捻くれた俺の彼女は超絶美少女   作:狼々

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どうも、狼々です!

今回は、完全なる日常話です。
あのヤバイ精神の草薙君は一旦忘れて楽しんでいただけると。

では、本編どうぞ!


第21話 お、お邪魔します……!

 学校が数日だけあった後、夏休みに入った。終業式の日、小鳥遊は笑っていた。そのことに、単純な安心感を得た。もう大丈夫なのだと感じた。そして、帰ろうとする前に茜に連絡先の交換を迫られた。いやまぁ、別に俺はいいのだ。拒絶することもなく、受け入れたのだが……小鳥遊が狼狽(うろた)えていた。どうしてだよ。

 

 で、今は部屋の中に引きこもって遊んでいる最中。やることもなく、暇である。エアコンから吐き出される冷気に身を包ませ、ソファに寝転がるという怠惰な生活を繰り返して、はや二週間と数日。遊んでばかり。外の日差しに身を晒すことは殆どなく、今日までを過ごしている。

 

「あぁぁぁ~……勉強、しなくちゃな~……」

 

 学生という身の上、勉強はしなければならない。義務教育ではない高校とはいえ、入学している以上、それは避けられない。ソファから出ることに虚しさを感じながら、封印されていた通学用バッグから勉強道具を取り出す。

 

 勉強とは、ゲームの一種である。勉強という一括りの中で、ゲームと共通するところは多い。全く逆の存在だと思われがちだが、実際ところは似ているところがある。

 

 勉強をすればするほど、学力というステータスが上がっていき、頭を使ってテスト・考査という名のボスと戦う。そのボスとの戦績で周囲とのプレイヤーとの対戦も可能。さらには、その戦績によってランキングも出るときた。そこらのゲームとなんら変わりないのだ。

 

 むしろ、そこら中のゲームより栄えている、人口最多のゲームだと言えよう。

 

 でも……やる気が出ない。何か楽しいことがないかと、それ以上の娯楽を探している。その探すだけの時間、自分の手持ちの時間も減っているのに、周りは気付かない。だから俺は、既に見つけた娯楽で楽しむ。結局休んじゃうのかよ。

 

 いや、でもあれだから。とあるアイドルの歌に、『働きたくない』を掲げた歌があるから。謎の中毒性もある。結構あの歌は好きだ。リズムも中々。しかし、俺は杏ちゃんじゃなく、みりあちゃんとしぶりん推しなんだ。ごめんね。

 

 

 二時間ほど勉強――夏休みの課題だが――をして、少々の休憩がてら、スマホでリズムゲームをしていた。おぉ! 最近アプデで導入されたスイングアイコンが、意外と楽しい。シャシャシャン! って連続で鳴って、気持ちいい。ちなみに推しは、真姫ちゃん、梨子ちゃんとまるちゃん。でも、こういう推しキャラって、好みが分かれるよね。でも、俺は基本皆好き。その中でもさらに好きなのは……って感じだな。

 

 さて、もうすぐサビに入ろうというところで、電話がかかってきた。携帯は震え、自分のスマホを持つ手と指も一緒に震える。電話相手は吹雪、ちなみに暫定フルコン。

 

「あぁぁぁぁあ!」

 

 一瞬の隙間を見逃さず、右上の一時停止ボタンをタップ。そして電話に出る。

 

「……もしもし?」

「あ、誠? 今からそっちに勉強会に俺含めて連れも行くから、準備しといて~?」

「ちょっと待て。来る分にはいいが、いつ来る?」

「ん~……あと一、二時間後くらいかな? じゃ、よろしく頼むよ?」

 

 そして、通話終了を知らせるバイブ。画面は切り替わり、残ったのは一時停止中のライブ画面だけ。こうやって突然に電話がかかり、遊びに来るというのは今に始まったことではないので、特に驚かない。アイツはこういう奴なのだ。しかし、連れも来るとは予想外だ。今までそうじゃなかった。

 

 友達の友達って、微妙な距離感だ。こちらから話題を提供できるはずもなく、素っ気ないでもなく。中途半端な体裁だけを繕って、雰囲気だけを繕って。その虚構が大嫌いだ。他人行儀を無理矢理に形作り、相手に見せつける必要もないだろうに。気分を害する一方だ。

 

 それを防ぐために、俺はぼっちになることを推奨したい。友達がいなければ、そもそもの繋がりを断つことができ、友達の友達どころか、友達の存在もなくなるからだ。故に、人間関係が一番ドロドロしていないのは、ぼっちであるのだ。 

 

 ――当たり前だろう? だって、そもそもないのだから、人間関係が。

 

 ライブの続きをやろうとして、俺は気付いた。

 

「……ん? これ、アイコンがもうタップ場所と重なってね?」

 

 そう、それはもう綺麗に重なっていた。他のアイコンも既に流れ始めていて、その中の一つが重なっている。それが意味することは正に、コンボの途切れ。ここまで暫定フルコンなのだ。諦めたくはない。が、一時停止の後に重なっていつアイコンは、回収が難しい。無理とも言える。少し画面が暗転して、薄く見えるのはそれ。……やるしか、ねぇ!

