捻くれた俺の彼女は超絶美少女   作:狼々

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どうも、狼々です!

最近Twitterでエロ内容の小説もどきをツイートし始めました。
皆が、いいねとRTばっかりするんですぅ……!(´;ω;`)

では、本編どうぞ!


第26話 独壇場の対決に

 柊君が忙しなく玄関から出ていった。ここは柊君の部屋で、私一人。だけれど、邪な考えが思い浮かぶ余裕なんてなかった。

 

 自分は何もできないのに、彼ばかりが私を救っていくことに罪悪感がこみ上げてくる。柊君は頼っていいと言ってくれたけれども、それで納得してはいけない気がした。せめて。せめて、彼を労うことはして――

 

 ――ふと、気になった。私が先に準備を終わらせて、柊君の下校準備を待っていた時。一枚の紙を手に取って、顔を強張らせていた。すぐに表情が戻ったけれども、ずっと見ていた私はそれを見逃さなかった。その紙がしまってあるのは……

 

 一瞥するのは、柊君の通学用バッグ。本当はこういうことをしてはいけないのだとわかっていても、心配だった。あの顔をする柊君は、見たことがなかったから。

 

「……ごめんなさい、柊君」

 

 この場にいないけれど、一言謝ってからバッグを開ける。数十秒程中を探って、見つけた。そして、目を見開いた。

 

「そっ、か……」

 

 壁にかかった時計を見る。紙に書いてあった時間に公園に行くには、丁度いい時間。何も詳細を言わずに、行ったんだ。このタイミングでのこの手紙は、恐らく草薙君だ。

 

「ごめんね……ありがとう」

 

―*―*―*―*―*―*―

 

 肌寒い風に当たりつつ、気持ちを燃やしながらあの公園に行っていた。着いたら、そこには緑髪のうちの制服を着た生徒がいた。ネクタイの色を見る限りは同学年。さらに、昨日のストーカーとの顔も一致した。俺の予想は間違っていなかった。となると、差出人のストーカーはこいつ、か。

 

 話に入る前に、俺は持ってきておいた二つのものを、ピッ、と。

 

「……よう」

「あぁ、君か。柊 誠……あぁ、ほんっとうに!」

 

 急に大声を出して、地団太を踏んだ。砂埃は乾いたままで飛沫となって立ち込める。立ち込み方からして、どうやら本気で垂直に地面を蹴っているらしい。表情からも察せる。怒りに満ち溢れる顔で向けられた視線も、同じく怒りでいっぱいだった。射抜かれる視線を感じて、寒々しい風がさらに冷たくなった気がする。

 

「お、おうそうだが……で、そっちは誰だよ」

 

 何が何だかわからない、というフリをした方が都合が良いだろう。さらに言うと、正直俺はこいつを誰だかわからない。ここで名前を聞いておく方がいいだろう。俺が名前を知る()()()()()()()

 

「ん~……ま、いっか。僕は草薙 楓弥。それはどうでもいいとして、呼んだのは音葉の件でだよ」

 

 語調は柔らかくなっているが、怒りの表情は一切隠す気すらなく、前面に出している。勿論、俺はこいつの名前に聞き覚えはないし、そんなに恨まれるようなことをした覚えもない。音葉は、ほぼ間違いなく小鳥遊だろう。

 

「で、小鳥遊が――」

「お前が、音葉の名前を呼ぶな!」

 

 突然出された大声に、俺は肩を跳ねさせる。凶暴とも思えるその声は、表情に出している怒りのさらに上をいっているようだった。獣の咆哮のようにも聞こえてしまう。

 

 突然に風は強くなり、木々がざわついている。葉と葉の擦れる音が大合唱となって、俺の耳にさらに襲い掛かってくる。咆哮とさざめきに耳を塞ぎ込みたくなるが、それも許されない。俺がここで耳を塞ぎ込むと、助けることにならない。ああやって言った手前、自分が退くなんてかっこ悪いし、そもそもできない。

 

「ほう、そうか。じゃあお前は呼んでいいのか?」

「はぁ!? 当たり前でしょ。僕は将来の音葉の夫だからね」

 

 ……いまいち言いたいことがわからん。音葉の夫って、何かの謎掛け? 確かにリズムは似ているような気がしなくもないけれども。そのままの意味を取ると……あれだな、うん。こいつ、ヤバイ。

 

