捻くれた俺の彼女は超絶美少女   作:狼々

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どうも、狼々です!

今回で音葉ちゃんとの平穏は一旦停止です。
戻ってくると思いますが。

ということはアイツが……!

では、本編どうぞ!


第24話 柊誠は、再三学んだだろうに

 九月一日。この日を全国の学生という学生が、拒絶の反応を示すだろう日。夏真っ盛りというわけでもなくなったが、蝉の鳴き声も鳴り止むことを知らず、蒸し暑い風に誘われるコンクリートの匂いと遠くに見える陽炎は、それを再三感じさせる。否応なしに夏休みの終了を告げる学校のチャイムは、さらにそれを加速させることだろう。

 

 夏休みの終了を話の媒体として、教室のざわめきを形成している。やれしんどいだとか、やれだるいだとか言っている割には、欠席者ゼロ。何? ツンデレなの? 学校嫌だわ~とか言っておいて、何を言う。

 

 ……俺? 嫌だなぁ、だるい一方にきまっているじゃないですかやだ~。こうして学校に来ているのは、昼休みの楽しみがあるから。小鳥遊が休むなら俺も行く理由がない。最近オープンに好きとか思うようになってきたな、俺。

 

 どうして自分がぼっちであることを誇張しに行かなければならない。それなのに、学校に来いだ? お前らが俺を一人に仕立ててるんだろうが。理不尽である。横暴だ。

 

 いや、それは俺も一人になりたがる傾向を見せているよ? けども、それをさせようと、強いる雰囲気ができあがってしまっている。「いや、何でここにいるの?」みたいな。場違い感を隠すでもなく醸し出す。その明らかだけれど口に出さないという表現方法が気に入らない。邪魔なら邪魔って、いっその事言ってくれ。その後先生に言うから。

 

 陽炎が見えるのはこの屋上も例外じゃなく、焼けるような暑さだ。ヒートアイランド現象の如く、コンクリートが熱を吸い上げたまま、放出していない。熱がこもりっぱなしだ。しかし、俺達が座る場所は日陰なっているので、幾分かはマシだ。

 

「あっついな~……」

「そうだね~……」

 

 隣の小鳥遊が、自分の夏服を揺らして風をつくる。その度に大きな胸が揺れるので、目のやり場に困る俺。目を逸らすも、自然と見てしまう。それが男子仕方がない。他愛のない会話だけれども、それだけだけれども、会話の時間があることに嬉しさを感じてしまう。そう、俺は純粋なのだ。よって変態ではない。生来的な男の子の気風、というものだ。

 

「そういやさ、入学当時の小鳥遊が、強いられている、って話したじゃん。まぁ、大体予想はできるがどうしてだ?」

「あ~……そんなのもあったね。えっとね……私、いつも柊君に助けてもらってばっかりだったじゃない?」

 

 そんなに助けていたのか? 俺も中々目の付け所が良いな。今のうちに将来の美少女と仲良くなろう、ってか。何だそれ。思えばその時は、どうして彼女に話しかけたんだ? 自分の中で些細な疑念が巻き上がる。

 

「それでね、このままじゃだめだー! って思って、引っ越した後に一生懸命勉強したの。そうしたら、中学校辺りからあまり良く思われなくなった。勉強は習慣になっちゃってて、止めようにも止められない」

 

 そんな習慣なんて、俺には欠片もない。『ここでいいなー』って思う人間は、それにたいする努力の成果と継続力の冒涜でしかないのだろうけれど。だから俺は、他人を羨まない。そんな権利があるのは、努力をした者だけだから。

 

 怠惰に塗れた生活を送る奴が、才能を、努力を羨む? それは冒涜というものだ。その瞬間、その努力や才能だけでなく、それをした者持つ者が無下にされる。堪ったものではない。

 

「……サンキュ。あまり気持ちのいい話じゃなかっただろ? 悪かったな」

「あ、いや……そんなこともないよ。結局、私は現在進行系で、他の誰でもない柊君に助けてもらっているんだし」

「いや、それもおかしいだろ。俺は助けるようなことは何一つしていないし、そんな気の利く人間でもない」

 

 本当に、そうだ。他人のことを思いやれるようなお人好しでもないし、配慮を心がける聖人でもない。自分勝手な自己欲に塗れただけの、自分勝手な人間。そこに救出の選択肢はなく、救出されることもない。唾棄すべき存在として、社会の輪から弾き出される。