 

 一時停止を解除し、素早く指を走らせる。重なったアイコンにめがけて。しかし、俺の意気込みも虚しく、アイコンは逃げるように滑っていき、俺の指先という名の網を掻い潜った。そして出てくるのは、画面中央にでるMISSの文字。

 

「あぁぁぁあ!」

 

 俺は絶叫をあげながらも、タップを休めない。せめて、せめて他のアイコンは……!

 

 

 ライブが終わり、リザルト画面に移る。PERFECTが殆ど、GREATが一桁台。そして、MISSの項目に浮かぶ、一の数字。その一の重みに感慨のような何かを思いつつ。

 

 ……さて、お菓子や飲料物でも買ってくるか。数人分。

 

 

 

 買い物から帰り、数人分のお菓子を保管する。アイスクリームも買ったので、冷蔵庫の中へ速やかにしまい込む。服装はそのままに、吹雪とその連れを待つ。

 

 待つこと十分程度、俺の家のリビングに軽快なチャイム音が響く。友人の来訪を伝える鐘の音が鳴ったと同時に、玄関に向かい、施錠された鍵を解錠し、不審感を抱く。

 

 このマンションは、一階のロビーで鍵を使わないと、ロックが解除できず自動ドアが開かない仕組みになっている。ここに来るということは、鍵を持っているか、他の人が開けたのと同時に入る。もしくは、別の住人にロビーのロックを開けてもらうのみ。

 

 吹雪は同時に入るなんて真似はしないだろうし、連れが許すとも考えにくい。俺は合鍵を渡した覚えもない。そうなったら、他の住人が吹雪の知り合いで、下のロックを開けたということで――

 

「やっほ~、遊びに来たよ~」

「やほやほ~、誠。私が来たよ~。お邪魔します~」

「え、えっと……柊君、お、お邪魔します……!」

 

 ……ドアを開けた先には、いつもの三人が――吹雪、茜、そして小鳥遊が、それぞれ涼し気な夏の服装で立っていた。夏の太陽の、買い物に出ていった時よりも強い陽光が、玄関を隔てず俺に覆い被さる。冷房に浸っていた俺には、暑すぎる。小鳥遊の来訪の拍子に心臓が跳ねた俺の口から、つい溢れた。

 

「……こんなことだろうと思ったよ」

「じゃあ、友達の友達がいる中の自宅、誠は耐えられるの?」

「いや無理だな」

 

 ま、それもそうだわな。だが、女子を部屋に入れるのは、緊張するのだ。特に小鳥遊。心臓がドキドキするんだけど。どうしようか。ここで追い返すのは論外、上手いこと部屋に入れられるんだから、この環境は利用すべき。

 

 

 ……落ち着け、素数を数えるんだ。0、1、2、3――おい。0と1は素数じゃないだろうが。

 

「まぁ、取り敢えずここまでお疲れさん。中に入ってくれ。暑いだろ」

 

 俺はそう促し、三人を部屋に入れた。……その時、小鳥遊と目がった。

 

 ―*―*―*―*―*―*―

 

 ふむ……どうにも暇だ。学校がないと、誠とも吹雪とも音葉ちゃんとも話せない。一応、三人と電話番号は交換したが、いまいち気分になれない。面と向かって話した方が、楽しいに決まっている。吹雪にも、お互いの名前呼びを強要した。そんなに強要というほどでもなく、あっさり受け入れてくれたが。

 

 宿題も粗方(あらかた)ではないが終わらせていて、今は休日を満喫中。いや、満喫とも言えないのかな? 暇で暇で仕方がない。そんな中、スマホに電話がかかってきた。相手は吹雪。

 

「どしたの~?」

「わさわさとは言いたいけどさ、今から誠ん家に遊びにもとい勉強に行かない?」

 

 ほう、それは面白い。自分のペットの世話にも行かないとね。誠がペット……なんか、いいね。ゾクゾクしてきそう。あの捻くれた根性を更正させて――っと、これ以上はいけない。誠は、音葉ちゃんの意中なんだから。私が好きなわけでもないが。

 

「いいよ~。私も暇で、断る理由もないしね~?」

「おっけ~。だったら……音葉ちゃんも誘わない?」

「ふっふっふ……愚問だね、茜。あの二人、くっつけるためならいかなる手段も取るよ」

 

 やはり、あの二人の関係性に気付いているのか。まぁ、バレバレだしね。クラスでも既に噂となり始めている。けれど、大半の男子には受け入れ難いみたいだけどね。あの二人の間柄を教えてやりたい。十三年だよ、十三年! その間にたった数ヶ月の男が、何を割り込もうとしているんだ。全力で阻止したい。

