捻くれた俺の彼女は超絶美少女   作:狼々

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どうも、狼々です!

すみません、この作品の投稿が遅れてしまいました。
理由なのですが、先週あたりから体調を崩していまして。
勝手ながら、休養を優先させていただきました。

一昨日、病院に行ったのですよ。診察結果:過労ぎみ。
……はい、すみませんでした。気を付けます。頑張りすぎました。

進学の影響で、投稿速度は間違いなく下がります。
ですが、よかったらこの作品を、これからもよろしくお願いします。

では、本編どうぞ!


第17話 ピース・歯車・断片的情報

 白。匂い、音、味の三感がない。触覚も怪しいかもしれない。ただ、視覚だけは、生きていた。目の前には、黒髪の幼女が立っている。何度も夢に出てきて、最後に泣く幼女。

 

「ねぇ、まだ私の名前……思い出さない?」

 

 夢で出てきたように幼い喋り方ではない。その時点で、俺はいつもの夢と大きく違っていることを感じた。さらに言うと、幼い頃の俺の姿がない。

 

 そう思ったら、いきなり幼少期の俺が現れた。

 

「あれだけ、一緒にいたのに?」

 

 頭の中で、勝手に言葉の羅列が始まる。俺は無意識に、この少女の名前を思い出そうとしている。懸命に記憶を掘れるだけ掘り返す。が、どうにも上手くいかない。

 

 砂漠の中にある、赤い一粒の砂を探し出すような感覚だ。あること自体はわかっているのに、見つけ出すことが無謀に等しい。もどかしいを通り越して、発見できない自分に苛立ちを覚える。

 

 そしてもう一人、よく見慣れた少女の姿が現れる。

 

「あの時、助けてくれたのは、嘘だったの?」

 

 その言葉を聞いて、心苦しい。胸が締め付けられる。

 

「違う! そうじゃない!」

 

 気が付くと、俺は叫んでいた。罪悪感から逃れるため? ――否。では、名前を思い出すため? ――否。そして、自問自答を繰り返している内に、一つの結論に辿り着いた。

 

 本当は、覚えている。それも、すぐに思い出せるくらいに、記憶に残っている。ただ単純に、助けたことが嘘ではないと、偽物として形作られていないと、証明したい。自己満足かもしれない。独りよがりで、独善的かもしれない。けれど、それが何か、未来が変わるきっかけとなるならば、俺は。

 

 ……考えろ。思い出せ。ありとあらゆる可能性を模索し、回答を検証し、間違いを排除しろ。

 

 何故、小鳥遊は俺に懐いている? 何故、小鳥遊は俺の名字が読めた? 何故、俺はそれを不審に思わなかった? これらのことから考えられることは――

 

 

 

 

 ――()()()()()()()()()()()()()()。自分でそれを意識していなくとも、感覚が覚えているとしたら。だとすれば、俺は、小鳥遊は――

 

「どう? 俺は思い出せそうかい?」

 

 その言葉だけを残して、幼少期の俺が消えた。もう、必要ないということなのだろうか。今手元にあるものだけで、答えを出せるということか。

 

「じゃあ、私の名前はわかる?」

 

 よく見慣れた少女が言う。

 

「……小鳥遊。小鳥遊、音葉」

 

 俺は答える。喉に詰まることもなく、すんなりと。

 

「じゃあ、私の名前は?」

 

 夢の幼女が言う。

 

 

 ――ようやく、わかった。なんだ、こんなにも簡単だったんじゃないか。こんな単純明快で、何が思い出せない、だ。全く、今までどうして忘れられていたんだろうか。こんなにも悩み、策を講じようとしていたのに。

 

「……小鳥遊、音葉」

 

 この名前を綴った時、二人の顔は笑顔になった。

 

「なんだ、ちゃんと覚えてるじゃない」

「やっと、思い出せたんだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「久しぶり、柊君」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目覚め。今まで迎えた朝の中で、一番すっきりとした目覚め。頭の中のつっかえが取れて、視界も思考も晴れ渡っている。天気も、三日とも晴天と恵まれたようだ。

