捻くれた俺の彼女は超絶美少女   作:狼々

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どうも、狼々です!

前回は、泣いている音葉ちゃんで終わりましたね。
捻くれ要素が戻ると思いきや、草薙君の登場。

実は、予定を急遽変更して入れていたり。
こっちの方がストーリーがいいかな? と思いまして。

では、本編どうぞ!


第20話 欲しいものの価値は、失って気付く

 昨日は普段より早く、無理矢理に寝たため、朝の目覚めはいい。外の冷徹さが漂う光に、俺は目を細める。今日は、いつも通りなのだろうか。そんなことを思っても、現実は何も変わらない。

 

 ……まぁ、もうすぐ夏休みだ。寝て、遊んで、勉強して。それを繰り返せばいい。余計なことは考えず、人とも深く関わらず。当たり障りのない日常を、平穏を、繰り返す。それだけでいい。それは学校でも同じ。授業を受けて、家に帰る。これを繰り返すだけ。

 

 朝食と一緒に、無駄な考えを嚥下(えんげ)する。が、気分は悪いままだ。

 

 準備が終わったら、玄関の外へ出て小鳥遊を待つ。そして、外の明るさが夏とは思えないほどの暗さに気が付く。天気が雨なわけでもないが、厚い黒雲が空全体を覆い隠している。昨日の夜と同じように。

 

「……はぁ」

 

 意味もなく溜め息をついてしまう。沈んだ空気が、どこか重く感じる。間もなくして、小鳥遊が来た。意外なことに、小鳥遊もあまり元気がなさそうだった。目線は下を向きがちで、表情に色がない。

 

「おう、おはよう」

「あ、うん。おはよ。行こうか」

 

 淡々とした彼女の言葉は、俺に違和感を植え付ける。けれど、その違和感の正体がわからない。胸の奥にしこりを残したまま、通学路を歩く。小鳥遊は考え事をしているような表情のまま、学校に着くことになった。学校に着いてからも、途中どこかへ一人で行くこともあった。が、特に気になることもなく、問うこともなく。

 

 いや、気にならないと言えば嘘になる。しかし、度重なる詮索は、相手に不快感を感じさせる。見る限りは何かあったのだろう。けれど、それを俺が知ることはあまりよくない。そう感じた。

 

 好きな女の子を気にかけることは、まぁするだろう。けれど、俺はそれだけが気になる原因とは思えなかった。だからと言って、問う理由にはならないのだが。今の俺にできることと言えば、元気付けるくらいしかないだろう。そう結論付けて、昼休み開始のチャイムを迎えた。

 

「小鳥遊、行くか」

「……あ、うん。わかった」

 

 上の空、といった感じだ。心ここにあらず、といった感じだ。少し前――それこそ、合宿中の小鳥遊の様子とは真逆だと言っていいだろう。それだけのことがあった。だからこそ、聞いてはいけない。そう思い込んだ。

 

 廊下、階段を上がった後、屋上のさらに上に広がるのは、未だに厚く閉ざされた黒雲。不思議と雨が降ってこないのが、また不気味だ。梅雨のシーズンなので、降ってもおかしくはないのに。取り敢えず、この淀んだ空気を吹き飛ばすためにも、何か俺が話題を提供して――

 

「ねえ、柊君はデートはどこに行きたい?」

「……え? あ、あぁ、土曜のか」

 

 小鳥遊から話題を、しかも嬉しそうに明るく言うものなので、俺は呆気にとられる。返事も拙かった。自身の中で思考を肥大化させて思考していると、一つの無難な答えを思いつく。二人で昼食を取りながら言う。

 

「……えっと、合宿で行ったが、遊園地でいいか? 結局、観覧車しか回ってないだろ?」

 

 そう、遊園地。テーマパークの代名詞とも呼ばれるそれ。客観的にも主観的にも悪くはない判断だと思う。話題に困らないし、距離を詰められる。さり気なく近付こうとしているあたり、俺も完全に小鳥遊のことが好きなようだ。今まで俺は、恋愛をああ思っていたのにな。一番驚いているのは、自分自身だ。