 

 俺のように、外されて。自分勝手を続けた者の末路だ。

 

「……意外と、気付かないものなんだね」

「あ? どうした?」

「いや……ふふっ」

「いや、本当にどうした? 急に笑いだしたりして」

 

 そこまで問い、昼休み終了のチャイムが鳴る。そのチャイムを境に、小鳥遊は清掃に向かい始める。続きを聞けなかったことに対して、若干の心の曇りがありながらも、先を行く小鳥遊の後についていく。突然に、小鳥遊がこちらを振り返って、こう言ったのだ。

 

「私、柊君といるだけで……すっごく、助けられているんだよ?」

 

 ――それはもう、真夏の太陽なんて目じゃないほどに、明るい笑顔だった。

 

 

 

 それから数日経って――小鳥遊の様子が、またおかしくなった。反応も悪くなったり逆に過剰になったり。帰りは妙に周りをキョロキョロとしている。帰りだけでなく、登校時も。……また、何かがあったのだろうか。いや、実際何かあったのだろう。

 

 そうして今日も、そわそわと視線を動かす小鳥遊と下校中。さり気なく動かしていてバレていないつもりなのだろうが、俺からすれば丸わかりだ。幾重にも経験を重ねた人間心理の解析は、伊達じゃない。限りなくエスパーに近い人間かもしれない。違うか。

 

「……んぁ?」

「ど、どうしたの……?」

「あ? いや、何でもないよ」

 

 確かに、感じた。確かに。気のせいではない、明らかに。気のせいであれば、どれだけいいか。

 

 

 ――()()()()()。それも、ずっとこちらについて離れない、粘着性ある視線が。どうして気付かなかったのだろうか。視線に関しては鋭敏な俺なのに、気付けなかった。どうして、なのだろうか。

 

 推理しよう。大体予想はつく。小鳥遊の様子の急変、夏休みでの様子の回復、学校開始からの再びの様子変化、やけに周りを警戒する小鳥遊、この粘着的な視線。これらから考えられることは、たった一つだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ――()()()()()。それこそ粘着物質のように付き纏い続けて離れることを知らずに、相手に不快感を与え続ける、唾棄すべき存在。罪障とも成り得るそれは、神慮とは隔絶されたものであり、堕落した精神と腐敗しきった性根の露呈。その恐怖は、ストーカーをされる側に大きく襲いかかってくる。

 

 相手の素性は――十中八九栄巻高校の人間だ。夏休みでの様子の逆転に説明がつく。逆説的に、そうでなければ説明がつかない。そうなると……学校で何らかの接点はあるのだろう。様子がおかしくなったのは、一緒に帰れないと言った、あの日からだ。あの日に、何かがあった。

 

 小鳥遊の怯える様は極度のものだ。過剰反応を見せるほどなのだから。そうなると、直接的に恐怖を植え付けられた可能性が高い。さらには、学校の度に怯えることになる。

 

 ストーカーは、ストーカーする側とストーカーされる側が異性の例が多い。さらには、この小鳥遊の恐怖。……ふむ、成程。まだ人も多いし、これで撃退できるとも思わない。ただ、効果はあるだろう。やらないよりも、やった方がずっといい。

 

「……ひゃっ!? ひ、柊君!? ……だ、だめだよ、こんなところで……! 皆に、見られて……」

 

 突然に、小鳥遊の手を握る。さらには指も絡め、恋人繋ぎ。どうだ……?

 

 ……。

 

 ……だめだ、反応がない。この周囲の目がある中では、迂闊に手は出さない、と。ここで襲ってかかろうものなら、多くの生徒に目撃情報を与えることになる。暴行まで加えたとしたら、退学処分も免れないだろうと踏んだのだが。

 

 さらにそのままで歩き続ける。少しずつ歩速を早めても、ストーカーは消えない。このままだと、家までついてくる可能性が高いだろう。そこで、俺は小声で、小鳥遊にしか聞こえないくらいに小さく言う。

 

「……小鳥遊。走るぞ」

「え? 何で――うぁっ!」

「――!」

 

 小鳥遊がついて来ることのできる限界の速度で走り出し、ストーカーとの距離を開く。しかし、すぐさまストーカーも走り出し、俺達を追いかけてくる。これで確定だ。こいつは、本物のストーカーだ。たまたま方向が同じとかじゃなく、明らかに俺達を付け狙っている、悪質なストーカー。