 

 煩わしい、眩しいというように、手の甲を額に当てて、天井を仰ぎながら呟く。

 

「……小鳥遊……」

「小鳥遊ちゃんがどうかしたの?」

「うわぁあぁ! ……吹雪か。どうしたよ」

「いや、別に~? 朝早々に黄昏れていると思ったら、とある女の子の名前を呟いていたからさ~?」

 

 吹雪がニヤニヤとしながら、こちらの顔を覗き込む。面白い、という言葉を言わなくとも、顔に書いてある。

 

「深い意味はねぇよ。……なぁ、吹雪。今日中に小鳥遊を遠ざけてくれよな。あと、ボイスレコーダー使わないかも」

「ん、わかってるよ。なぁに、使わないのが一番さ。もうすぐ朝食だから、準備してね」

 

 吹雪のニヤニヤが、爽やかな笑みとなった。俺の顔が、少し真剣になった理由を悟ってくれたのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 食堂に着いて、自分の席に向かおうとした時、小鳥遊と目が合った。

 

「「あ……」」

「お、おはよう……」

「あ、あぁ、おはよう……」

 

 なんだ、この空気……気まずい。つい目を逸らしてしまう。昨日のことがフラッシュバックして、頭から離れない。甘いようで、ほろ苦いあの感覚を、どうしても思い出してしまう。

 

 ……取り敢えず、そこでニヤニヤしている吹雪と茜。やめなさい。

 

 

 

 

 睨まれもせず、少し恥ずかしい状態で食事を終え、三日目のバイオパーク巡りの準備を終えた。今はバスに揺られ、バイオパークに向かっている途中。隣の小鳥遊と度々目が合う。合っては逸らし、合っては逸らしを繰り返している。ったく、どこぞの恋愛展開じゃあるまいし……! こっ恥ずかしいのだ。

 

 視線を窓に向け、真剣に思考を巡らせる。

 

 

 この合宿で、チャンスはこの一度のみ。もう後がない。旦夕に迫っている状態。今の手札で、この状況を――作られた会場を見抜き、切り崩す必要がある。

 

 俺がしようとしていることは、降旗と愛沢の報復。けれど、昨日の様子を見る限りでは、改心したとしか思えない。そんな状態で俺が突っかかっても、正論で押し返されることはわかっている。ここは……()()()()()()。順番は間違えないように、後で戻れるように。わからないことは、どう足掻いてもわからない。

 

 では、どうして改心したのか。改心した理由。それは、黒宮の説得でいいだろう。黒宮の善意が、彼女二人の意志を、行動を変えた。どうやってかはこの際はどうでもいい。それだけの理由があった、とだけ理解すればいい。

 

 理由は、だ。今回不可解だと引っかかったのは、二人の態度の豹変ぶりだ。理由があったにせよ、あんなに親しそうにする必要はない。

 

「――! ねぇ!」

 

 昨日の様子を見る限りでは、嘘を言っているとも思えない。表面上だけって線も、恐らくないだろう。だとすると、小鳥遊との間に、表面上何らかの接触が、昨日よりも前にあったはずだ。

 

「……お~い。ひ~らぎく~ん。そろそろ怒るよ~」

「あ? ……あぁ、どうした、小鳥遊?」

 

 思考のあまり、話しかける小鳥遊を無視する形になっていたようだ。少し不満そうな顔をしている小鳥遊。そんな顔も可愛いのだが。

 

「朝はすっごく爽やかそうな顔してたのに、今は考え事ばっかり。どうしたの? はこっちが聞きたいよ」

「あ~……いや、別に何も。話すようなことじゃ――」

 

 そこまで言って、思考が一つの輪になりかけた。足りなかったピースの見当が、つきそうになった。あともう一つ、小鳥遊から情報を得られれば、真実に近づける。

 