 

 合宿ではバスの移動所要時間もあり、バイオパークを謳歌する時間は、お世辞にも長いとは言えなかった。最終的に、折角バイオパークに来ているので、大半の時間を動物園を回る時間にしよう、と班で話がまとまった。なので、遊園地全体という意味では、楽しめていない。この選択は、少なくとも今の時点では、間違いじゃあないはずだ。

 

「うん! よかったよかった。どうしよっか~……!」

「ふふっ、楽しみなのか?」

「そりゃ勿論! 幼馴染と遊びに行くんだからね。それに、柊君も思い出してくれたようだしね?」

 

 彼女の悪戯な笑みは、どこまでも俺の心を揺らす。魅惑的にも見える笑顔は、魔性とも言えるだろう。眼前の女の子は、やはり俺の好きな彼女のようだ。

 

 今まで、無意識に彼女との距離に予防線を張っていたのかもしれない。自分が、小鳥遊が傷付かないために。常に距離を一定に保ち、親しくも疎遠でもない関係を維持させようとしていたのだろう。けれど、ついさっきわかった。『予防線を張る』ということは、氷の上で横滑りになる、ということなのだと。

 

 それ以上嫌われることもないが、好きになることも、なってくれることもない。全てが平行線。しかし、その関係も氷の様に脆いものだ。ある程度の期間が経つと、まるでなかったことになったかのように、ゼロに戻る。段々とフェードアウトして、元々あった関係から乖離する。そして、『接点はない』という関係が再構築される。

 

 親しい以上の関係を持ちたいと願う以上、横ではなく、縦に向かっていかなければならない。自分から、距離を詰める。今思うと、初めてなんじゃないだろうか? 自分から誰かと親しくなろうとするのは。吹雪とは……まぁ、覚えていないが、俺から話しかけるなんてこと、あるとも思えない。

 

「そしたら、すぐに十一月。()()があるからね。まさか、二人一緒に迎えられるとはね。あぁ~……楽しみだな~……!」

 

 彼女は、俺の隣で禍々しい黒雲を見上げる。いや、その奥の景色を想像し、見ているのかもしれない。目線が、それだけ遠くを向いて、過去の追憶に浸っている。うっとりとした表情を浮かべる小鳥遊は、先程までの暗い表情の後だとは想起できない。物悲しい雰囲気は、悦楽の雰囲気へ塗り替えられている。

 

 でも……言えないよな。『あれ』、何かわからない、なんて。思い出したと言った手前、今更これは覚えてないです、なんて言いづらい。あんなに泣いて喜んでくれたんだ。罪悪感に押し潰されそうになる。

 

「あ、あぁ、ホント、あれ楽しみだよな~」

「……? ――うんうん。 冬に海に行くって、約束したもんね~」

「……あ、そうだったな。今考えると、ホント愉快な話だよな~」

 

 お、おい、冬に海とか、ふざけろ。寒くて死んじまうぞ。主に俺が。一応泳げはするが、あまりの寒さで足がつって、そのまま溺れていく、なんてこともある。洒落にならない。

 

「……じぃ~……」

「んあ? ど、どうした?」

「……ねぇ、本当のところは覚えてないでしょ」

「へ? い、いや何が? 俺はちゃんと覚えてるよ。海だろ? 思い出したって言ったじゃん」

「……約束、()()()()()んだけど」

 

 ……あっ(察し)。 これは一回土下座を決行すべきなのか? プライドよりも、身の安全を優先すべきだろう。俺が素早く両手のひらをコンクリートに接着させ、足を正座の位置に変えようとして、小鳥遊の口が開かれる。

 

「怒らないから、正直に――」

「覚えてないですすんませんでしたぁぁぁああ!」

「……い、潔さは認めるよ。で、でもね? 私だって、傷付くんだよ?」

 