 

 合宿の後、誠は音葉ちゃんのことを思い出していたと報告があった。その時の音葉ちゃんの顔といったら、もう飛び跳ねそうなくらい嬉しそうだった。写真に撮っておきたい。そんなことを思わせる、可愛い笑顔だった。

 

 それに、誠から音葉ちゃんに話しかける回数も多くなった気がする。そんなに注視しているわけでもないが、わかる。目に見えてわかるくらいだから、向こうもそうなのだろう。これは面白いにもほどがある。くっつけろとの、神のお告げなのだろう。

 

「さすがだね。私もだけど。そういうことなら、尚更行くよ! 音葉ちゃんには、こっちから連絡入れるよ」

「うん、りょーかい。頼むよ。連絡先知らないからさ~。じゃあね~」

「あ! ちょっち待って。集合場所はどこにするの?」

「ん? 誠の家で。音葉ちゃんとは部屋が隣の同じマンションだから、下のロックは開けてくれるよ」

  

 ほう、噂には聞いていたが、本当に同じマンションで隣の部屋なのか。これはもう恋愛フラグが建ってますねぇ。結ばれる運命なんじゃないかな? 十三年といい、隣の部屋といい。

 

「おっけ。音葉ちゃんの家は大体わかるから、下で待ってるよ」

「いや、俺が先に行って待っとくよ。その代わり、音葉ちゃんの連絡お願いね~」

 

 跳ねる声が終わると共に、通話終了の文字がスマホに浮かぶ。そしてすぐさま、音葉ちゃんに電話をかける。数回コール音が響いた後、鈴の声。

 

「はい、もしもし。どうしたの、茜ちゃん?」

「おーい! 音葉ちゃーん! 今から勉強会に誠んとこ行こうー!」

 

 それはもう、『おーい磯野ー! 野球しようぜ!』と同じようなノリで言った。あまり見ないのだけれど、たまたま見て、EDが流れる度に襲い掛かってくる絶望感。サザエさん症候群。ブルーマンデー症候群。

 

「え、えぇ!? い、いやでも――」

「わかる。わかるよ、その気持ち。恥ずかしいんだろう?」

「……えうぅ……」

 

 今にも恥ずかしくて逃げ出しそうな、可愛らしい声が電話越しに伝わる。女の子の私でも可愛いと思うくらいだ。それを誠が意識しないわけないよね~。この声をそのまま聞かせてあげたくなる。

 

「でもね、逆に言えばチャンスなのさ。今ここで家に上がれば、次に口実を作るのが楽、さらには気も楽になって、誠も前に入ったからって抵抗もなくなる。どう?」

「そ、それは、そう、だけど……ドキドキする」

 

 え、なにこの可愛い生き物。純情を絵に描いたようなんだけれど。まぁ、好きな異性の家に上がるってのは恥ずかしいし、緊張もするだろう。けど、ここまで食い下がるというか、もじもじするというか。……一途に想いすぎでしょ。

 

「もっと言うならば……っと、その前に。料理はできる?」

「え? う、うん。苦手ではないよ? 自分のお弁当を作るくらいには」

 

 うん、やはりこれは最大のチャンスだろう。吹雪の性格や通話の内容から察するに、誠にはまだ音葉ちゃんが来ることを伝えていない。追い返すような真似は誠はしないだろうし、もう勝負は勝ったようなものだ。後は、アピールするだけ。

 

「じゃあ、夕食で手料理を振る舞えばいいじゃん。一瞬だけ誠のお嫁さんに――」

「えぇぇぇえ!? だめっ! だめぇ! 私の料理は人に食べさせられるようなものじゃないし、それに……お、お嫁さんなんて……」

 

 わあかっわいい。恥じらいしか知らないのかしら、この子。そういう女の子ほど、恋愛はハマったら抜け出せないんだよね~。その第一歩を踏ませるためにも、背中を襲う――間違えた押そう。いや、突き落とそう。恋愛の谷に。

 

「そっか。じゃあ他の女の子でも連れるよ。音葉ちゃんが行かないのなら、仕方がないね~」

「…………」

 

 さて、無言。ここからどういう反応をするのだろうか。行かないなら行かないで、私と吹雪だけで行くし。

 

「……行く。行きたい」

「うん、そうだね。こっちから連絡入れるから、下のロック開ける準備と、誠を落とす心の準備をしといてね~?」

「お、落とす……!」

 

 最後に小さく気合を入れる声が聞こえて、電話を終了させる。さて……これは、勉強会とは名ばかりの集まりになってしまいそうだなぁ……。

 

 自分の親友の長年の恋が進展することを願いながら、自分の部屋のクローゼットを開いた。




ありがとうございました!

実際の勉強会の様子は、次話ということで。

ちなみに、誠君の推しキャラは、私の推しキャラと完全に一致しています。

ではでは!

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