「だからぁ……僕のお嫁さんに、手ぇ出すな」

「妄想癖もいいところだな。告白してフラれたんだろ? それがどうしてお嫁さんにまで飛躍するかねぇ」

 

 拍子抜けな感じがした。さっきまでの鋭い視線が嘘のようだ。もっと計画的で狡猾な奴だと思っていたのだが、お世辞にもそうとは言えない。

 

「そうそう……だから、音葉に近付くの、やめろよ」

「それはこっちの台詞だ。お前がやめろ」

「いやいや、どう考えてもそっちがやめろよ。音葉を脅して、何がしたいの? そんなに僕に音葉を取られたくないの?」

「……はぁ?」

 

 どうしよう、もうコイツをグーで殴り飛ばしたい。緊張感があったと思ったのに、こんなことを思う余裕まで出てきた。呆れて物が言えない。被害妄想にも限度があるだろう。

 

「で、それがストーカーしていい大義名分、と?」

「そっちこそ何を言うんだ。お前が音葉をストーカーしているから、音葉を僕が守っているんじゃないか!」

 

 ……もう何も言うまい。そう頭の中で思考がよぎったが、踏みとどまる。ここで論破しなければ、まだストーカー行為は続く。先生を介しても無駄だろう。そうなると、確実な、決定的な証拠が必要だ。それが揃うまで、時間を稼がせてもらうとしよう。さぁ、どんどんと墓穴を掘るがいいさ。

 

「傍から見たらお前もストーカーだ。付けていたことに変わりはないだろう?」

「確かにそうだ。けど、お前から音葉を守るっていう正当な理由がある!」

 

 さすがにそこまで無自覚ではなかったか。これで少しは安心した。これで自覚がなかったら、俺には打つべき手が早速なくなってしまうところだった。速すぎだろ。いやけども、これを予測できるか? いや、できないだろう。

 

「じゃあ、ストーカーであることは認める、と」

「そりゃあ……まぁ、そう見られても仕方がない。でも、音葉を守れれば、音葉がそれで救われるならいい!」

 

 ……よっし、こんぐらいでいいか。俺はポケットの中で、予め公園に入った時にオンにしておいた()()を、ポケットから取り出して草薙に歩み寄り、見せつけるように目線の先で横に振る。

 

「……今の会話は、全て()()()()()()()()()

「……ッ!?」

 

 そう、取り出したものは――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。まさか、こんなところで役に立つとは思わなんだ。こうやって録音された以上、自分からストーカーだと自白したデータは残っている。これを親なり先生なりに突きつければ、きちんとした証拠として受け取られる。

 

 そんなことをした人間は、当然無傷では済まない。ということで、俺の勝ち――

 

「寄越せよッ!」

「は?――ぐはっ!」

 

 俺は、自分の左頬を抑えつけて横たわる。激痛が走り、顔を顰める一方だ。そして、やっと気づいた。――草薙に、思い切り()()()()のだと。殴られた時の拍子に、俺の右手から棒状のボイスレコーダーが逃げて、地面に落ちる。そして、それを拾い上げる草薙を、横たわったまま見ることしかできなかった。

 

 風が一層冷たくなり、焼けるような痛みを保持する頬が冷える。保冷剤を当てたようになる頬に違和感を感じつつ、立ち上がってわざとらしく言う。

 

「……おい、何で殴るんだよ」

「決まっているだろ。これを回収するためさ。僕は結構家柄も良い方なんだ。事実とその程度くらい、大抵は曲げられるくらいには、ね?」

 

 家柄が良いストーカーとは、これまた厄介だ。王権を無闇矢鱈に振り回す絶対王政の時代に生きているのだろうか。

 

 そういう人間は、大抵弱い。権力でねじ伏せることしかしてこなかった人間は、その独自のぬるま湯に浸かっているだけ。そのぬるま湯に慣れきった王は、普通の温度では耐えられない。別の言葉で表すのならば、井の中の蛙大海を知らず。自分の狭い領分の中で強いと打算をきっている王は、それはそれは脆い。豆腐のようだ。

 

 しかし、普段から熱すぎるお湯の中で過ごすことさえ困難を極めるぼっちは、それはもう王の気質を持ち合わせていることだろう。最初から厳しい環境下で過ごしたぼっち蛙は、なんちゃって王様蛙を遥かに超越した存在だ。ただぬくぬくとしていた奴に、負ける要素など万に一つもありゃしない。

 

 鶏頭牛尾とはよくも言ってくれる。あんな言葉は、愚者の逃げに使う言い訳でしかない。妥協ラインでもいいや、等という甘い考えに縋った者の末路など、見えきっている。

 

