。
京都行ったことないし、その前に話を終える可能性。
できるだけ頑張ってみます。なんで京都にしたのかは聞かないで。それっぽい場所が思いつかなかったんだよね(´・ω・`)

もし、です。もしなくなったとしたら、イチャイチャ展開を予定よりずっと設けてみます。
それで了承いただけると……いただけないですよねぇはい。(´;ω;`)

ではでは!

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