「……なぁ、小鳥遊。愛沢と降旗から、合宿前に謝られたりとかしたか?」

 

 前の降旗と愛沢、それに黒宮にも聞こえないよう、小声で尋ねる。

 

「うん? うん、謝られたね。泣いた日の次の週くらいに」

 

 やはり、か。これで、降旗・愛沢に罪悪感からの詫びる気持ちがあること。それにより、彼女達からの事前の接触があったことがわかった。

 

 小鳥遊にありがとう、と一言告げて、再び思考の渦にのまれる。

 

 

 問題が一つ解決したところで、状況に変化は訪れたか? あぁ、それはもう。降旗・愛原が反省の意志を見せ、さらには親睦の行動まで取り始めている。ならば、問題という問題が全て解決したも同然だ。いや、解決、というよりも、喪失、と言った方が良いだろうか。

 

 本心では、二人が小鳥遊のことをどう思っているかわからない。二人だけが知っていることだ。そんなものを模索しても、答えが出ないのは当然。さらに、それを追及したからといって、真実の答えが返ってくるとは限らない。真偽の程も、彼女らのみが知っている。そんな(まが)い物のような言葉を並べられても、意味はない。

 

 加えて、俺が二人への報復の理由もなくなった。理由というよりは、デメリットが大きくなりすぎたのだ。

 

 人というものは、中途半端に思考を持ち合わせた種族だ。内面のことなど、知る由もなく、外見だけが頼りのこのご時世。そんな世で、友好関係を築き上げ、共存共栄を()とする一集団に、たった一人で反発の意を述べる。それは、途轍もなく無意味で、無謀である。

 

 それが今、この状況。俺が二人に真実ではない証拠を突きつけると、それは濡れ衣となって、俺に譲渡される。それに覆われた俺は、周囲からの侮蔑を受けることだろう。百歩譲ってそれはいい。だが、メリットがないのだ。それだけのために犠牲を払う、価値が。

 

 デメリットがない、というのは、別種のメリットであるとも言える。スポーツや事務で例えるならば、そつなくこなす、ということ。突出したメリットがなくとも、デメリットがないと、それを相殺するだけの価値がある。逆に言えば、それだけのデメリットがあれば、どれだけ優れたものもくすんでしまう、ということ。それが、今だ。

 

 つまるところ、俺は今回は何もすることがなくなった、ということだ。降旗・愛原は小鳥遊と仲良くなって終わり。ただ、それだけのことだったのだ。全く、要らないことに神経を擦り減らしていた俺は、何がしたかったのだろう。ボイスレコーダーどころか、動きもなしで終わることになろうとはな。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、バイオパークへ到着。動物の鳴き声だけでなく、遊園地からは金切り声も聞こえてくる。なんだ、ここは人間も飼われている動物園なのか。そうだよな。『動物園』なのに、一番身近な人間を入れないなんて、おかしいよな。大分俺も歪んできてるな。もう末期なのだろうか。

 

 バスを降車して、それぞれの班で集まる。この後、この集合の意味もなくなる程バラけるのだが。班の状態で入園し、自由行動に。暫く歩いて。

 

「あ、ほら小鳥遊ちゃん! あっちの動物見に行こうよ!」

「え? あ、ちょ、ちょっと!」

 

 吹雪が半ば強引とも思える手つきで、小鳥遊を連れて行った。その途中、吹雪が途中で振り向いて、こちらにウインク。あいつ、何やって――

 

 あぁ~……そうか、吹雪に伝えてねえや。もう何もしないってこと。つまり、今取っている吹雪の行動は、全くもって意味のない行動というわけだ。お疲れさん。

 

「あ! 私も行く~!」

 

 そう言って、茜も二人の方へ駆けていった。しかも失敗してるし。あんなに堂々と連れ出したら、着いていく人もいるだろうにな。何やってんだろうな。……あ、降旗と愛原も駆けていった。ぞろぞろと向こうへ集まり、吹雪の困る顔が見え、こちらを向いて両手を合わせ、申し訳なさそうにしている。いや、もういいんだって。