 何だろう、楽しくなってきた。こうやって小鳥遊と話して、俺が馬鹿やって、時には吹雪や茜も交えつつ。これが、俺の日常なのだろう。『いつも』である日常が、一番落ち着くのだろう。

 

「う……さ、さすがに覚えてないなんて言ったら、傷付くかな~っと」

「い、いや、そうじゃなくて……ね? 覚えてないなら覚えてないで、ちゃんと言ってほしかった。私が傷付いたのは……柊君に、嘘を吐かれたからなんだよ」

 

 この、優しい笑顔。見る度に、この笑顔に惚れたんだと、深く納得してしまう。そして、この暖かさ。優しさ。俺にはもうない純粋な心を持っていることに、尊敬もしているんだろう。あと、可愛さ。

 

「ま、まぁ、(たま)には嘘も必要だよな? 正直者は馬鹿を見るとも言うし、お世辞だって――」

「――本気で怒るよ?」

 

 小鳥遊から、ジト目でこちらを覗き込まれる。如何せん、距離が近い。そのジト目と表情がたまらない。可愛い。

 

「ほう、じゃあやってごらんよ」

「……てい」

 

 そう言って、俺の頭にチョップ。痛くも痒くもない。依然として表情をそのままにする小鳥遊に、俺は笑ってしまった。心から、面白かった。

 

「ふふっ、それ、なんかいいな」

「ふ~ん……てい、てい、てい、てい」

 

 今度は、連続してチョップが俺の頭に。しかし、例によって痛くも痒くも――

 

「あ、あれ? 力強くなってない? ねぇ気のせい? 気のせいじゃないよね? ねぇ、ちょっと――痛い痛い痛い! 痛い、痛いから痛いから!」

「調子に乗った罰だよ。まだ、してほしい? ……ふふっ」

「いえ、遠慮しときます……ははっ」

 

 二人で、笑い合った。こうやって、中身のない会話をして、何気なく過ごす日常が、俺にとっても彼女にとっても、一番過ごしやすいのだろう。とても単純で、簡単で、気付きにくいもの。いつもあるから、日常。当たり前だから、それが持ちうる本当の価値がわからない。

 

 それは、それを失ったときに初めて気が付く。けれど、そのときはもう遅い。失ってしまった後だから。どれだけ悔やもうとも、嘆こうとも、戻ってくることはない。ただ、俺達の求めるものは、日常。周りの環境が大きく変化していない以上、取り戻すことは容易だ。

 

 そんな何気ない平穏が、一番欲しいものだった。お互いに、何かしらで悩んでいるのだろう。けれど、こうやっていつものように過ごすことが、一番したいことだったんだ。

 

「じゃあ、一つだけヒントをあげる。ん~そうだな~……スコップ、かな?」

「……はぁ?」

 

 つい素っ頓狂な声が出てしまう。それもそうだ。なにせ、記念すべき日だろうに、そのヒントがスコップ? あれか? SSとかを読み漁る方なのか? ……絶対に違うだろうな。俺と小鳥遊が一緒にいたのは、幼稚園と小学一年まで。そんな小さい頃からSSとか、達者としか言いようがないんだが。

 

 そして、結局謎は解けないまま昼休み終了を告げるチャイムが鳴る。

 

「ほら、もう時間だよ。行こう?」

「はいはい。さ、行くとするかな~っと」

 

 俺がゆっくりと立ち上がり、小鳥遊の後を追う。いつの間にか、空にかかっていた雲はなくなっていて、暖かいを通り越した暑い日差しを、俺達に届けてくれる。それを見て、自然に笑顔になる俺達もまた、俺達らしい。

 

 

 階段を下り、廊下を歩いている時、すれ違った一人の男子生徒に違和感を感じた。普通の人が出すオーラじゃない。大体、普通の人は俺のことを何とも思わないで通り過ぎる。けれど、今の男子はそうじゃなかった。