 俺はカースト的に、草薙は性格的に最底辺だ。両者最底辺。だったら、同じ舞台である以上は俺が負けることなど、確立は虚数の彼方にも存在しない。

 

「なぁ、小鳥遊に――()()にフラれたんだろ? 選ばれなかったんだろ?」

「あぁぁ! そうやって、音葉の名前を呼ぶなって言っているんだ!」

 

 ならば、俺がやるべきことはただ一つだ。ただひたすらに、被害者役を演じるのみ。最底辺同士、もう落ちることはない。だったら、その先にどうやって落ちることができるかが勝負だ。ここで落ちて、相手に落とされたという事実を既成する。この状況を深く知らない人間が、悪いと思う方を草薙に誘導させる。

 

 自分から落ちて助かる、マッチポンプにも似た手法。卑怯だとは言わせない。だってここは、俺の最底辺(どくだんじょう)なのだから。負ける心配がない以上、後は自爆を防ぐのみ。こちらから無理に攻撃する必要は、まったくもってない。ただ相手を煽り、自分が攻撃を一方的に受けるだけ。簡単だ。

 

「音葉にフラれた八つ当たり? 全く、執着ってのも行き過ぎると大変だな。音葉が浮かばれない」

「だから、黙れと言っているんだ!」

 

 わざと下の名前で小鳥遊を呼ぶ。ただ煽るだけではダメだ。煽っているように見せずに草薙に手を出させる。あくまでこちらは悪くないように見せるために。

 

「結局のところ、音葉にストーカーしてたのはお前なんだろ? 俺はそんなことはしていない」

「……もう、話すだけ無駄だね」

 

 そう言って、草薙は俺に背を向けて歩き出そうとする。

 

「おい、待てよ。俺は――」

「うっさいなぁ、君が音葉の邪魔をするってんなら、僕が守るだけ。結局何も変わらないんだよ。今までと」

 

 最後にそれだけ言って、草薙の背は遠くなった。俺はこれ以上追求しても同じだと判断し、追わなかった。草薙が完全に見えなくなったことを確認して――

 

 

 ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう、草薙はさらに、もう一つだけ勘違いをしている。……俺がいつから、ボイスレコーダーが一つしかない、だなんて言った? 全く、笑ってしまいそうになる。俺は吹雪から、ボイスレコーダーを二つもらっている。両方で録音して、片方をチラつかせる。奪われたフリをして、もう一方のボイスレコーダーがあるという可能性を頭から除外させる。

 

 目の前の障害が消えると、その瞬間に人間は安心してしまう。隠された障害に、目が向かなくなる。一旦消去された選択肢を引き戻すなんて真似、普通の人間は到底しない。まず、最初に可能性を除外するような人間には。あらゆる可能性を検証してから潰さないと、こういうことになる。と、いうわけで。俺は特に攻撃することもなく、被害者役を全うした。証拠だって揃った。

 

 この解決法が正解かどうかはわからない。けれど少なくとも、不正解ではないはずだ。実害を受けていない以上、警察も動きにくいだろう。受けたのなら、もう俺に伝えているだろうし。

 

 我慢ができずに……自虐も入った歪な笑みを浮かべた。これで、よかったんだと。自分をどれだけ騙せば気が済むんだろうか。本当に、学ばない人間だ。笑った瞬間、左口端に痛みが走った。

 

「いっ……!」

 

 思わず声を漏らして、痛みの箇所を指で触って確認する。指が口端に触れた瞬間の感触が、肌を介したものとなっていた。少し乾きかけの、赤い血が指先に付着していた。その感覚を知って呆れつつ、気持ち悪いと思っていたのかもしれない。メガネもかろうじて壊れなかった。

 

 ……それでも、よかった。

 

 湿度を持った風が、俺の傷跡を撫でて消えゆく。太陽はこの季節だ。沈んでしまっている。真っ暗とまではいかないが、薄暗い。いつしかの夕焼けの感覚が、まだ残っている。彼女からまたその時のように怒られるのだと思うと……傷の痛みも、風と同じく消えていくような気がした。

 




ありがとうございました!

ちょっと草薙君との対決は物足りないかもしれません。
ですが、私の限界でした。

ストーカーと対面するっていう場面がもう……
あんまし想像できませんでした。

最後に。ストーカー、ダメ、ゼッタイ。

ではでは!

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