 

「ほら、俺達も行こう。誠」

 

 未だに残っている黒宮も、ゆっくりと向こうへ歩を進め始める。ま、これだと意味は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――いや、待てよ。何かがおかしい。今回の合宿の件、不可解なところが多すぎる。

 

 まず、何故先生がこの班の問題を受けて、メンバーを変更しなかった? 少なくとも、十人は目撃者がいるはずだ。教室のど真ん中、しかも小鳥遊が泣いているんだ。風のうわさで先生の耳に届いていてもおかしくはない。

 

 実際、届いたのだろう。だとすれば、この班でも問題がない、という認識を先生にされた、ということだ。それだけのことがない限りは、メンバー変更を余儀なくされる。

 

 そして、昨日のハウステンボスの大ゆり展。黒宮は説得で三人を仲介したということだ。しかし、その前に二人は小鳥遊に謝っている。それを知らなかったにしても、二人の説得の時に知るはずだ。知らないわけがない。そうなると、それは説得ではなくなる。けれど、黒宮は説得した、と言っていた。

 

 まさか……?

 

 確証はない。披瀝(ひれき)を貫くかもしれない。ただの俺の視野の狭い妄想で、真実とは食い違う可能性も否めない。仮に真実だったとして、確定的な証拠がないために、それを受け入れるかどうかもわからない。けれども、()()を前提として今回の件の話を進めると、辻褄が合ってしまう。

 

 欠けたピース、折れた歯車、コンピュータの断片的情報(インテリジェンス・フラグメント)。それらの一部がわからない以上、絶対的発言を形状化できない以上、妄想の範囲で、推測で、憶測で、話を進める必要がある。

 

 

 

「なぁ、黒宮」

「ん? なんだい?」

 

 歩きだそうとした黒宮の足が止まり、こちらを振り返る。

 

 

 光の奔流に流され、飲み込まれてなお消えない記憶(ピース)なら。回っても壊れず、欠けることのない丈夫な妄想(歯車)なら。()()を実現できるかもしれない。可能かもしれない。

 

 どこまで傍若無人で、独善的で、排他的な考えだろうか。けれど、それが答えだというのなら、俺はそれを躊躇うことはない。真実に辿り着きたい。本質を知りたい。人間という種族を真っ向から否定する考えだ。しかし、しかし。俺は分かりたい。

 

 

 自分の優位性を確認したいが為? 頭に張り付く(もや)を取り除くため? 夢と現実との(はざま)で、(うつつ)を抜かす状態から解放されたいから?

 

 指示代名詞とは真逆に、はっきりとしない俺の意識。それがひどく(おぞ)ましい。恐怖さえも覚えてしまう。今は、この理由はわからなくてもいいのかもしれない。わかっているけれど、見失っただけかもしれない。

 

 けれど、これだけはわかる。この問題は、先延ばしにしてはいけない、と。

 

 根拠なんてものは存在せず、画期的な案もなく、積み上げるだけの材料も、土台もない。けれど――いや、だからこそ。そんな幻想的な小夜曲(セレナーデ)でもなく、点在することのない前奏曲(プレリュード)でもなく。それらを夢見た結果、こんなものしか持たないからこそ、わかりたい。

 

 本人の意図がこう仕向けたのか、こうなるとは思わなかったのか。そんなものは関係ない。今回の小騒動、引き起こす要因となったのは。引き金を引いたのは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……黒宮。今回、何でこんなことをした?」

 

 

 

 ――引き金を引いたのは、黒宮だ。




ありがとうございました!

最後の表現は、それぞれの自己解釈ということでお願いします。

さて、二人だけに焦点を当てていたからこそ、
黒宮君のことに気づかなかった誠君。

皆さんは、気付いていましたか?
それほどフラグもなかったので、わかりにくかったとは思いますが。
次回は解決話になりますね。

ではでは!

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