 

 好奇でもなく、好意でもなく。嫌悪を通り越した――そう、憎悪。それが一番近いだろうか。まぁ、俺に憎悪なんて、抱く人が多すぎて誰か見分けつかねぇや。見たところは、緑髪だった。記憶が正しければ、俺のクラスに緑髪はいない。他クラスだ。さらに、赤色のネクタイをつけていたので、同学年。

 

 ――ま、いいか。

 

 ―*―*―*―*―*―*―

 

 ほんっっっっとうに、吐き気がする。あの音葉の笑顔を見たのか、あの柊とかいう奴は? どう見ても愛想笑いだろう。どうしてわからないんだ。無理矢理笑ってるのが、わからないのか?

 

 いや、わかっているのかもしれない。音葉が柊に弱みを握られているのだったら、それを承知で笑わせ、楽しんでいるのかもしれない。……許せない。そんな自己中心的な奴が、僕の音葉に近付く権利なんて、ありゃしない。さっさと片付けないと。

 

 とはいえ、音葉との約束を守るのが一番だ。夏休みの間に会えない、とか言っておいて、それよりも前に片付けちゃったら、音葉が焦ってしまう。早く解放してあげたいのは山々なんだけど、心の準備ができてないよね。夏休みの間に準備を進めて、早く結婚までしてしまおう。

 

 僕は結構家柄もいいから、働かなくともまぁ、裕福に暮らせるだろう。だから、ずっとずっと楽しく、幸せに、音葉と夢の結婚生活を送れる。そのことを認知して、つい頬が緩む。

 

 結婚も早くしたら、きっと子作りも早めだよね? そうしたら、僕と音葉との間の子供を育てて、後継ぎにしなくちゃね。そしたら、今のうちに子供の名前も――いや、音葉の名前の希望も聞かなきゃね。頑張って産むのは、音葉なんだから。僕が一方的に決められることじゃない。オシドリ夫婦となることが約束されている以上、そんな自分勝手なことはできない。それに、したくもない。

 

 もうすぐで清掃だが、まだ少しなら時間がある。少し駆け足で屋上に向かう。屋上は、風通しが良く、静かな場所だった。……こんなところで、二人は一緒に――

 

「あぁぁぁぁああ!!!」

 

 僕は絶叫し、鉄の屋上のドアを、右手の小指球――小指側の側面の場所――で思い切り殴りつけた。手に響くはずの鈍痛は感じず、僕が感じたのは、柊に対する憎悪と鉄の扉の鈍い悲鳴だけ。

 

 そうしたら……やっぱり、柊が邪魔で仕方がないんだよなぁ……! いつもいつも僕の音葉の近くにいて、音葉と僕の未来の生活を邪魔しようとする、柊がぁぁぁああ!

 

 あぁ……いや、これだと、あいつと同じだ。怒り狂っても、音葉は喜ばない。完膚なきまでに叩き潰して、再起不能にさせた方が、彼女の身の安全が確保できるし、それによって彼女が喜ぶ。もし音葉が人質に取られでもして、大事な音葉に傷が付いたら、元も子もない。助けられないのだから。

 

 助けると約束した以上、それを破ることは許されない。だから。もう精神に傷が沢山ついてしまっているけれど、僕が今後の生活で癒してあげよう。

 

 だからさ……もう少し待っててね、音葉。僕が絶対、守ってあげるからね……?




ありがとうございました!

はい……自分で書いていてなんですが。
ヤバイですね、草薙君。キャラ立ちすぎですね。
まぁ、このくらいインパクトあった方が……

土曜日、週間オリジナルランキングの第2位に入り、お気に入りも300に。
色々と幸せすぎて、本当に死んでしまうかもしれません。
ランキングの方は3位ギリギリの2位で、1位の方の作品とは大差なのですが。

皆さん、ありがとうございます!

ではでは!

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