 

 袋小路に逃げ込み、裏路地の狭い道に隠れこむ。ここに逃げ込むのは正直賭けだが、正直これ意外に方法がない。小鳥遊を引っ張った状態で撒けるとも思えないし、相手が異性で男だとしたら尚更だ。俺達の逃げ込む姿を見た者がいれば、尚いい。

 

「ちょ、ちょっと、ひいら――」

「ごめん!」

 

 小鳥遊を狭い裏路地の壁に押さえつけ、手で小鳥遊の口を塞ぎ、位置の特定を防ぐ。苦しそうにもがく小鳥遊を見て心が痛くなるが、そうしてなんていられない。今にも、ストーカーはすぐ――

 

「あ~れれ……音葉、どこに行ったかな~……」

「「……!」」

 

 二人で、息を呑んだ。緑髪のストーカーが、直ぐそこにいる。恐怖の権化に怯えた。俺でさえも、怯えた。本当にいるのだと。虚偽の映像(フィクション)などではなく、これは現実の映像(ノンフィクション)なのだと。映画(スクリーン)という狭い限定的な出来事ではないのだと。身を震わせ、感覚はどんどんと鋭敏になっていく。

 

 いらない思考ばかりが脳の中を渦巻いて、一種のパニック状態に苛まれる。呼吸は荒くなっていく。見つかりやすくなるのにも関わらず、吐息を荒くせずにはいられなかった。

 

「……柊 誠が、僕の音葉と……くそっ!」

 

 この、いかにも怒りに満ち満ちている声が、嘘であってほしかった。俺が思っているよりもずっと、ストーカー気質で傲慢な奴であることに。『僕の音葉』、なんて言う人間だ。それに怯える小鳥遊は、きっと――いや、確実に。俺よりも恐怖を背負って今までを過ごしたのだろう。それに気付けなかった自分に、嫌気が差す。

 

 暫くその状態で隠れ、緑髪をしたストーカーは去っていった。遠ざかる足音を合図に、俺は小鳥遊から手を離す。

 

「あ……あ、あぁぁ……」

 

 小鳥遊は目を見開き、声を漏らしながら腰を抜かすように地面に座り込んだ。その姿が俺には痛々しく見えた。そして、今まで気付けなかった自分に、再び自責の念。どうして、だろうか。一番近くにいた俺が、気付くべきだっただろうに。

 

「……取り敢えず、ここにいるのは危ない。一旦帰ろう」

「あ、うん、うん、うん、ぅん……」

 

 弱々しく何度も返事をする小鳥遊は、立ち上がって俺を手を繋いだ状態で歩き出す。その手はしきりに震えていて、俺の震えとなって消える。どこまでも淀んでいる心が、揺れ始める。不安定な足場の上で。暗くて先が見えない崖付近で。今にも崩れ落ちてしまいそうだ。

 

 小鳥遊は、どうして俺に言わなかったのだろうか。どうして、小鳥遊は相談してくれなかったのだろうか。そんなことばかり考えて、気付く。俺は、何をしようとした? と。再三学んできたじゃないか。馬鹿か、俺は。

 

 どうしてか、そう小鳥遊に問いたくなる。しかし、これは今ここで問うべきことじゃない。それを瞬時に理解して、喉まで出かかった言葉を嚥下する。夏の暑すぎる日差しには、精神も体力も削られていく。小鳥遊の手を握る俺の手の力が、俺の手を握る小鳥遊の手の力が、同時に強くなった。

 

 お互いに度を失って、終始無言のまま、同じ家に、マンションに帰っていく。蝉の大合唱が、耳に残ってイライラする。コンクリートと擦れるローファーの接触音が、耳障りで仕方がない。離れない音が、耳から伝わってくることが気持ちが悪い。

 

 ……いつもと同じ道を通っているはずなのに、その帰り道が延々と続いている気がして止まなかった。




ありがとうございました!

全作品を合わせて、もう五十万字を超えました。
意外と早いものです。

草薙君……ストーカーまでしちゃったよ。

宣伝です。またこいつはやりましたよ。
新作、短編で書きました。後悔はしていない。

タイトルは、『八月の夢見村』です。
今度こそ、エロ要素なしの純恋愛。R15タグもなし。
感動要素的なものも、入れたいと思ってます。本当に感動できるかどうかは別として。
よければ見てやってください。

ではでは!

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